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「東日本の動乱と戦国大名の発展 感想」丸島和洋さん(吉川弘文館 列島の戦国史⑤)

 

列島の戦国史シリーズ、丸島和洋さんの「東日本の動乱と戦国大名の発展」が最新研究の反映を含めて密度・分量たっぷりな内容でかんたんしました。

シリーズの中でも、いい意味で戦国時代についてやや詳しい人向けだと思います。

 

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16世紀前半、東日本では古河公方の内紛と連動した戦乱から、戦国大名の衝突へ変化する。伊達・上杉・北条・武田・今川・織田―大名間「外交」と国衆の動静を軸に、各地の情勢を詳述。戦国大名確立の背景に迫る。

 

 

 

内容をイメージしやすいよう、目次を細かめに引用いたします。

 

戦国大名の戦争と「外交」―プロローグ

    戦国大名という地域国家

    戦国大名誕生の背景

    家中の形成と外様国衆

    本巻の狙い

 

一 東日本戦国時代の転回

 1 越後における戦国大名の成立

    越後守護上杉氏の戦国大名

    守護代長尾氏の台頭

    長森原の戦いと上杉定実幽閉

    越後享禄・天文の乱

    時宗丸入嗣問題と長尾晴景

 2 伊達氏の台頭と南奧の大乱

    奥州探題大崎氏と葛西氏

    伊達稙宗の入嗣政策と陸奥守護職

    白河永正の変と南奧諸氏

    伊達氏天文洞の乱

    晴宗の勝利と稙宗の抵抗

    戦国大名蘆名氏の確立

    最上義定と寒河江

    出羽庄内と仙北

 3 北方世界とアイヌ

    謎に包まれた南部一族

    浪岡御所北畠氏

    安藤氏から安東氏へ

    蠣崎氏の成立とアイヌ

 

二 古河公方の分裂と小田原北条氏

 1 古河公方府の内乱

    長享の乱終結と下総篠塚陣

    永正の乱勃発と上杉氏

    永正の乱の展開と小弓公方の成立

    関東享禄の内乱

 2 関東に波及する内乱

    佐竹の乱終結と部垂の乱

    両那須氏の統合と宇都宮錯乱

    結城政朝と小山氏

    常陸南部の情勢

    千葉・原氏と上総武田氏の分裂

    安房里見氏の内乱と系図改竄

 3 戦国大名北条氏の誕生と関東支配の正統性

    伊勢宗瑞の小田原城攻略

    扇谷上杉氏との手切

    宗瑞の相模制圧と死去

    北条改苗字

    河越落城と扇谷上杉氏の衰退

    小弓公方滅亡と北条・里見氏の政治主張

 

三 中部・東海地方の戦国大名

 1 今川氏の遠江三河進出

    斯波義寛との抗争

    三河侵攻と斯波氏の反攻

    今川氏親の死去と寿桂尼

 2 武田信虎の甲斐統一

    信虎の家督相続

    小山田氏と穴山武田氏

    甲府開創と甲斐統一

    信虎の外交と戦争

    小笠原氏の統一

    諏訪頼満と頼重

    高梨政盛の国衆化

    飛騨三木氏と姉小路

 3 今川義元家督相続

    今川氏輝急逝と花蔵の乱

    第一次河東一乱と三河侵攻

 4 斎藤道三の美濃奪取と織田信秀の台頭

    船田合戦

    道三の父長井新左衛門尉

    道三の下剋上

    清須・岩倉の両織田氏と斯波氏

    信秀の台頭

    信秀の病

    今川勢の尾張侵攻と信秀の死去

 5 松平氏の盛衰

    永正三河大乱と松平信忠失脚

    霧の中の松平清康守山崩れ

    松平広忠復権と横死

 

四 甲駿相三国同盟の成立と長尾景虎

 1 武田晴信のクーデター

    武田信虎追放

    支持された追放劇

    諏訪頼重の滅亡

    第二次河東一乱

    武田氏の信濃経略と二度の大敗

 2 甲駿相三国同盟への道

    河越合戦と扇谷上杉氏の滅亡

    山内上杉憲政の没落

    古河公方の傀儡化

    甲駿相三国同盟の成立

 3 長尾景虎の登場と新たな対立軸の形成

    景虎家督継承

    川中島合戦の開始

 

五 戦国大名「国家」の内実

 1 領国支配と印判状

    差出検地か丈量検地か

    差出と検地

    貫高制と石高制

    所領高帳の作成

    印判の使用

    印判状の確立とその背景

    税と役

    商人の統制

    北条氏康の徳政と目安箱

    伝馬制

    撰銭令

    金山・銀山の開発

 2 家臣団統制と領国支配

    若き越後国主の悩み

    寄親寄子制

    支城制の展開

    国衆の自律性

    「郡」と「領」

    「洞」と「屋裏」

 3 大名の裁判と分国法の展開

    分国法と家法

    『今川仮名目録』

    『甲州法度之次第』

    『結城氏新法度』

    伊達氏と『塵芥集』

 4 「外交」の仕組み

    取次と副状

    和睦・同盟の作法

    幕府と朝廷

 

六 文化と宗教の伝播

 1 連歌と蹴鞠

    猪苗代兼載の晩年

    宗祇の死去と宗長・宗牧

    冷泉・飛鳥井両氏と和歌・蹴鞠

    武人画家の活躍

 2 戦国大名と宗教

    寺社の修造

    禅僧と戦国大名

    醍醐寺高僧の旅と文永寺

    「一向宗」と戦国大名

    美濃別伝の乱

 3 在地社会と戦乱・信仰

    十六世紀前半の気候

    河口湖周辺の在地社会

    村落と土豪

    土豪の活動の広がり

    足軽乱取り

    熊野三山出羽三山信仰

    伊勢・高野山信仰

    富士山信仰

 

七 進展する地域統合と大名領国の再編

 1 織田氏の分裂と斎藤道三の敗死

    武田・今川氏と斎藤道三

    長良川の戦いと道三敗死

    一色改苗字と義龍の死

    織田信勝の挙兵

 2 桶狭間合戦の衝撃

    今川義元の隠居と三河平定

    桶狭間の戦い

    松平元康の自立と「一向一揆

 3 並び立つ関東管領

    上野横瀬氏の下剋上

    長尾景虎関東管領就任

    第四次川中島合戦

    北条・武田氏の反撃

    越中大乱から謙信出馬へ

 4 東関東・東北の情勢

    下野の情勢

    常陸佐竹氏の躍進

    北条か上杉か

    伊達・蘆名同盟と佐竹氏

 

戦国大名を動かしたもの―エピローグ

    古河公方の時代とその終焉

    大名・国衆間の外交と戦争

    永禄年間への助走と統合の動き

    今川氏滅亡の遠因

    新たな秩序へ

 

あとがき

参考文献

系図

略年表

 

 

盛りだくさんですね。

詳しい方であれば、目次を見ただけで「おっ、これも取り上げてくれている」と分かるのでしょう。

 

 

高校生の歴史教科書より小学生の歴史教科書の方が分かりやすいのと同じで、当巻は分量が多く題材も広範囲に及びますので、ぱっと見では通史としての流れやテーマ性を掴みにくいかもしれません。

そういう意味では「武田家や上杉家や北条家や今川家の歴史を軽く触りたい」といったニーズには合致しないかもしれませんが、丁寧に読み進めると、メジャー大名も含めた各氏の興亡を題材に「戦国大名とは」「国衆とは」「どのような流れで戦国大名の勢力が拡大していったか」等を掴める構成になっておりますので、腰を据えて向き合うことをおすすめいたします。

 

 

当著の特徴として、冒頭で戦国大名について定義いただいているところがいいですね。戦国時代に限らず、歴史ってけっこう用語の定義に幅があったりいたしますし。

 

筆者が用いている戦国大名の定義を示しておく。

  1. 室町幕府・朝廷・鎌倉府・旧守護家をはじめとする伝統的上位権力を「名目的に」奉戴・尊重する以外は、他の権力に従属しない。
  2. 政治・外交・軍事行動を独自の判断で行う。伝統的上位権力の命令を考慮することはあっても、それに左右されない自己決定権を有する。
  3. 自己の個別領主権を越えた地域を一円支配した「領域権力」を形成する公権力である。これは、周辺諸領主を新たに「家中」と呼ばれる家臣団組織に組み込むことを意味する。
  4. 支払領域は、おおむね一国以上を想定するが、数郡レベルの場合もある。陸奥や近江のように、一国支配を定義要件とすることが適当でない地域が存在することによる。 

 

分かりやすいですね。

この定義なら、戦国大名扱いされないことがある畿内の皆様も範疇に入りそうで個人的に嬉しいです。三好家はもちろん、不明瞭な部分を孕みつつ木沢長政さんなんかも戦国大名と呼べるかもしれない。

 

 

その上で、この本では戦国大名が担った役割として

つまり戦国大名とは、軍事力という「暴力」を背景とする権力体ではあるが、戦乱の世における軍事的保護(「軍事的安全保障体制」、第五章で詳述)と、実効性を期待できる裁判と紛争調停を期待され、社会的要請で生み出された存在でもあった。

たとえば戦争時に援軍を出さないことは、戦国大名の信頼失墜に直結するから、政策に大きな影響を及ぼした。

現在では、戦国大名一般が「家臣の一揆」に支えられた権力と理解されている。

国境を越えた国衆の動向が、戦国大名の戦争・外交に大きな影響を及ぼしていた

境目地域の安定と現地国衆の保護は、戦国大名にとって大きな課題であった。解決方法のひとつは同盟締結・和睦による停戦であったが、領国拡大による境目地域の大名領国内への組み込みが取られることもあった。戦国大名の戦争は、領国拡大のためと捉えられがちだが、政治の一手段としても行われるものであったといえる。

 

という点に比重を置いて解説いただけまして、その典型例として今川氏の滅亡……同盟国北条氏への援軍(対上杉謙信さん)を優先し、三河国衆への対処に手が回らなかった故……を紹介いただけたりします。

 

矛盾するような話ですが、戦国大名とは暴力装置であり、平和機構でもあるという。

各地で紛争が頻発する世相にあっては安全保障を提供してくれる大型大名権力が要請されるのは自然な帰結でして、時代は伝統権威の後退および各国衆の内乱・統合を通じて広域戦国大名権力の登場を誘いますよ的な流れをイメージしやすい構成になっているのが満足度高いですね。

 

そのほか、本著で印象に残った点としては

  • 戦国大名のルーツは越後の上杉房定さん説。なるほど。
  • 長尾晴景さんの実像。長尾為景さんへのクーデターっぷり。
  • 個人的に縁遠い北関東諸勢力の動向に触れられて嬉しい。大乱に乗じて各家内で陣営が分裂して戦いまくるのが地獄感高い。
  • 石川高信さん=南部安信さんの弟説で記載されていますね(南部晴政さんの弟説もありますが、どっちが正しいのかは私には分かりません。南部家は謎だらけだす)。
  • 松平「清康」? 松平「清孝」が正しいっぽい?
  • 戦国大名権力の国・郡・領を単位とした連帯感=郷土意識の芽生え。
  • 結城政勝さんは分国法の執筆中に気持ちが高ぶってしまいがち。
  • 美濃別伝の乱、面白い。
  • 北畠具教さんによる今川家撃退

 

等々です。

どれも興味深いですね。

 

 

とても濃密な仕上がりですので、通史シリーズだからといってサラリと通し読みするにはもったいない、じっくり読み込みたい一冊でした。

こうした良質な書籍を通じて散りばめられた研究成果の共有化が進み、更なる深掘りを招いてくださいますように。

 

 

 

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