じゃりン子チエ文庫版24巻、前巻で仲良くなった米谷サッちゃんとの別れが訪れ、チエちゃん、ヒラメちゃん、サッちゃんそれぞれの様子にかんたんして泣いてしまいました。
子どもたちの出会いと別れ、いいものですね。
24巻に収録されている話は次の通りです。
- なんだか変な この頃
- 雨の日はテッちゃんと一緒
- テツの出前保健所
- アルバイトが見つかった
- 気になるアルバイト
- やっぱり変なアルバイト
- アルバイトの正体
- ピンチの時の切り札
- 切り札の切り札
- 引っ越しの真相
- 料理コンテスト
- 輝くトリオ
- 空振り ひょうたん池
- 怪しいランドセル
- 危険地帯をうごめく者
- サッちゃんの言えなかったこと
- カメラを持つヒラメ
- みんなの写真がほしい
- 写真の意味
- サッちゃん君を盛り上げよう
- ヒラメちゃんの来れない訳
- 「さようなら……」サッちゃん
1巻まるごとサッちゃん編でして、チエちゃんヒラメちゃんサッちゃんのトリオ形成からサッちゃんの引っ越しまで。
前巻がサッちゃんとの出会い編でしたので、2冊まるごとサッちゃん編。
サッちゃんはじゃりン子チエの中でも屈指の重要人物なのであります。
以下、ネタバレを含みつつ各キャラクターの名ゼリフを。
テツ
「危険や……
親の目をかすめて勝手なこと
やり出すのは不良の始まりや」
「そやけど親の目かすめ出した時に
グチャグチャゆうたら
ワシの経験からますます親と
仲悪るなるからな」
チエちゃんがサッちゃんと遊ぶようになり、娘に構ってもらえなくて寂しいテツ。
親と子どもの関係について、的確な理解はしているところが侮れないですね。
サッちゃん
「わたしチエちゃんもヒラメちゃんも好きなの」
「だからいつまでも友達でいたいの」
「わたし……引っ越しするかもしれないの」
お父さんが引っ越しを検討し始めているのを察したサッちゃん。
こうしたセリフをかけること自体、前巻のよそよそしい関係性からの大きな変化を感じますね。登場時点のサッちゃん、かなり無口でしたし。
当初無口だったのは、父親が銀行員なので、これまで何度も転校して友達と別れてきた経験があるからなんでしょうね。
サッちゃんのお父さん
「今度のチエちゃんとヒラメちゃんは……
里子には特別の友達のようなんですよね」
「今の仕事を続けていればそのうちまた転勤です」
「楽しそうにしている里子を見れば見るほど
もうこれっきりにしたいと思うようになったんです」
銀行を辞め、郷里の岡山に戻って実家の料理店を継ぐことを決心したサッちゃんのお父さん。社宅を出て、お好み焼屋のオッちゃんの家に間借りし、カルメラ兄弟のラーメン屋で修業します。
昭和期の大企業は現在よりもずっとワークライフバランスの概念がなかったことで知られますが、当時のお父さんたちもじっさいは家族と仕事との関係で悩んでいたことが察せられますね。
子どもの生活が極力変わらないよう、単身赴任を選んで心身の負担を受け入れる父親がいまも多い訳ですから、そういうお父さんの下で育ったお子様方はいずれ大きくなったら親の気持ちを理解できるようになってあげてくださいまし。
マサル
「あいつら休み時間も放課後も
なんかとりつかれたみたいに遊んでるやないか」
「チエやヒラメはともかく
おまえ米谷ヤケクソになってるように思わんか」
「なんか分からんけど
ヤケクソになってるモンに勝っても
オレなんともうれしないやんけ」
引っ越しを控えたサッちゃんの微妙な変化を察するマサル。
(この時点で、子どもたちはサッちゃんの転校が決まったことを知りません)
学業で張りあいながら、ベストパフォーマンスではないサッちゃんに勝っても意味がないと感じるマサル。
マサル、えらいやん……!
米谷サッちゃんが登場してからのマサルは、男として一枚成長したような感じがしてとても愛らしいです。
これも一種のボーイミーツガールよな。
ところで、今回マサルが料理コンテストでオマール海老を使ったフランス料理を出そうとした際、
「用意してあったエビ
朝お父さんが食べてしもたんや」
「子供の作る料理にこんなエビ使うの
馬鹿げてるゆうて……」
「お母はんえらいおこって朝からモメて……
そやけどオレお父はんの感じ分かるんや」
「そやけどお母はんこの料理するように
用意してくれてたし……
オレの立場むずかしいんやど」
というマサル両親のエピソードが出てきました。
どうもマサルの父親は(母親と違って)世間常識に通じている方なようです。
その上で、父・母双方に気を配っているマサルがえらいですね。
結果、オマール海老が入手できずに料理コンテストであえなく敗退するのは気の毒でなりませんが。
カルメラ兄弟&お好み焼屋のオッちゃん(百合根)
「オヤジ……」
「…………」
「二階……
電気ついてないど……」
「電気がついても……
当分心は停電や」
お好み焼屋のオッちゃんに促されたサッちゃんが、二階でチエちゃんとヒラメちゃんに転校の事実を告げます。
漫画内では余計な説明セリフは出てこず、時間が経過して日が落ちても部屋に電気がつかないことで三人の心情を十二分に表現しているのが切なくて好き。
チエちゃん&ヨシ江はん
「サッちゃんが引っ越しのこと
ウチらにゆえんかったん
分かるような気がするわ」
「そんなこと考えるのも
ちょっとつらかったんと違いますか」
「……………
そやけどいつかはゆわんとあかんもんな……」
お母はんとひょうたん池のボートに乗りながら、サッちゃんの心情に立って引っ越しのショックを受け入れ始めるチエちゃん。
ほんまにえらい子です。
チエちゃん&サッちゃん
「わたしチエちゃんのお父さんの感じ分かるの
だってチエちゃんのお父さんは
チエちゃんのお母さんが選んだ人なんだもの」
「んなっ」
「選んだなんてゆうたら
ウチのお母はんの見る目がその……
結婚てその……
意外とカン違いとか
もののはずみってことが多いんじゃないかしら」
「え…!?」
「わたしたちも気をつけましょうね」
「…………」
話のはずみで、なんか妙に現実味のある話をする小学生二人。
確かに、チエちゃんもサッちゃんもしっかり者なだけにかえってもののはずみでけったいな男と結婚してしまいそうなところがありますが。
サッちゃん&テツ
「前にオジさんがわたしに言ったこと
覚えてます……?」
「前にて……
ワシなんかゆうた?」
「だからわたしにカブを教えてやるって」
「カブ!!
よーしまかしとけ
サッちゃん君のために大々的に
カブ大会やったる~~~」
いよいよサッちゃんの引っ越しが近づいた中、この漫画的に鉄板のカブで盛り上げようという展開。
カブ大会で「んほぉ~この展開あったけぇ……」となるこの漫画すげぇよ。
ヒラメちゃん
「ウチその……
描くの遅いのに
みんなも絵の中に入れたかったから」
新大阪の新幹線ホームに遅れて駆けつけ、サッちゃんに登場人物集合絵をプレゼントするヒラメちゃん。
サッちゃんの転校までのラスト1カ月、ヒラメちゃんはサッちゃんと遊ぶ時間をあえて取らず、絵の完成にすべての時間を費やしたという。
ヒラメちゃんの透徹した善意にサッちゃんの涙腺もわたしの涙腺も決壊です。
チエちゃん&ヒラメちゃん&サッちゃん
「ヒラメちゃん
サッちゃんがありがとうて……」
「サ…サッちゃん………」
「ありがとう……
みんなありがとう」
「サッちゃん……」
「サッちゃんさようなら………」
多くのものをチエちゃんとヒラメちゃんに残し、去っていくサッちゃん。
彼女たちそれぞれの成長に繋がるであろうとはいえ、別れはあまりにも悲しい、大きいものがあります……。
小鉄&アントニオジュニア
「小鉄……」
「ワシらも絵の中に居ったな」
エピソードを締めくくる二匹のセリフも好き。
この巻の猫たちは基本的に傍観者ですが、小鉄はチエちゃんとヒラメちゃんに、サッちゃんの飼い猫ロックはサッちゃんに、それぞれ心情面で寄り添っているのがいいの。
この巻のエピソードは、登場人物全員の善意が、極めて高いレベルで発揮されていて本当に好きです。
チエちゃんが住む西萩の町の良いところが出まくっていると思う。
全編通しても傑作の巻だと言っていいんじゃないでしょうか。
生きていく上で別れは避けがたいものでありますが、どうか子どもたちが出会う別れには傷心を癒やす善意であったり、振り返って後で分かるような成長であったりが伴っていますように。
「じゃりン子チエ 文庫版23巻 感想 チエちゃん VS 米谷さん」はるき悦巳先生(双葉文庫) - 肝胆ブログ
「じゃりン子チエ 文庫版25巻 感想 物語の時代設定」 - 肝胆ブログ