信長の野望20XXというゲームで安倍晴明&源博雅コンビが気になったので、そういえばちゃんと読んだことないなと思って小説「陰陽師」を購入してみたところ、想像以上の両者の仲良し描写っぷりに悶絶せざるを得なくてかんたんしました。
なぜ信長の野望に安倍晴明が出てくるんだと思う方もいるかもしれませんが、そういう何でもありな面白いゲームがあるんです。
「陰陽師」シリーズは、平安京を舞台に安倍晴明さんが相棒の源博雅さんと怪異事件を解決していく筋立ての作品です。
漫画化や映画化もされているので、触れたことがある方も多いかもしれませんね。
この第一作「陰陽師」は短編集で、全部で6編の作品が収められています。
基本的には源博雅さんが酒のつまみ片手に事件を知らせにやってきて、二人でお酒を飲んで、それから解決に向かう感じ。
ミステリのような構成でもありますし、鬼平犯科帳や剣客商売のような時代小説らしい構成にも感じます。
要はたいへん読みやすい構成です。
夢枕獏さんの文章は改行が多いのでなおのこと読みやすくていいですね。
物語のネタバレはしませんが、私は「鬼のみちゆき」という作品がいちばん平安時代の怪異物語っぽくて好きです。
以下、キャラ的なネタバレは含みます。
ちなみに芦屋道満さんは登場しません。
期待通りといいますか、主人公の安倍晴明さんがたいへんイケメンで色気があって明晰で実力者で飄々としていて闇に浮いた雲のようなお方でして、これは安倍晴明ガチ勢の女子を大量に生み出したのもさもありなんという感じだったんですが。
それ以上にですね、源博雅さんの朴訥としていながら大事なところをしっかりと押さえている魅力がですね、たまらないの。
これは安倍晴明ならずとも彼に夢中にならざるを得ませんの。
管弦に造詣が深くて、蝉丸法師のもとへ通い詰めて秘曲「流泉」「啄木」を聴かせてもらったようなエピソードも実にイイのですけど、何よりも安倍晴明さんに対するセリフの一つひとつが実にイキイキと誠実で正直で素直でね。
こんな友達いたら好きになりすぎて困るよね、嬉しいよね、というのがヒシヒシと伝わるのですよ。
特に好きなのは短編「蟇」での、百鬼夜行的異世界に突入したさなかのやり取り。
安倍晴明さんにタチの悪いからかいを受けた博雅さんが……
「だからさ、晴明よ、おまえ、頼むからあんな風におれをからかわないでくれ。おれは時々、冗談がわからない時があってな。本気になってしまうのだよ。おれは晴明が好きなんだ。たとえ、おまえが、妖物であってもだよ。だから、おまえに刃なんか向けたくない。しかし、突然、今のようにされると、どうしていいかわからなくなって、つい、太刀に手がのびてしまいそうになるんだよ――」
「ふうん――」
「だから晴明、おまえが妖物であるにしてもだよ、おれに正体を明かす時にはだな、ゆっくりと、驚かさないようにやってもらいたいんだよ。そうしてくれるんなら、おれは大丈夫だ」
博雅は、訥々と言った。
真剣な口調であった。
「わかったよ、博雅。悪かったな――」
晴明が言った。
しばらくの沈黙があった。
輪が土を踏んでゆく音が、静かに響いていた。
ふいに、口をつぐんでいた博雅が、また闇の中で口を開いた。
「いいか、晴明――」
実直な声であった。
「――たとえ晴明が妖物であっても、この博雅は、晴明の味方だぞ」
低いが、はっきりとした口調であった。
「よい漢だな、博雅は――」
ぽつんと、晴明がつぶやいた。
また、牛車の音だけになった。
この、やり取りよ!
博雅さんの真っすぐさ、晴明さんの嬉しそうさ!!
暗闇と静寂に覆われた異世界にあって二人の関係性だけはキラッキラというねもうオイ。
「ゆっくりと教えてくれればお前がどんな妖物でもおれは大丈夫、お前のことが好き」なんて言われてえよ誰でもこの野郎ですよ本当にもう博雅さん最高。好き。
更にこうした二人の山場的やり取り以外にもですね。
山場的なやり取り以外にもですよ。
二人で怪異事件を解決しにいくときの
「ゆこう」
「ゆこう」
ですとか!
お酒を飲むときの
「飲もう」
「飲もう」
ですとか!
お互いに酒を杯に注がれるたびの
「うむ」
「うむ」
ですとか!
謎解きしてるときの
「たぶんな」
「たぶんか」
ですとか!
雪を観ているときの
「静かな雪だな……」
「幽かな雪だな」
ですとか!
なんかもういちいちお前ら仲良すぎだろ、
ぐりとぐらかよ的セリフ追い重ねっぷりがですね!!
ウグググ
読んでいて脳髄に響くのでありますよ。
こういうダイレクトにアツい関係性をぶつけられる作品、それでいて読み味は風雅・流麗にして格調をふわり保っているというね……
すごい。
さすが名高い小説「陰陽師」でありました。
もちろん取り上げていませんが一つひとつの物語の完成度もさすがでしてね。
こりゃあそりゃあ人気シリーズになるわと納得しきりでございましたよ。
面白かったので続編にも手を出してみようと思います。
同じようにいまから陰陽師沼に堕ちていく道連れが増えますように。
(こうした出会いに繋がったので信長の野望20XXにも感謝です)
小説「陰陽師 飛天ノ巻 感想 止まらない晴明と作者の源博雅アゲ」夢枕獏さん(文春文庫) - 肝胆ブログ