直木賞を受賞して各種ミステリランキングでも1位を取って、という小説が平積み販売されていまして、ほへえと思って手にとってあらすじを見てみたらまさかの「主役:荒木村重」「安楽椅子探偵:黒田官兵衛」「舞台:有岡城」という要素にたいへん驚き、内容もしっかり面白くてかんたんしました。
参考文献に天野忠幸さんの著書が入っていたりもしますので、畿内戦国史の文脈に位置する荒木村重さん的な読み味も味わえますから歴史ファン的にも満足度高いんじゃないでしょうか。
本能寺の変より四年前。織田信長に叛旗を翻し有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起こる難事件に翻弄されていた。このままでは城が落ちる。兵や民草の心に巣食う疑念を晴らすため、村重は土牢に捕らえた知将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めるが――。
事件の裏には何が潜むのか。乱世を生きる果てに救いはあるか。城という巨大な密室で起きた四つの事件に対峙する、村重と官兵衛、二人の探偵の壮絶な推理戦が歴史を動かす。
もうなんていうか舞台設定の見出し方が天才的と申しますか。
籠城中の有岡城……密室やん!
捕われの黒田官兵衛さんに相談持ちかけたら、安楽椅子探偵(まったく安楽ではない)のシチュエーションになるやん!
と思いついた時点で大勝利的アイデアですよね。すごいっすわ……!
ミステリなので詳細な内容は伏せますが、上記あらすじの通り有岡城の戦い中に四つの事件が起こりまして、放置していると士気や威厳にかかわるので荒木村重さんが謎解きに取り組む感じの流れになります。
事件はざっくり
- 不審者が近づけない隔離された場にいる人質が何者かに殺害された……!
- 夜討ちで敵将を討ったが、高槻衆の手柄か雑賀衆の手柄か分からない……!
- 城内に滞在中の使僧が何者かに殺害された……!
- 村重が処断しようとした人物が何者かに先に狙撃された……!
というもの。
有岡城籠城戦のさなかですので、並行して織田方の優勢が決定的になっていったり、村重さんの相談を受ける黒田官兵衛さんの心身がおおいに蝕まれていったりと、ミステリ・戦・登場人物の心理という、見どころある太い流れが交錯しながら流れ進んでいくのが充実感高いんです。
ミステリとしての出来ばえも確かで、ミステリ好きの方も楽しめると思います。
もっとも、ミステリを読み慣れている人であれば1章の時点で真犯人・黒幕的な存在まで察せられるかと思いますので、謎解き的な難度はそこまで高くありません。
どちらかというとミステリでありそうなトリックを、戦国時代の環境・道具・動機のなかで上手く構築できていることの方にすげえなあとかんたんするやつです。
加えて登場人物たちの様々な価値観、能力、信念・信仰、変容を堪能できますし。
畿内戦国史ファン的にも伊丹、池田、瓦林、高山、中川等々の一族の皆さま登場をはじめ、戦国期権力のもろさ……国衆の支持を失うと……的な構造まで物語に組み込まれているのでニコニコできることかと思います。
(三好家要素はほぼありません。松永久秀さんは回想でちょっと登場します)
それにしても籠城=密室という発想は面白いものですね。
インスパイアされた戦国時代系ミステリが増えるなら歓迎したいところです。
近年の戦国時代研究の進展をハードな背骨にしつつ、多様でおもしろ豊かなコンテンツがますます増えてまいりますように。