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「大江戸ブラック・エンジェルズ 4巻感想 これは……平松作品の中でも屈指の完成度!」平松伸二先生(リイド社)

 

コミック乱で大江戸ブラック・エンジェルズといういつものブラック・エンジェルズ再生産漫画が始まっていて、1~3巻は「まぁまぁ面白い」「蔦屋重三郎さんが大河ドラマ化するらしいし浮世絵ネタを絡めたのはよかったなあ」くらいに思っていたのですが、4巻丸ごとを使った「木曽屋炎上編」が近年の平松作品とは思えぬほど文芸構成がハイレベルで、平松先生独特の画力やキャラ魅力が相まって素晴らしい中編になっていてかんたんしました。

リイド社……漫画版鬼平犯科帳のスタッフでも平松先生に協力しているのでしょうか。この完成度のエピソードが今後も続くなら、大江戸ブラック・エンジェルズは平松作品としても時代劇漫画としても最高の位置を狙えると思う。

 

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日の本一の絵師を目指し柴又村より江戸にやってきた松田。許せぬ悪に闇の仕置を下す絵草紙問屋の鷹屋重三郎、絵師の雪士たちと意気投合し、ともに外道を始末することに。まだまだ絵だけでは食べていけない松田は、口入れ屋を通じて材木商・木曽屋で働いていた。松田の豪力ぶりを見た火盗改メの冴島法厳は、外道同心を殺し丸太で行く手を塞いで逃げた犯人として怪しんでいた。一方、江戸では火事が頻発しており……。松田が大活躍する『木曽屋炎上篇』をまるごと収録した待望の最新刊!

 

 

以下、ネタバレを含みますのでご留意ください。

 

 

 

 

 

この木曽屋炎上編、大きくはブラック・エンジェルズ(ザ・松田)通り、ストーリーは一言で言えば「外道をブッ殺す」というだけなのですが……今作は物語構成が非常に巧みでした。

上質の時代劇映画みたいな感じ。

 

(1話)

導入部で、松田が「良い人たちだけどなんか怪しい豪商 木曽屋」「木曽屋の一人娘お美世」「火消しの精児」「火付盗賊改方長官の冴島法厳」と出会い。

江戸では火付けが横行する一方、松田は火消しの精児とイイ感じに男同士の友情を育む。

大火事で江戸の民が難儀する陰で微笑む木曽藩家老の凶極氏。

 

(2話)

お美世は松田を誘惑するも、松田はお美世の本性が夜叉であることを見抜き、色仕掛けを退ける。

木曽屋の前身が凶悪強盗であることも明らかに。

 

(3話)

お美世は木曽屋が凶悪強盗時代、惨殺した商家で生き残った赤子であった。木曽屋はお美世のあどけない笑顔に改心し、まっとうな材木商へ転身したのだった。

しかしお美世は悪女に育ち、木曽藩家老の凶極氏を篭絡し、自分に恥をかかせた松田の命を狙う。

 

(4話)

自分の出生の秘密を知ったお美世は狂い、江戸中に火をつけて回る。

お美世を必死に止める木曽屋。

松田の活躍で大火はかろうじて消し止められる。

 

(5話)

木曽屋はお美世をかばって死に、お美世もまた命を落とす。

大火による材木需要で荒稼ぎしていた木曽藩家老の凶極氏。我が世の絶頂を極めたように高笑いするが、直後松田の手により始末される。

松田の暗躍にうすうす気づきながら、笑って見逃す冴島法厳。

 

 

という流れなのですが、秀逸なのが木曽屋とお美世の造形

木曽屋は鬼平犯科帳等でもよく登場する「元悪党」「今は善人」「過去の自分が起こした罪の因業が回ってくるが、命をかけて償う」というお爺ちゃん。

そしてお美世は「本来は商家の娘」「家族を木曽屋に惨殺される」「その木曽屋に育てられる」「身体も木曽屋一味の男に凌辱される」「心の中に夜叉が住まうようになる」という女で、美貌、艶、踊りや性技・火術でとことん漫画として魅せてくれるキャラクター。

 

もともとブラック・エンジェルズに登場する外道・悪党は、「異能・強い・快楽殺人犯」系の敵と、「抑えがたい業や不幸ゆえに狂った」系の敵に分かれますが、今作のお美世は明確に後者であり、強さではなく背負った業の深さで物語を高めてくれているのです。

 

こうした業を背負った木曽屋とお美世が、ともに悔いて涙し、それでも家族として過ごした時を思い起こしながら命を失っていくラストエピソードは必見の出来栄え。

時代劇の中でもめったに見られないほどの完成度です。実写化もありだな!

 

 

そこに、平松作品の魅力である

  • 突き抜けたザ・松田のキャラクター魅力
  • ド派手な大火・火消しの描写(付け火が火炎龍になる漫画的表現も最高)
  • 裏で儲けていた真の外道である凶極氏のブッ殺し方

 

が加わり、時代劇漫画としての仕上がりはもはや法悦レベルです。

火消しシーンが異常に面白いのも平松先生の画力あってこそ。

こんなに完成度が高い平松漫画は久しぶりで、マジでめちゃくちゃ嬉しい。

 

凶極氏の殺し方も実にいい

ネタバレはしませんが、物語の主軸はどこまでいっても木曽屋とお美世で、凶極氏については四の五の言わせず即死させる、その松田的手段と展開の速さがほんといいの。

 

 

そういう訳で、平松伸二作品から遠ざかっている人も大江戸ブラック・エンジェルズの4巻は読んだ方がいいと思いますよ!

5巻以降の展開もマジで楽しみになってきました。

この時代劇文芸×平松画力の黄金方程式を極めていっていただきたいっす。

 

 

時代劇独特の魅力を継承するコンテンツがこれからも途切れることなく生まれていきますように。