肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う 感想」山舩晃太郎さん(新潮文庫)

 

水中考古学者の山舩晃太郎さんによる素人向け水中考古学紹介本が非常に面白くてかんたんしました。

海底の砂に埋もれさえすれば船や積み荷の劣化は最小限に抑えられる。水中考古学の知見や技術が深まれば歴史の新発見も増えるに違いなく、明るい未来が目の前に見えるかのような気持ちにさせてくれる本で嬉しくなりますね。

 

www.shinchosha.co.jp

 

 

最新技術を武器に、謎を追え! なぜか竜骨が見つからないクロアチアの輸送船、水深60mのエーゲ海に沈む沈没船群、ドブ川で2000年間眠り続けた古代ローマ船に、正体不明のカリブの“海賊船”。そしてミクロネシアの海に残る戦争遺跡。英語力ゼロで単身渡米、ハンバーガーさえ注文できずに心が折れた青年が、10年かけて憧れの水中考古学者になりました。深くて魅力的な海底世界へようこそ!

 

はじめに

第1章 人類は農耕民となる前から船乗りだった
300万隻の沈没船/水中考古学と船舶考古学/「タイムカプセル」と「ミルフィーユ」/トレジャーハンターの正体

第2章 発掘現場には恋とカオスがつきものだ
発掘シーズン到来/キールを探せ!/船はどこだ?/地味すぎる発掘のリアル/プロジェクトはつらいよ/発掘症候群/どうして見つからない?/二人でこっそり推理/内緒の発掘作業/沈没船の名は

第3章 TOEFL「読解1点」でも学者への道は拓ける
夢はプロ野球選手/水中考古学との出会い/英語が全く分からない!/絶望の授業初日/パズルのように船を解き明かす/最新技術「フォトグラメトリ」/考古学調査における新たな可能性/就職難にぶち当たる/道がないなら自分で作る

第4章 エーゲ海から「臭いお宝」を引き上げる
依頼は突然に/水中考古学者の懐事情/ギリシャの精鋭達/夢のような調査現場/水深60mの蒼/UFOのように動いて撮りまくる/保存処理は時間との闘い

第5章 そこに船がある限り、学者はドブ川にも潜る
川の考古学/薄い味噌汁のような川/やっと出会えた初めての古代船/水中での手実測/レア船と発覚!

第6章 沈没船探偵、カリブ海に眠る船の正体を推理する
親友との旅路/カリブ海に沈んだ2隻/2隻の眠る現場へ/沈没船探偵の出番/ついに船の正体を解明

第7章 バハマのリゾートでコロンブスの影を探せ
嫌な予感/発掘の遅れの理由/なぜ、そこに穴があるのか/キャラック船とキャラベル船

第8章 ミクロネシアの浅瀬でゼロ戦に出会う
戦争と水中考古学/チューク諸島と日本の歴史/水中文化遺産を守れ/珊瑚の生息地になったゼロ戦戦没者の眠る場所として

おわりに

文庫あとがき

解説 河江肖剰

【山舩晃太郎×丸山ゴンザレス】
対談 ロマンは現場で待っている

 

 

有名な方なのでご存じの方もいらしゃるかもしれませんが、著者の山舩晃太郎さんは水中考古学を学ぶために単身渡米し、そうとうなご苦労をしながら英語と水中考古学を修め、現在は最新技術のフォトグラメトリに習熟した学者さんとして世界中の海や川を潜っておられるとのことです。

 

引用した目次に書いてある通り、多種多様な船・史跡との出会いをされていて、本を読んでいても一つひとつのエピソードにどきどきわくわくさせていただけます。

 

エッセイ風、自叙伝風の軽妙な語り口でありながら、取り上げている内容は考古学者としての誠実なふるまい、水中考古学における発掘・探索の基礎技術紹介、フィールドワークにおける泥くさい仕事や気配りの数々等、実態的なものが多くてその点でも満足度が高いんですよ。

一般的な歴史好きの方にとっても、珍しいジャンルでありながら情熱や難儀さは似通うものがありますので感情移入して読み進めることができるのではないでしょうか。

 

 

どの章も面白い前提で、私は船そのものが好きですので前半の船舶構造を推理し探索に活かしていく場面が特にお気に入り。

中盤のフォトグラメトリ技術の基礎・威力を思い知らせてくれる場面も好き。

後半の世界中を旅しているかのような気持ちにさせてくれるエピソードの数々も楽しい。

はじめからおしまいまで面白い本だな!

 

 

詳しい引用・紹介はしませんが、カリブやミクロネシア現地の方々が、過去の歴史を象徴する存在である水中遺産をどのように受け止めているかが伺われる場面、いち歴史好きとしてはグッとくるものがありました。

自分が当事者でも同じように言うかもしれない。

でも現地の方々の間でもきっと意見は様々なのでしょう。

人がなぜ歴史を学ぶのか、歴史から何を得ようとするのか、そうしたことを考える一つの契機にもなりました。

 

 

考古学の新たな技術を学ぶという点でも、一人の研究者・歴史好きに出会うという点でも、魅力的な本ですのでおすすめですよ。

文庫版が出ていっそう多くの方の眼に触れていくといいですね。

 

 

そのうち中世日本の貿易や倭寇・海賊にかかわる水中調査も進んで、西国における戦国時代の解像度がよりクリアになるような発見もありますように。