肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

映画「雨月物語 感想 日本固有の美と物語の普遍性」溝口健二監督(大映)

 

1953年に制作された映画「雨月物語」が映像も物語も美しくてかんたんしました。

 

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おおきくは上田秋成さんの原作をベースにしながら、日本固有の美と物語の普遍性を兼ね備えた傑作に仕立てられています。

 

海外での評価が非常に高いと耳にしますが、さもありなんですね。

 

 

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

物語としては、

戦国時代後期、賤ヶ岳の戦いのさなかを舞台に、

琵琶湖北岸の貧しい陶工が妻子のために銭を稼ごうとして、

市に大量の器を運んで売りさばこうとしていたところ、

貴女の亡霊とうっかり密通してしまって虜になり、

正気に戻って亡霊を振りほどいて村に帰ったら、

妻は落ち武者の手にかかって既に亡くなっていた。

 

という筋になります。

 

 

社会の動乱、虐げられる力なき民草、銭や出世を求めるささやかな願い、美女に惑う素朴な男の心情、泣くのはいつも女ばかり、ラストに取り戻す地に足の着いた暮らし……等々、非常に普遍性の高い要素で構成されておりますので、海外の映画ファンや、我々70年後の時を生きる者にとっても非常に取っつき易い内容になっております。

 

 

その上で、映像がまことに日本的な美々しさに彩られておりまして……。

 

 

湖を渡る和船。

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櫓って、欧米勢からするとけっこう珍しいらしいですね。

このシーンは水面と光の具合が絶妙にしっとりしていて、また、櫓をこぐ女の謡の哀調も相まって、たいへん名場面になっております。

 

 

 

白黒でも充分に伝わる、着物の華やかな色使い。

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左側、田中絹代さん演じる主人公の妻が羽織る「流水紅葉」文様が実に美しいですね。

 

 

 

木と紙でできた建築。

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侍女が燭台に次々と灯りをともす様がきれいなんですよ。

 

 

 

日本らしい調度品の数々。

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箱膳や違い棚がいかにも貴人らしいしつらえになっていて、海外の方から見ても「この女性は身分の高い人なんやろなあ」と見てすぐに分かるようになっています。

 

 

 

扇と舞い。

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能といえばこの世ならざるものとの邂逅ですね。

京マチ子さんの幽玄なスケール感に圧倒されます。

彼女(亡霊)は織田信長さんに滅ぼされた朽木家の姫君とのことですが、この世界線では金ヶ崎の撤退戦で信長さんに敵対でもしちゃったんでしょうか。

 

 

 

市松模様の襖と、手鏡で髪を整える女性。

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このカットも実にジャポニズムな美しさがあると思います。

 

 

 

ONSEN。ジャパニーズホットスプリングの露天風呂。

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この辺(高島あたり)って温泉湧いてたっけな。

水量豊かな地域だから、実は温泉じゃなくて沸かしたお湯を注ぎ入れているのかなあ。

 

 

 

紙の髪留め。

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和紙の白さと質感が、長い黒髪によく映えますね。

 

 

 

こんな感じに、90分程度の短い映画ながら、場面場面でたいへんジャパンな美しさを堪能させてくれて、それで話の筋は誰が見ても分かりやすくグッとくる中身な訳ですから、これは世界的ヒット間違いなしという感じなのです。

 

 

美しいシーンばかりでなくて、武士に民衆が乱暴されるシーンなんかも分かりやすく「武士、ひどい!」ですしね。

 

例:兵糧を徴発されて難儀する村人

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実際の武士と村人がただただ一方的に虐げる・虐げられる関係だったのかどうかは分かりませんが、この作品は七人の侍ではないので村人のしたたかさなどは話の埒外なのであります。

物語の背景として必要な乱暴がちゃんと描かれていることが大事なのですよ。

 

 

 

貼りませんが、あれこれあった後のラストシーンは、決してシンプルなハッピーエンドではないものの、登場人物それぞれが土の匂いがするような確かさ力強さを手にした感じがして湧きたちます。

 

美しさも物語のよさも堪能させてくれていい映画ですね。

 

 

 

 

さいきん、いわゆるテレビ時代劇が流行する前の古い時代劇の味わいを自分の中で再評価していたりします。

もちろんテレビ時代劇も大好きなんですが、白黒~総天然色時代の映画時代劇も面白いよね、と。

 

感性豊かな若い方々に、往年の名作のよい部分に触れる機会ができて、糧にしていただけるような流れがつくられていきますように。