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麒麟がくる「第二十四回 将軍の器 感想 足利義輝の美しさ」

 

麒麟がくる」の足利義輝向井理)さんが最期まで美し過ぎてかんたんしました。

 

www.nhk.or.jp

 

 

開始早々、永禄の変が勃発。

足利義輝さんが史実通り30年の生涯を閉じられました。

 

詩経(小旻)の一節を朗々と詠じる向井理さん、

重心を落とした運歩で殺陣に臨む向井理さん、

そして地に臥し儚く散りゆく向井理さんと、

何もかもが美しいことこの上なく。

 

この「麒麟がくる」の足利義輝さんの美しさはあまりにもインパクトが強く、これから数十年間、義輝さんはこういうキャラとして扱われるんだろうなあ。

 

 

 

このドラマの中では、足利義輝さんは

  • 麒麟を呼べるほどの立派な征夷大将軍になろうとしていたが
  • 実権を奪われ、側近にも去られ、意欲を失ってしまい
  • 将軍としての値打ちはなくなってしまった
  • ただただ儚く美しい存在

 

という感じに演出されておりました。

 

 

従来イメージの義輝さんは有能で、めっちゃ強くて、最期は床に刀を何本も略、

最近イメージの義輝さんは微妙で、陰謀が得意で、剣豪だった根拠は薄くて略、

といった感じで語られることが多いように思いますが。

 

コロナ明け再開後のドラマパート、三好長慶死亡後~永禄の変(1564年-1565年)頃の義輝さんの活動に限れば、個人的にはそもそもあまり濃く印象に残っているエピソードがございません。

 

ときどき「三好長慶死後は権勢を取り戻そうと精力的に~」みたいな話も耳しますが、三好長慶死亡ニュースを義輝さんが掴んでいたかどうかもよく分からないですし。

目立った活動も……? 諸大名上洛や和睦斡旋や栄典授与は、基本的に長慶さん存命時の事績のはず。

 

あえて言えば、永禄の変直前の義輝さんの事績と言えば

  • 側室の小侍従さんとのあいだに娘が生まれた
  • 二条御所を改築しまくった(近世平城の源流のひとつとも)

 

くらいしか(あくまで浅学の者の理解ベースですが)思いつきません。

 

まあ、二条御所の改築については、「さすが天下諸侍御主に相応しい」みたいなポジティブ評価がされることもありますし、「そんな金あるなら朝廷に尽くせ」「税を取られる民衆からしたらえらい迷惑だ」「長慶死後の動揺している三好家を刺激してどうする」みたいなネガティブ評価がされることもある訳ですが、とりあえずこれだけで三好家との関係を云々言うのは難しいなあと。

義輝さんは六角家入洛時に三好義興さんと一緒に逃げたことがあるので、御所を強化する名分はつくれたでしょうし。

もしかしたら松永久秀さんの多聞山城の噂を聞いて、「じゃあ俺も!」くらいの気持ちで、足利将軍家らしい建築趣味を発揮していただけかもしれませんし。

 

 

何が言いたいかというと、「弑逆確信犯説」であれ「御所巻きからのうっかり殺害説」であれ、義輝さんの何がそんなに三好家を刺激したのか、やっぱりよく分からんなあということなんですよね。

殺害であれ御所巻きであれ、三好家側のきっかけがよく分からない。

義輝さん、よくも悪くも、何もしてないじゃん的な。

 

個人的には、永禄の変は足利義輝さん本人に原因を求めるより、もともと三好家と足利公方の間を取り次ぐ役目を持っていて変の冒頭でも「お前の娘(小侍従さん)死ねよ」と三好家に訴えかけられた「進士晴舎」さんがどうも怪しい、その後、まともに交渉もやり切らず途中で切腹してしまう経緯も含めてどうにも怪しい、義輝さんに知られていない自分の何かを三好家に暴露されそうになって腹切ったんじゃないの? とか疑ってしまったりもしまして。

一番偉くて有名な被害者が義輝さんなので変の原因も義輝さん角度から研究されがちなのですけれども、進士晴舎さんやその娘小侍従さんに関する研究ももっと進んでほしいなあなんて期待しているんです。

 

 

 

さて、本題の義輝さんに戻りまして。

 

実際の義輝さんは、向井理さんのような美青年ではなかったことは確かです。

(詳しい解説は避けます)

 

それが、麒麟がくるでこんなにも美しく描写されると、従来の「剣豪将軍」に続いて、義輝さんにますます史実離れした属性が付与されることになってよくないのではないか、と一瞬余計な心配が浮かんだりもしたんですけど。

 

 

あらためてドラマでの最期まで義輝さんを見ていると、「将軍としての実力や実績や器量がどうあれ、義輝さんはとにかく美しい」「義輝さんが死ぬととても悲しい」「義輝さんを殺害するなんて三好家という連中はなんてひどい奴らなんだ」ということが否応なく理解できる。

それが、地方出身で、教養が高くて、土岐家の歴史を背負っている、明智光秀さんの目を通してめっちゃ伝わってくるんですよね。

 

ドラマにおける義輝さんの美しさは、単純なビジュアル面の美しさというより、向井理さんの美しさを以て「一般的な武士から見た足利将軍の権威」「十三代に亘る伝統の重み」「家格というものの本質」を表現していたんだなあと得心いたしました。

歴史学の本に出てくる「権威」「家格」とか言われても、現代人には正直ピンと来ないっすもんね。

確かに、「下剋上」って「皆が好きで大事にしている人を粗末にするヨ」ということですから、「美しいものを傷つける」という感覚と似ている気がします。

 

 

逆にドラマ外のところで言えば、「あんなに美しいものを克服しようとしていた三好長慶さんや松永久秀さんってスゲェんじゃね?」「美しさの克服こそが下剋上……三好家は正統芸術に対するアバンギャルド……三好家もまた、美しい……」「こうして顕現しゆく美の多様性……そう、畿内史いいよね……」みたいな評価をしてくれる人ももしかしたら今後出てくるかもしれませんし。

 

 

何はともあれ、足利義輝さんが変にサゲられるよりは、美しく描いていただいて、界隈の登場人物たちそれぞれの魅力が咲き乱れる感じの方が好みだなあ、と思いました。

 

 

 

 

ドラマでは「和田惟政」「山崎吉家」「足利義栄」と、日ごろ表に出てこない人物たちがたくさん登場してきて歴史ファン的にはウキウキしちゃいますね。

 

松永久秀さんも、永禄の変時点で三好主流派から脱落しており、かつ、疲れて・迷っている様が描かれて何よりです。

ひたすら悪者な通説久秀さんも好きですが、三好長慶時代・三好家内乱時代・織田信長時代のすべてを通して得も言われぬ生涯の味わいを感じさせてくれようとしているのも実に嬉しいものなのです。

 

 

この「麒麟がくる」を取っ掛かりに、ますます歴史ファンの裾野が広がり研究や創作が豊かになっていきますように。

 

 

 

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