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「毛利領国の拡大と尼子・大友氏 感想」池亨さん(吉川弘文館 列島の戦国史⑥)

 

列島の戦国史シリーズ6巻、毛利家の成長を中心に西日本戦国史の動向を記した書籍が、日ごろ戦国時代ものであまり目にしない視点が多くてかんたんしました。

 

 

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16世紀後半、西日本では毛利氏、尼子や大友などの地域勢力が領土争いを繰り広げた。社会状況も概観し、西国大名の覇権争いを描く。

 

 

このシリーズは、ある意味で教科書的に、各地の動向に加え、地域社会面や文化面等を包括的に概観している点が魅力なので、細かめに目次を引用いたします。

厳島合戦前夜の西日本―プロローグ

    中国地方二大勢力の激突

    守護家の内訌

    旧勢力の後退

    明の海禁の破綻

 

一 地域覇権争いの新局面

 1 毛利氏の台頭

    元成の相続と郡山城攻防戦

    隆景・元春の小早川・吉川家相

    井上衆の誅殺

 2 陶隆房のクーデターと厳島合戦

    大内義隆からの奪権

    毛利・尼子氏の動き

    「防芸引分」

    折敷畑合戦

    決戦に向けて

    厳島合戦

 3 防長征服

    山代一揆の掃討

    須々万沼城の攻防

    石見の戦い

    山口陥落

 4 各地の動向

    島津貴久大隅制覇

    大友氏の豊前筑前進出と国衆の反抗

    四国の情勢変化

 

二 地域社会の変容と文化

 1 農民の成長と郷村の展開

    開発と用水管理

    郷村の発達と矛盾

    郷村内部の対立

 2 商品生産と流通の発展

    地域の商品経済

    特産品の誕生

    陸上交通の発展と管理

    海上交通の発展

    都市と地域市場

    貨幣流通と撰銭問題

 3 一宮の変貌

    杵築大社

    厳島神社

    宇佐神宮

    諸国一宮

 4 武士と文化のたしなみ

    多胡辰敬家訓

    玉木吉保の学問

    上井覚兼と文芸

    大名の教養と教育

 

三 東シナ海地域の変動

 1 朝貢貿易の終了と西国大名

    王直の平戸移住

    大友氏の東アジア貿易

    毛利氏と東アジア

    対馬宗氏と倭寇

 2 南蛮貿易の展開

    南蛮貿易とは何か

    ポルトガル人の種子島漂着

    ポルトガル船の平戸来航

    入港先の横瀬浦・長崎への移転

 3 キリスト教の普及

    ザビエルの来日

    各地での布教

    信徒教育と天正遣欧使節

 4 琉球の地位変化

    東南アジア貿易の衰退

    島津氏の圧迫

 

四 毛利氏と尼子・大友氏の死闘

 1 山陰の攻防

    毛利氏の東石見侵攻

    芸雲講和と毛利氏の石見制圧

    毛利氏の出雲侵入

    芸豊講和と白鹿城攻略

    毛利氏の伯耆因幡侵入

    月山城攻略と尼子氏の降伏

 2 毛利・大友氏の激突

    門司城争奪戦

    豊芸講和

    毛利軍の伊予出兵

    毛利軍の北九州再侵攻と立花城攻防戦

    尼子勝久の出雲侵入と「毛利氏包囲網」の形成

    大内輝弘の周防侵入と毛利軍の北九州撤回

 3 毛利氏包囲網の瓦解

    出雲の戦い

    備前浦上氏と毛利氏の抗争

    尼子勝久の再侵攻

    宇喜多直家の毛利氏帰属と三村元親の離反

 4 龍造寺・島津氏の発展

    龍造寺隆信の台頭

    島津氏の日向制圧

 5 四国の動向

    三好氏の讃岐進出

    土佐長宗我部氏の台頭

    長宗我部元親の土佐中・東部制圧

    長宗我部元親の土佐統一

 

五 戦国大名の領国支配

 1 国家の論理と領主層の編成

    「分国」と「家中」

    大名家中と国衆

    土豪層の寄親寄子制的編成

    長宗我部氏の「一領具足」と島津氏の地頭衆中制

    家臣の一揆的結合

 2 法と行政・裁判

    法の制定

    行政・裁判機構の構築

    地方行政機構

 3 軍事制度の整備

    貫高知行制

    軍法の制定

    支城城番制

 4 領民支配と社会の編成

    検地と年貢収取

    都市・流通支配

    大名財政と蔵本

 

六 織田権力との出会い

 1 石山戦争から高松城講和へ

    足利義昭の備後鞆下向

    毛利水軍石山本願寺支援

    播磨での抗争

    別所長治・荒木村重の寝返り

    毛利方の状況悪化

    宇喜多直家・南条元続の離反と石山本願寺の降伏

    備中・美作の攻防

    鳥取城の陥落

    備中高松城の講和

 2 島津氏の勢力拡大と織田権力

    耳川の合戦

    大友氏の衰退

    龍造寺・島津氏の筑後・肥後進出

    龍造寺隆信の戦死と島津氏の九州制圧

 3 長宗我部氏の勢力拡大と織田権力

    長宗我部元親の阿波・讃岐・伊予進出

    織田信長の路線転換と本能寺の変

 

本能寺の変後の西日本―エピローグ

    毛利氏の豊臣大名化

    長宗我部氏と豊臣権力

    島津氏と豊臣権力

 

あとがき

参考文献

略年表

 

詳しい方であれば本の内容がある程度類推できると思いますが、

私のようなライトな戦国時代ファンにとっては、こうして包括的な通史を読めるのは様々な視点を得ることに繋がってありがたいですね。

 

 

印象に残った点としましては、やはり毛利氏関係が中心になります。

  • 乃美宗勝さんの活躍場面の多さ
  • 厳島合戦の流れに諸説ある旨を補足
  • 防長経略や対尼子家における国衆取り込み記述の充実
  • 大友家との激闘に関する記述の充実
  • 毛利家の伊予出兵(対大友家の一環)
  • 浦上家・宇喜多家の抗争への関与、対三好家や対織田家
  • 井上衆誅殺時の家臣から元就さんへの起請文が、祖法的位置づけを帯びて長州藩黎明期まで参照されていたこと

 

等々。

    

毛利家の歴史といえば対尼子家や対大内家が注目されることが多い訳ですが、こうした広域の歴史を取り扱うシリーズの特徴を活かして、関門海峡を挟んだ対大友家、あるいは瀬戸内海を挟んだ対四国勢力についての記述が充実しているのは素晴らしいですね。

細部についてはもちろん個々の家の研究には及ばないやもしれませんけど、マクロな視点で西日本地域がどのように変化・統合していったかを通観できるのは貴重な機会だと思います。

 

 

個人的には対阿波三好家(篠原長房さん等)のくだり、瀬戸内海を舞台に、毛利家や浦上家や宇喜多家や三好家や遠方の大友家や各水軍衆が入り乱れるような辺りを一視点として取り上げていただいたのが嬉しいです。

 

当著は(締切的限界でもあったのか)毛利家の記述はかなり充実している一方で、毛利家からはやや縁遠い三好家、あるいは龍造寺家・島津家等々の記述はあまりアップデートされていないような印象もございますので、その点はちょい残念なんですけど。

 

こうした、たぶん多くの人の目に触れるであろう通史的な書籍で瀬戸内海の攻防をフィーチャーしてくださったことで、今後、毛利家だけでなく相手方の研究動向も反映されて、より深みのある考察がなされるようになっていったらいいなあと思いました。

 

三好家もさいきん研究が進んで、また、ありがたいことに室町幕府的前史や織田信長さん的後史との接続も進みつつあるわけですが、阿波三好家の掘り下げや、西日本史との接続はまだまだこれからな気がいたしますので、こういう通史的シリーズがよい契機になって意欲ある研究者方や歴史ファン方に興味を抱いていただけるといいですね。

 

 

 

著者があとがきでよいことを言っておられます。

歴史学の今日的有用性として、過去の教訓を提供することがよく挙げられる。東日本大震災が発生すると、貞観十一年(八六九)に起きた大地震など災害の歴史が注目され、昨今の新型コロナウイルス流行では、一九一八~二〇のスペイン風邪など感染症の歴史への関心が高まっている。これらの社会的関心に、歴史学が応えなければならないことはいうまでもない。

同時に、歴史学固有の役割という観点からすると、現在の社会の歴史的位置、いいかえれば、私たちはどこから来てどこに行こうとしているのかを、明らかにすることが基本に据えられるべきだろう。それは、人類社会のさまざまな側面についてなされるべきだが、その作業のトータルな最終成果として、通史叙述があると考えられるのである。災害や疾病の歴史も、社会との相互関係――社会がどのような影響を受け、どのように対応し、自身およびそれらとの関係をどう変化させたのか――を明らかにすることにより、通史の中に位置づけられることになろう。

 

こうした著者の姿勢は、まさにこの列島の戦国史シリーズの記述っぷり、(多少個々の記述が物足りなくとも)広域的ダイナミズムを概観する、地域社会や文化や経済の様子にも触れる、今後の研究に繋がりそうな様々な視点を散りばめる、等々の姿勢に繋がっておられる気がしますので、私はこのシリーズがやっぱり好きですわ。

 

 

記紀平家物語太平記日本外史や小説家/ビジネスパーソンが執筆した「よく分かる~」的歴史本等々、通史というのはどうしても書き手語り手の価値観フィルタを通りますので、ともすれば史実研究の成果と整合しなくなることも多い気がします。

 

それだけに、このシリーズのように一定以上のクオリティを保った通史が、更にクオリティの高い史実研究の呼び水となって、学問界隈が賑やかになっていきますように。

 

 

 

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