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「陰陽師 蒼猴ノ巻 感想 いや、ゆ、ゆけぬ……」夢枕獏さん(文春文庫)

 

陰陽師 蒼猴ノ巻、いつも以上に安倍晴明さんのビターな一面、源博雅さんの笛、蘆屋道満さん流の人助けが楽しめるほか、新たなライバルキャラが登場したり、「ゆこう」「ゆこう」の掛け合いを外してきたりと、楽しめる巻になっていてかんたんしました。

 

books.bunshun.jp

 

 

収録されているお話は次の通りです。

  • 鬼市
  • 役君の橋
  • からくり道士
  • 蛇の道
  • 月の路
  • 蝦蟇念仏
  • 仙桃奇譚
  • 安達原
  • 首をかたむける女

 

 

以下、ネタバレ控えめで感想を。

「ゆこう」を外してきた編がどれかは伏せておきます、2編あります。

 

 

 

 

 

鬼市

いちばん陰陽師シリーズのスタンダードっぽい流れの、怪異事案を安倍晴明さんが解決するお話。

藤原兼家さん、とても偉い人のはずなんですがしょっちゅうトラブルを起こしていてかわいい笑 女性好きで好奇心旺盛、憎めないですよね。

 

 

役君の橋

役小角さんにまつわるエピソードで、修験道に少し関心のある私としては嬉しい一編。

内容としても神仏の不思議さ尊さが味わえて、仏教説話っぽいテイストが好みです。

 

 

からくり道士

おおきくは困っている人 兼 自業自得系の人を助ける? お話。

当巻の中でも特に描写が美しい一編でして、無数の黄金の蝶が飛び交うシーンが幻想的で好き。黄金なのにくどくどしくなくて、むしろ蝶モチーフだけにはかない美しさがあると思うの。その蝶を蘆屋道満さんが使役しているというのもときめく。ボロボロ爺ちゃんなのに蝶属性をお持ちだなんてギャップ萌えがズルいレベルですわ。

 

 

蛇の道

男女のトラブルにかかわる怪異事案に安倍晴明さんが巻き込まれるお話。

ラストシーンの、晴明さんのビターな感情が伺える一幕が超好き。ふだん万能感・無敵巻が前面に出ている晴明さんだけに、迷いや苦さが伺えるシーンが一層引き立ちますよね。その晴明さんの苦い気持ちに、そっと寄り添う源博雅さんももちろん大好き。

 

 

月の路

もうタイトルからして美しさが期待できますね。黄金の蝶や後続の首を~に並んで、月の路の場景描写は当巻の大きな見どころであります。

神々のロマンスにまつわるエピソードになります。蝉丸さんの活躍の仕方、オチのつけかたもビッグいインパクト。

 

 

蝦蟇念仏

「このライバルキャラ、レギュラー化するんや笑」となる一遍。そやつがなかなか味の効いたキャラで、確かに読者的にはちょっと嬉しくなります。いい意味で道満さんよりはるかにスケールが小さいんですよね笑

般若心経を唱えるデカい蝦蟇、というのも陰陽師らしい絵面でいいですねえ。

 

 

仙桃奇譚

西遊記にも登場する仙桃をめぐるお話。蘆屋道満さんが主役のスピンオフ的作品になっています。

当巻のなかで、筋という点ではこのお話が一番好きかも。お話のスケール感や道満さんの格好よさもさることながら、救出対象である「明念」さんが絶妙に人間臭くて生臭くていいなあと思います。リアリズムを増してくれているといいますか。

 

 

安達原

タイトルからピンと来る人もいるでしょうが、読む「能」ですね。

安倍晴明さんが能的な幻想場面に遭遇した感じのお話。こういう間口の広さが陰陽師シリーズの魅力やと思いますわ。

 

 

首をかたむける女

源博雅さんが天上世界でソロライブするお話。

短編ながらとても美しい。黄金の蝶、月の路、そして当作と、この巻は場景が目に浮かぶような煌めきに富んでいますね。

 

 

神仏のありがたい場面を目撃するお話。

このお話の見どころは、冒頭の「魚丸」さんによるアウトドアな生活シーンですね。巨椋池における魚介の恵みの豊かさ、野趣あふれる生活感、年とってくると夏冬アウトドアがしんどくなってくるリアルさなどの手触り感がたまらぬ。

 

 

 

 

陰陽師シリーズはスッと読めるのにピタッと心に吸いついてくれるのが本当に気持ちいいですね。

 

だいぶ読み進めてきましたけれどもまだまだ続巻好評発売中のようですので引続き手に取っていきたいと思います。作品の間口広さがますます多くのファンを魅了していきますように。

 

 

 

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