肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「ドン・フワン・テノーリオ 感想 キリスト教戯曲の大乗仏教的美しさ」作:ホセ・ソリャーサ / 訳:高橋正武

 

宗教幻想劇「ドン・フワン・テノーリオ」を読んでみましたら、いい意味でキリスト教らしい救済のされようが美しくてかんたんしました。

紀州ドンファン事件」の報道を見て軽い気持ちで読んでみたんですけど、想像以上に内容がよかったので何事もきっかけだなあと思います。

 

www.iwanami.co.jp

 

 

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ドン・フワン(ドンファン)さんは、スペインのセビーリャという街における伝説的な人物で、17世紀から作劇の対象となり、徐々にヨーロッパ全土にドン・フワン演劇が広まっていき、様々なタイプのドン・フワンさんが創作されていったとのことです。

いずれの創作作品でもドン・フワンさんは色事と暴力、要はセックス&バイオレンスな色男として描かれているようですね。

 

そうした流れの中、19世紀にホセ・ソリャーサさんによって描かれたこちらの「ドン・フワン・テノーリオ」はとりわけ完成度の高い演劇で、ドン・フワンさん物語を単なるセックス&バイオレンスドラマに留めることなく、大いなる神の愛によりドン・フワンさんの御魂が救われるまでを描く宗教幻想劇になっているのが特徴です。

 

このキリスト教的な救済のされっぷりが、大乗仏教の味わいにも通じるような大変魅力的なセリフ・演出で描かれていまして、古典的ながら現代人が見ても充分に面白い傑作になっているように思いました。

解説含めて200ページほど、すぐに読める分量ですので、西洋文学や神仏の慈悲に関心がある方は手に取ってみるといいんじゃないでしょうか。

 

 

もちろん、当作品のドン・フワンさんもベースはとんだ外道野郎でして、物語開始時点で殺人数は32人に及びますし、手籠めにした女性は上は宮廷の姫君から下は漁師の娘まで72人という数にのぼります。

 

スゲェ。

 

暴力も計略も得意な人物なのでそういうレコードを記録するのですけれども、一方でどこか勇敢っぽいところや騎士っぽい面も持ち合わせていて、しかもイケメンで金持ちで、しかも心の底では神の救いを求めていたりもするので、憎みきれないところが憎い感じの人物に造形されているんですよね。

もう男の魅力の欲張りセットです。

 

 

名ゼリフも多くて。実際に劇場で聞いたら楽しいだろうなあ。

おれは、けっして、ぐずぐずしない男なんだ。 

そこにある女の数で一年三百六十五日を割ってみろ。睦言をかわすのに一日、手に入れるのに一日、相手を取りかえるのに二日、忘れるのには、ただの一時間。

君に勝ったのは、謀ったからさ。しかし、そこが、ドン・フワンらしいところさ。

そしてまた、このドン・フワンの唇から洩れだして、あなたの胸にそうっと浸みこんでいく、わたしのことばと、あなたの胸の底で、まだ燃え出していない炎をかきたてる、その思いとは、ねえ、わたしの星なる人よ、愛の息吹きを交わしているのじゃないでしょうか。

――おれは天を呼んだ。しかし、天は答えなかった。天の扉は、おれには閉ざされている。おれの足は地上をいく。その責任は天が負え。おれは知らない。

放せ、その手を放してくれ。おれの生涯の、最後の砂の一粒が、まだ時計の底に残っている。刹那の悔悟が魂の永劫の済度となるならば、聖なる神よ、わたしはおん身を信じます。わたしの罪業はまことに前代未聞。ただし、神のご慈悲も、広大無辺! 神よ、わたしにご慈悲を垂れたまえ! 

 

この、人が尽くせるだけの悪を尽くしてもなお、人知の及ぶところでないビッグな愛で人を救ってくれる神の存在を願う、人のありようがいいですよね。

非常に生き生きと浅ましくて素敵です。

これでこそ救われるべき人間だし、これでこそキリスト教大乗仏教が生まれてきたんだよね感がございます。

 

物語クライマックスでドン・フワンさんが救済される場面は、ヒロインの活躍含めてまことに美しいので、興味がある方はぜひ読んだり観劇してみたりしてください。

 

 

ストレートに美しい大慈大悲を見ることができる作品ってあんがい少ないので、かえってこの「ドン・フワン・テノーリオ」は新鮮でした。

本願寺とかで上演したらおもしろいだろうなと思います。

 

そのうち当作をお芝居で観る機会に恵まれますように。

スペインでは毎年上演されているそうですが、遠いなあ。

 

 

 

 

小説「蜜のあはれ 感想 室生犀星さんの性癖マジすげぇ」(青空文庫)

 

室生犀星さんの金魚擬人化幻想小説「蜜のあはれ」を読みましたら、70歳の著者が書いたとは思えないくらいぶっ飛んだ性癖描写が盛りだくさんでかんたんしました。

ふるさとを遠きにありて思ふことで定評のある室生犀星さんのイメージがガラリと変わってしまいましたねこれは。

 

www.aozora.gr.jp

 

 

 

「蜜のあはれ」は、金魚がちんぴら美少女に変身して老小説家と同棲する物語です。

 

ストーリーは不可思議なもので、

  • 金魚娘が「あたい、言ってやったわ。~~……」とわめいたり、
  • 金魚娘と老小説家がいちゃいちゃしたり、
  • 金魚娘と女幽霊と老小説家で三角関係したり、
  • 金魚娘を他の雄金魚に寝取らせて老小説家がその子どもを育てようとしたりする、

たいへん怪しい作品になっています。

1959年の作品と思えないような斬新さがありますね。

 

よく考えたら、ウマを擬人化したゲームが流行った2021年のコンテンツシーンにハマる作品かもしれません。

 

 

作品の特徴としては、

  • 地の文がなく会話だけで話が展開していくテンポのよさ、
  • コケティッシュな美しさのある文章、
  • そして何よりも倒錯した性癖描写の数々、

に目を引かれます。

 

 

幾つか印象に残った箇所を引用いたしますと。

 

金魚にお尻(お臀)の美しさを力説する老小説家。ハイレベルです。

「一たい金魚のお臀って何処にあるのかね。」
「あるわよ、附根からちょっと上の方なのよ。」
「ちっとも美しくないじゃないか、すぼっとしているだけだね。」
「金魚はお腹が派手だから、お臀のかわりになるのよ。」
「そうかい、人間では一等お臀というものが美しいんだよ、お臀に夕栄えがあたってそれがだんだんに消えてゆく景色なんて、とても世界じゅうをさがして見ても、そんな温和しい不滅の景色はないな、人はそのために人も殺すし自殺もするんだが、全くお臀のうえには、いつだって生き物は一疋もいないし、草一本だって生えていない穏かさだからね、僕の友達がね、あのお臀の上で首を縊りたいというやつがいたが、全く死場所ではああいうつるつるてんの、ゴクラクみたいな処はないね。
「おじさま、大きな声でそんなこと仰有ってはずかしくなるじゃないの、おじさまなぞは、お臀のことなぞ一生見ていても、見ていない振りしていらっしゃるものよ、たとえ人がお臀のことを仰有っても、横向いて知らん顔をしていてこそ紳士なのよ。」
「そうはゆかんよ、夕栄えは死ぬまでかがやかしいからね、それがお臀にあたっていたら、言語に絶する美しさだからね。」

 

 

 

金魚とキスする老小説家。ハイレベルです。

「はい、干鱈。」
「こまかく刻んでくだすったわ、塩っぱくていい気持、おじさま、して。」
「キスかい。」
「あたいのは冷たいけれど、のめっとしていいでしょう、何の匂いがするか知っていらっしゃる。空と水の匂いよ、おじさま、もう一遍して。」
「君の口も人間の口も、その大きさからは大したちがいはないね、こりこりしていて妙なキスだね。」
「だからおじさまも口を小さくすぼめてするのよ、そう、じっとしていてね、それでいいわ、ではお寝みなさいまし。」

 

 

 

金魚とうんこについて語り合う老小説家。ハイレベルです。

「おじさまはとても図太いことばかり、はっとすることをぬけぬけと仰有る。そうかと思うと、あたいのお尻を拭いてくださるし……」
「だってきみのうんこは半分出て、半分お尻に食っ附いていて、何時も苦しそうで見ていられないから、拭いてやるんだよ、どう、らくになっただろう。」
「ええ、ありがとう、あたいね、何時でも、ひけつする癖があるのよ。」
「美人というものは、大概、ひけつするものらしいんだよ、固くてね。」
「あら、じゃ、美人でなかったら、ひけつしないこと。」
「しないね、美人はうんこまで美人だからね。
「では、どんな、うんこするの。」
「固いかんかんのそれは球みたいで、決してくずれてなんかいない奴だ。」
「くずれていては美しくないわね、何だかわかって来たわよ。」
「きめの繊かいひとはね、胃ぶくろでも内臓の中でも、何でも彼でも、きめが同じようにこまかいんだよ、うんこも従ってそうなるんだ。」

 

 

 

金魚のNTRを楽しむ老小説家。ハイレベルです。

「何だ、お腹なんか撫でて。」
「あのね、どうやら、赤ん坊が出来たらしいわよ、お腹の中は卵で一杯だわ、これみな、おじさまの子どもなのね。」
「そんな覚えはないよ、きみが余処から仕入れて来たんじゃないか。」
「それはそうだけれど、お約束では、おじさまの子ということになっている筈なのよ、名前もつけてくだすったじゃないの。」
「そうだ、僕の子かも知れない。」
「そこで毎日毎晩なでていただいて、愛情をこまやかにそそいでいただくと、そっくり、おじさまの赤ん坊に変ってゆくわよ。」
どんな金魚と交尾したんだ。
「眼のでかい、ぶちの帽子をかむっている子、その金魚は言ったわよ、きゅうに、どうしてこの寒いのに赤ん坊がほしいんだと。だから、あたい、言ってやったわ、或る人間がほしがっているから生むんだと、その人間はあたいを可愛がっているけど、金魚とはなんにも出来ないから、よその金魚の子でもいいからということになったのよ、だから、あんたは父親のケンリなんかないわ、と言って置いてやった。」

 

 

 

金魚にくぱぁさせて楽しむ老小説家。ハイレベル過ぎます。

「慍って飛びついて来たから、ぶん殴ってやった、けど、強くてこんなに尾っぽ食われちゃった。」
「痛むか、裂けたね。」
「だからおじさまの唾で、今夜継いでいただきたいわ、すじがあるから、そこにうまく唾を塗ってぺとぺとにして、継げば、わけなく継げるのよ。」
「セメダインではだめか。」
「あら、可笑しい、セメダインで継いだら、あたいのからだごと、尾も鰭も、みんなくっついてしまうじゃないの、セメダインは毒なのよ、おじさまの唾にかぎるわ。いまからだって継げるわ、お夜なべにね。お眼鏡持って来ましょうか。」
「老眼鏡でないと、こまかい尾っぽのすじは判らない。」
「はい、お眼鏡。」
「これは甚だ困難なしごとだ、ぺとついていて、まるでつまむ事は出来ないじゃないか。もっと、ひろげるんだ。
「羞かしいわ、そこ、ひろげろなんて仰有ると、こまるわ。」
「なにが羞かしいんだ、そんな大きい年をしてさ。」
「だって、……」
「なにがだってなんだ、そんなに、すぼめていては、指先につまめないじゃないか。」
「おじさま。」
「何だ赦い顔をして。」
「そこに何かあるか、ご存じないのね。」
「何って何さ?」
「そこはね、あのね、そこはあたいだちのね。」
「きみたちの。」
「あのほら、あのところなのよ、何て判らない方なんだろう。」

「騙してなんかいるものか、まア型ばかりのキスだったんだね。じゃ、そろそろ、尾っぽの継ぎ張りをやろう。もっと、尾っぽをひろげるんだ。
「何よ、そんな大声で、ひろげろなんて仰有ると誰かに聴かれてしまうじゃないの。」
「じゃ、そっとひろげるんだよ。
「これでいい、」
「もっとさ、そんなところ見ないから、ひろげて。」
「羞かしいな、これが人間にわかんないなんて、人間にもばかが沢山いるもんだナ、これでいい、……」
「うん、じっとしているんだ。
「覗いたりなんかしちゃ、いやよ。あたい、眼をつぶっているわよ。」
「眼をつぶっておいで。」

 

 

 

いやあ。

1950年代カルチャーの固定観念が崩れ去るような驚きの作品でございますね。

 

はえぇぇぇ……と、口を開けてかんたんしながら読ませていただきました。

 

文章全体を通して伝わってくる独特のモダンな美的感性が楽しい小説ですので、幻想性ある創作作品に惹かれる方には性癖抜きにおすすめしたいと思います。

 

 

それにしても室生犀星さん、死の3年前、70歳になってからこういうクリエイティブな小説を書かれているってのが素晴らしいですね。

たぶん執筆していてめちゃくちゃ楽しかったんじゃないでしょうか。

 

現代の偉大なクリエイター方も、晩年まで精力的に活躍いただいて、むしろ晩年こそが充実した実り多きものとなりますように。

 

 

 

信長の野望20XX「黄梅院の追憶 感想」

信長の野望20XXイベント「黄梅院の追憶」、今川義元さんが桶狭間で生き残っても三国同盟の結束が揺らいでいてかんたんしました。

短編イベントではありますが、こういうクオリティの高い戦国ifを楽しめるのが20XXのいいところですね。

 

↓イベントのリリース

nobu201x.gamecity.ne.jp

 

 

以下、ネタバレを含みますのでご留意ください。

 

攻略に役立つ情報はありません。

難易度がそこまでは高くなくてありがたいです。

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イベントの導入部。

 

武田家と今川家の確執が始まったぞ、という情報が北条家に入ります。

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結論から言えばこれは虚報でして、結果論では偽情報を信じて拙速に黄梅院さん離縁を決断した北条氏康さんの裏取り不足的なイベントになっています。

まあそれだけ氏康さんが風魔小太郎さんに信を置いている、ということなんですけど。

 

幽魔勢力は人間に化けられる訳ですが、中途半端にドラマパートに介入すると親しい人からは偽物と見破られてしまいますけど、こういう伝令的な役割に徹した場合はそうそう偽者とばれることもなくて厄介ですね。

 

 

 

北条氏政さん。

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201X時代ほどの腹黒さは出さず、ただただストレートに妻を愛している知性と意志力の高い青年として描かれています。

なにこれ羨ましい。

 

 

 

黄梅院さんと幼年期の氏直さん。

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かわいいけどかなしい場面です。

 

20XXの黄梅院さんはなぜか往年のジュリアナ的なお嬢様として描かれていますが、いつの間にかそのキャラ付けもすっかりお馴染みなものとなり、こうして特段の違和感なく黄梅院イベントが開かれていること自体がすごいことだと思いますね。

黄梅院イベントを実装する戦国コンテンツなんてなかなかないんじゃないかな。

 

 

 

桶狭間後もピンピンしている今川義元さん。

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桶狭間の反省を踏まえて国力を強化しているのなら、この今川家はそうとう強靭な勢力になっていそうで恐ろしいですね。

 

20XXの戦国時代イベントもだんだん積み重ねられてきて、以前のイベントを前提にした描写が増えてきているのはよいものだと思います。

こうして今川義元さん生存ifを見れるのも楽しいし、寿桂尼さんも追憶した甲斐があったよね感があってよきよき。

 

そのうち三好長慶さんor三好義興さん生存ifも見てみたいものであります。

 

 

 

そして武田信玄さんと武田義信さん。

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この、今川義元さんが生きていても三国同盟を置いといて織田家と勝手に盟を結ぶ武田信玄さんがものすごく武田信玄さんぽいし、その場合でも今川家との関係を重視して父に諫言する武田義信さんもものすごく武田義信さんぽいし、知らぬ間に両者の確執に巻き込まれている武田勝頼さんもものすごく武田勝頼さんぽい。

 

この武田家ifの描写は短いながらも武田家への深い理解と愛情に満ちていて素晴らしいっすね。
 

 

 

 

諸々さておき、マイペースに武将として活躍しているかさねさんも好きです。

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今さらですが、かさねさんは201X時代の秀吉さんの武勇要素まで一人で担っていて大変ですね。 その分だけチャンポンな濃い女性になっていて面白いですけど。

 

 

 

 

結論として、20XX世界では北条氏政さんと黄梅院さんはお幸せで何よりです。

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こんなにストレートな恋愛描写も珍しい気がします。

羨ましい。

 

地味に、黄梅院さんは武田家に送り返されていないという新説に沿った結末となっているのが趣深いですね。

20XXのようなゲームだと、従来説になりそうな局面がユーザーの介入で新説的な着地になる、という演出もできるんだな。

 

 

 

 

こういう、短くてもクオリティの高いシナリオを楽しめるイベントはいいですね。

難易度が極端に高くないのも嬉しい。

追憶シリーズは今後も定番イベントとして実装されてほしいものです。

 

そもそもの20XXサービスも上手いこと続いていきますように。

8つの時代という壮大な先行きまではともかく、201X完結、平安時代完結、20XX版戦国時代各大名家イベント実装、までは絶対やりますとか宣言してくれたら安心できて嬉しいです。

 

 

 

実録「漫画太郎版おおきなかぶ~ vs 小学生 読み聞かせ」ガタロー☆マン先生(誠文堂新光社)

 

画太郎先生の絵本第二弾「おおきなかぶ~」を小学生に読んであげたところ、前作の「ももたろう」に続いてゲラゲラゲラゲラ笑ってもらえてかんたんしました。

 

絵本のジャケを見せただけで「あっ、この絵は!!!!」と喜んでもらえたので画太郎イラストのインパクトは子どもたちの脳裏に焼きついていたようです。

私いい初等教育しているわぁ。

 

 

www.seibundo-shinkosha.net

 

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すべてがサビ! 

これは絵本のソウル・ミュージックやないか!(トータス松本

 

言い得て妙なキャッチコピーですね。

画太郎先生の作品がいかに魅力的か、そして画太郎先生がいかにスタッフや各界の実力者から愛されているかが伝わってまいります。

 

 

 

さて、画太郎版おおきなかぶ~でございますが。

 

「ももたろう」同様、ストーリーは基本的に原作通りです。

 

が、「ももたろう」と違ってオチは漫画太郎イズムが出てきています

「絵本」「おおきなかぶ」にオチという概念を使っている時点でどうかとも思いますが、オチは原典通りではありません。

 

なお、横で聞いていたお母さま方から「トルストイに謝れ」という感想が出ていたことは申し添えておきます。

 

 

いちおうフォローしておくと

階段オチはありませんし、

死~んとはなりませんし、

オゲゲーとかしませんし、

なんこうはぬりませんし、

斧やタトゥーで首を刎ねられたりもしません。

 

ただしババァの下品ネタはあります。

 

 

 

 

とはいえ、肝心なのは小学生方のナマの感想です。

 

「……ました!!!」

「……ませんでした!!!」

 

と読み進め。

 

 

結果!!

 

  • ページをめくるたび「ゲラゲラゲラ」と大爆笑
  • 「ちんこ~!」「この顔~!」と猿のように連呼
  • 「もう1回読んで~」とおねだり
  • 「おもしろかった!」「ありがと~!」と大人に感謝

 

大好評やないかい。

 

 

 

よかった。

 

画太郎先生の作品は、現代の小学生にも通じる普遍的な力があったんやね。

Zガンダムウルトラセブンドラゴンボール超プリキュア5等と同様、人気作品は続編が製作されるという黄金法則に乗った瞬間を確かに目撃させていただきました。

 

私はとても嬉しい。

 

 

 

それにしても漫画太郎先生、ドストエフスキーさんの「罪と罰」に続いてトルストイさん等の「おおきなかぶ」まで手中に収めてしまうとは。

画太郎先生はもはや日本を代表するロシア文学者と呼んでも過言ではあるまい。

 

 

ウォッカと同じように、漫画太郎先生の作品が迷える人々の魂をこれからも慰めてくださいますように。

 

 

実録「漫画太郎版ももたろう vs 小学生 読み聞かせ」ガタロー☆マン先生(誠文堂新光社) - 肝胆ブログ

 

 

 

大相撲'21名古屋場所感想「白鵬から凡人への問いかけ」

 

大相撲で久しぶりに名古屋場所が開催され、久しぶりに15日間フル出場した白鵬関が全勝優勝で復帰するという異次元な事態を目撃しかんたんしました。

いろいろ物議はかもすのでしょうけど、数年先数十年先から見ても歴史に残るような場所になった気がしますので今場所を見届けることができてよかったなあと思います。

 

www.sumo.or.jp

 

www3.nhk.or.jp

 

 

 

幕内力士の勝ち越し勢は次の通りです。

 

15勝 白鵬(優勝)

14勝 照ノ富士

12勝 琴ノ若(敢闘賞)

11勝 玉鷲

10勝 逸ノ城、豊昇龍(技能賞)、宇良

  9勝 霧馬山、石浦

  8勝 正代、御嶽海、明生、隆の勝、宝富士、北勝富士
      照強、志摩ノ海、千代翔馬、剣翔、一山本

 

 

 

千秋楽の解説で北の富士さんが白鵬関の心境を「凡人には分からない」と仰っていましたけど……いい意味でも悪い意味でも、確かに白鵬関はもう凡人の世界線では生きていないような気がしてきましたし、どのような取り口であろうがどのような批判をいま浴びようが数十年先の歴史で讃えられたり功績を評価されたりしているのは白鵬関の方なんだろうなという感慨を抱くような場所でした。

 

白鵬関自身が常々「未来の横綱が自分の記録を目標にできるように」等と仰っていますし、過去や前例や郷愁や虚像からしか相撲を評せない我々凡人に対して相撲の未来がどうあるべきか問いかけられているような気すらいたします。

 

14日目の立ち合いにかつての猫だましを思い出した相撲ファンも多いと思いますけど、あれで翔猿関はちょっと救われたんじゃないかと思ったり。

ルールの範囲内で新たな取り口や戦略を広げていくことをただ批判しているだけで本当にいいのか、相撲ファン的には揺さぶられたような気持ちです。

 

今場所の白鵬関を見ていて思ったのは、ビジネスの世界でグローバルなリーディングカンパニーがあの手この手で先進的な取り組みを、ときにはえげつない手法も駆使してシェア1位に君臨しているのと似通っているなあと。

資本力や人材や取引関係の優位性に安住してドンと構えてさあ2位以下の企業よかかってきたまえなんてやっているトップ企業ってありえないですもんね。

強大な企業ほどCSRを求められるのも批判にさらされるのも似ていますし、我が道を進んで世の中に大きなものを残していくのも同様なのでしょう。

 

前もなんかで書いた気がしますが、白鵬関については引退してしばらく時間をおいてからでないと我々凡人には上手く評価できないんだろうなと思います。

 

その上で、いまいま白鵬関を批判する人がいるのはいいと思うんですけど、批判する側の人も相応しい品格を保ってくださいますように。できれば口汚い言葉が千秋楽観戦に来て涙していたご家族の耳には届きませんように。

 

 

 

照ノ富士関の横綱昇進おめでとうを筆頭に勝ち越し力士それぞれに好ましい気持ちを抱いたり負け越しはしたものの大栄翔関が後半少しだけ復調していたのが嬉しかったり千代翔馬関のバタバタ相撲が最近わりと好きだったり推している武将山席が千秋楽で勝ち越してハッピーだったり色々語りたいことはありますが、白鵬関の衝撃が強過ぎたので省略いたします。

 

 

 

 

「じゃりン子チエ 文庫版18巻 感想 おバァはんの謀略がエグい」

 

じゃりン子チエの文庫版18巻、テツを弱らせるためにおバァはんが仕掛けた謀略がエグ過ぎる上、結果巻き起こった騒動まで一人で解決してしまう無双っぷりにかんたんしました。

 

www.futabasha.co.jp

 

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18巻収録のお話は次の通りです。

 

  • 寝小便作戦
  • 金メダルなんていらない
  • 絶体絶命のテツ
  • 寝小便の勝ち!!
  • 本物の寝小便
  • 怪人クモ男
  • テツ壊しは誰だ
  • 大団円はいつのこと
  • 恐怖の「ばくだん」女
  • テツなんて守りたくはないけれど
  • 明るく楽しいお正月に向かって
  • 初詣解決篇
  • 出前で失敗 お地蔵さん
  • 恐怖の「人間マンホール」
  • 「人間マンホール」なんてカモ
  • 対決の日の前祝い
  • 対決「人間マンホール対ばくだんの王者」①
  • 対決「人間マンホール対ばくだんの王者」②
  • ヒラメちゃんのスカウト
  • ヒラメちゃんはモデルさん
  • 儲かる顔は みな同じ
  • 丸太はヒラメのお姉ちゃん
  • ガムテープのテツ
  • テツの顔は ウン万円

 

 

以下、ネタバレを含みますのでご留意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前半がおバァはんがテツにしかけた心理作戦、弱ったテツに対して送られたヤクザの刺客、そして話をややこしくするカップルの乱入、が入り乱れる込み合った長編話、

中盤がお酒をいくらでも飲むことができる「人間マンホール」男とお好み焼屋のオッちゃん(百合根)との酒飲み対決のお話、

後半はヒラメちゃんが絵のモデルとしてスカウトされるお話、

という構成になっています。

 

 

とりわけエグいのがおバァはんの謀略でして。

  • テツは幼少期なかなか寝小便が治らなかったトラウマがある
  • おバァはんがテツを弱らせるために寝小便作戦を思いつき、チエちゃんに協力を要請する
  • チエちゃんがテツに「寝小便は大人になって再発することがある」と囁く
  • 寝ているテツのふとんの中に、毎晩小鉄やアントニオジュニアがコップ1-2杯のお湯を注ぐ
  • ガチで寝小便が再発したと思い込んだテツは心身が消耗していく
  • そのうち、テツは本当に寝小便が再発し心身が荒廃してしまう

 

という、「やり過ぎやろ……」「ほぼマインドコントロールの手口やんけ……」感満載の内容となっているのです。

 

ババァ怖え。

これは読者がマネしたらあかんやつですね。

じゃりン子チエはたまにブラック過ぎるギャグが出てくるのが侮れないです。

 

 

 

その上で以下、各登場人物の名ゼリフを。

 

 

チエちゃん&小鉄

小鉄…」

「ハイ…用意してあります
 ちょうど水がオシッコの温度に」

「よっしゃ ほんなら頼んだで」

 

エグい謀略の片棒を担ぐ少女と猫。

小鉄が完全にチエちゃんの舎弟になっているのがウケますね。

こういう時だけスムーズに意思疎通できているのもジワジワきます。

 

 

 

おバァはん&チエちゃん

「今日のスキヤキの味はちょっと濃い目にしまひょか」

「濃い味がテツ好きやから」

「それもありますけど
 あとでノド乾きますやろ」

「あ…」

 

謀略を畳みかけるおバァはん。

マジ怖え。

 

 

 

小鉄&アントニオジュニア

「カラカラやて……」

「そぉなの………
 でも砂漠で遭難してもやっぱり寝小便はしちゃうのよ」

 

水分を取らなくなったテツに対しても遠慮なく偽寝小便をデリバリーし続ける悪猫二匹。彼らもテツ相手なら遠慮なしなのが酷い。

 

 

 

テツ

「ボク…
 ボクほんとに自分が分かんないのよ」

 

本当に寝小便を再発した上、幼児退行の症状まで出てきたテツ。

これはほんまにアカンやつです。

 

まあテツなので雑に治って、ヤクザをおびき寄せるために弱ったふりをし続けるんですけどね。

 

 

 

ヨシ江はん

「そのうちて………

 お父はんもぉとっくに元に戻ってますがな」 

「そんなことお父はんの顔見たら分かりますがな」

 

テツが回復した上でわざと弱ったふりをしていることを、誰よりも早く気付くヨシ江はん。この辺りの彼女の洞察力は相変わらずすごいですね。

 

この後、ヨシ江はんに何故か浮気をしている嫌疑がかかり、そのせいでテツは再び精神が荒廃するのですけど、その際も事態を概ね正確に察して適切に行動しているのがさすがです。

 

 

 

おバァはん

「さぁさぁ正月正月
 みんなでええ正月にしまひょ
 もぉなにも考えることおまへんで」

 

混迷を深める事態に対して、結局ひとりでヤクザの刺客と対峙し、ヨシ江はんの浮気疑惑の原因を捕らえ、関係者を集めて解決篇を始めてしまうおバァはん。

 

もともとは自分が蒔いた種なのに金田一少年やコナン君みたいな役割を図々しくやっているのがウケますね。

 

 

 

おバァはん&チエちゃん

「ウチ今気合い入れて店やろと思てたとこや」

「うっ…たまりまへんなぁ
 チエのその元気だけが残りわずかなわたいの人生のたった一つの光ですわ」

「またまた
 みんなはまっ暗なウチのまわりでおバァはんが一番元気やてゆうてるで」

「だ…誰だすそんなことゆうてるのは」

「それよりおバァはん残りわずかの人生やったら
 お客さんウチの店にまわしてや」

 

そんなこんなで再び日常が戻った二人。

朗らかに会話していますが内容はなかなかスパイシーです。

 

 

 

画家(野見山正蔵

「いい…本当に素晴らしい
 まるで劉生の麗子像だ
 動かないで!!
 よく見せてくれ
 たまらない平面だ

 

ヒラメちゃんに創作意欲が刺激された著名な画家さん。

本人としては心から賞賛しているのですけど、あまり褒められている感じがしないのが複雑ですね。

 

この画家さん花井拳骨氏の旧友だそうで、どうも花井センセの周りの大人はみんなヒラメちゃんファンになってしまうようです。

 

 

 

 

 

複雑に練り上がった物語がバタバタ解決していくのが楽しい巻でしたね。

読んでマネをするアホな読者が出てこないことを祈るばかりです。

 

こういう喰えないババァがいつまでも元気な大阪でありますように。

 

 

「じゃりン子チエ 文庫版17巻 感想 猛威を振るう危険酒"ばくだん"」はるき悦巳先生(双葉文庫) - 肝胆ブログ

 

 

 

 

小説「陰陽師 龍笛ノ巻 感想 最後の"飛仙”がとんでもない」夢枕獏さん(文春文庫)

 

陰陽師シリーズ「龍笛ノ巻」を楽しく読み進めて満足していたところ、最終エピソード「飛仙」のオチがイッてる内容で一層かんたんしました。

 

books.bunshun.jp

 

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以下、ネタバレを含みますのでご留意ください。

 

 

 

 

 

 

当巻に収録されているお話は次の通りです。

 

  • 怪蛇
    安倍晴明さんと蘆屋道満さんが「蛟(みずち)」に出会う話。

  • 生首の化物と対峙する話。怖い。賀茂保憲さん登場。
  • むしめづる姫
    有名な虫好きの姫(露子姫)が登場する話。鬼と女とは、人に見えぬぞよき。
  • 呼ぶ声の
    賀茂保憲さんゆかりの亡霊と対峙する話。
  • 飛仙
    キレのある意味で問題作。後述。

 

相変わらずいずれのお話もクオリティが高く、満足度の高い作品となっています。

 

「首」のホラー描写が秀逸な点、新登場人物の賀茂保憲さんや露子姫がそれぞれキャラが立っていて魅力的な点、源博雅さんの笛描写が更に素敵になっている点、ひんぱんに登場する鮎がおいしそうな点、等が印象に残りますね。

とりわけ源博雅さんの笛は、さっそく賀茂保憲さんをたぶらかしていたり、いつのまにか蘆屋道満さんが源博雅ガチ勢になっていたりと、主要登場人物の間で着実に確固たる位置づけを得ている点がすごいと思います。

 

 

 

その上で、もっとも読んでいて変な笑いが漏れ出たのが「飛仙」でして。

 

筋立てとしては

  • 御所の屋根の上に夜な夜な"何か"が現れる
  • 藤原友則さんの娘が謎の病にかかる
  • 安倍晴明さんが娘(全裸)を救う
  • 病の原因は、空を飛ぶことができる仙人が落とした薬でした
  • 御所の屋根の上をとんでいたのもこの仙人です

 

という流れで、これだけ読むといかにも不思議な幻想譚に映るのですけれども。

 

 

まずこの仙人さんが

「風に漂って流れてゆくことはできるのですが、飛べませぬ。宙に浮いていると、子供たちが竹竿を持ち出してきては、おもしろがって、下からわたくしを打つので、いつの間にやら、竿打ち仙人などと呼ばれたこともござりました」

 

と絶妙に萌えるキャラクターであること。

平安時代の子どもたち強い。ウルトラQの子どもたちに似通うものを感じます。

 

 

その上で、この仙人さんの薬が

「あの天足丸は、わたしにしか効きませぬ。使った蟲はすべて雄であり、わたし自身が洩らした男の精を混ぜて作りました故、女の方が飲まれると、たいへんなことになるとわかっておりました」

 

というえげつない代物であることが判明し。

しかも原材料については安倍晴明さんも源博雅さんも特にツッコまず話が進んでいくのが読者の苦笑いをやったら煽ってくるんですよね。

 

自分が洩らした精を飲んで空に浮かび、子どもたちにイジメられる仙人。

洩らした精入りの薬を落として、嫁入り前の娘にえらい迷惑をかける仙人。

 

なんてダメな仙人なんだ……。

このありがたみのなさが一周まわって愛しいぞ。

 

 

 

かように、この「龍笛ノ巻」は満足度と斜め上度を存分に楽しめるよい巻でした。

これから先の巻でも賀茂保憲さんや露子姫が再登場して活躍しますように。

飛仙の仙人さんはたぶん再登場しないと思いますが何かの間違いでその後の様子が描かれたりするときがきますように。

 

 

 

小説「陰陽師 生成り姫 感想 陰陽師シリーズを初めて読む人におすすめ」夢枕獏さん(文春文庫) - 肝胆ブログ