肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「都会の鳥の生態学 カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰 感想 散歩が楽しくなる本が好き」唐沢孝一さん(中公新書)

 

都会に生息する野鳥について、近年の勢力図や営みっぷりを紹介してくださる本が出版されていてかんたんしました。

こういう本が出版されると、ぷらぷら街歩きしているときも鳥の様子が自然と目に入って楽しめるようになるので嬉しいですね。

 

www.chuko.co.jp

 

 

カラスとオオタカの空中戦、コンクリート張りの川で繁殖するカワセミ、高層ビルで子育てするハヤブサ、新たに進出してきたイソヒヨドリ、スズメやツバメの営巣地の栄枯盛衰......。都会は自然の少ない人工的な環境だが、鳥たちはしたたかに適応して生きている。身近な鳥、珍しい鳥、意外な鳥たちの知られざる生態を紹介するとともに、人間と鳥たちとの関係の変化も解説、読めば街歩きが楽しくなる。写真多数、カラー口絵16頁。

 

 

繰り返しですが、街歩きが楽しくなる本が好きです。

これまで読んだなかではビル群の「石」に着目する本が最高でしたが、この「鳥」の本はそれに匹敵しますね。

「東京「街角」地質学 感想 この本はガチおすすめ」西本昌司さん(イースト・プレス) - 肝胆ブログ

 

 

巻頭のカラー写真からしてほほ~とかんたんします。

  1. 東京銀座のイソヒヨドリ
  2. マンホールは鳥たちのレストラン(ウグイス、メジロジョウビタキ
  3. ツバメの見事な離れ業――ハチを脅して獲物を奪う
  4. ツバメの巣立ち雛による「労働寄生」
  5. 数千~数万羽で夜を過ごすツバメたち
  6. 人里離れた畑や林で繁殖するスズメ
  7. 厳しい冬を混群で乗り越える(スズメ、ムクドリ、ドバト等)
  8. 都市河川で繁殖するカワセミ
  9. 都市公園で繁殖するカイツブリ
  10. 屋上で集団繁殖するコアジサシ
  11. カラスの様々な集団ねぐら
  12. ハシボソガラスの集団クルミ割り行動
  13. 超高層ビルを住処にするハヤブサ
  14. モニター画面で見る自然教育園(港区)のオオタカ
  15. 都心に進出した小さな猛禽「ツミ」
  16. 夜の都会に進出したフクロウ

 

本屋で当著を見かけた場合は、この口絵写真集だけでもご覧になってくださいまし。興味を引いて買おうという気になること請け合いですから。

 

 

 

自分の実感を伴うという点では、第5章 都市生態系の頂点「カラス」と、第6章 カラスと猛禽が一番興味深かったです。

 

繁華街の朝方等、ずいぶんカラスが人馴れしているなあとか。

一方で、ビル街なのに猛禽類っぽい鳴き声を聞いたり姿を見かけたりして、へえこんなところにタカやトンビが飛んでるんやとか。

そういえば、鳥の生首が発見されて、猟奇的な事件かと思いきや「カラスか猛禽類の仕業と見られます」みたいなニュースも見たことある気がしますね。

 

散歩していてもカラス・猛禽類双方の存在感が気になることが多かったので、実際にカラスが少し減って猛禽類の都会進出が始まっているとか聞かされるとほぉぉという気持ちになります。

カラスも猛禽類も愛着があるので、どっちも頑張ってほしいけどゴミは荒らさないでほしいというか。

 

「レース鳩」がハヤブサ等に頻繁に襲われているという話も素人的には衝撃でした。

そっか、レース鳩が行方不明になるのってそういう要因もそら多いんやろなあ……と。

 

鳥から見れば「高層ビルは海辺の断崖絶壁と同じ」「慣れてしまえばあんがい繁殖しやすい」「いまの日本人は以前とちがって野鳥を捕まえて食べないから鳥的には住みやすい」というのもなるほどと納得です。

 

 

 

読んでいて感心するのが、著者たちが何十年間にもわたって鳥たちの栄枯盛衰を記録しつづけてこられたこと。

どの学問も同様ながら、地道な記録と調査があってこそ描き出されるものがあるよな、というリスペクト心が湧いてきます。

こういう、蓄えた知識と研鑽の一端を、チラッと素人に見せてくれる本って本当にいいですよね……もちろん本を一冊読んだだけで何かが身についたわけではないんですが、世界観が少しだけ広がったように感じます。

 

 

これからも著者たちの志を受け継ぐ鳥好きの方が増えていきますように。

 

 

「鷹将軍と鶴の味噌汁 江戸の鳥の美食学 感想」菅豊さん(講談社選書メチエ) - 肝胆ブログ