小説「陰陽師 太極ノ巻」を読んでいましたら、安倍晴明さんの人前での源博雅さんへの態度が職場恋愛的匂わせ・逆匂わせに富み過ぎていて、凄みにかんたんしました。
以下、ネタバレはほとんど含みません。
「太極ノ巻」に収められているお話は次の通りです。
- 二百六十二匹の黄金虫
虫愛ずる露子姫再登場。
夜な夜な現れる二百六十二匹の黄金虫の正体を追うお話。
「二百六十二」でピンときた方もいるかもしれません。
幻想的で美しい内容です。 - 鬼小槌
蘆屋道満さん登場。
「猿叫」という謎の病の謎を追うお話。
薩摩の示現流は関係ありません。
源博雅さんが雪を見ながら白比丘尼さんを思い出すシーンがとても好き。 - 棗坊主
比叡山に現れた謎の僧の正体を追うお話。
オープニングの安倍晴明さんと源博雅さんの会話が好き。 - 東国より上る人、鬼にあうこと
東国から上京してきた人が鬼に襲われたので助けよう、というお話。
久しぶりにホラーテイストです。 - 覚
有名な妖怪「サトリ」と対決するお話。
安倍晴明さんやっぱパネェ~となれます。 - 針魔童子
蘆屋道満さん登場。
蜂のような虫に襲われる人が何人も出てきまして、その事件を解決しようというお話。
ここでのオープニング会話も好き。
いずれも手堅くまとまっておりまして、強烈なインパクトだったり、蘆屋道満さんとの派手な対決だったりという要素はありませんが、味わい深いお話をかろやかに楽しめる一冊になっていますので満足度は高い感じです。
個人的に面白かったのが、安倍晴明さんの、人前での源博雅さんへの態度。
天丼気味に、二編続いて
「いえ、博雅様。わかっていると申しあげたのではありません。見当はつけていると申しあげたのです」
他人がいる時、博雅に対する晴明の口のきき方は丁寧なものになる。
「ごらん下され、博雅さま」
晴明が言った。
他人がいる時には、博雅に対する晴明の口調は丁寧になる。
と、日頃はフランクに仲良く喋っているのに人前では「わたしたち、単なる仕事上の関係しかありませんけど?」みたいな逆匂わせに励む安倍晴明さんがもうなんかズルい。
更に、同じく源博雅さんのことが大好きな蘆屋道満さんを前にしては。
「博雅は、なかなかに酒が早うござりますれば――」
「負けぬように飲む」
道満が笑った。
「おい晴明、それではまるで、おれが酒にいじきたないように聴こえるではないか」
「聴こえたか」
「聴こえた」
と、恋のライバルの前では先んじて「わたし、あなたの知らない彼の一面知ってますけど? 何なら目の前で親密さアピールしますけど?」みたいな堂々たる匂わせに励む安倍晴明さんがもうなんかスゴい。
ヤバくないですか?(語彙力)
こんなヤバい安倍晴明さんが、美青年で超実力者という畳みかけ。
本当に陰陽師シリーズは底なし沼だぜひゃっほう。
そういう訳で、読者の期待?にしっかり応えてくれるプロフェッショナルなお仕事っぷりに参るねしてしまった巻でございました。
魑魅魍魎うごめく平安京なればこそ、関係性の尊さが激しく引き立ちますね。
もしかしたら魑魅魍魎うごめく闇系大企業を舞台にピュアラブ小説とか書いたら面白いのかもしれない。
職場とかサークルとかクラスとかで秘匿性のある関係を楽しんでいる方々が、なにとぞ幸せで清潔なゴールを迎えられますように。
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