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「戦国武将列伝1 東北編 感想」編:遠藤ゆり子さん/竹井英文さん(戎光祥出版)

 

戦国武将列伝の東北編、情報のアップデートっぷりと各人物の相互関連っぷりが素晴らしくて、「武将列伝」でありながら「東北戦国史」とも呼べるくらい地域の歴史が立体的に描かれていてかんたんしました。

東北の戦国時代に興味を持ったら、どの家のファンであれまずはこの本から入るといいんじゃないでしょうか。

 

https://www.ebisukosyo.co.jp/item/680/

 

 

【目次】
蠣崎季広――蝦夷地の和人を統一した道南の雄  新藤 透
松前慶広――「最北大名」の誕生  新藤 透
九戸政実――豊臣政権最後の一揆を起こした男  滝尻侑貴
津軽為信――南部氏から独立し大名となった野心家  滝尻侑貴
南部晴政――不当に貶められてきた三戸南部家二十四代当主  滝尻侑貴
南部信直――激動の時代を生き抜いた南部家中興の祖  滝尻侑貴
和賀信親・稗貫輝家――奥羽仕置に反発した一揆の首魁という虚実  高橋和
安東愛季・実季――二つの安東家を統一した秋田の雄  遠藤ゆり子
小野寺義道――周辺領主を束ねた仙北地域の領袖  金子 拓
最上義光――地域の盟主から絶対的な大名権力への脱皮  菅原義勝
大宝寺義氏――道半ばで非業の死を遂げた庄内の名将  菅原義勝
大崎義隆――奥羽仕置の前に沈んだ奥州きっての名門  遠藤ゆり子
葛西晴信――秀吉の奥羽仕置で大きく狂った運命  竹井英文
伊達稙宗――前例なき陸奥国守護就任を果たした伊達氏中興の祖  佐々木徹
伊達晴宗――父稙宗・子輝宗との相克に揺れた人生  長澤伸樹
伊達輝宗――畠山義継の前に散った政宗の父  黒田風花
伊達政宗――戦国末期を鮮やかに彩った南奥羽の〝覇者〟  佐藤貴浩
伊達成実――南奥制覇に貢献した伊達家きっての猛将  佐藤貴浩
片倉景綱――若き政宗を支えた側近・外交官  竹井英文
田村清顕――力と知恵で領土を守った三春の隠れた名将  山田将之
岩城親隆――岩城家入嗣を運命づけられた伊達晴宗嫡男  泉田邦彦
岩城常隆――二十四歳で夭折した、戦国期岩城氏の最後の当主  泉田邦彦
相馬盛胤――伊達氏との抗争を乗り越えた南奥の勇将  岡田清一
相馬義胤――改易危機を乗り越えた初代相馬中村藩主  岡田清一
蘆名盛氏――蘆名氏の最盛期を築いた南奥の重鎮  垣内和孝
蘆名盛隆――協調外交で実現させた安定的な領国経営  垣内和孝
白河義親――南陸奥の和平を司るコーディネーター  戸谷穂高

 

立項されているのは上記引用の29名であります。

史料的制約もあって基本的には大名・領主層に絞られていまして、家臣層で入っているのは伊達成実さんと片倉景綱さんだけですね。(九戸政実さんは家臣と言った方がいいのか独立領主と言った方がいいのか分からない)

北信愛さんや金上盛備さんあたりが入っていたら個人的には嬉しかったのですけどこればかりはやむをえません。

 

ただ、大名・領主層に絞られているだけに、各家の動向が他家にどのような影響をもたらしたかが分かりやすくなっていて、冒頭で書いたように東北戦国史の理解を得やすくなっているのがこの本の魅力だと思います。

北東北・南東北それぞれ様々な経緯や血縁に満ち溢れていて、何が起こっても他人事ではいられない関係の濃さがあって、家族内や友人内や自治体内や社内や校内の政治・人間関係に悩む現代人にとってもあんがいシンパシーを感じやすいものなんだなあとあっしはしみじみ感じ入りましたね。

大志を抱く人は各国の中央政治史を学ぶといいのかもしれませんが、普通の人は東北戦国史を学んだ方が歴史から得るものが大きいのかもしれませんよ。

豊臣秀吉さん」という社会の大きな変化に右往左往して上手くいったりいかなかったりする姿も、現代人にとって示唆的だと思うの。

 

 

個人的に印象に残ったのは次のような箇所です。

 

  • 蠣崎家の内紛で、呪詛を請け負ったり暗殺を請け負ったりするも全然役に立たない上に相手へ寝返ってしまう修験者の腎蔵坊さん。パートナー選びはよく考えないといけませんね。

  • 九戸一揆、和賀・稗貫一揆、大崎・葛西一揆と、元領主の強い個性で主導されたというよりは、地域住民の蜂起の神輿として元領主が担がれてしまった感。古くは平安時代の反乱、近代では士族の反乱等々、武士=ご当地政治家の哀しい宿命なのかもしれません。

  • 足利義晴さんから偏諱を受けるにあたって、上洛経験があった南部晴政さん。天文八年(1539年)に京都にいたってのがなんとなく面白く思います。

  • 珍しく史料が豊富で、都会人との付き合いに苦しんだり娘や孫を甘やかしまくったりしていたことが知られている南部信直さん。けっこう有名なエピソードだと思いますけど何度読んでもかわいいですよね。正月を迎えて物価がインフレしている当時の京都の様子が興味深い。

  • 小野寺輝道さんが弘治二年(1556年)に官職・偏諱受領の御礼を伊勢貞孝さんに伝えているようなのですが、この時期は足利義輝さんが近江に逃れ、伊勢貞孝さんは三好方に寝返っている立場のはずなんですが、義輝さんに対する偏諱申請の実務は引続き貞孝さんが続けていたんですかね?

  • 登場人物の中でも、大名として専制化や内政・文化発展に心を砕く様の描写が濃い最上義光さん。新田開発を行った具体地名が列挙されている最終ページに、山形県民の敬慕が籠っているように思います。

  • その最上義光さんの次に登場する人物が大宝寺義氏さんで、「最上義光になれなかった」感が強く漂うのが印象的です。

  • 「全国的に見ても比較的有名であろう」と冒頭で取り上げられる葛西晴信さん。確かに戦国時代ファンなら名前は知っている気もしますが、あらためてこういう紹介をされると「戦国武将知名度ランキング」のベスト10あたりではなくて、ベスト100とかベスト500くらいの顔ぶれを見てみたい気持ちになりますね。

  • 自分たちも懐事情が厳しいだろうに、豊臣政権の仕置で所領を失った元領主をたくさん引き受けている上杉家。こういうのを見ると「“義”やね……!」と好感を抱きますね。

  • あらためて東北戦国史を通観すると、畿内でいう木沢長政さんや三好長慶さん、それこそ織田信長さんや豊臣秀吉さんのような、「大名家の家臣筋がいつの間にか成り上がってきた」系の人物が見当たらないことに気づかされます。これは、伊達稙宗さんたちが張り巡らせてきた血縁・中人制による地域安定化策が上手く機能していたことの一種の証左なのかもしれません。結果として「奥州全てを制した鬼つよ大名」みたいなのは生れなかったかもしれませんが、他地域の戦乱の激しさを思えば、当時の東北住民にとってはけっして悪いことではなかったんじゃないかな。

  • 史料が少ない東北地方にあって、「晴宗公采地下賜録」に記録されたエピソードは具体的で面白いですね。

  • 家督相続直後、緊張? 冬の寒さ? で体調を崩した伊達政宗さん。知らんかった。初めてやる仕事って疲れますよね。

  • あらためて事績を読むと、まさしく優秀で立派な伊達成実さんと片倉景綱さん。そりゃ有名になるわ。片倉景綱さんが政宗さんより10歳も年上で、晩年は肥満だったというのも知りませんでした。

  • 地政学的に……南奧のド真ん中に位置するためか、その動向が周辺勢力を大きく巻き込んでいく田村清顕さん。この地域は多士済々で、微妙なバランスで安定が保たれたり、ひとつの家の乱れが地域全体の乱れに繋がってしまったり、それだけに中人制による抑止力が大事だったり、というのがめちゃくちゃ分かりやすい。

  • 南奧にひたひたと勢力を伸ばしてくる佐竹義重さん。影響力の強さが何回も描写されるので、いつの間にか佐竹氏の歴史を知りたくてたまらなくなります。この本では立項されていませんから、関東編を買いたくさせる巧みなマーケティングなのでしょう笑。

  • 聖護院門跡の道増さん、相馬領にもいらっしゃってたんですね。逆に、相馬義胤さんは名護屋まで出陣していたり。お互い、他地域との交流に何を思ったか、南部信直さんみたいな記録が残っていたらいいんですけどね。

  • ページを倍にして一つひとつの事績をもっと詳しく書いてほしくなる蘆名盛氏さん。最晩年の寂しげな姿の描写だけでみんな絶対好きになってしまうと思う。

  • 何も知らなかったのでピュアに面白かった白河義親さん。史料が豊富だからこれから更に研究が進みそうなのだとか。白河って有名な土地で新幹線も止まるのに行ったことないなあ。

 

 

気がつけばめっちゃたくさん文章を書いていました……。

自分で思っている以上に自分は東北地方が好きなのかも。

 

戦国時代も含め、東北地方を愛する人がますます増えていきますように。

 

 

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