肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

東京駅丸の内口の「信託博物館」三菱UFJ信託銀行

 

東京駅から徒歩3分のところにある無料施設「信託博物館」が素晴らしいプレイスでかんたんいたしました。

 

www.tr.mufg.jp

 

 

丸の内の超一等地に、めっちゃためになる無料の博物館ですよ。

とてつもない社会貢献だと思います。

さすが三菱UFJ信託銀行(MUTB)ですね。

 

 

館内はそこまで広くはありません。

じっくり見ても30分くらいで回れるボリュームです。

東京駅近辺での時間つぶしにもぴったり。

 

 

主な展示内容は「信託の歴史」「企画展示」「ピーターラビットコーナー」。

なぜ信託とピーターラビットが結びつくのかについても解説いただけます。

 

 

 

信託の歴史コーナーがまず面白い。

 

一般的には「投資信託」のイメージが強いかもしれませんが、もともとの「財産を信頼できる誰か(信託会社)に委ねるという考え方・手法」が古今東西の歴史の中でどのように発展してきたのかを説明してくださいます。

 

ハンムラビ法典の資産運用事例や古代ローマの財産相続事例であったり、空海さんの「綜芸種智院」の学問事例であったり織田信長さんの「貸付米」による皇室貢献事例であったり。

 

中世イギリスの「ユース」という信託ルーツが時に国王等と対立しつつ発展していったという経緯、イギリスやアメリカでの商工業発展とともに「トラスト」として信託が発達していった経緯などが分かりやすく展示されております。

 

「資産保管」「財産管理」「遺言執行」などが主な業務であった信託が、徐々に社債発行」「資金調達」「分散投資」「年金運用」、そして「公益信託(財産を救貧や医療、教育などの公益目的のために使ってくれと託すこと)」などに活用フィールドが広がっていったのは人類の英知感がみなぎっていてとても感心させられます。

 

 

 

個人的に気に入ったのは「歴史的判例とフィデューシャリー・デューティー(受託者義務)」というコンテンツ。

 

無料で資料冊子もいただけまして、これが無料でいいのかというくらい良質なのです。

(暗い写真ですみません)

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信託の歴史における重要判例を紹介いただける内容になります。

 

 

例えば2点目の「受託者は正直で、慎重かつ注意深く投資を行えばよい(ハーバード大学 対 エイモリー事件(1830年))」という案件。

 

受託者のエイモリーさんが、受託資産の一部を株式で運用したことで結果的に元本が目減りし、後に元本分を受け取ることになっていたハーバード大学が激怒して訴えを起こしたという事例です。

当時は「株式投資は投機的」と受け止められていたとのことで。

 

裁判は受託者のエイモリーさんが勝訴

判決では以下のようなコメントがつきました。

アメリカでは政府債が量的に限られており、必ずしも安全な投資とは限らないから、イギリス法のルールをそのまま適用することはできない、受託者は信託財産を過度に濫用したときにのみ信託財産の損失を補償しなければならず、正直で、慎重にかつ注意深く行動していれば補償責任を負わせるべきではない

受託者が投資を行なうに際して求められるのは、忠実に行動し、かつ健全な裁量を働かすということがすべてである。彼は、思慮分別、さらには知性を備えた人間が自分の財産をどう運用するか、投機ではなく資産の長期的な管理について予想される収益と投資される財産の安全性とを考慮しながらいかに管理運用するかをみてそれに従わなければならない。

 

すなわち、受託者は特定の資産にだけ投資しなければならないのでも、特定の資産には投資してはならないのでもない。

株式運用して結果的に元本が目減りしてもOKと認められたのです。
(まともな判断での運用ならば)

 

その後、国債等の安全資産もインフレ等で価値が実質的に目減りすることがあると広く知られるようになり、こうした考え方は当たり前のこととしてアメリカ社会に受け入れられていったと。

 

……200年近く前の判例ですが、いまだ「安全資産信仰」が根強い我々も学ぶところが大きいと思います。

 

 

他のコーワン 対 スカーギル事件(1985)」ジョーンズ 対 ハリス・アソシエイツ事件(2010)」なんかも面白いです。

さいきんのリーマンショック時の事例も入っていますよ。

 

信託銀行に限らず、金融機関や不動産会社などにお勤めであったり顧客であったり志望している学生さんであったりビジネス法務関係者であったりは一度目を通しておくと絶対イイと思います。

直接的な資産運用知識が身につく系ではありませんが、ビジネスパーソンとしての判断力涵養にとてもよい教材ですよ。

 

 

 

 

企画展は「遺言と信託」という催しでした。

様々な著名人に関する信託・遺言の事例を見れて興味深いです。

 

内容のネタバレはしませんが、ワシントンさんやアインシュタインさん、ディズニーさんやプレスリーさん、ホイットニー・ヒューストンさんやブリトニー・スピアーズさんなどなど、こんな人まで信託を活用してるんや……とかんたんできること間違いなしです。

 

 

個人的に印象に残ったのが2つ。

 

1つは、多くの資産家の遺言信託で、相続人が若い時は「●●歳までは年いくら、●●歳になったら年いくらにアップ、更に●●際になったら残りすべてを……」と年齢に比例して受け取り金額を徐々に上げていく方式を取っているということ。

 

要するに、金の使い方も知らん若造に大金を渡してもロクなことにならん、ということなんでしょうね。

確かにそうだ。

 

 

もう1つは、森鴎外さんの遺言。

「石見人森林太郎トシテ死セント欲ス」

「外形的取扱ヒヲ辞ス 森林太郎として死セントス」

 

軍人としても文豪としても名声を博した方ながら、人生の最期はひとりの“石見人”として去っていきたいと願う矜持。

とても美しい精神だと感じ入りました。

 

 

 

この他、博物館ではプリクラの凄い版みたいな機械で、ピーターラビットさんと一緒に写真を撮って絵葉書加工してくれるというサービス(無料)まで受けられたりします。

 

本当に至れり尽くせりです。

 

 

 

ちょっと硬めの内容なので取っつきづらいかもしれませんが、実際に行ってみたら満足して人にも勧めたくなること間違いなしな施設だと思います。

 

採算度外視なことでしょうけど、世の中のためにこうした施設がこれからも存続していきますように。