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「戦国武将列伝7&8 畿内編上下 感想」編:天野忠幸さん(戎光祥出版)

 

戦国武将列伝の畿内編上下、ふだんから関心のある時代・地域であるにもかかわらず知らないことがたくさん、イメージが違って見えることがたくさん出てくる良著でかんたんしました。

こういうベース本からまた畿内戦国史の研究が進んでいくと嬉しいですね。

 

戦国武将列伝7 畿内編【上】 戎光祥出版|東京都千代田区から全国へ本をお届け (ebisukosyo.co.jp)

戦国武将列伝8 畿内編【下】 戎光祥出版|東京都千代田区から全国へ本をお届け (ebisukosyo.co.jp)

 

 


【目次】
伊勢貞宗・貞陸――明応の政変で戦国の世を導いた政所執事  川口成人
葉室光忠――明応の政変、もう一人の被害者  木下昌規
大館尚氏・晴光――将軍の信頼篤い側近父子  山田康弘
畠山順光・維広――流浪の将軍に尽くした異色の畠山氏  川口成人
斎藤基速――幕府奉行人から三好長慶の参謀へ  佐藤稜介
武田元光――足利義晴に信頼された名門守護  笹木康平
六角定頼――義晴期幕府の中枢を担った管領代  松下 浩
朽木稙綱――室町将軍を匿い支えた忠臣  西島太郎
細川政元――幕府再構築を目指した政治家の末路  古野 貢
細川澄元――泥沼の京兆家家督争いの果てに  古野 貢
細川高国――義晴を将軍に擁立した幕府最後の管領  浜口誠至
細川晴国――細川晴元のライバルとなった野州家当主  岡田謙一
上原元秀――明応の政変を成功に導いた功労者  浜口誠至
赤沢朝経・長経――細川政元に重用された信濃出身の側近  浜口誠至
香西元長――細川政元暗殺の黒幕と言われた男  小谷利明
薬師寺元一――細川政元に叛いた摂津守護代  中西裕
池田貞正・信正・長正――戦局を左右した摂津最大の国人  中西裕
波多野元清・香西元盛・柳本賢治――戦国畿内のキーマンとなった三兄弟  飛鳥井拓
三好之長・元長――三好氏隆盛の礎を築いた猛将  天野忠
三好政長――細川晴元の信頼厚い長慶のライバル  山下真理子
細川元常――細川澄元・晴元を支えた和泉上守護  岡田謙一
松浦守――守護代から和泉最大の武家権力へ  廣田浩治
畠山尚順――明応の政変からの大逆転の立役者  小谷利明
畠山稙長――細川氏綱擁立の仕掛け人  小谷利明
畠山義英・義堯――河内を地盤とする義就流畠山氏嫡流  弓倉弘年
木沢長政――畠山・細川に両属する畿内のジョーカー  山下真理子
下間頼秀・頼盛――享禄・天文の錯乱の果てに  岩本潤一
筒井順興・順昭――官符衆徒の一員から大和最大の国人へ  金松 誠
杉坊明算・照算――軍事を担った根来寺の院家  廣田浩治
赤松洞松院――守護家の執政をつとめた後室  前田 徹
垣屋続成――戦国期の山名惣領家を支えた筆頭被官  伊藤大貴

 

伊勢貞孝――将軍に反逆した、譜代の重臣  山田康弘
上野信孝――三好氏の申次をつとめた義輝の側近  木下昌規
三淵藤英――足利義昭に従い続けた股肱の臣  金子 拓
真木嶋昭光――将軍義昭を最後まで支えた男  木下昌規
逸見昌経――主家武田氏に「反乱」した若狭西部の押さえ  徳満 悠
浅井久政――六角氏に立ちはだかった北近江の支配者  新谷和之
六角義賢――時代のうねりに翻弄された近江の名族  新谷和之
蒲生定秀――軍事・外交に活躍した六角氏重臣  新谷和之
和田惟政――足利義昭を支えた摂津の重臣  中西裕
細川氏綱・藤賢・勝国――細川高国残党を再結集させた三兄弟  馬部隆弘
細川晴元――澄元の後継者にして高国のライバル  古野 貢
細川信良――実権を失った京兆家最後の当主  古野 貢
波多野秀忠・元秀――丹波の覇権を握った京兆家被官  福島克彦
荻野直正(赤井直正)――明智光秀の前に立ちはだかった〝名高キ武士〟  福島克彦
今村慶満――武家政権と京都をつなぐ潤滑油  佐藤稜介
多羅尾綱知――河内北部を統治する若江三人衆筆頭  嶋中佳輝
三好長慶――足利将軍を擁さない畿内の〝覇者〟  天野忠
三好義興・義継――長慶の後継者としての重圧  天野忠
三好実休――兄長慶を支える阿波三好家当主  森脇崇文
安宅冬康――兄長慶の畿内制覇を支えた淡路水軍の長  小川 雄
十河一存――早世した「鬼十河」の異名を持つ猛将  阿部匡伯
三好長逸・生長――本宗家の信頼厚い長老にして三好三人衆筆頭  天野忠
三好宗渭――細川晴元重臣から三好三人衆へ  嶋中佳輝
石成友通――実務官僚から三好三人衆への出世  天野忠
松永久秀――覆された〝梟雄〟イメージ  田中信司
松永長頼――丹波支配を目論んだ松永久秀の弟  飛鳥井拓
松永久通――父久秀と二人三脚で進めた大和支配  金松 誠
松山重治――長慶に見出され譜代家臣となった文化人  天野忠
畠山高政・秋高――管領家畠山氏の終焉  弓倉弘年
遊佐長教――三好長慶を天下に向かわせた舅  小谷利明
安見宗房――河内交野を領した政長流畠山氏の有力内衆  弓倉弘年
湯河直光――教興寺合戦で散った紀伊の名門奉公衆  弓倉弘年
鈴木孫一――信長の前に立ちはだかった本願寺方の「大将」  小橋勇介
山名祐豊――強かに生き抜いた最後の山名惣領  伊藤大貴

 

上下巻合わせて84名。すごい。

三好家関係者や幕臣畿内各地域を代表するメンバーがずらりです。

これから畿内戦国史に入りたいという人は細川・三好家や幕臣の沼に入っていっていただき。

もともと畿内戦国史に詳しいという人は松山重治さんや松浦守さんの登場を言祝ぎつつ、目玉になるのはアップデート成果がようやく陽の目を見た感のある河内・丹波方面の皆さまでしょうか。

 

 

強く印象に残ったところだけいくつか。

個人的に刺さった箇所なので、一般的な読みどころとは異なると思います。

  • 大館尚氏さんと、嫡男元重さんの起こした事件、そして自裁
    私、こういう不幸に見舞われた親子関係に弱いの……。

  • 上原元秀さん、赤沢朝経・長経兄弟、三好之長さん等々、寺社・貴族からの評判が著しく悪い細川政元さん配下たち。

  • 波多野元清さんから秀忠さんへの代替わりは大永七年(1527年)ごろ、元清さん死没は享禄三年(1530年)ごろ。

  • 「本書の読者諸氏や歴史ファンの方々でもおそらくその名を見知っている方々はまずいないだろう」と断言される松浦守さん。

  • 下妻頼秀・頼盛兄弟の飽くなき闘争心と、教団の支持を失った末に訪れる末路。「一向一揆」という埋み火。それにしても木沢長政さんはなぜこんなに本願寺法華宗に顔が効くのだろう?

  • 足利義昭さんに仕え続け、葬儀をも取り仕切る真木嶋昭光さん。こういう幕臣の生き方にスポットライトが当たったのもこの本の魅力だと思います。

  • 「記録は極めて少なく、またその足跡もはっきりとはしていない」「主君に比べて知名度が高いらしいという理由はわからない」と、調べれば調べるほどわからないことがわかった逸見昌経さん。

  • 「婿の事なれば」として、波多野秀忠さんの援軍に駆けつける三好長慶さん。

  • 名前の知名度が先行していたものの、近年になって研究が進み解像度が上がってきている今村慶満さん。戦国時代の都市型新興勢力ってレアな感じがするので面白いですね。

  • 神君伊賀越えを支援した可能性から、「細川氏綱が登用した人物が近世の誕生に寄与したとすれば、まさに細川権力最大の「遺産」であった」と、最大級のポエジーを贈られる多羅尾綱知さん。

  • 安宅冬康さん誅殺の一つの要因として挙げられる摂津榎並界隈での十河・安宅の権益競合。三好四兄弟全員が健康だったころの兄弟会合を通じた「矛盾調整」の重要性。

  • 始めから終わりまで面白すぎる十河一存さんの章。

  • 単独で章立てされた松山重治さん。とても嬉しい。

  • 意外と若い? 遊佐長教さん。

  • 河内・紀伊における畠山家の構造理解に役立った一文「畠山尚順は、京都を嫡男稙長、河内を遊佐長教※と稙長の弟播磨守某に任せ、紀伊尚順自身が支配する体制を取った」。
    (※父の順盛さんを含んだ表現か)

 

等々。

頭の整理がどんどん進んで心地いいですね。

 

 

ところで、この「畿内編」の刊行を記念して、人気投票的な「戦国畿内武将総選挙」が行われたらしいですよ。

note.com

 

1位が三好長慶さん67票、

2位が松永久秀さん42票、

3位が細川高国さん27票、

4位が畠山尚順さん&木沢長政さん18票ずつ、

 

というベスト5だそうで。

河内の二人を合算すると細川高国さんを上回るというのがイケてますね。

 

 

三好家界隈では、

6位に三好実休さん(17票)、9位に三好長逸さん(10票)、12位に松山重治さん&十河一存さん(6票)……と見ていって「松山重治12位」に驚かされました。

マジかよ。私投票していないのですけど、私が1票入れていれば11位で鈴木孫一さんに並んでいたのか。そんなことがあり得たのか。

 

ほか、三好宗三さんと三好宗渭さんが2票ずつ取っている一方、三好之長さんと三好元長さんが1票ずつしか取れていなくて、暴力に対する文化の勝利を感じて笑みがこぼれてしまいました。

 

 

こんな人気投票が成立するくらい、畿内戦国史ファンが増えているなら天晴れですね。

ますます畿内戦国史の人気が高まっていって、次回総選挙では漫画セーラームーン人気投票並の得票数が集まりますように。

 

 

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