じゃりン子チエ文庫版20巻、例によって猫たちのバトル漫画が描かれるのですが、70年代の作品なのに80年代の「聖闘士星矢」「らんま1/2」の要素を先取りしているようなギミックが練られていてかんたんしました。
いや、本当に驚いた。
2022/2/2追記
と驚いていたのですが、じゃりン子チエの長期連載期間を勘定に入れるのを完全に失念しており、むしろ「聖闘士星矢」「らんま1/2」の連載開始後に当エピソードが執筆されていたことをコメント欄でご指摘いただきました。
以下の記事文章は勘違いしたままツラツラ書いている内容となりますので、その旨お含みおきくださいませ。
お恥ずかしい限りです。大変失礼いたしました。
詳しくは末尾のコメント欄をご参照くださいませ。
20巻に収められている話は次の通りです。
- 春を見つけよう
- 動くアントニオ
- ノイローゼの親玉
- 犯人は誰だ
- 踏んだり蹴ったりのアントニオ
- ひょうたん池の春雨
- 悪太郎はどこだ
- ひょうたん池 黒猫退治
- 黒猫・悪太郎の思い出
- 悩める正太郎
- 風の中のアントニオ
- ひょうたん池 猫猫合戦
- 私の中の私
- 梅雨のアロハ
- パカカヒナ・トガシと言えれば大丈夫
- 雨の夜のにらめっこ
- ぶっそうな国際電話
- アロハシャツがいっぱい
- アロハシャツがまた一人
- アロハの三人ひとまとめ
- 猫の恩返し
- アロハの四人ひとまとめ
- 真打 ミスターマウイ
- なんでもかんでもアロハ風
- リメンバー・オオサカ
以下、重大なネタバレを含みますのでお気を付けください。
前半は猫のバトル漫画で、邪悪の化身のような黒猫「悪太郎」と小鉄・アントニオジュニアが対峙します。
数々の死闘を制してきた小鉄・ジュニアですから、敵の猫もどんどん強大にインフレしていく訳でして、黒猫悪太郎は素の戦闘力でもアントニオジュニアと互角に戦うほどの実力者です。
しかも悪辣な計略にも長けていて、過去にはいくつかの人間の村を滅ぼしたこともあるというえげつなさ。
更に、完全にネタバレですが、この悪太郎なる猫、
- 実は二重人格猫であり、穏やかで優しい白猫「正太郎」と邪悪の化身な黒猫「悪太郎」が一つの身体に同居している。しかも実弟とのドラマも持っている。
- 白猫正太郎は、水をかぶることで黒猫正太郎の人格に切り替わる。
という、ジェミニのサガと呪泉郷に通じる設定を70年代の漫画でしかも猫たちの抗争のギミックとして導入しているはるき悦巳先生の手腕にかんたんするばかりな存在なのですよ。
ピュアにすげぇ。
小鉄が倒れている正太郎の尻尾に水をかけると、毛並みが黒く変化していくシーン……の劇画力が凄まじくて息を呑みましたね。
後半はハワイからの刺客をことごとくテツが撃退していく話でして、オチは21巻に持ち越しですが、じゃりン子チエで英語関係というと黒幕はあの人に決まっているのですからオチはもう見えている気がいたします。
以下、各登場人物・登場猫の名ゼリフを。
正太郎
「またかよ……
またおまえの仕業なのかよ悪太郎」
町を騒がす怪事件を耳にして。
正太郎は悪太郎の正体が自分であることに気づいておらず、どこかに双子の弟の悪太郎が潜んでいると信じています。
自分の行為とは気づいていないのに、(双子の弟の行為を止めるという態をしながら)無意識に良心の呵責に苦しんでいるのが切ないですね。
小鉄
「ニャオ~
まだまだおまえらには負けへんど~~~
ぶっちぎり~~
ターン
見たか~~オッサンパワ~~」
学校の周囲を走る小学生たちと競争して遊んでいる小鉄。
かわいい。
テツ
「なんじゃ………
固まってると思てたけど
針金でも入っとるんかけっこう動くやんけ
おりゃ
こりゃ
おもろいやんけ
一発ドジョウすくいのカッコでもさせといたろか」
悪太郎にイタズラされたアントニオの剥製で遊び始めるテツ。
フィギュア遊びに興じる大人っぽくてかわいい。
(この後百合根に棍棒でしばかれますが)
チエちゃん
「なんか小鉄もジュニアもバタバタしてるとこみたら
ひょっとしたらアントニオのことも
猫のケンカが原因かも」
「それやったらほっといても
小鉄とジュニアでなんとかしてくれるわ」
小鉄とジュニアの様子を見て、猫の世界で抗争が起きていることを察するチエちゃん。
猫語は分からないはずなのですが、小鉄とジュニアがこれまでも猫の世界の平和を守ってきたことを認識しているのがさすがですね。
なお、猫の世界不介入を決めたチエちゃんですが、この直後悪太郎にえらい目に遭わされてしまいます。
チエちゃんが珍しくヒロイン役だ。
悪太郎
「カンオケで寝てなババァ」
じゃりン子チエ最強登場人物の一角、おバァはんを一蹴する悪太郎。
これは敵ながら快挙ではないでしょうか。
悪太郎
「うっ
ぐっ
な…なんだ……!?
や…やめろ誰だ……
正太郎か……
じゃまするんじゃねえ
うっ
なぜだ……
おまえはいつも……
なぜオレの邪魔ばかり………」
暴れまわった悪太郎が突然苦しみ始めます。
彼の中で、善の人格である正太郎が待ったをかけているのです。
もはや完全にジェミニのサガ。
二重人格を題材にした創作作品は古くから存在するとはいえ、70年代の漫画の猫の抗争でこの展開はそうとうオーパーツだと思います。
アントニオジュニア
「父さん………
そぉか………
悪太郎の奴がまた父さんを盗みに来たんやな
くそ~~
そこまで父さんを………
もぉオレは父さんから離れへんど
父さん一緒に来い
オレが父さんの前で決着つけたる」
悪太郎の執拗なアントニオ剥製への攻撃にブチ切れ、アントニオ剥製を餌に悪太郎を誘い出そうとするアントニオジュニア。
精神面のムラはありますが、ここ一番のヒーロー性と爆発力は抜群です。
最終決戦の際、左ボディ、左フック、右ストレートのコンビネーションで悪太郎を追い詰めるシーンが超格好いいんですよ。
小鉄
「こらからはワシもおまえについて行くよ
必ず……
必ず……
もぉおまえのそばからは離れんよ………」
一方、誰よりも先に真相へ到達した小鉄は、人格の分裂に苦しむ正太郎に付き添い、物語を見届ける役割を担います。
役者が揃い、いよいよクライマックス。
その結末はたいへん余情に富んだものになっていまして、当エピソードを最後まで傑作にならしめてくれています。
ハワイからの刺客&テツ
「あ…あれはワシらの会社で
二番目におとろしい殺し屋の」
「なに~
二番目やと~~
ドアホ
二番目相手にワシが勝負出来るかい」
ハワイからの刺客を次々とやっつけ、大物っぽいナンバー2の殺し屋もこの後あっさり片付けるテツ。
この漫画はテツ無双がなんやかんやで面白いのですが、同時にテツのこういう矜持っぷりもけっこう格好いいんですよね。
20巻は猫のシリアスバトル展開が非常に読み応えありました。
マジでオーパーツだと思いますので、興味がある方はお目通しくださいませ。
トラウマに苦しむ猫と人間がなにとぞ減っていきますように。
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