肝胆ブログ

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「小泉八雲集 感想」訳:上田和夫さん(新潮文庫)

 

小泉八雲さん(ラフカディオ・ハーンさん)の作品集を通して読んでみたところ、よく知られた日本の昔話があらためて面白かったり、小泉八雲さんの観察眼が素敵だったり、上田和夫さんの日本語訳が美しかったりと、非常に満足度が高くてかんたんしました。

 

www.shinchosha.co.jp

 

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小泉八雲さんは明治期に来日し、日本の民話や伝説を収集・発信されていたことで著名な方ですね。

もともと国際派というか無国籍派な方だったようで、生まれた場所はギリシャ、父はアイルランド人、母はマルタ生まれともシチリア生まれともいわれるギリシア人でアラブの血も混じっていた模様、とのことです。

 

 

当著に収められているお話は次のとおり。

『影』

 和解

 衝立の乙女 

 死骸にまたがる男

 弁天の同情

 鮫人の恩返し

 

『日本雑記』

 守られた約束

 破られた約束

 果心居士のはなし

 梅津忠兵衛のはなし

 漂流

 

『骨董』

 幽霊滝の伝説

 茶碗の中

 常識

 生霊

 死霊

 おかめのはなし

 蠅のはなし

 雉子のはなし

 忠五郎のはなし

 土地の風習

 草ひばり

 

『怪談』

 耳なし芳一のはなし

 おしどり

 お貞のはなし

 乳母ざくら

 かけひき

 食人鬼

 むじな

 ろくろ首

 葬られた秘密

 雪おんな

 青柳のはなし

 十六ざくら

 安芸之介の夢

 力ばか

 

『天の川物語その他』

 鏡の乙女

 

『知られぬ日本の面影』

 弘法大師の書

 心中

 日本人の微笑

 

『東の国より』

 赤い婚礼

 

『心』

 停車場にて

 門付け

 ハル

 きみ子

 

仏陀の国の落穂』

 人形の墓

 

『霊の日本にて』

 悪因縁

 因果ばなし

 焼津にて

 

 

 

前半は怪談を含む物語が中心、

後半は日本人論や日本文化論、小泉八雲さんのエッセイも入ってくる感じです。

 

 

耳なし芳一」「ろくろ首」「雪おんな」あたりはお馴染みの怪談話ですね。

「梅津忠兵衛」はいわゆる姑獲鳥伝説の一種です。

「悪因縁」は牡丹燈籠のお話で、オチが味わい深いです。

 

あらためて読んでみるとそれぞれ完成度の高い、上質な物語になっているものだなあと再認識できますよ。

 

 

昔話の中には著名人が登場するものも多く、

「果心居士」の中には名物狩り気味の織田信長さんが出てきますし、

「守られた約束」の中には「老練で豪胆でずるくて残酷」だけれど「他人の誠実を愛する心には敬意を払うことができる」し「友情と勇気には感嘆を惜しまない」尼子経久さんが出てきます。(元ネタは雨月物語でしょうか)

「青柳のはなし」では「美人好み」で「家臣の恋人である若い娘を取り上げる」細川政元さんという激レアなキャラが出てきたりもしますよ。いわゆる「史実を無視した二次創作が過ぎる」というやつの元祖なのかもしれません笑。

 

 

 

印象に残るのは、「男に裏切られた女の祟り」昔話が多いなあ……ということ。

小泉八雲さんの収集フィルターでバイアスがかかっている可能性もありますが、まあ本当に女の情念というのは怖いものだ、女性をむやみに傷つけるものじゃないゾ的な寓意に富み過ぎております。

 

 

女性の怨念系で一番好きなのは「破られた約束」というお話。

 

「再婚しないでね」と約束して妻が若死にしてしまうのですが。

子どもがいなかったため、親族プレッシャーもあって夫は結局再婚してしまい。

後妻が前妻の怨霊に首をむしり取られて死ぬ。

 

という救われない物語でして。

 

著者の小泉八雲さんが最後に

「これは、ひどい話だ」とわたしは、この話をしてくれた友人にむかっていった。

「この死人の復讐は――もしやるなら――男にむかってやるべきだ」

「男はみなそう考えます」彼は答えた。「しかし、それは女の感じ方ではありません」

 

彼の言うとおりであった。

 

と結んでいるところが実にいいんです。

確かになあ。

 

 

 

小泉八雲さんの随筆の中では、「草ひばり」「停車場にて」が好きです。

 

「草ひばり」は虫の鳴き声について書き綴る文章が非常に美しい短編、

「停車場にて」は情趣深い「罪と罰」が表される短編です。

訳のよさもあり、非常に胸に残るものがある、格調高い名文ですよ。

 

詳述はしませんので、興味がある方は読んでみてくださいまし。

 

 

 

 

これから先も味わい深い物語が多数生まれ、多数語り継がれ多数見出されていく人の世でありますように。