小説陰陽師シリーズの2作目「飛天ノ巻」を読んでみたところ、安倍晴明さんは引続きシュッとしていて格好よく、それ以上に源博雅さんの褒め称えられっぷりがまさしく飛天の如しでかんたんしました。
以下、ネタバレを含みます。
収められているのは次の短編たちでございます。
芦屋道満さんはまだ出てきません。
・天邪鬼
・下衆法師
同じく二人が恐ろしい法師?の怪異に立ち向かいます。
・陀羅尼仙
二人が伝奇的な恋物語に立ち会います。
・露と答へて
二人が平安時代らしい色恋沙汰に立ち会います。
・鬼小町
二人が小野小町さんに邂逅します。
・桃園の柱の穴より児の手の人を招くこと
二人がタイトル通りの怪異な事件の解決に赴きます。
・源博雅 堀川橋にて妖しの女と出逢うこと
源博雅さんがひたすら賞揚され、かつ活躍なさるお話です。
妖と戦うもの、妖をスパイスにドラマが描かれるもの等、筋立てはそれぞれながら読み味が軽妙かつふわりとした風韻が漂っているのがまさしく陰陽師シリーズですね。
「ゆこう」
「ゆこう」
そういうことになった。
に代表される、見ているだけで嬉しくなるような息の合いっぷりも相変わらず尊い感じであります。
この飛天ノ巻では、他にも古典らしい悲鳴「あなや※」の使用シーンが増えてきているのも楽しい。(※現代語訳:「グエー」とかでしょうか)
キメ台詞とはちょっと意味合いが違いますが、そのシリーズらしいフレーズが目につくと読者としては愉快だったりしますよね。
エピソードの中では、天邪鬼や小野小町さん等のお話もなかなかに印象的なのですが、最後の「源博雅~」の刺激が強すぎて驚きました。
なんせ、全60ページのうち、15ページは作者自身による源博雅愛の披露ですからね。
もう、安倍晴明さんに代わって魅力をとことん語るよ! という感じ。
博雅という人物は、人並み以上に、宮中にあっては苦労をしたはずである。しかし、その苦労が、人を恨んだり、他人への悪意につながったりということが、彼の場合、なかったのではないか。
おそらく、信じられないほど、時に愚直なほど真っ直なものが、この男の内部にあったのではないか。このあたりにこそ、源博雅という人間の持っているおかしみがある。
想うに、どんなに哀しい時でも、この男は、のびやかに、真っ直に、正面から哀しんだことであろう。
博雅の笛に呼応するものは、人ばかりではない。天地の精霊や、鬼、時には意志や生命のないものまでが、感応する。
博雅が笛を吹くと、宮中の屋根にある鬼瓦までが落ちると『江談抄』は伝えている。
博雅という漢は可愛い。
男が有する色気の中に、この博雅のような可愛気というものが入ってよいのではないか。
この漢の持っている好もしい特質の中に、真面目さというものが間違いなくあることは、ここに書いておいてよいだろう。
この絶賛っぷりよ。
安倍晴明さんの源博雅さんに対する姿勢を見ていれば、作者自身が源博雅さんを愛しているのは元よりよく分かっているのですが、まさか直接ここまで博雅愛を語りまくるとは。
語らずにはいられなかったということなのでしょう。
残る45ページのお話も、まさしく源博雅さんの魅力である「真っ直」「笛」「可愛い」、そして「安倍晴明さんとの関係性」が存分に活かされておりますので、非常にプライムな作品であると評してよいかと思われます。
詳しいネタバレはしませんが、安倍晴明さんが、源博雅さんを必要とする流れでして。
「さあ、博雅、ここはおれの呪などよりは、おぬしの笛の方がよい」
二人の関係性、いいわあ。。。
濃いのに爽やかなんですよね。
詳しく語りたいけど詳しく語るとネタバレになるので困ってしまいます。
大変読みやすく面白い作品ですので、原作陰陽師の魅力もますます多くの方に知れ渡っていきますように。
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