肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「孟子 全訳注 感想 シビアな時代環境性と普遍性、両方を感じる」宇野精一さん(講談社学術文庫)

 

ちゃんと読んだことなかった孟子を読んでみまして、いわゆる性善説的な優しい世界の話が多いのかなという先入観を持っていたのですが実際は戦国時代にあって諸家の論争激しきなかで孔子の教えを保って再興の機をつくってという緊張感みなぎる契機の内容であることが分かりましてかんたんしました。

その上で、普遍性のある内容もしっかり見出し偉い人にまっすぐ語らっていただいているのがさすがですね。単に教訓だけを学ぶなら論語のほうが読みやすいと思いつつ、時代環境の中でなおぶれない良さという意味では孟子もいいなと感じました。

 

www.kodansha.co.jp

 

 

 

有名な人・内容ですので細かい解説は省略しまして、個人的に気に入った箇所の感想をいくつか。現代語訳ベースで引用・紹介します。

ちなみに孟母の話は出てきません。後世に付け加えられたエピソードなんですかね? 忠孝の教えを説きつつ孟子個人の父兄の話も出てきません。まあ教えに属人性がない方がいいのかもです。

 

取って燕の民が喜ぶというならお取りなさい。昔の聖賢でそのようにした人が、すなわち周の武王であります。もし取ったら燕の民が喜ばぬというなら、お取りなさいますな。昔の聖賢でそのようにした人が、すなわち周の文王であります。

 

こういう、顧客本位的な姿勢を王道と説く姿、いいですよね。

 

 

かりに今、国家が平穏無事として、それをよいことに楽しみにふけり怠惰遨遊したならば、これこそみずから災いを求めるものである。

 

孟子さんの説く王道、施政者にとっては耳に優しくないのがいいですね。

 

 

人々はみな人に忍びざるの心、すなわち人の難儀を見過ごしにできない心持ちがある。

 

いわゆる惻隠の心ですね。幼児が井戸に落ちようとしてたら誰でも助けるよねと。

 

 

仁者の態度は射術と似ている。弓を射る人は、自分の精神・姿勢を正しくして、しかるのちに矢を放つが、放った矢が当たらなくても、当たって自分に勝った相手を恨むことなく、当たらなかった自分に落ち度があったことを反省するだけである

 

これも自分に厳しい。ストイックさがいいですね。

この時代から弓道的な精神性があったんだなということも興味を引きますね。

 

 

いったい、上の者が好むことがあると、下の者は必ずそれに輪をかけてはなはだしくなるものです。たとえば、上に立つ君子の持ち前は風、下にいる小人の持ち前は草のようなもので、草は風が吹けば必ず倒れるものです。

 

孟子さんの組織観察力が冴え渡っています。常に上の者への諫言がキレてるだけに、天下を望む英邁な方と出会いたいんだろうな感も引き立ちますね。

 

 

定職のない者は、恒心がなく心がぐらつくものです。もし恒心がなければ、どんなわがままかってや悪事でもやりかねません。人民をそのようなはめに追い込んでおいて、罪を犯したからといって、当然のこととして刑罰を加えるのは、いわば人民を網に掛けるというものです。

 

いわゆる恒産なくして恒心なしですが、それを自己責任論にせず政治責任とみなして王様に直言しているのがイケメンです。

 

 

人が軽々しく物を言うのは、責任感がないからだ

人の通弊とするところは、好き好んで人の師となろうとすることだ

 

ごもっともです……。

 

 

心の徳はみずから求めれば得られるが、ほっておけば失ってしまう

 

性善説を説きつつ、そのことを絶対不変とはおっしゃっていない。この辺に性悪説との交点を指摘する人もいますよね。

 

 

元来なそうとせぬことをせず、欲しようとせぬことを欲せぬ、君子の道はそれだけのことである

 

この内観の極みのような姿勢は、老荘や禅にも通ずるところがありそうです。賢人の共通姿勢かもしれません。

 

 

ただ禄を与えておくだけで親愛しないのは、豚として扱うようなものだ。また、愛しても敬意を持たないのは、犬や馬のごとき獣を飼うのと同じである。

 

これも表現はきつめですが、見過ごせない感性ですね。

 

 

 

この他、あえて引用はしませんが、原始社会主義みたいな他学派の言説にめっちゃ強く反論していたり、弟子の(まあまあぶっ込む)質問にもかなり厳し目に返していたりと、この時代独特の「気を抜くとすべてを失う」感が豊富です。そんな中にあって、王や諸家に耳障りのいいことを言わず、上述の厳しいストイックな王道を説いて回る姿は、確かに厚いリスペクトに値しそうです。

 

孟子は法制度の整っていることを批判はしておらず、それよりも徳治で治まっているのがなお良いと言っている印象です。それはハードローよりソフトロー、ルールベースコンプラよりもプリンシプルベースコンプラのメリットに共通する感覚かもです。

 

 

 

なにもかもが施政者の王道の是非によるとは言いませんが、施政者本人はそのような矜持を持っておいていただきたいですね。

なにはともあれ現代社会も諸家の良いところを活かしてよりよい方向へ向かっていきますように。

 

 

 

「無門関 感想 禅問答の不条理を堪能せよ」西村恵信さん訳注(岩波文庫)

 

無門関という、聞いたことはあるけど読んだことはない禅の問答注釈集を読んでみましたところ、噂以上の不条理・シュール・超展開な内容ばかりでかんたんしました。

悟りを論理的に、択一的に、聞いた通り的に得ようと思うなという大意なのだと思いますが、実際にこうしてぶっとんだ問答をぶつけられながら禅を組んでみたらおのずと自我も予期せぬところに向かっていけるのかもしれませんね。

 

www.iwanami.co.jp

 

 

 

実際に見たほうが早いと思いますので、現代語訳ベースでいくつかご紹介。

 

或る僧が趙州和尚に向かって、「狗(犬)にも仏性がありますか」と問うた。趙州は「無い」と答えられた。

 

仏教的には犬にも何にでも仏性はあるはずなのに無とはこれいかに。この「無」ということに向き合う、己自身で答を探すことこそ、このテキストの要点なのでしょう。

 

 

倶胝和尚は、誰かれとなく挑戦的な問答を仕掛けてくると、決まって指を一本立てられた。倶胝の処にいた童子が、ある時外からやってきた客に、「ここの和尚はどのように仏法の肝要を説いておられるか」と尋ねられ、直ちに指を一本立てて見せた。これを聞きつけた倶胝和尚は、刃をもって童子の指を切断してしまった。童子は痛みに堪えず号泣して走って逃げた。すると倶胝和尚は「おい、おい」と童子を呼び止められた。童子が振り向くと、今度は倶胝和尚がすっと自分の指を立てられた。その途端に童子はいっぺんに開悟してしまった。

 

私は中指を立ててるイメージで読みましたが、親指でも面白いと思います。人真似で教えを語るものではない的な?

 

 

南泉和尚は、たまたま東西の禅堂に起居している門人たちが、一匹の猫をめぐってトラブルを起こしているところに出くわされた。彼は直ちにその猫をつまみ上げると、「さあお前たち、何とか言ってみよ。上手く言えたらこの猫を救うことが出来るのだが、それが出来なければ、この猫を斬り捨ててくれようぞ」と言われた。皆は何も言うことが出来なかった。南泉は仕方なく猫を斬り捨ててしまった。晩になって、高弟の趙州が外から道場へ帰ってきたので、南泉はこの出来事を趙州へ話された。話を聞くと趙州は、履いていた草履を脱いで自分の頭に載せて部屋を出ていってしまった。南泉は、「お前があの場にいてくれたら、文句なしにあの猫を救うことができたものを」と言われた。

 

これも有名な逸話ですね。頭に草履を載せてスタスタ→すごい! さあ、何がすごいのか考えてみよう!

 

 

清涼院の大法眼和尚は、ある日、僧が昼食前に参禅のために部屋にやって来たとき、黙って簾を指さされた。そのとき二人の僧は揃って簾の所へ行って、簾を巻き上げた。すると法眼和尚は、「一人はそれでよし。もう一人は駄目だ」と言われた。

 

こういうテイストの問答も多いです。同じことをやったのに片方はOK片方はNG。択一的な問いに択一的に考え込むこと自体が牽制されている感じでしょうか。

 

 

言葉で説明できやせぬ、

話せば機微に触れられぬ。

言葉を聞けば見失い、

句にくっついて道迷う。

 

この歌は、このテキスト集で言いたいことを直接的にアドバイスしてくれている、気がします。

 

 

 

などなどの楽しい問答がいっぱい。

他にも、弟子が和尚の横っ面をぶん殴ったらいいね! されたり、仏法とは乾いたクソの固まりと言い放ったりと、アナーキーな事例に事欠きません。

 

 

このような禅の公案を身体の中に入れておくと、ときどき思い返すことでなんらかの栄養が摂取できるかもしれませんので一般人的にもよいものではないでしょうか。

 

尊い教えが言葉のくびきから解き放たれて、よき志の人々の体得にいたりますように。

 

 

 

大相撲'26夏場所感想「若隆景、霧島、義ノ富士、熱海富士、琴勝峰……今後を占う場所」

 

大相撲夏場所、霧島関が引っ張るかと思いきや思わぬ終盤の足踏み、結果として若隆景関がケガを乗り越えての見事な技能相撲で優勝(霧島関同点)、十両では同じく大ケガを乗り越えての炎鵬関の勝ち越しと、気持ちと努力が報われる場所となりました。

最上位陣が軒並み休場となった今場所は、厳しく言えば幕内上位陣にとって通常の場所よりも+2勝くらいできる条件だったと思いますので、今場所二桁、せめて9勝、取れた上位陣が次の昇進候補になっていくのかなという予感がいたしますね。

 

 

今場所、幕内で勝ち越した力士は次の通りです。

 

12勝 若隆景(優勝、技能賞)、霧島

11勝 義ノ富士(敢闘賞)、伯乃富士(敢闘賞)

10勝 宇良、琴栄峰、藤凌駕

  9勝 熱海富士、琴勝峰、美ノ海、狼雅、翔猿、若ノ勝

  8勝 豪ノ山、欧勝馬、御嶽海

 

 

 

若隆景関は素晴らしかった。

毎回思うことですが、彼の勝った取り組みすべてが次世代の教科書として動画保存して部屋で流し続けた方がいいんじゃないかというくらい。若隆景以前と以降で相撲技術のレベルが違う、そんな風にすら思えてしまいます。

並々ならぬ気持ちも感じさせてくださいましたし、結果として優勝、12勝につながったことで、大関取り起点にもなりましょう。霧島関に続き、30代でもできるんやということを証明してプロスポーツ界の相場観を塗り替えていってほしいものです。

 

霧島関も充分役目を果たされましたね。

おそらく本人としては不本意な結果、最上位陣がいないなかでは13-14勝はしたかったのだろうと思いつつ……動きは始終よかったですよね。くの字うっちゃりなんて、今後も語り草になりそうですし。来場所は綱取りにもつながるとのことですけれど、次回は誰にも文句を言わせないレベルの高い結果を期待したいところです。

とりあえず、序盤戦で他の最上位陣が軒並み休場するなか霧島関がしっかり勝ち進んでいた時、協会の方々は彼を大関に上げておいてほんまよかったと安堵していたのではないでしょうか笑

 

 

義ノ富士関はしっかり結果を出されました。ここからですね。こういう、あるいみチャンスな場所できっちり結果を出す気持ちのよさが彼の魅力だと思いますわ。来場所も同じくらいの星を重ねてほしいところ。

伯乃富士関もいい内容、いい星数だっただけに、もう少し上位に位置しておいていただきたかったですね。意地を感じる場面も増えてきた感じがしますし、来場所の更なる飛躍を期待です。

 

10勝勢の宇良関、琴栄峰関、藤凌駕関はいずれもよございました。それぞれの番付の位置で、毎日が要となるご活躍でしたね。特に琴栄峰関と藤凌駕関はめきめき力をつけてきている印象で、今後も楽しみです。

 

9勝のなかでは熱海富士関と琴勝峰関、ともに序盤がちょっと固かったのがもったいなかったですね。地力があることは後半ちゃんと証明しつつ、このチャンスの場所で、新関脇とはいえ足踏みしたのは少しもったいない。もう一丁の力・安定性の積み増しを願いたいところです。

新入幕の若ノ勝関は気っ風のよい取り口で好印象でした。栃木県出身なんですね、たまたま栃木をドライブしているときに「たちつてとちぎ~♪」のラジオCMとともに「栃木県宇都宮市出身の若ノ勝関が~」と推されていて印象に残りましたわ。

 

 

休んでいる方々、十両に落ちてしまいそうな玉鷲関等々、心配な面々が多数いつつ。

番付が安定しそうで再び流動性が出てきたこの局面、次回の暑い暑い名古屋で新たなスターが登場したり、期待される力士が期待以上の活躍をされたりで魅せてくださいますように。

 

あと、炎鵬関の関取勝ち越しは本当に感動的でした……!

 

 

 

「ユーロトラックシミュレーター2 北欧までのエリア拡張DLC攻略の感想(ビューポイント / 隠しマップ等)」

 

ETS2に結局ドハマリしてDLCを買い漁り、ヨーロッパ各国を旅する楽しさにかんたんし通しです。

他のゲームもやりたい、でも重量荷物や実績解除などの挑戦も続けたい。ETS2が私のプライベートを強力に縛ってきて困ったものだ……。

 

store.steampowered.com

 

 

ETS2は多数のDLCが販売されていまして、本体バニラはセール中だと1000円もせずに買えるのですけど、DLCをうきうき買い足していたら結局一万円かかるというトラップになっております。

でもさあ、北欧、バルト三国、東欧、イスタンブール、ギリシャ、イタリアやサルデーニャ、南仏やスペイン・ポルトガルをトラックで旅できると言われたらさあ。勢いで買っちゃいますよね。

 

 

現在の私のプレイ状況はこんな感じ。

とりあえず全都市・全ビューポイント制覇までやってみました。その時点でレベルはちょうど50。

 

支店を増やしまくった結果、収入面が大変なことになってます。免停がなく罰金しかないETS2世界においてカネに余裕ができると交通違反をあまり気にしなくなってしまう自分に若干の後ろめたさ。

 

ちなみに、雇えるドライバーの数は有限のようです。

 

びっくり。

てっきりモンタージュ生成で無限にドライバーが湧いてくる世界だと思っていました。この世界も人手が成長のボトルネックなんすね。

 

 

攻略といっても各国を好きに旅しながら好きな荷物を運ぶだけなのであまりポイントはないのですけれども、バニラ版の攻略に加えて26年5月現在ですと

  • アップデートでウィジェット設定(ミラーやナビや情報ウィンドウの表示)のやり方が変わりました。私の環境ではF6で設定画面、F5でナビのズーム調整。今後もちょいちょい変わりそう
  • ギリシャ全域やサルデーニャなど、一部地域は道路がかなり狭いので注意。そういうとこに限って景色はいい
  • 追加マップの大半はオービスがない。たまにパトカーがネズミ捕りしていますが。お金に余裕があれば140キロくらい出し続けてもいいんじゃねという気になる
  • 追加マップは休憩場所やガソリンスタンドの間隔がかなり開くケースあり。早めに休むか、違反上等で無理して半居眠り運転するか、判断をお早めに

 

くらいでしょうか。

細かいこと気にせず無心で運転するのがプレイバリューの肝なので、まあ参考程度になすってください。

「ユーロトラックシミュレーター2(バニラ) 攻略してみた感想、初心者向けガイドや隠しルート等」※2025.11末時点 - 肝胆ブログ

 

 

ちなみに北欧ではしっかりオーロラが出ます。

 

サイドミラーに映ったときは感動しましたわ。北欧は独特の景観に加えて、白夜、交通量少ないと、なかなか走りやすいです。

 

 

攻略といえば、ビューポイントを埋めていくのも醍醐味です。一部は隠し扱いになっている(とはいえギャラリーで地名は見れるので、検索すればどの地域か推定可能)ので、参考に隠しマップをいくつか紹介しときます。

自分で見つけたい方はまわれ右してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画面右上の国旗やチラリ映る地名をご参考に……

 

ちなみに、私のなかで一番難しかったのはギリシャのアギオス・ネクタリオス修道院です。この修道院、いちばん有名なのはエギナ島というアテネ近郊の小島にあるやつらしいのですが、そもそもマップにエギナ島自体がなく、まさか隠しアイランドまであるのかとアテネの港・海岸線付近を走り回っても見つからず。

結局、正体はエギナ島ではなく別の島にあるやつというオチでございました。生半可情報に踊らされてしまいましたわ。

 

 

プレイし続けても飽きない、まことに魅力的なゲームです。発売から相当の期間が経っているのにアップデート・DLC発売がされ続けてるのもすごい。

これからもご新規のファンが増えて、追加メンテがサステイナブルに続いていきますように。

 

 

以降はおまけで、私の心がときめいた美しい風景集です。

 

 

まずは、制作者さんがそうとうなこだわりを持っているっぽい橋シリーズ。


まことに橋は人類の英知であります。

 

 

続いて、同じく作り込みにこだわってそうな港シリーズ。


まことに水運は人類の英知であります。

 

 

最後にその他の景観集です。


ドライブするたびに好きな景色に出会えます。

 

 

 

ETS2いいですよねえ、しみじみ。

 

 

 

 

 

「天狗争乱 感想 登場人物全員不幸」吉村昭さん(新潮文庫)

 

吉村昭さんの幕末水戸小説、桜田門外の変に続いて天狗争乱を読んだところ、もともと歴史としての大枠は知ってはいたものの……想像以上に誰も幸せにならない、命と熱意とエネルギーの蕩尽ぶりにかんたんしました。

結果として幕府の権勢を大きく揺るがし維新を加速させたとの評価はありつつ、そのために犠牲になったものの大きさに圧倒されます。

 

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桜田門外の変から4年――守旧派に藩政の実権を握られた水戸尊攘派は農民ら千余名を組織し、筑波山に「天狗勢」を挙兵する。しかし幕府軍の追討を受け、行き場を失った彼らは敬慕する徳川慶喜を頼って京都に上ることを決意。攘夷断行を掲げ、信濃、美濃を粛然と進む天狗勢だが、慶喜に見放された彼らは越前に至って非情な最期を迎える。水戸学に発した尊皇攘夷思想の末路を活写した雄編

 

 

……上記あらすじ引用の通り、天狗党決起の顛末については一定知られていることかと思います。

 

その上で当作品の秀でているところは丹念かつ客観的かつ冷静な人物や経緯の描写でございまして、天狗勢当事者の熱い理想や艱難辛苦、あるいは暴走も、彼らを取り巻く人々や勢力の情勢や被害や思惑も、ただただ淡々と。

ものすごく巻き添え的な天狗勢経路の宿場町や藩兵、陣屋役人の労苦っぷり、天狗勢経路の雪と悪路のしんどさっぷりも、ひたすら淡々淡々と……。

 

 

そしてそれが何かに報われるようなことはなく、天狗勢一同は淡々と斬首。彼らと対峙した幕府も崩壊を加速させ、水戸藩主流派も維新後に悲惨な目に遭うんですよね。

なんというか、太平洋戦争終結時の人々の感情もこんなんやったんちゃうかと想像してしまうくらい、「なんやったん……」となります。

 

この、美化しない、あえて一面的な意味や意義も付与しない、淡々丁寧客観を突き詰めたような描写は吉村昭さんだからこそですし、だからこその読み応えが素晴らしいです。

筆致と天狗党が噛み合いすぎている。

この読書、ものすごく胸や脳を揺さぶってくれます。

 

 

それだけに、読者としては「水戸藩の優れた人材が維新まで健在であれば」とも思ってしまいますね。

あまり幕末関係でifを想像したことがなかったのですけど、水戸藩に関しては今回考えてしまいましたわ。

維新は最終的に西国主導で進みましたが、水戸が健在、思想面でなおリードする存在を保てていたとしたら、例えば奥羽列藩のイメージや行くすえも少しは変わったんじゃないかと想像したり。

 

作品終盤、最も胸を打つシーンの一つが、加賀藩の追討軍を率いる永原さんの熱いセリフでして、詳細は伏せますが、天狗勢および天下のことを思う彼の話を読むに、何かが違っていれば……と思わずにはいられません。

全編通して淡々とした記述が続く中、いちばん熱くて重点の置かれているセリフが天狗党を降伏させた加賀藩のセリフというのがまた構成の良さだと感じますね。

 

 

この、惜しいな、もう少しなんとかできんかったかな、と後世の人が思ってしまう歴史的事件って山ほどあると思います。

何かしらの学びを過去から得て、未来への選択に何かしらを活かしていけますように。

 

 

なお、本筋の話ではないのですが、天狗勢が京に向かいはじめた際、天狗勢の行き先を推測する幕府の偉い人たちが

「行き先は甲府ちゃうか」

「甲州の人ら武田信玄さん大好きやん」

「天狗勢の首領は武田さんやん」

「信玄の末裔や言うたら甲州民もノリで同調しかねん」

「エグイなんてもんじゃない」

と真剣に慌ててるシーンがちょっと面白かったです。

 

 

あと、天狗勢の強さに各藩が敗走したり戦いを回避したりしている一種の快進撃を見るに、平時で戦支度も軍勢集結もしていないなかに突然現れる武装勢力というのは本当に恐ろしいものだと思いましたが、そうすると同時期に天誅組を撃退した高取城ってすごいやんとも思いました。天狗勢と天誅組とでは士気も練度もぜんぜん違ったようですけどね。

 

 

 

石川県「石動山が素晴らしい+七尾城、金沢城」

 

石川県を巡りまして、七尾城のついでくらいの気持ちで立ち寄った石動山の森閑とした雰囲気、滅びてもなお聖域性を保っている気配にとてもかんたんしました。

山城跡もいいですけど、滅びた巨大寺社跡というのも大きな魅力があるものですね。

 

 

www.hot-ishikawa.jp

 

 

山岳信仰で栄えた北陸有数の巨大寺社だった石動山。

南北朝でも戦国時代でも兵乱に遭いつつ、都度復興を遂げたものの、最終的には廃仏毀釈で灰になったそうで……。

 

もともと隕石・山岳由来の信仰地ですので、建物が焼失してもなお、土地自体が有する清浄な力は残っている感じがしました。ほぼ誰もいませんでしたけど、なんらかのきっかけがあれば奈良の三輪山みたいにパワースポット的な人気が出るかもですので、行くならマイナーなうちがおすすめです。

 

 

お山の全体像。

 

七尾城から少し南に行ったところに位置します。

 

創建は717年で早くから朝廷から重きを置かれ、

南北時代に南朝方について焼かれ、復興し、

戦国時代に前田利家さんに焼かれ、利家さんが自分で復興し、

明治維新後の廃仏毀釈で焼亡した、

という経緯とのことです。

 

 

お山の雰囲気。

 

遺構は多くありませんし、写真で何かを伝えるのはなかなか難しいのですけど、実際に行ってみると非常にシンとしていながら、かつては広大な建築と大勢の人々がいたであろうこと、大勢の人々が修行するに相応しい山岳聖地であることが体感できますので、よいところ、趣あるところに来たなあ! となれるいいところですよ!

 

 

おまけ①七尾城

 

霧がすごかったっす。

地震の影響か、山頂の鳥居が崩れていていたましい。でも、登城者はすごく多くて、人気は変わらずに親しまれている様子でよございました。

何か地域のイベントも近隣で開かれていて、百円で販売されていた白玉ぜんざいが美味でございました。地元のおばちゃんありがとうございます!

 

 

おまけ②金沢城の石垣展示

 

こちらも地震被害ゆえの展示でしょうか。

金沢城も全体的に修復途上のようでした。熊本もそうでしたし、広島のようにコンクリートでも耐震課題がありますしで、日本中の城郭がなにかしらの改修期にあるのでしょう。それはそれで独自の見応えがありますけれど、実際に修復や資金繰りをしている方々は大変なことでしょう……

 

 

石川県は歴史あり温泉ありうまいものあり永井豪ありで以前から善男善女が集まる地ではありますけれども、久しぶりに行ってみるとまだまだ知らないことや初めて経験するよさがたくさんあって、なおのことよいところですね。

石動山のような好みの土地に、これから先もたくさん出会うことができますように。

 

 

「陰陽師 女蛇ノ巻 感想 めろめろ」夢枕獏さん(文春文庫)

 

陰陽師シリーズ女蛇(めのへび)ノ巻、めろめろした炎が印象的でメロついてかんたんしました。

 

books.bunshun.jp

 

今日も安倍晴明と源博雅は
京の怪異に奔走するーー昭和・平成・令和と愛され続けて祝・35周年!

 

 

以下、ネタバレ要素をほんのり含みますのでご留意くださいませ。

 

 

 

 

 

当巻に収録のお話は次のとおりです。

 

  • 傀儡子神 伊豆で起こった不思議な人物・傀儡のお話
  • 竹取の翁 かぐや姫ではございません
  • さしむかいの女 恒例の男女関係に因るお話
  • 狗 宿縁の怖さにぞっとするお話
  • 土狼 陰陽師らしい怖い怪異のお話
  • 墓穴 同じく怖い怪異のお話
  • にぎにぎ少納言 女蛇と道満さんのお話
  • 相人 怪異とは別の方向で怖いお話
  • 塔 正体明かしが面白いお話
  • 露子姫 童話のようで心が清くなる短編
  • 月を呑む仏 スケールが大きくて面白いお話
  • 蝉丸 蝉丸さん源博雅さん出会いのお話リメイク

 

相変わらずどのお話も面白く、完成度が高い。

各登場人物のキャラが完全に立っているので、ざっくりした舞台を整えれば各キャラが自在に動き出す話し出す、という境地にあるのが読者目線でも伝わってきます。

 

この巻では露子姫が特に良かったですね。

心の清い孫娘的なポジションで、登場人物たちも著者も読者も健やかな気持ちで見守っているのをひしひし感じますわ。

 

 

加えて、いくつか印象にのこったセリフや文を。

 

「おれは今、桜と言うたが、別に桜でなくともよいのだ。人は、何かを見て初めて心を動かされる。それで初めて、自分の心について知るのさ。動かぬものは、たとえ心であれ、なかなか本人には、見えぬものなのだ」

 

安倍晴明さんのイケ台詞。閉じこもっていると自分の心を見失うものですが、こういう風に言ってもらえるとそんなものかなといい具合に呪をかけていただけますね。

 

 

「博雅、その尻の牙に噛まれたら、命はないぞ」

 

某妖との戦いにおいて晴明さんが発したセリフ。

尻の牙という言葉だけ聞くとユーモラスですし、晴明さんはいつも余裕みなぎる顔を崩しませんので忘れがちですが、対峙している内容はいずれも深刻な危険事案ばかりであることを思い出させてくれます。

 

 

「初めておめもじいたしましたが、まるで、うちの弥勒像が笑うたかのようなお顔をしてござりますな。いや、この笑顔を見るためであったら、御仏であれ、邪鬼であれ、たれでも何でもしてさしあげたくなるような……」

 

露子姫を見た僧侶のセリフ。皆の気持ちを代弁しているかのようでよい。そう言われて素直に頬を染める露子姫もかわいい。こういう孫娘欲しいよね感がすごい。

 

 

「おまえであれ、この晴明であれ、その意味については、他人がそれを決めるのさ。博雅よ、おまえが、この世にあるそのことが、それだけで意味なのじゃ。それが、この晴明にとって、何ものにもかえがたいものなのだよ。ただ、そこにいる、それだけで、このおれにはありがたい。それこそが、博雅のこの世にあるおれにとっての意味なのだ──」

 

全肯定な告白。言われたいそのセリフ。

かような、意味は事物に内在するのではなく、事物の関係から意味が生まれるというのは現代哲学のトレンドでもあり、一周回って仏教の諸法無我でもあり。個人的には好きなスタンスです。

 

 

巻のなかでめろめろと炎が燃えるシーンが多かったのですけど、上記引用の通り、それ以上に私の心がメロつくセリフが多くて満足度の高い一冊でございました。

 

 

あとがきによれば、夢枕獏さんはこの時点(2018年)で67歳、連載は12本+αとのことですが……

元気が衰えるどころかますます円熟味を増している感じで素晴らしいですね。バキ外伝も面白いですし。

 

陰陽師などの夢枕獏作品をたしなむ読者も、あやかって素敵なシニアライフを過ごせますように……!

 

 

「陰陽師 玉兎ノ巻 感想 蘆屋道満夢女子が沸き立つ」夢枕獏さん(文春文庫) - 肝胆ブログ