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かんたんにかんたんします。

小説「蒲団 感想 中年男の気持ち悪さがリアル過多でいいね」田山花袋さん(岩波文庫)

 

田山花袋さんの自白小説「蒲団」を読んでみたところ、評判以上のリアルな気持ち悪さに塗れていてかんたんしました。

これはひどい。すごい。

 

www.iwanami.co.jp

 

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岩波文庫版で読んでみました。

併収されている「一兵卒」も、まさしく一兵卒の切ない/儚い運命をしんみり味わえていいですね。

 

 

さて、小説「蒲団」。

 

有名な小説ですので、ネタバレもへったくれもないような気がしますが、以下ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妻子があり、小説家として名も売れている中年作家が、

女弟子を取り、

女弟子に性欲(きれいに言えば親愛)を抱き、

おおいにムラムラしていたら、

女弟子に彼氏がいることが発覚し、

きれいごとを散々のたまいながら裏では嫉妬に怒り苦しみ、

きれいな分別ある大人ヅラで彼氏を引き離そうと工作し、

「まさかヤッてないだろな、プラトニックな関係だろうな?」と詮索し、

挙句に「もちろんヤッてました」ことが判明したので、

女弟子を郷里に追い返し、

女弟子がいなくなった部屋で、

女弟子が残していったリボン、蒲団、夜着の臭いを嗅ぎながら顔を埋めて泣くゥ!!【完】

 

という短編小説です。

 

わあ。

 

 

 

ちなみに著者、田山花袋さん自身の実話をそのまま小説にしたものだという。

 

わああぁ。

 

 

 

 

明治四十年、まだ「自伝」「私小説」という概念がなかった時代の作品ですから、この生々しさは当時ものすごいセンセーショナルな受け止められ方をしたそうです。

難しい言葉を使えば「自然主義文学」と言うそうですが、人間の行動や精神を美化せずにありのまま描写したらこうなったよ、的な。

プライバシー権利意識の発達した現代ではもう書けないっすよこんな小説。

 

 

全編通じて生理的に気持ち悪い文章が続くのですが、とりわけ主人公の処女厨っぷりがやばいですね。

明治時代のこととは言え。

そして、処女厨な己の気持ち悪さをもっともらしい知識人ぶった正論説教で糊塗しているおじさん」っぷりがまさしく気持ち悪いです。

 

↓女弟子(芳子)が処女か否かが気になって仕方なく、女弟子と彼氏の手紙を盗み見る主人公のおじさん(時雄)

捜し出した二、三通の男の手紙を走り読みに読んだ。

恋人のするような甘ったるい言葉は到る処に満ちていた。けれど時雄はそれ以上にある秘密を捜し出そうと苦心した。接吻の痕、性慾の痕が何処かに顕れておりはせぬか。神聖なる恋以上に二人の間は進歩しておりはせぬか、けれど手紙にも解らぬのは恋のまことの消息であった。

 

↓実は性交渉済であることを知った際の主人公の内面

時雄のその夜の煩悶は非常であった。欺かれたと思うと、業が煮えて為方がない。否、芳子の霊と肉――その全部を一書生に奪われながら、とにかくその恋に就いて真面目に尽したかと思うと腹が立つ。その位なら――あの男に身を任せていた位なら、何もその処女の節操を尊ぶには当たらなかった。自分も大胆に手を出して、性慾の満足を買えば好かった。こう思うと、今まで上天の境に置いた美しい芳子は、売女か何ぞのように思われて、その体は愚か、美しい態度も表情も卑しむ気になった。

 

↓それでいながら女弟子に向かっては厳正な態度をとる主人公

「こうなっては、もう為方がない。私はもうどうすることも出来ぬ。この手紙はあなたに返す、この事に就いては、誓って何人にも沈黙を守る。とにかく、あなたが師として私を信頼した態度は新しい日本の女として恥しくない。けれどこうなっては、あなたが国に帰るのが至当だ。今夜――これからすぐ父様の処に行きましょう、そして一伍一什を話して、早速、国に帰るようにした方が好い。」

 

 

誓って何人にも沈黙を守る。(キリッ)

 ↓

赤裸々自白小説リリース。

 

あんたスゲェよ。

 

 

 

ある程度の年齢の方ならば、こうした男女かかわらず人間のリアルな気持ち悪さ……恋愛関係だけでなく、仕事や実生活上のことであっても……何かしら見たことがある、感じたことがあるものではないでしょうか。

 

自分自身のことも含め、人間なら誰もが持っている醜い一面を、自然のまま、素材を活かした味付けで小説として発表されたっちゅうのは大変なことでありんすね。

 

田舎教師」と料理方法が違い過ぎて驚きました。

まこと驚きました。

 

このリアル過多な「蒲団」、私小説や自伝やエッセイ漫画がたくさん存在する現代にあっても、なおトップクラスの存在感を有する作品であります。

 

 

人の気持ち悪さはこれからもなくならないでしょうけど、人が人の気持ち悪さを自覚して上手に向き合っていけますように。私自身も。

 

 

 

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