肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 感想」阿部暁子さん(集英社文庫)

「室町繚乱」という南北朝時代モノの小説がたいそう面白くてかんたんしました。

これは室町時代好きには強くおすすめであります。

 

books.shueisha.co.jp

 

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あらすじ。

京と吉野に二人の帝が存在した、南北朝の時代。南朝の帝の妹宮・透子は、北朝に寝返った武士・楠木正儀を連れ戻すべく、乳母と二人きり、吉野から京へと乗り込む。京についたとたん人買いに攫われてしまった二人を救ってくれたのは、猿楽師の美少年・世阿弥と、透子たちの宿敵である足利義満で……。世間知らずの姫君が混迷する時代の中で見たものは。瑞々しい筆致で描く書き下ろし時代小説。

 

登場人物。

  • 透子。主人公。特に能はないが周囲の男性を惹きつける乙女ジャンル特有の力を有している。父は後村上天皇、兄は長慶天皇
  • 足利義満イケメンで有能。チャラいが根はシリアスな政治家。
  • 観阿弥イケメンで有能。捉えどころのない性格。
  • 世阿弥イケメンで有能。真面目な少年。
  • 楠木正儀イケメンで有能。良心の固まりおじさん。
  • 細川頼之イケメンで有能。幕府の実力者。この頃の細川はよかった。
  • 斯波義将イケメンで有能。細川頼之のライバル。この頃の斯波はよかった。

 

 

と。

 

 

こうして書くと、いかにも「はいはい、世間知らずの姫君がふらふらするだけで周りの男がめろめろになってなんやかんやでハッピーエンドになるようなやつね」みたいな先入観が湧いてくるかもしれませんが……。

 

 

 

実際その通りです。

 

でも、この小説はすげぇ面白いのですよ。

 

 

 

南北朝時代という読み解くのが難しい時代を背景にしつつ。

 

序盤は完全にライトな乙女モノです。南北朝ドリームです。

時代背景にそぐわぬ軽妙ギャグ調でテンポよく話が進んでいきます。

まさしく恋愛ゲー的ご都合主義的なそんなこと起こるかよ的展開も多いです。

歴史好きガチ勢の人はもしかしたら脱落するかもしれませんが、後半でガラッと変わりますから肌に合わなくても読み進めましょう。

 

後半は打って変わって超シリアスな南北朝モノです。

南北朝の成り立ち、室町時代の成り立ちに踏み込んだ重厚テキストが続きます。

詳しくはネタバレしませんが、南朝好きも北朝好きも、足利義満好きも観阿弥世阿弥好きも楠木一族好きも満足度高く盛り上がれると思います。

(本文を一部引用したいところなんですが、察しがいい人なら展開が読めてしまうかもしれないので止めておきます)

ラスボスなんてけっこう意外な人物でね。でも貴方が相手なら足利義満さんもそりゃね、となります。すべて読み終えれば、これだけのキーマンが集結できる数少ないタイミングを著者さんが選び抜いて舞台の年代を決めたんだなあとかんたんするのですよ。

歴史好きライト勢は戸惑うかもしれませんが、それでも論文読むよりは軽いですからなんとなくでも追っかけてみましょう。

 

 

かように前半と後半でそうとうテイストが違う、一冊の中で南北朝が両立しているかのようなユニークな面白さを有している小説なのです。

そのギャップ故に、かえって読者を選ぶところがもしかしたらあるかもしれませんが、バイアスなしにフラットに読んでみればいずれ側もクオリティが高くて楽しめますよ。

南北朝モノをシリアス一辺倒にせず、一方で史実には真っ正面から向き合いながら、エンターテインメントを交えた娯楽時代小説へ昇華できているというのはすごいことだと思います。

 

 

こうした作品が広く読まれて、支持を集め、南北朝時代室町時代前半も歴史ファンにとって親しみやすい領域になっていきますように。