陰陽師シリーズの天鼓の巻、読みやすい短編ものが多数収められている巻でございまして、その中でも「器」という作品が家族ものとして非常に優れ、かつ哀しいお話で胸を打ちかんたんしました。
以下、ネタバレは抑えつつもほんのり展開と感想を書いていますのでご留意ください。
当巻収録のお話は次の通りです。
- 瓶博士
- 器
- 紛い菩薩
- 炎情観音
- 霹靂神
- 逆髪の女
- ものまね博雅
- 鏡童子
以下、各お話のちょっとした感想を。
瓶博士
「まだ、真の神になるまでは、千年もかかりましょうか」
「かかるでしょう」
人の身でありながら非常にスケールの大きい会話。
どういう展開でこういう会話になったのかは伏せますが、陰陽師シリーズや安倍晴明さんの奥行きの深さを感じて好きなやり取りです。
器
「人という器は、あまりに多くの悲しみに満たされると、心を亡くしてしまうものなのだな――」
これも、どういう展開でこういうセリフが出てきたのかは伏せますが、このお話は家族というものを愛する方であればぜひ読んでいただきたい作品です。
派手さはありませんが、家族愛の尊さや悲しさで胸が満ちます。
紛い菩薩
陰陽師らしい、正当な怪奇事件解決譚です。
いつも冷静に事件を解決する安倍晴明さん、リアクションが常にかわいい源博雅さんという安心感のある展開を楽しめていいですね。
炎情観音
「人は、一生、そういう答えのない心のことで、じたばたと生きてゆくのであろうかな」
「だろうな」
「なんともそれは淋しいような、逆にまた、妙に、少しはほっとすることでもあるような……」
こちらのお話も陰陽師らしい怪奇事件解決譚です。
ラストシーン、この会話が好き。源博雅さんのお人柄がすごく出ていると思う。
霹靂神
べおむべおむ
ほろろころろ
てんてててん
以前もあった、源博雅さんと人ならざる者とのセッション。
今作は蝉丸さんも加わって一層楽しい。
ストリートで、偶然めっちゃイケてるライブに遭遇したときのような読み味です。
逆髪の女
「鉄輪」が好きな方に刺さるであろう、女の情念と、男の受け止め方の一例が示されるお話。当然私も好きです。
「鉄輪」よりは救いのある、そして愛の一種のありようを感じさせてくれる名作で、しみじみいいなあと思ってしまいますね。
ものまね博雅
ただただシチュエーションが面白いお話ですので、ぜひ読んで場景を想像してくださいませ笑。
鏡童子
平安時代の方違えこえぇよ! とおののけるお話。
皆さまも方角にはお気をつけくださいませ。
しっかし夢枕獏先生という方は毎回毎回クオリティの安定っぷりがハンパないですね。神々の山嶺といいゆうえんちといい。
夢枕獏先生の他のシリーズも、陰陽師を一通り読んだら手を伸ばしてみようかしら。
天災も事故も起き続けている世の中、一組でも多くのご家族が健やかに暮らしを送れますように。
絵物語「陰陽師 鉄輪 感想 白い脚は蠱惑的で、お尻も可愛くて可愛くて」夢枕獏さん / 村上豊さん(文春文庫) - 肝胆ブログ