列島の戦国史シリーズの2巻「応仁・文明の乱と明応の政変」が、応仁・文明の乱について京周辺だけでなく地方各地への波及っぷりを詳しく整理してくれていてかんたんしました。
応仁・文明の乱は書き手によってフォーカスを当てる点がかなり変わってくる気がいたしますが、この本はかなり包括的に描写されているのでおすすめですよ。
京都での東西両軍の対立に至る政治過程や、大乱の様子と乱後の情勢を西国にも目を向けて叙述。乱世へと向かう時代を通観する。
内容をイメージしやすいよう、細かめに目次を引用いたします。
室町幕府の運命を決した争乱―プロローグ
いまだに謎多き大乱
足利義教の登場
義教の恐怖政治と波乱の予兆
一 斜陽のはじまり
1 嘉吉の乱
将軍「犬死」
細川持之の孤軍奮闘
自信を喪失する持之
進まない赤松氏討伐
嘉吉の徳政一揆
足利義勝の早過ぎる死
2 足利義政の登場
困難な船出
管領執政の継続
管領執政か将軍親政か
有馬元家の出家
伊勢貞親と日野氏を中心とする体制
義政の親政への意気込み
財政的に先細る幕府
内裏再建の政治的効果
分一徳政令
さまざまな増収の試み
3 管領家内部の争い
畠山持国と持永の争い
持国の後継者争い
畠山政長と義就の争い
細川氏一族の協力と対立
最弱の管領家、斯波氏
二 中央における応仁・文明の乱
1 義政と足利義視
跡継ぎがいない!
斯波義敏の帰還
斯波義敏・義廉をめぐる対立軸
文正の政変
2 畠山義就の帰還
二度にわたる復活戦
義政からの家督認定
御霊合戦
3 応仁・文明の乱
開戦
事態の収拾を図る義政
「室町殿幡」と義政
東軍と西軍
両軍の思惑
義視の逃亡
逃亡先として北畠氏が選択された理由
伊勢国での義視
義視の帰京と西軍化
東幕府と西幕府
西軍の南朝復活計画
劣勢の東軍
室町社会のひずみが生み出した「足軽」
応仁二年八月の東軍大攻勢と伊勢貞親の再登板
朝倉孝景の交渉術
騙された孝景
東軍内の分裂と疫病の流行
両軍和睦への動き
京都における終戦
三 地方における応仁・文明の乱
1 北陸地方
地方への視点
2 東海地方
3 畿内近国
4 山陽地方
5 山陰地方
6 四国地方
7 九州地方
四 戦後の世界
1 武家社会の再建
京都を離れる大名たち
止まない赤松氏と山名氏の対立
日野勝光の執政
日野富子の執政
義政の「錬金術」
義政期の日明貿易
親離れしたい義尚
「東山殿」義政と「室町殿」義尚
義政の出家
義政・義尚と東山文化
2 公家社会の衰退
京都から逃げ出す公家衆
奈良での一条兼良
京都に残った公家衆
理想と現実
後土御門天皇の努力と挫折
3 寺社社会の苦悩
貧する京都と富める奈良
避難民の受け入れに苦慮する興福寺
法会の退転、院家の廃絶
1 各地で頻発する一揆
両畠山氏の対立
2 継続される応仁・文明の乱の対立構図
義尚の焦り
義尚の近江親征
義材の焦り
義材の近江親征
再び争乱の世へ―エピローグ
義材の敗者復活戦
室町幕府の行方
あとがき
参考文献
略年表
盛りだくさんですね。
列島の戦国史シリーズは地方の視点や社会・文化の視点が充実していることが特色でして、そういう意味では四章の文化面はあっさりな印象を受けますが、三章各地方史の厚さが素晴らしいのであまり気にならない感じです。
同時代の九州の様子などを紹介している本はレアなので、一回読んだくらいでは頭に充分入ってはいませんが、たいへん興味深く面白かったですね。
全体を通じて印象に残ったのは、
応仁・文明の乱を幅広な視点から分かりやすく(それでもかなり複雑ですが)立体的に記載してくれていること、
足利義政さんの評価(主に政治面)がキツめ、日野富子さんに対しては再評価姿勢等、けっこう人物ごとの著者の評価がはっきりしていること、
著者の文体やカッコ内補足がところどころツッコミ待ち感があってユーモアセンスを感じること、
等でしょうか。
私の勉強不足もあって個々の史実への解釈どうこうよりも、著者のフック力高い文章の個性の方が記憶に残った感じですね。元々の素材からして面白い史実を描写するのにマッチしている気がします。
(参考)センスやツッコミ待ちを感じる描写事例
満祐は幕府からの討伐軍がすぐに派遣されるものと思って屋敷で応戦の準備をしていたものの、いくら待っても来ないため、屋敷に義教の首無しの遺体とともに火をかけ、義教の首を携えて自らが守護を務める播磨国に下国した(ただし首はその途次で放棄)。
なぜ河内国や大和国に攻め込んでの完全な討伐が実施されなかったのかは不明であるが、後土御門天皇の代になってからはじめて行われる新嘗祭、すなわち大嘗会が近日中に予定されていたことが関係しているのかもしれない。しかし、義政に仕える女官が入江殿(三時知恩寺)の清浄(トイレ)で赤子を産み落としたことが清浄を掃除した際に発覚して一か月の天下蝕穢となり、大嘗会の前に行われる御禊行幸が延期された(『御法興院政家記』)。
しかし「東山御物」と呼ばれる美術品コレクションには義政以前の将軍たちが収集した美術品も含まれており、すべてが義政の時代に形成されたものではない。また、義政は幕府の財政難のためにそれを解体して売却すらしており(第一章参照)、見方によっては義政を「御物」文化に終焉をもたらした人物とも捉えられる。
しかし後土御門の思い通りにいかないことも多く(そしてその原因の大半は義政が非協力的な態度を取っていたことにある)、文明十年にはたびたび譲位を口にしている。
あと、塩瀬饅頭がこの2巻でも登場していたり、次代の主役である三好家が登場したりしている点は4巻に続く感があって楽しいですね。
当時の人々は日照りにより困窮しており(「法隆寺文書」)、京都では徳政の名を借りた暴動も発生していた。その暴動の首謀者は阿波守護細川政之被官の「三吉(好)」など大名の被官人であったという(「後法興院政家記」)。そしてこの暴動は土一揆として周辺各国に拡大する気配をみせていた。
この頃から三好家は民の味方だったようです(棒読み)。
などなど、楽しく読んだ面を中心に紹介しましたが、この本全体を通じて室町幕府や有力守護の実権がどのように剥がれ始めたかがよく分かる構成になっていますので、戦国時代のはじまりを学ぶ上で良著になっているように思いますね。
1巻の享徳の乱等ともども、戦国時代初期への関心が一層高まっていきますように。
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