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「戦国武将列伝9 中国編 感想」編:光成準治さん(戎光祥出版)

 

戦国武将列伝の中国編、光成準治さんの編纂が良いのかスッキリと読みやすく、近頃の研究のポイントも各登場人物のバックグラウンドや事績も非常に分かりやすくてかんたんしました。

執筆者が3人のみとシリーズ最少になっていますが、それだけに編集面では強みが出た感じでしょうか。「他の人物のところで詳しく書いているので省略」「詳しくは●●ページで」といったまとめ方が巧みでした。

しかし、3人で350ページも執筆するのはさぞ大変だったことでしょう……誤植を見つけても同情しか感じないです。

 

https://www.ebisukosyo.co.jp/item/694/

 

 

大内義興――足利義稙復権させ遣明船の経営権を得る  中司健一
大内義隆――大内氏最大版図を築くも家臣に背かれる  中司健一
陶興房――総大将を務めた大内氏筆頭重臣  中司健一
陶晴賢(隆房)――大内義隆を討ち大内氏の実権を握るも厳島に散る  中司健一
内藤興盛・隆世・隆春――代々守護代を務めた長門支配の要  中司健一
益田藤兼――野心を捨て毛利氏との和睦を決断  中司健一
吉見正頼――陶氏らの猛攻をしのぎ長門国阿武郡を領有  中司健一
尼子経久――広大な版図を築いた山陰の盟主  光成準治
尼子晴久・義久――八ヶ国守護職拝任の栄光と没落  光成準治
山中幸盛――尼子氏再興に奔走した男の末路  光成準治
山名政之・尚之・澄之――尼子氏の前に没落した伯耆守護家  光成準治
南条宗勝・元続――尼子・毛利らの間で揺れる境目の領主  光成準治
山名久通・豊数・豊国――惣領家の支配下に置かれた因幡守護家  光成準治
武田高信――一代で因幡の最有力者にのし上がった戦国領主  光成準治
吉川経家――名誉の切腹を遂げた悲劇の名将  光成準治
浦上宗景――中国東部に覇を唱えた国衆  石畑匡基
宇喜多直家――毛利氏と織田氏の間で躍動する境目領主  石畑匡基
三村家親・元親――備中最大の勢力への飛躍  石畑匡基
三浦貞久・貞広――毛利氏と敵対した美作の国衆  石畑匡基
細川通董――備中に盤踞した名門細川家一門  石畑匡基
清水宗治――毛利氏の捨て石にされた勇将の最期  光成準治
毛利元就・隆元――完全無欠な英雄像の虚実  光成準治
吉川興経・元春――毛利氏の親類衆となった安芸の名族  光成準治
小早川正平・興景・隆景――国人から中央政権の重鎮に上りつめた鎌倉以来の名門  光成準治
宍戸元源・隆家 ―― 毛利氏を支える四本目の矢  光成準治
武田元繁・光和・信実――滅亡したかつての安芸国守護家  光成準治
山内直通・隆通――尼子・大内の間で揺れ動く備後北部最大の国人  光成準治
山名理興――山名一族の備後支配の要  光成準治
杉原盛重――尼子氏と対する西伯耆戦線の指揮官  光成準治
毛利輝元――三英傑と互角に渡りあった男の実像  光成準治

 

 

収録されている武将は上記の方々です。

中国地方を代表するスターが勢ぞろいですし、山名氏や境目国衆の動向も掘り下げられているのがいいですね。

 

大内家や尼子家の印象が強いせいか、中国地方は大大名にせよ国人衆にせよ、他の地方より「お家滅亡」にまで行きつくケースが多いような印象があります。

なんでそうなっちゃうんでしょう?

毛利元就さんがパネェからといえば実際そうなのかもしれませんが、もともと大内家も山名家も赤松家も室町時代を通していろいろあって、家中の争いにせよ家同士の争いにせよ敵方を廃滅して権力を一本化する方が地域安定のために望ましいみたいな価値観が特に中国地方で強く育まれていたんですかね?

 

毛利家を除いて登場人物の多くが戦国時代を生き抜くことができず滅んでいったさまを読み進めるにつけ、信長の野望的な意味での戦国時代っぷりが一番濃かったのって中国地方なのかもしれないなあと思っちゃいましたね。

 

 

以下、個別に印象に残ったところです。

 

  • 家中や九州含む影響地域を安定化させてから上洛with将軍した大内義興さんと、家中や九州含む影響地域を安定化できずに上洛with将軍を断念した毛利輝元さんとの対比。巻頭が大内義興さんで巻末が毛利輝元さんという構成がイケてますよね。

  • 大内義隆さん期、伝統的重臣層と義隆さん側近層との対立が大寧寺に繋がったのでは、大内家のもとで強大に成長した重臣・地域盟主国人の存在が結果として大内家の滅びに繋がったのでは、とされていますが、細川京兆家の解体と重なるものがありますね。

  • 陶晴賢さん、陶興房さんの実子やなかったんですね。

  • 弘中隆兼さんの厳島合戦直前の家族への書状、この本で推されていたので調べて読んでみましたが、確かに隆兼さんの思いがあふれた手紙で胸にきました。

  • 益田氏の水軍力・日本海交易等を読むにつけ、中国地方の海洋情勢についてより深く学んでみたくなります。

  • 尼子家界隈の記事でちょいちょい出てくる「大根島」。今まで知らなかったので、次に松江へ行くときは立ち寄ってみたいものです。

  • 「最適な犠牲」「捨て石」としてシビアに評価される吉川経家さんと清水宗治さんの哀しさ。経家さんが口にしたという「名誉」だけは、現代でも鮮やかに保たれていることは救いでしょうか。

  • 浦上氏の発音って「ウラカベ」だったの!?

  • 三村元親さんと阿波細川家とのつながり。備中と讃州家のかかわりも興味深いですよね。

  • 細川晴国さんの後継者、細川通董さん。伊予にもゆかりが?
    畿内の氏綱さんに合流せず、毛利家に仕えたことは家を残すうえで賢明な判断だったのかもしれません。戦でもしっかり活躍されているようで何より。

  • 毛利興元さんの娘さん。嫁ぐ相手がことごとく早世されていてお気の毒です。当時の人々から元就さんのヒットマンみたいな陰口を言われた様子はなくてよかったですね。

  • 河野氏救援のための四国出兵を強く主張(家中では孤立気味)する小早川隆景さんに対し、吉川元春さんが「隆景はいずれにしても渡海することになるだろう。そのときは隆景一人を渡海させて、私がこちらに居るのは理由が立たないので、そのほかの国衆とは違うので、私は渡海して、隆景とともに戦う」と決意されたというエピソード、いいですね。なんやかんやで結束強いところ好き。

 

等々。

各人物の基礎的な事績も再確認できてよございました。

とりあえず大根島に行ってみたいです。

 

 

数十年後に戦国武将列伝ver.2が編纂されるときは、執筆者候補が多すぎて選びきれんわ参ったねとなったり立項武将候補が多すぎて一冊に入りきらんわ参ったねとなるくらい、中国地方の戦国時代研究もどんどん活況を呈してくださいますように。

なんというか、毛利元就さんをはじめとする中国地方の戦国武将方には、常に武田信玄さん&上杉謙信さん界隈と同じくらいの人気と研究があってほしいですよね。戦国時代の顔役的に。

 

 

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