室町時代(足利時代)において、足利氏特有の「価値」が社会においてどのように共有されていたか、いかに常識として根付いていたかを解きほぐす書籍が発売されていてかんたんしました。
足利将軍独自の魅力や強みについての研究がどんどん進んできていて、戦国時代の研究にずいぶん彩りを加えてくれているのがいいですね最近。
なぜ武士たちは足利氏を認めたのか。武家の王=足利氏の「足利的秩序」に焦点をあて、存続と滅亡の謎に迫り「足利時代」を再考する。
なぜ、足利氏は続いたか―プロローグ/
共通利益と共通価値(力の体系・利益の体系・価値の体系〈国家成立の三要素/政治学では/社会学でも/戦国日本の場合〉/
戦国期の将軍と大名〈共通利益論/対内問題/対外問題/共通価値論/足利的秩序/権威について/共通点と相違点〉/
足利絶対観の形成(上からの努力〈足利絶対観の濫觴/相対的な尊貴性から/絶対的な貴種性へ/大名・武家から見る必要性〉以下細目略/下からの支持/権威のメカニズム)/
確立する足利的秩序(足利一門の基礎知識/足利一門か、足利一門以外か/足利一門になるということ)/
なぜ、足利氏は滅びたか(足利の血統の価値低下/上からの改革)/
足利時代再考―エピローグ
- 足利氏は、「力(武力)」は乏しかったが、
- 足利氏を戴くことによる「利益」はたくさんあったし、
- 足利氏を尊重することが当然という「価値観」も強力に存在した。
当著はとりわけ3点目に着目した内容になっています。
鎌倉時代末期における足利氏は有力ではあったが絶対的存在ではなかった。
室町時代を通じて足利氏は絶対的存在となっていき、他の足利氏を推戴して対抗することはできても、足利氏そのものを除くような発想はなくなっていった。
戦国時代、三好長慶さんや織田信長さんによって足利氏抜きの政体ができあがっていったが、室町時代の常識や価値観からすれば飛躍のある異常な出来事である。
これは、三好長慶さんや織田信長さんの英雄的個性によるものというよりも、足利氏が自らの権威を損なうような行動をしてしまったことが大きな原因ではないか……。
的な感じですね。
以下、感想を3つの視点から述べたいと思います。
①戦国時代ファンとしての感想(細部の視点)
当著で述べられている内容にはなるほど・せやなあと思うことが多いですし、近年注目されがちな「権威」というものに具体性を与えてくださっているので、これから先の足利氏研究・戦国時代研究へ繋がっていくことが非常に楽しみです。
それだけ面白い視点を提起してくださっている本なので、170ページくらいの短さにまとまっているのが読みやすくてありがたいけれども同時にもっと詳しく掘り下げてほしいんだわ今後の研究はようはよう、みたいな気持ちになりました。
著者自身もおっしゃっている通り、この本は細部を掘り下げるものではなく室町時代全体を通じた足利氏の「価値」の変遷を追うものですので、仕方ないんですけど。
特にそれを感じたのが三好長慶さんや織田信長さん時代の「足利氏の価値の崩壊」⇒「上(足利氏)からの改革がかえって権威を低下させてしまった」という箇所。
この論はじっさい大きな要因だとは思うのですけれども、whyが一段階目で留まってしまっていて、「じゃあなんで足利将軍(義晴さんや義輝さん)はそういう自らの権威を低下させるような改革をしちゃったの?」という二段階目のwhyに対する仮説は説かれていないんですよね。
三好長慶さんや織田信長さんの属人的な英雄性で歴史を説明するのを避けるのなら、同じように足利義晴さんや足利義輝さんの属人的な判断ミスで歴史を説明してほしくはありませんし。
繰り返しですが、この本はそういう細部を突っ込むものではないんですけれども、私はそういう細部も好きなのでこの本の視点を踏まえた各時代の細部研究もまた同時に進んでいってほしいものです。
②いち社会人としての感想(ふわっとした視点)
この本では足利氏を絶対視する価値観や常識が、各種の儀礼等を通じて強固に形成されていき、上からの改革を通じて崩壊していった……と繰り返し説かれます。
その際、フランスのブルボン王朝や北朝鮮や江戸幕府や皇室等との対比も少し触れられたりするんですけどね。
いち社会人として想起するのは、権威の高さって、嫉妬や逆恨みも含めたヘイト集めと裏腹だよなあという感覚があります。
権威が崩れた、なぜだ!? あんなに強い価値観だったのに……
とはどの世界でも確かによく言われる事象ではありますけど、権威的存在って、特に悪いことをしていなくてもゴシップを探されて叩かれますし、じっさい悪いことをしてしまおうものならなおさら袋叩きにあうじゃないですか古今東西。
権威が強固であればあるほど、崩れるスピードや、崩れる際の叩かれっぷりって激しくなるもんなんだろうなあと。
で、この本で書かれているようなブルボン王朝や江戸幕府は、それぞれの政権崩壊時にえらい目に遭ってしまわれましたし。
皇室はいまもしっかり存在しておられますが、過去には後鳥羽上皇だとか後醍醐天皇だとか英邁な人が出て権威を強めた時にかぎって大ピンチに遭われていますし。
鎌倉幕府の北条得宗家だって滅びの際にはひどいヘイトの集めようでお気の毒なことになったじゃないですか。
しみじみ思うのは、足利氏の政権ってゆっくり滅んでいったから、義教さんや義輝さんといった個人の横死はあれども、足利氏全体に向かうような激しいヘイトはなかったっぽい印象があって、これってすごいことじゃないかなあと。
そう思うと、足利氏の値打ちや政権が崩れたのは残念だとは思いますが、足利氏はぎりぎりまで民心や世の中のバランスをうまくコントロールできていたんじゃないかなと思いますね。特に根拠のない素人雑感ですけどね。
世の中には1000年以上も続いている企業もあるじゃないですか。
そういう超老舗って、グローバルな大企業というよりは、各土地に根差した旅館や技能職だったりするんですけど、極端に大きな力や権威を持っちゃうとかえって潰れやすくて、逆に一定ブロックの中で着実な信頼を得て地道に過ごしている方が組織の長生きにはいいのかもしれませんね。
なんて話をオーナー社長とか議員さんとかにしてあげると喜ばれる気がします。
あなたが欲しいのは力か、権威か、長生きサステイナブルか、的なん。
③三好家ファンとしての感想(酔っぱらいの視点)
三好長慶さんのファンや織田信長さんのファンがこの本を読むと、彼らが戦っていた相手の大きさや異質さがよく分かって気持ちよくなれるんですよね。
週刊少年ジャンプ的な法則として、敵が強大であればあるほど主人公の魅力が引き立つじゃないですか。
この本の主張が広まると、三好長慶さんや織田信長さんが戦っていた相手は足利義輝さんや足利義昭さんという個人ではなく、彼らの肉体というカタチを通じて襲いきたる「価値観」であることが知れ渡る訳であります。
戦国時代、ヒト同士で戦っている世の中で、長慶さんや信長さんは概念系のボスと戦っている訳ですよ。
概念系のボスと言えばあらゆる創作作品で大ボスを務めるやつですからね。
敵は足利氏ではなく「足利氏が大事だという雰囲気」ですからね。そんなんどうやって戦えばいいんですか。ヒトじゃないのにヒトに影響を及ぼしてくる魔物。
こうげきのしょうたいがつかめない!
言うなれば!
三好長慶さんの物語とは、宿命の子として生まれ、四魔貴族(三管領-1)と戦った末にアビス(京都)に乗り込み、自らが生み出してしまった(価値観を)破壊するものという制御不能なラスボスに立ち向かったロマンシングな英雄譚であり、
織田信長さんの物語とは、全て(主に信長さんの苦労)を無に帰さしめる虚空の化身に立ち向かってひとまず太陽(鞆)に放逐したものの、自身もウルトラフレア(本能寺)で肉体を失ってしまい秀吉さんとユナイトして完全な時代の変化を目指すというエックスな英雄譚なのですよ。
……わたしなに書いているんだろう(泥酔)。
途中から何を書いているのか分からなくなってきましたが、この本は短いし新鮮だし面白いしでおすすめすよ。ガチな歴史ファンだけでなく、歴史に少し関心のあるくらいの人にもいいと思います。
足利氏の魅力向上をベースに、足利氏を取り巻く皆さまの魅力やドラマや経緯も詳しく掘り下げられ、広まっていきますように。
信長の野望・蒼天録「早解三昧攻略:1560年足利義輝」 - 肝胆ブログ