陰陽師シリーズの絵物語第3弾にして、「鉄輪」まさかの3度目作品化。
あらためて「鉄輪」の完成度に唸らされるとともに、この人気作品に村上豊さんの絵がふんだんに挿入されるというのが贅沢でかんたんしました。
他の女に心変わりした男を恨んだ徳子姫は、丑の刻参りの末に生成(なまなり)の鬼になった。事情を聞き男は晴明と博雅に助けを求めるのだが……。恋に破れた姫の美しくも哀しい物語「鉄輪」が、名コンビによって新たに息を吹き込まれる。夢枕獏自らが、舞踊劇のために書き下ろした脚本も特別収録した「陰陽師」絵物語シリーズ第3弾。
※歴代の「鉄輪」
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確かに「鉄輪」は陰陽師を象徴する作品だと言えるかもしれません。
話の筋はこれまでと同じではありますが、やはり夢枕獏さんならではのセリフの緩急、感情のみなぎりは素晴らしいものがあります。
「あなたをお慕い申し上げたのは、わたしです。誰から命じられたわけでもありませぬ。あなたが心がわりをされたとて、気持がさめてしまうものでもないのです――」
涙を流しながら、女は言った。
「あなたにふたつ心のあることもわからず、契りをかわしてしまったこの悔しさも、みんな、この自分のせいとはわかってはいるものの……」
からの
「思い知れい!」
連呼、超いいよね……。
人の恋心をもてあそぶような輩が思い知ってくれますように。
人気作だけあって、村上豊さんの挿絵もいつも以上に力が入っている感があります。
ヒロイン徳子さん関係の絵がいずれも素晴らしい。
著者の夢枕獏さんが「白い脚は蠱惑的で、お尻も可愛くて可愛くて」と唸るのも納得ですし、夜の貴船をさまよう絵、足の爪が割れて血がにじむ絵、涙する絵、思い知れいの絵、喉に懐剣が刺さっている絵、いずれも切ない美しさがございます。
本編「鉄輪」が情緒深く激しい徳子さんの絵が多いだけに、同時収録されている「鉄輪恋鬼孔雀舞(かなわぬこいはるのパヴァーヌ)」冒頭の静かな徳子さんのイラストがとてもいい対比。
この徳子さんという人物は大変魅力的な女性でありますし、なんとなく、とりわけ同性である女性からより多くの共感と同情を得られそうな気がします。
みんなで徳子さんの来世を応援しよう。
本当に、人の恋心をもてあそぶような輩が思い知ってくれますように。
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