台湾の映画「台北の朝、僕は恋をする」を観たら、なんだかやさしい気持ちになれた気がしてかんたんしました。
以下、映画の一部ネタバレを含みます。
舞台は台湾の夜。
パリに行きたい青年「カイ」くんが、怪しげな荷物を運ぶ「運び屋」で手っ取り早く大金を得ようとしたところ、刑事とカラーギャング的チンビラに追いかけ回されて……
本屋さんで働く美少女「スージー」(アンバー・クォ)さんも巻き込まれ、一緒に逃げているうちにカイくんとスージーさんは心を通じ合わせていく……
的なあらすじのお話です。
「台湾裏社会」
「刑事」
「カラーギャング」
「運び屋」
「拳銃」
「拉致」
「監禁」
……などなどの黒い要素がふんだんに登場する映画ですが。
実際は日曜日の昼下がりにオープンテラスでお茶しているような穏やかやさしい内容となっております。
毒はありません。
薬はほんのりです。
スージー役のアンバー・クォが愛しい……
チンピラのボス「ホン」役のクー・ユールンが素敵……
そんなことを思っているうちに話はテンポよく流れて行き、特に誰も死んだり大怪我したりすることもなくハッピーエンドを迎えます。
ハッピーエンドといっても大げさな内容でなく、ほどよい幸せさがいいですね。
見どころとしては先に挙げたヒロイン「スージー」さんとチンピラ「ホン」さんのナイス演技が目立ちますが。
個人的にとても気に入ったのが脇役「カオ」さん、省略が効いた編集・セリフ回しの妙、それに台湾ならではのグルメシーンです。
脇役「カオ」さん
主人公の親友です。
(名前がカイとカオで似ているのがややこしいです)
不幸なことに、主人公の運び屋騒ぎに巻き込まれてチンピラに拉致・監禁されてしまいます。
ところが……。
このカオさん、まったく動じない。
突き抜けたマイペースの持ち主なんです。
拉致られた車のなかでチンピラたちが「腹減ったな」と呟いたら、「あそこの餃子がうまいよ」と教えてあげる親切さ。
しかもアドバイス通りに水餃子を買い込むチンピラたち。
汚いラブホに監禁されていても、いつの間にかチンピラたちに混じって麻雀に興じるカオさん。
しかもカオさんの恋バナに夢中になって助言に励むチンピラたち。
なにこのやさしい世界。
カオさん
「好きな子がいるけど、もうすぐ兵役にいくんだ」
チンピラ
「兵役に行くと伝えたら女はブラを外すだろ」
というやり取りが青春十代感出過ぎていて最高でした。
チンピラさん方の無能感もごっつうかわいいです。
こんなにかわいい無能も珍しいと思います。
「お前ら何してんの?」とチンピラたちを叱りに来たボス役のホンさんも、結局はカオさんの恋バナに夢中になっちゃいますしね。
チンピラ連中から「とにかく告れ」と背中を押されながら、結局はモジモジして上手に好きな子と話せないカオさん……
すんごいよかったです!
省略が効いた編集・セリフ回しの妙
この映画、台詞やシーンの省略がたいへん巧みでおしゃれです。
主人公カイさんがパリの遠恋中彼女に振られたと思しきシーンも、ラスト付近の主人公とヒロインスージーさんとの関係も。
決定的な「別れよう」「好きです」「付き合ってください」といった分かりやすい言葉は一切登場しないんですよね。
ハッキリとした言葉は劇中ほとんど出てこないんですが、役者方の視線・表情・行動だけで起こっていることも思っていることも充分過ぎるほど伝わってくる画面づくり。
これが観ていてとても気持ちよいんです。
主人公のカイさんは劇中何度も原チャに乗るんですが、その際、原チャ運転中の表情を映すシーンが度々挿入されます。
運転中なので基本的に台詞はなく、ただ前方を見つめるのみです。
それでも、運転しながらカイさんが考えていることが視聴者に伝わってくるんですよ。
ダンスシーンも含め、こうした無言の「間」が各所で効果的に配置されていて、映画全体のリズムが快くなっています。
好みの脚本・編集です。
台湾ならではのグルメシーン
主人公のカイさんは食堂の息子で料理できる系男子ですし、舞台は夜の台湾ということで屋台があちこちに出ていますし。
出てくる食べものが実においしそうなんですよね……。
特に水餃子。
茹で上げたあのプリッとしたヤツを……
口でトゥルルンって吸い込んでいく場面。
わあ……
台湾行きたい。
同じの食べたい。
食欲がヘイヘイヘイと挑発される感じです。
そういう点からも、深夜に見るより昼下がりに観た方がいい映画だと思います。
アンバー・クォさんとクー・ユールンさんが画面を素敵に飾ってくださりつつ、映画を支える脇役・脚本・編集・アイテムも称賛するべきところ多数。
よい映画ですよ。
やさしいボーイミーツガールを観たいときにどうぞ。
若い世代に幸せなボーイミーツガールが増えて、少子化に歯止めがかかりますように。