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「戦国武将列伝4 甲信編 感想」編:平山優さん/花岡康隆さん(戎光祥出版)

 

戦国武将列伝の甲信編、ざっくり現山梨県・長野県の2県分だけなのに単巻(しかもページ数が多い)に仕上がるほど国衆の研究が進んでいることが分からせられてかんたんしました。

武田家や真田家のファンはもちろん、逃げ上手の若君のファンも登場人物の子孫たちの活躍が伺えて満足度たかいんじゃないでしょうか。

 

 

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【目次】

武田信虎――武田家を戦国大名に押し上げた勇将  海老沼真治
武田信玄――数々の逸話を残した甲斐の英雄  海老沼真治
武田勝頼――時代に背かれた悲劇の名将  海老沼真治
小山田信有・信茂――御譜代家老をつとめた武田家重臣  小佐野浅子
穴山信友・信君・勝千代――武田一門の国衆として苦悶しつづけた一族  深沢修平
大井信達――乱国の甲斐を生きぬき歌を愛した信玄の祖父  深沢修平
今井信元――武田信虎に最後まで抗った反骨の一族  深沢修平
山県昌景――愚直に信玄に尽くした「赤備えの猛将」の実像  深沢修平
馬場信春――〝働き比類なし〟と賞された武田家宿老  海老沼真治
内藤昌秀――信玄の信頼厚き西上野郡司  金子裕太郎
春日虎綱――『甲陽軍鑑』の原作者とされる北信濃支配の要  平山 優
小笠原政秀――南信濃戦国史の扉を開いた人物  花岡康隆
小笠原定基――内外から一目おかれた故実家  村石正行
小笠原長時・貞慶――国を追われた信濃最後の守護  村石正行
小笠原信貴・信嶺――信濃戦国史の〝勝者〟  花岡康隆
仁科道外――一族の盛衰を決定づけた仁科氏の重鎮  逸見大悟
諏方頼満・頼重――武田氏に立ちはだかった信濃屈指の名族  平山 優
高遠頼継――諏方氏惣領を目指した野心家  長谷川幸一
藤沢頼親――信玄に立ち向かった伊那衆の有力者  村石正行
木曽義康・義昌――信濃西部を領した大身衆  村石正行
下条信氏・頼安――美濃・三河にまで勢力を広げた境目の国衆  平山 優
知久頼元・頼氏――明治維新まで続いた数少ない信濃国衆  平山 優
高梨政盛――関東管領を討った北信濃の雄  花岡康隆
高梨政頼・頼親 ――信濃最北の国衆  降幡浩樹
市河信房――武田・上杉両家の狭間を生きた武将  西川広平
島津忠直――大勢力の狭間で翻弄された北信濃の雄  中村亮
須田満親――上杉景勝の信頼厚い海津城代  原田和彦
村上義清――「武田信玄を二度破った武将」の実像  花岡康隆
屋代政国・正長・秀正――戦国乱世を泳ぎきった村上一族の名門  平山 優
室賀信俊・満正・正武・満俊――諸勢力に翻弄された村上氏の一族  平山 優
真田幸綱・信綱――没落から再起した不屈の父子  平山 優
真田昌幸――天下人に警戒された「表裏比興の仁」  平山 優
祢津常安・昌綱――武田・北条・徳川・真田を渡り歩いた滋野一族の名門  山中さゆり
依田信蕃・康国――家康の信頼厚い天正壬午の乱の功労者  平山 優

 

 

登場人物は上記の通り52名。多い。

武田信玄さんや真田昌幸さん、武田四名臣的な有名人の方々はもちろんとして、国衆の充実度がものすごいですね。この群雄割拠感が読んでいて楽しいですし、甲信を旅するときに「あの山の向こうは誰々氏」とか想像がはかどってしまいそうです。

 

登場人物の行く末として、徳川氏配下はもちろんとして上杉氏(長尾氏)配下となった方々も多く、境目の国衆らしい生存戦略ぶりがそれぞれ鮮やかに描かれているのが一番の読みどころでしょうか。

 

 

以下、印象に残ったところを何点か。

 

  • 大酒を飲みがちな穴山氏と、境目国衆・外交取次のストレス故ではないかという力強いフォローを行う著者の深沢修平さん

  • 徳川家康さんの奔放な外交ぶりに苦しめられる山県昌景さん

  • 馬場信春さんの娘さん、ひとりは鳥居元忠さんに嫁いでいたんですね

  • 小笠原氏や諏訪氏の分裂・抗争っぷりが畿内や関東の戦国時代と類似していて親近感がわく、とりわけ小笠原氏は三好、一宮、赤沢等々との一族ネットワークを活用しているので親しみやすい

  • 文明十五年の諏訪氏内の謀殺事件が血なまぐさすぎる

  • ドラマ性という点では、ややマイナーながら下条頼安さんの生涯に同情を禁じ得ない。最期はやはり血なまぐさい……

  • 信濃での高梨政盛さんの活躍の伝えられ方が、地域のヒーローに対する憧憬感があって好き。こういうのから民話が始まるんでしょうね

  • 須田満親さんや村上義清さんのあたりは、信濃での活躍以上に飛騨・越中方面の活躍が印象に残ります。織田家と上杉家の関係性や攻防、あんまり詳しくないので何かと興味深いっす

 

などなど。

 

その上で、こういう個別のエピソードやキャラクター性以上に、多くの国衆が甲斐や信濃の内乱、武田信玄さんの侵攻、織田氏や徳川氏の侵攻、天正壬午の乱などなどの中でなんとか生き残っていく姿そのものが一番読み応えありました。なんというか、老舗企業特集とかに通じる感慨がありますわ。

 

 

ファンと研究蓄積の多い地域だけに、これからも甲信が戦国史を牽引していってくれるといいですね。そのうち畿内や西国との意外なつながりみたいな新発見なんかも出てきますように。

 

 

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