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かんたんにかんたんします。

小説「われは鬼なり 十河一存伝 感想」三日木人さん(郁朋社)

 

十河一存さん初の歴史小説「われは鬼なり 十河一存伝」が三日木人さんの三好三部作ラスト作品として発売されていまして、個人的には三部作のなかで圧倒的に一番面白くてかんたんしました。

 

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タイトル通り、十河一存さんの生涯を楽しい歴史小説としてイキイキ描いてくださっている作品になります。

 

これまでの「三好長慶伝」「篠原長房士魂録」のなかでは、三好之長さんの活躍を振り返るパートが一番面白かった気がするのですが、今回の十河一存さん小説は完成度ですべての上をいっている気がします。

著者の三日木さんとの相性的に、知将とか政治家めいた人よりも、気持ちよく暴れてくれて小説的意味合いを後から乗せてあげればいいタイプの人が書きやすいんだろうなと感じましたね。

 

 

十河一存さんの生涯がおおむね網羅されますし、諸エピソードもきちんと拾われます。

 

かんたんしたのは、著者の三好家研究フォローアップが進んで「十河一存さん一時細川晴元派に寝返りかけてた説」とかにまで目配りがされている点。

人名や家系図も、三好「義賢」、安見「直政」、三好康長さんの年齢・立ち位置、それぞれ「最近の研究は分かっているんだけど、いったんはよく知られている方で合わせておきますね」と断ってくれていたり。

三好三部作を書き上げた著者のインプット蓄積を感じますね。

 

 

その上で小説としての仕上がりがたいへん良くて、

    • 十河一存さんは気持ちよく強くて、ほどよく知恵が回らなくてしばしばお兄ちゃんに叱られて反省しているのですがそれがまた爽やかで、でも脳筋では決してなくて堺や海外交易や九条家・和泉荘園統治にも目配りはできていたりする、イケてる好漢に描かれています。傾奇者スタイルだったり身長が7尺あったりすのも、歴史小説らしいハッタリが効いていて私は好き。

    • オリキャラはほどよい活躍ぶりでやりすぎ感なし、「こういうのでいいんだよ」と言いたくなる塩梅。

    • 阿波の女金貸し「阿古女」さんが主要キャラとして登場!
      詳しいネタバレは避けますが、序盤から終盤まで大活躍ですし、この方は「実際に存在した」というバックボーンがあるので多少盛っても「ええやん、もっとやれ」という気持ちになれるのがいいですね。

    • 三好長慶さんはまごうことなき聡明な英傑として描かれています。
      さすが過去作主人公。
      一存さんからしょっちゅう「甘い」と突き上げを喰らっているのがかわいいし、長慶さんに叱られると口ではかなわない一存さんもかわいい。

    • 三好実休さんと安宅冬康さんの活躍は控えめ。
      篠原長房さんも同様。

    • 三好康長さんは相変わらずすがすがしい武闘派。

      「いますぐ幕府方を完膚なきまでに叩きのめすべし」



    • 松永久秀さんは相変わらずクラシック石田三成さん的イメージと見せかけて肝心な時は武闘派というレアなスタイル。

      「笑岩さまの申されること、ごもっとも。この際、いっそのこと公方を討ち果たし、新しい幕府を開きましょうぞ」



    • 足利義輝さんは相変わらずいいところがありませんが、この時代の幕府そのものの力、独自性のようなものは補足されるようになりました。

      「きええええいっ」
      木剣を振り回す義輝の眼前に、憎き三好長慶十河一存の幻影がまざまざと浮かぶ。
      ――殺す。あやつらを成敗してやる!

 

等々。

 

有名な人物以外では、細川持隆(氏之)さんに殉死した「蓮地清助」さんがめちゃくちゃ格好良い最期で心に残りましたね。

著者の三日木さんの描く武人、みんな好漢で好きだな。

 

物語のラスト、十河一存さんの死の理由も歴史小説としてとても良いものだと思う。

 

 

こうした登場人物たちの活躍、文章量、ストーリー展開のバランスがとても優れていて、読み味・読みやすさという点では三好関係小説のなかでは随一だと思います。

マジで、三好家関係の小説で一冊とっつきやすいおすすめを挙げろと言われたら、この「十河一存伝」を推したいくらい。

これは良作ですよ。

 

 

三好長慶松永久秀足利義輝以外の関係者の中から、完成度の高い歴史小説が出てきたことは素晴らしいですね。

 

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