肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

小説「謎解きはビリヤニとともに(THE WAITER) 感想」アジェイ・チョウドゥリーさん / 訳:青木創さん(ハヤカワ文庫)

 

「謎解きはビリヤニとともに」というインド系ミステリがなかなか面白くてかんたんしました。

ピュアに本格的なミステリを楽しめるというよりは、ミステリ要素を持ちつつインド人青年元刑事がロンドンで異邦人としても挫折からの復帰としても現実と理想のはざまでもがくとしてもいい感じの人間ドラマを楽しめるところが見どころじゃないかなと思います。

 

なお、ネタバレするとビリヤニはほとんど出てこないのでタイトル詐欺の疑いがあります。この本を読んで実際に食べたくなったのはサモサです。

 

www.hayakawa-online.co.jp

 

 

インド料理店のウェイター探偵が難事件に挑む!

ボリウッド・スター殺しの捜査の結果として、刑事の職を追われることになったカミル・ラーマン。彼は、コルカタからロンドンへと移住し、インド料理店のウェイターをしていた。ある日、カミルが給仕を行うパーティー会場で大富豪の男が殺されてしまう。現場を見た彼の脳裏にかつての事件の記憶がよみがえり……

 

 

大きくは上記あらすじの通りでして、もともとインドで刑事をやっていたカミルさんが、現在はロンドンのインド料理店でウェイターをやっていまして、ひょんなことから殺人事件の捜査にかかわることになるという流れです。

 

ミステリとしてまっとうな謎解き要素はありますが、冒頭に書いた通り謎解きがメインというよりは人間カミルさんの描写に重きを置いている印象があります。カミルさんという人物を好きになれるかどうかで作品の感想も大きく変わることでしょう。

個人的には、「ロンドンに流れてきたインド人」「元刑事」「ヒンズーではなくイスラム教徒」「理想を追っていたが現在挫折中」というだけで充分な魅力と面白さを感じましたし、写実的というかリアリティのある人物描写がイケてるなと感じました。

 

 

読み進めるうえで困ったのは、馴染みのないインドネーミング。

登場人物の名前で「マヤ」と「ネハ」をどっちがどっちだっけとか、「アンジョリ」と「アルジュン」をどっちがどっちだっけとか苦戦しました笑。

まあすぐ慣れますけどね。

 

 

本筋にあまり関係のないところで、印象に残った文章を少し紹介。

 

どこにいても心が安まらないし、どこにいてもなじめないの。誤解しないで、あたしはインド人よ。インドの料理も歌も観ていて恥ずかしくなるようなボリウッドの映画も大好きだけど、ときどきインド人としての自分を……うまく言えないけど、ジーンズの上に着たサリーのように感じてしまう。

 

「あなたは何を信じてる?」

「なんだって?」

「あなたは何を信じてるの、カミル」アンジョリは繰り返した。

わたしはこの奇妙な問いに答えられなかった。いったい自分は何を信じているのだろう。四ヵ月前に聞かれたのなら、正義だと答えたかも知れない。いまでは正義がまやかしにすぎないことを苦い経験とともに知っているし、被害者が当然の救いを得るわけではないことも、加害者が当然の報いを受けるわけではないことも知っている。ならば真実だろうか。だがそれも、不都合になったとたんに捨て去られてしまう。ならば家族だろうか。わたしの支えとなる岩だった父は、わたしが最も必要としているときに、ただの砂にすぎなかったことをみずから証明した。ならば愛だろうか。それもばらばらに引き裂いて投げ捨ててしまった。

よく考えもしないで自分の声がこう言うのが聞こえた。「思いやりだ。ぼくは思いやりを信じている、アンジョリ」

 

みたいな場面がありつつ、きっちりミステリしたりインド料理の数々が取り上げられたりする感じです。

サモサ以外だとマトンが食べたくなります。タンドーリ・マトン・チョップやのカティ・カバブ・ロールやの。マトン・ビリヤニもいいよね。

 

 

ミステリって異文化要素が入ると急速に面白くなりますよね。

豪華客船やの、

謎の因習がある村やの、

アメリカンギャングやの、

オリエンタルな急行内やの、

江戸時代を舞台にした捕り物やの。

 

そんな中でもインド人の異邦人ものというのは新鮮で楽しめました。

さいきんは海外ミステリも売れなくなってきているらしいですが、引続きいい感じの海外小説が邦訳され続けますように。