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かんたんにかんたんします。

「東京「街角」地質学 感想 この本はガチおすすめ」西本昌司さん(イースト・プレス)

 

京都市部のオフィスビルや商業施設で使用されている石材を題材に、石の美しさ、石の種類と成り立ち、近代の石材利用史、石を通じた地球の歴史等々を軽妙に教えてくださる書籍にかんたんしました。

 

都市部での散歩が飛躍的に面白くなってしまう、散歩道の開眼を導いてくださる素晴らしい本ですので、本屋さんで見かけたら積極的な確保をおすすめいたしますよ。

 

www.eastpress.co.jp

 

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まず、オフィシャルサイトから内容紹介・目次を引用いたします。

都会の真ん中で

「すごい石」を探す

 

丸の内のビル外壁にマグマの痕跡を見る

日本橋のデパートでアンモナイトを発見!?

 

石に秘められた

人と地球の物語を掘り起こす

都市型“発掘”エンターテインメント!

 

石に注目して街を歩けば、その美しさ・多様さに気付く。どこでどのようにしてできた石なのか知りたくなる。さらに、なぜこの石を選んだのだろうとか、なぜ同じ石で補修しなかったのだろうとか、余計なことまで気になってしまう。

そんな石の見方・楽しみ方を「街角地質学」と呼ぶことにしよう。

街の中にある石には、そこに置かれるまでの物語がある。石に秘められた物語を掘り起こすことができれば、街の景色が変わって見える。街角地質学で、石と東京の魅力を再発見しよう。(はじめにより)

 

【目次】

はじめに

 

■CHAPTER1 街角地質学とは何か?

石材を見て楽しむ基礎知識

 

01東京の街を彩る石の生い立ち

石材はどこに使われているか

石材の名前を知ると物語が見えてくる

石材を集めてきた東京の歴史

石材の流行は時代とともに変化する

石材と岩石の違いを知る

岩石の種類がわかればルーツがわかる

石材名は人々の営み、岩石名は地球の営み

結晶質石灰岩は大理石の中の大理石

化石だらけの大理石

大理石の模様は石灰岩の履歴書

御影石の色と模様をつくる鉱物

花崗岩幾何学模様が表すもの

御影石の縞模様が表すもの

火山がつくった石材

石材は観察にぴったりの岩石標本

石材の表面仕上げ

人工の石

石材の観察に出かけよう

  

■CHAPTER2 人間の営みを感じる石めぐり

石材でたどる日本近代化の歴史

 

01近代的な石材利用のはじまり(明治)

安山岩花崗岩 皇居(江戸城)の石垣

小松石 幕末に作られた品川台場

房州石 靖国神社築地塀

北木石 安山岩から花崗岩の時代へ

白丁場石 花崗岩のピンチヒッター

真壁石とヨーロッパ産大理石 迎賓館赤坂離宮

稲田石 東京を席巻し始めた花崗岩

4つの花崗岩を使い分けた日本橋

明治・大正の洋館を外壁と暖炉に注目して見る

  

02華やかな石材の時代(大正~ 昭和初期)

岡山産万成石と大垣産大理石 明治神宮に使われた石

国会議事堂建設がもたらした石材

関東大震災で石材が広まった?

ヨーロッパ産大理石の普及 銀座線沿い

石材で装飾したデパート 三越日本橋本店

日本橋高島屋伊勢丹新宿本店、明治生命館

国立科学博物館東京国立博物館

昭和初期の洋館めぐり

  

03現代における石材の多様化(戦後)

高度経済成長期の石材

再開発で輸入大理石が多様化(1970〜80年代)

総石貼り超高層ビルの登場(1990〜2000年代)

個性派石材の時代(2010年代以降)

 

 

■CHAPTER3地球の営みを感じる石めぐり

石材でたどる大地の歴史

 

01日本列島成立後にできた石

箱根火山の溶岩流

沖縄がサンゴ礁の海になったころ

120万年前の火砕流

日本列島の裂け目を埋めた溶岩

瀬戸内海にあった火山

日本列島誕生の立役者

  

02化石でたどるテチス海の生物

テチス海だったアルプス・ヒマラヤ造山帯

5000万年前の単細胞生物の殻・「貨幣石」

1億年前の厚歯二枚貝

二枚貝のようで二枚貝でない腕足動物

ウミユリの破片

ジュラ紀サンゴ礁

アンモナイトが泳いだ海

ジュラマーブル中のアンモナイト以外の化石

断面ではない化石が見られる「ゾルンホーフェン」

深海に沈んだ殻

石灰藻

テチス海誕生前の化石

  

03大理石の模様からたどる大地の変動

トラバーチンの縞模様

水流によってできた縞模様

石灰岩に見られる2タイプの筋模様

更紗模様は地下岩盤破砕の跡

石灰岩が再結晶した跡

地下深部で変形した跡

  

04造山帯でできた御影石

白い花崗岩のふるさとはマグマだまりの上部

瀬戸内の花崗岩は巨大マグマだまりの跡

日本と中国の花崗岩は海洋プレート沈み込みで生まれた

3億年前の造山帯でできたマグマ

ゴンドワナ超大陸をつくったマグマ

ゴンドワナ超大陸誕生のプレッシャー

ロディニア超大陸でできた御影石

約25億年以上前の超大陸のかけら

  

05マントル上昇流でうまれた個性派御影石

パンゲア大陸の裂け目にできたマグマ

ロディニア大陸の裂け目にできたマグマ

16億年前のラパキビ花崗岩

20億年前の巨大なマグマだまり

 

おわりに

 

 

ごらんの通り、石材の紹介から始まって、近代建築への石材利用の数々、更には石を通じて地球・大地の営みにまで思いを馳せる内容の本になっています。

地学って楽しいわ。

 

具体的な文章を紹介したほうが分かりやすいと思いますので、幾つか。

 

東京は石だらけだ。

 

ビルの壁なんて、コンクリートだけであっても機能上は問題ないのだから、石材を使う必然性はない。わざわざ石材でデコレーションしているのだから、人々が石に美しさを感じているということなのだろう。

しかし、石材の魅力は、外見の美しさだけではない。そこに置かれるまでの物語を秘めていることである。

 

 

国会議事堂について。

国産材だけで賄おうとした議事堂建設は日本の石材産業に大きな影響を及ぼしたと思われる。議事堂に採用された石材はブランド価値を上げただろう。たとえば、外壁に採用された「徳山石」「議員石」は、関東では「稲田石」に推されてしまったものの、全国的に知られる石材となり、西日本ではメジャーになった。また、利用可能な大理石の事前調査が行われたことで、大理石という装飾用石材としての需要があることが認識され、各地で開発を促すことになった。

 

 

明治生命館について。

終戦後にアメリカ極東空軍司令部として使用されたことで有名な明治生命館(1934)でも、同時期の石材を観察できる。2005年に行われた外壁の洗浄や復元工事のおかげで、北木石のつくりだす美しい外観が楽しめるだけでなく、土日だけではあるが、大理石で装飾された内部もじっくり見学できてうれしい。内装の大理石は、玄関ホールにイタリア産「キャンポ」カウンターに徳島県産「茶竜紋」壁にイタリア産「ボテチーノ」床に「ネンブロロザート」と、和洋折衷コンビネーションとなっている。

 

 

近年の個性派石材について。

たとえば、東京日本橋タワー(2015)の外壁に使われている御影石は、なかなかインパクトある個性的な柄があって驚かされる。チョコチップ入りのバニラとストロベリーアイスをやわらかくして混ぜたようなぐにゃぐにゃ模様だ。

アースカラーと言われる褐色系の石材も好まれているようで、ザ・ペニンシュラ東京(2007)、三井住友銀行本店ビル(2010)、東京ミッドタウン日比谷(2018)などの外壁は、ベージュ~褐色の御影石であり、石が本来持っている自然な風合いが好まれるようになっているのかもしれない

 

 

ある種の石材には頻繁に化石が埋まっています。

化石があると聞けば、探したくなる人も多いことだろう。そのような方は、KDDI大手町ビルのロビー内壁三井住友銀行新宿通支店ビルの外壁を見てみよう。鹿児島県沖永良部島田皆産の「田皆石」と呼ばれる琉球石灰岩が使われている。このベージュの石材に浮かんで見えるさまざまな形の斑模様は、ぜんぶ化石と言ってほぼ間違いない。しかし、慣れていないと、なにがなんだかわからないと感じてしまうかもしれない。

琉球石灰岩が化石だらけだとわかると、かつて、生物あふれる豊かなサンゴ礁がずいぶん広がっていたことを想像できる

 

 

香川県の石材について。なんとカンカン石の紹介もありました。

港区立郷土歴史館の玄関には、彫刻が施されたグレーの石材が使われている。香川県高松市由良山で採掘された「由良石」である。

火山岩が、香川県で採掘されたというのは不思議な感じがしそうだ。なにしろ、香川県には火山はない。つまり、「由良石」は、現在活動中の火山でできた岩石ではない。それでも、火山岩があるというのは、かつての火山活動の名残ということになる。

フィリピン海プレート上の堆積物が沈み込んで融けてできたマグマが、マントル物質と反応してから噴出したと考えられている。ちなみに、叩くといい音がすることから「カンカン石」と呼ばれるサヌカイト(讃岐岩)も、瀬戸内火山岩類のひとつである。

「由良石」は、東京大学医学部付属病院管理研究棟の玄関にも使われており、マグマの中に取り込まれた異質岩片(捕獲岩)が多くみられる。それは、地下深部にあった岩石であり、地殻下部がどのような岩石でできているのかを探る手がかりを地表に運んでくれている。いわば“地下からの手紙”なのである。

大阪府高槻市「霊松寺と三好義興墓(カンカン石)」&「芥川商店街 肉のマルヨシのコロッケ」 - 肝胆ブログ

 

 

ウルトラマン80の怪技「ウルトラカンノン光線」回で有名な大谷石も。

都内で観察するなら、築地本願寺の石塀が良いだろう。帝国ホテルのロビーには、かつての建物の「大谷石」による壁面彫刻が復元されていて、かつてそこにあったであろう優雅な雰囲気を彷彿させる。そのほか、横浜の山手聖公会教会や、本家本元である宇都宮市の松が峰教会といった建築に使われており、東京の石めぐりをするなら押さえておきたい石材である。

海底に降り積もった火山灰などが長い年月を経て凝灰岩となったもので、日本列島を大陸から裂いた激しい火山活動の跡であり、いわば"日本列島誕生の立役者"と言って良いだろう。

 

 

人気者のアンモナイト化石。

アンモナイトを見つけやすいのは「ジュラマーブル」(代表的なものが黄色っぽい「ジュライエロー」)と呼ばれる石材。「ジュラ」とは映画「ジュラシック・パーク」でもお馴染みの地質時代のひとつ「中生代ジュラ紀」のことで、約1億5千万年前の暖かく浅い海の底にたまったドイツの地層(Treuchtlingen層)を切り出してきた石灰岩である。いわば、アンモナイトが泳いだ海の跡だということになる。

この石材は、丸の内オアゾ地下、丸の内ビルディング地下、地下鉄三越前駅改札付近、赤坂サカス外壁、東京ミッドタウン地下、小田急百貨店10階など、誰もが歩ける場所に使われているので観察しやすい。

 

 

「更紗」模様の石材について。

松屋銀座の階段の壁の大理石は、砕いた石を混ぜたような独特の模様である。このような模様の大理石を、石材業界では「更紗」と呼ぶことがある。

更紗模様の大理石には「紅更紗」「山口更紗」といったように銘柄に「更紗」が入っているもののほか、「錦紋黄」「八重桜」といった日本的なネーミングがされているものもあり、命名者のセンスを感じる。地質学的に言えば、石灰岩が砕けた角礫の隙間が石灰質の泥や砂によって埋められた石灰角礫岩である。

更紗模様の大理石は、一度はバラバラに砕かれた石灰質の岩盤が、再び石灰分で固められた“天然のテラゾ”のようなものだ。いわば、地下深部でできた岩盤の傷跡大地が不動ではなく、ダイナミックな運動が起こっている証拠でもある。

 

 

メジャーな白い花崗岩「稲田石」について。

GHQの総司令部が置かれたことで有名な旧第一生命館。同じ街区にあった農林中央金庫とともに、建物を部分保存したうえで一体的に再開発され、1995年に「DNタワー21」となった。ここの見どころは、何と言っても壁の花崗岩である。割肌を鉄ノミで削った「ノミ切り仕上げ」で、厚みが15㎝くらいもある「稲田石」の高い壁を見上げると、その威容に圧倒されると同時に、「稲田石」の白さを感じる。

DNタワー21の内部の床も壁も「稲田石」で覆われており、ピラミッドの中にでも入ったかのような雰囲気を味わえる

東京駅丸の内駅舎前から行幸通りへつながる白い敷石も「稲田石」で、晴れた日に近くのビルから見下ろすとその白さが存在感を引き立てている。前章で述べた通り、東京で「稲田石」を見かけることは多いので、区別できるようになると街歩きの楽しみが広がるに違いない

稲田花崗岩が白っぽいのは、花崗岩としては浅いところでできたということも影響している。マグマだまりの内部で、鉱物の結晶ができると、重い(比重が大きい)鉱物は下に沈み、深い上のほうに軽い(比重が小さい)鉱物が集まりやすい。軽い鉱物は白っぽいものが多いので、白っぽくなりがちである。

 

 

このように、いずれも平易な文章で石の魅力を説きつつ、地学的解説まで巧みに加えてくださっているのが素晴らしいですね。

 

本では実際の写真も大量に掲載されていますので、たいへん具体的で分かりやすく、独特の美しさを堪能できまして、好奇心を刺激される・現地を訪れてみたくなること請け合いです。

 

 

 

各土地を散歩していて、花や樹木、鳥、山川海、建築、匂いや音や風、食事、あるいは史跡等々、楽しみ方は色々あるかと存じますが、そこに「石」が明確に加わりまして、まさに目が開かれたような思いです。

 

石ってこんなに面白いんですね。

 

たいへん感銘を受けましたので、続編で関西版も出版されますように。