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「戦国武将列伝2&3 関東編上下 感想」編:黒田基樹さん(戎光祥出版)

 

戦国武将列伝の関東編上下、享徳の乱から江戸時代までを通観する構成になっており、他地方と比べてもひときわスパンの長い歴史の壮大さを感じ取れてかんたんしました。

個人的に北関東や千葉は土地勘がないため、巻頭のお城マップを眺めながら読み進めるのが楽しかっただす。臼井城が登場しまくるので行ってみたくなりましたわ。佐倉城には行ったことがあるのに臼井城に寄らなかったのは惜しいことをしたものだ。

 

www.ebisukosyo.co.jp

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収録されている武将方は次の通り。

足利成氏――関東を戦国の渦に巻き込んだ初代古河公方  長塚 孝    
足利政氏――息子と対立、隠遁に追い込まれた二代目古河公方  黒田基樹
足利高基――肉親との泥沼の戦争を繰り返した三代目古河公方  黒田基樹
足利晴氏――衰退する家運を支えた四代目古河公方  長塚 孝    
上杉顕定――生涯を戦乱に明け暮れた関東管領  森田真一
長尾忠景――山内上杉氏の家宰を争った長尾景春の仇敵  森田真一
長尾景春――生涯をかけて主家に抗った不屈の闘将  黒田基樹
上杉定正・朝良――太田道灌を殺害、伊勢宗瑞の抵抗勢力  真鍋淳哉
太田道灌――新時代を切り開き、〝伝説〟を生み出した名将  駒見敬祐
太田資頼――長き戦いの末に掴んだ岩付城主の座  新井浩文
千葉実胤・自胤――武蔵に逃れた千葉本宗家の血統を継いだ兄弟  杉山一弥
大石定重・道俊――山内上杉氏重臣から北条氏の国衆へ  小川 雄    
三田氏宗・政定・綱定――武蔵奥多摩の一帯に君臨した国衆  小川 雄    
三浦道寸――伊勢宗瑞の障壁となった文武兼備の雄  真鍋淳哉
大森氏頼・実頼――箱根山一帯を掌握した有力国衆  杉山一弥
伊勢宗瑞――今川氏の後見役から関東へ入った戦国大名  黒田基樹
岩松家純――分裂した一族の統一を果たした実力者  青木裕
横瀬国繁・成繁――主家の実権を握った切れ者父子  青木裕
長尾顕景――山内上杉氏に翻弄された惣社長尾家当主  黒田基樹
長野業政――北条・武田に立ち向かった西上州の雄  青木裕
小山持政――足利成氏が「兄弟」と恃んだ最大与党  石橋一展
小山高朝――古河公方・北条氏・上杉氏の狭間での苦闘  荒川善夫
宇都宮成綱・忠綱――家中支配の強化をめざした父子  江田郁夫
那須高資――宇都宮氏と争った那須氏惣領  新井敦史
佐竹実定――享徳の乱室町幕府へ味方した常陸のキーマン  千葉篤志
佐竹義舜・義篤――一族間抗争を克服し、宗家の権力を確立  千葉篤志
佐竹義昭――対外戦争に生涯を費やした佐竹氏当主    千葉篤志
小田成治・政治――一族が生き抜く基盤を築いた父子 中根正人
江戸通泰・忠通――佐竹氏の被官から国衆へと発展した父子  千葉篤志
大掾忠幹・慶幹――常陸府中を拠点とした鎌倉以来の名族  中根正人
結城政勝――分国法「結城氏新法度」を制定した名門結城家当主  荒川善夫
千葉孝胤・勝胤――戦国期千葉氏の礎を築いた父子  石橋一展
足利義明――貴種の宿命を背負い、国府台に散った小弓公方  石橋一展
武田信長――上総に乗り込み「悪八郎」の名を轟かせた猛将  細田大樹
武田信清――真里谷武田氏の全盛を築き、房総の鍵を握る  細田大樹
里見義豊――濁った世の貴公子と称賛された安房国主  滝川恒昭
里見義堯――内乱に勝利し、里見家最盛期を築いた戦国大名  滝川恒昭
正木時茂――「槍大膳」の異名をもつ里見家を支えた筆頭重臣  滝川恒昭

 

足利義氏――諸勢力に翻弄された最後の古河公方  長塚 孝
北条氏康――北条家を全国屈指の戦国大名へ押し上げた立役者  黒田基樹
北条綱成――北条氏康からの信任あつかった三代玉縄城主  浅倉直美
北条氏照――一門筆頭として当主氏政を支えた嫡出の次弟  浅倉直美
北条氏規――今川一門から戻り北条家を支えた嫡出の末弟  浅倉直美
北条氏邦――当主氏政から最前線を任された庶出の弟  浅倉直美
太田資正・梶原政景――さまざまな知略で戦国を渡り歩いたキーパーソン  新井浩文
上田朝直――松山城を守り抜き、一族繁栄の礎を築く  駒見敬祐
成田氏長――外交と領域支配に長けた武蔵国衆  新井浩文
由良成繁・国繁――大敵と戦い続けた境目の領主  青木裕
長尾顕長――館林を拠点に乱世を生き抜く  青木裕
小幡信真――武田・北条に対峙した西上野の領主  森田真一
北条高広――上杉・武田・北条とわたり合った領主  森田真一
長尾憲景――大勢の猛攻を耐え抜いた有力国衆  青木裕
簗田晴助・持助――要衝を守り続けた古河公方家の宿老  長塚 孝
千葉胤富――北条氏の後援を得て所領堅持に奔走した千葉氏当主  石橋一展
酒井胤治――北条・里見の間で巧みに生き抜いた房総の国衆  滝川恒昭
武田豊信――たび重なる難局に立ち向かった上総の国衆  細田大樹
里見義弘・義頼――ライバル北条氏としのぎを削り、全盛期を築いた父子  細田大樹
正木憲時――里見氏に対抗した悲運の名将  細田大樹
小山秀綱――小山家の存続と本城への復帰をめざして  荒川善夫
宇都宮広綱――分裂する家中や病と闘った生涯  江田郁夫
佐野昌綱――強敵の上杉・北条と抗争を繰り広げた勇将  黒田基樹
壬生義雄――相模北条氏に与して滅亡  荒川善夫
皆川広照――家康が信頼した下野国衆  江田郁夫
那須資胤・資晴――北条方に靡き没落後の復活  新井敦史
結城晴朝――結城家の存続と繁栄をめざして  荒川善夫
水谷正村・勝俊――戦国・近世初期を生き抜き下館藩主へ  荒川善夫
多賀谷重経――家の存続を下総結城氏と常陸佐竹氏に託して  荒川善夫
佐竹義重――佐竹氏の全盛期を築いた智将  千葉篤志
佐竹義久――佐竹氏家中の要人から豊臣政権の直臣へ  千葉篤志
佐竹義斯――軍事・外交で本家を支えた重鎮  千葉篤志
江戸重通――巧みな戦略で難敵に立ち向かった常陸国衆  千葉篤志
大掾清幹――若年ながら懸命に戦った大掾家最後の当主  中根正人
真壁久幹・氏幹――類いまれな外交手腕で生き残った国衆  中根正人
小田氏治――逆境の荒波を何度も乗り越えた不屈の名将  中根正人
土岐治英――越前朝倉氏とも交流があった常陸の名族  千葉篤志

 

 

文量が膨大ですし素人ですので気の利いたことも言えないのですが、特に印象に残ったところだけいくつか感想を。

 

  • 関東戦国史の中で、思った以上に長期間にわたって古河公方の影響力が強く残っていること。親子兄弟における古河公方内の争闘もイメージより長い。「関東戦国史」と聞いて、北条家vs上杉謙信みたいな構図になるのはかなり後半なんだなとあらためて実感しました。足利義氏さんも独自性かなりあるじゃないか。

  • 長尾忠景さんの項で記載されている、当時は所領の再編による一円的な領域支配ができあがっていく移行期にあたり、「家宰領」「家宰領の代官」のような役目に基づく権益が関東各地で点在していたことから、家宰人事にともなう長尾景春の乱のような事象も起こるのだろうし景春さんの支持者も増えたのだろう、という解説が納得感高いです。こういう戦国時代前半と後半の前提の違い、大事ですよね。

  • 同じく長尾忠景さんで、「あらゆる煩わしい世事のなかでも、わかりやすい一言で庵主はその場を切り抜けた」という人物評が好き。あやかりたいものです。

  • 太田道灌さんとの対比で低評価されがちな上杉定正さんが思った以上に戦上手……強い個性同士で余計に反目したんでしょうか。

  • 武蔵千葉氏に対する世の中からの家格リスペクトっぷりと、結末のよく分からなさのギャップがすごい。東常頼さん、下総まで援軍しにきてはったんですね。

  • 北条氏綱さん、氏政さん、氏直さんが立項を見送られる衝撃。

  • 宇都宮氏や那須氏等、全体的に北関東の人物は暗殺・若年死率が妙に高い気が……怖。佐竹氏当主なんて短命揃いですし。

  • 一般的には佐竹氏のイメージが強い常陸国にあって、小田氏、江戸氏、大掾氏、真壁氏等々、諸氏の生き抜く姿を堪能できるのがこの本の魅力だと思います。

  • 武田信長さんの生涯をあらためて見るとドラマチックで実に面白い。もともと上総に同族地盤があったっぽいんですね。現代では小学生ウケしそうな名前でいじられることも多い気がしますが、実像がもっと知られてほしいものです。

  • 里見氏由緒の近年の研究成果(里見義堯さん家督継承の経緯等)がしっかり反映されていますのでおすすめです。

  • 槍働きのイメージが強い正木時茂さん、外交にも領国支配にも成果を残していて、そりゃ朝倉宗滴さんも褒めるわとすごさを満喫できます。

  • 北条氏規さんのお墓が大阪市中央区(谷町・上本町あたり)の専念寺にあるということを初めて知りました。今度行ってみよう。

  • 猪俣邦憲さん、処刑されてなかったんや……。名胡桃城事件の真偽や背景がどうあれ、責任は取らされているもんだとばかり。

  • 関東諸氏がそれぞれの立場で上杉謙信さんへの不満をほのめかしているのが人間臭くて好き。通信技術が発達した現代でも遠距離恋愛は難しいのですから、当時の遠距離同盟で友好を維持するのはさぞ難しかったことでしょうね。

  • 由良氏・館林長尾氏の項で登場する妙印尼さんが主人公を上回る存在感で好き。そこそこ知られている人物だと思いますが、もっと知名度上がるといいですね。岩松・横瀬/由良・館林長尾あたりの展開は総じて面白いと思う。「北条家は無道の家」というキラーフレーズもインパクト強い。

  • 多くの人物の項で、寺社への奉納品が一次史料として名前や事績の判明に繋がっているのが印象深いです。寺社建築は当時のイケてる公共事業という指摘もありましたが、記録を後世に残すという点でも意義が大きいですね。

  • 北条高広さんが毛利一族だったり上杉家中の大物だったり、初めて知ったことが多かったです。信長の野望ですぐに寝返る面白強いおじさんというイメージしかなかった。様々な経緯があったのに、上杉謙信さん没後に出家しているところも好き。

  • 里見義弘・義頼さんの項が、両者の苦悩と努力が伝わってくる筆致で感心します。特に義頼さんがギリギリのシチュエーションで駆け引きを続ける姿が格好いいですね。派手ではないかもしれませんが人の上に立つ者として立派な姿だと思います。

  • 皆川広照・隆庸親子の事績が関東衆離れしていてすごい。東海地方の武将のエピソードならともかく、北関東出身で徳川家等としっかり人間関係を構築できたのは視野がそうとう広い人物だったのでしょうか。根来寺伊勢神宮御師が関東地方でも時々登場するあたり、有力寺社の全国ネットワークっぷりにも驚かされます。

  • 真壁氏幹さんの逸話も、父の久幹さんの事績との整理含め、かなり整理されてきているんですね。大掾氏との関係から時には佐竹氏と対峙することもあった等、興味深かったです。

  • 関東編上下950ページのラストが土岐治英さんで、土岐頼芸さんもちょっと登場したりするあたりの構成が素晴らしいと思います。享徳の乱から江戸時代までの壮大な縦軸を追ってきた最後に、土岐氏を登場させることで地域を超えた横軸を強く実感させてくれる。この締めで関東編の完成度は大きく上がったと思いますわ。朝倉義景さん、兵法書にも関心示していたんですね。

 

などなど。

 

関東戦国史は馴染みのない土地を舞台に膨大・深遠な研究の蓄積がありますので、他地域人にとってはある意味一番とっつきにくい分野ではあるのですが、それだけにかじればかじるほど面白くて虜にされてしまう魅力がありますね。

 

ゆっくり千葉や北関東をめぐる時間がほしいなあ。

太田資正さんのお墓参りもしてみたくなりました。

 

関東戦国史の研究が、引続き戦国時代全体の研究をリードしてくださいますように。(他の地域の研究に資源が波及してきますように)

 

 

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