じゃりン子チエの文庫版25巻。
じゃりン子チエの物語は、なんとなく1970年代くらいで時代設定が固定されているものだと思っていたのですが、実は固定されているのはチエちゃん周辺の暮らしぶりだけで着実に時代は進んでいることが伺えてかんたんしました。
表紙は久しぶりにシリアス調のチエちゃん。
25巻に収録されているお話は次の通りです。
- 盛り上がらないクリスマス
- ケーキは何個売れ残る?
- サッちゃんからの年賀状
- 福の神コケザル
- 宝クジは誰のもの
- 宝クジのごちそうは何?
- カツオ節を噛みくだく猫
- カツオ節でひと儲け
- 切り札小鉄
- どうにもこうにも歯がたたない
- カツオ節タイトルマッチ
- アルバイトをやりたい気分
- 決定!!お好み焼屋でアルバイト
- お好み焼はお好みで
- 下駄焼が食べたい!!
- 下駄焼を食べさせたい!!
- 『チエちゃん』に客は来ない
- 帰って来た酔っぱらい
- 黒ワクのハガキ
- 百合根の旅行先での出来事
- また百合根が帰って来ない
- 百合根光三 余話
前半はコケザルがまた猿知恵をきかせて銭稼ぎをしようとするようなお話、
後半はチエちゃんとヒラメちゃんが岡山のサッちゃんのところへ遊びにいくため、春休みにお好み焼屋でバイトするお話、その裏でお好み焼屋のオッちゃんの実家では……という内容です。
以下、各キャラクターの名台詞を紹介いたします。
ネタバレも含みますのでご留意ください。
チエちゃん&ヒラメちゃん
「そやけどこれ……
ウチまちごうて反対に刷ってしもたからなぁ
なんかヒラメちゃんの作品
傷つけるみたいになるで」
「そんなことない
ウチええ感じになるの分かるねん」
岡山のサッちゃんへ、合作での年賀状を出す二人。
カマボコ板を1枚ずつ彫って申年の版画を刷ることにしたところ、チエちゃんは失敗を予感していますが、ヒラメちゃんは良い仕上がりになることを確信しているのがいいですね。
実際に素敵な版画が完成しまして、ヒラメちゃんのアート感覚はさすがであります。
チエちゃん&小鉄
「あのなぁ……
あんた目当てに時々ややこしい猫が
現れることあるけど」
「はぁ…」
「あんたカツオ節の固まりを
そのまま噛みくだける猫に心当たりないか」
コケザルとテツがカツオ節を噛みくだく猫を使って、カツオ節の早食い勝負で銭稼ぎし始めるのを見たチエちゃん。
いつものように実は小鉄狙いのややこしい猫なのでは……と直感を働かせる長期連載主人公っぷりが頼もしいですね。
小鉄
「どぉ考えてもワシ
そんな猫に心当たりないがな
だいたいカツオ節噛みくだくちゅな
ヤボな一発芸の猫なんて
ワイが昔かかわった猫は
クサリ鎌ふり回したり
電気ノコギリふり回すような
シャレにならん猫が多かったんや」
一方、小鉄の率直な反応。
ほんまに一匹だけ世界観が違う過去をお持ちであります。
テツ&うどん屋のオバちゃん
「オバはーん
天丼もぉ一つや」
「なんだす……
チエちゃんにこづかい上げてもらいましたんか」
テツがチエちゃんに養ってもらっていることが知れ渡っていて、誰もそのことに違和感を抱いていない様子なのがいいですね。
ミツル
「全員逮捕する~~」
久しぶりに警察官らしさを発揮して、猫のカツオ節噛みくだきバクチ勝負をお流れに持ち込むミツル。
当たり前と言えば当たり前の役割なのですが、この漫画では珍しい展開になりました。
テツ
「チエ~~
待ってたど
今日から春休みやなぁ」
チエちゃんに遊んでもらおうと、店の前でニッコニコで待ち構えているテツ。
かわいい。
チエちゃん@お好み焼屋&『チエちゃん』常連の二人
「おおきに
晩はまたウチとこにも来てや」
「あ…ああ」
「ビックリしたなあ
チエちゃんアルバイトて……
なんかワシ仕事終った気分で
酒呑みたなったわ」
「アホな…
チエちゃん昼も晩も店やってるのに
そんなことゆうたらバチ当たるで」
ホルモン『チエちゃん』常連のおっさん二人が、お好み焼屋でバイトしているチエちゃんを見て驚く。
このおっさん二人、善良な大阪の庶民という感じがして好きです。
チエちゃんとヒラメちゃんによるお好み焼屋経営が大繁盛しているのも好き。
この二人は愛想がいいので、お客さんの満足度も高そうです。
百合根の父親(耕太郎)&百合根
「ワシもうあかんの分かってるんや
最後の晩くらいおまえと吞みたいなぁ」
「………
………
相手したろか」
お好み焼屋のオッちゃん(百合根)の父、耕太郎氏が危篤状態。
お父さんも酒好きで、二人で末期の酒を酌み交わします。
一方、耕太郎氏はお金持ち(旅館の主)で、かつ複数回の結婚を経て多くの子どもがいるために、隣室では遺産目当ての関係者がうじゃうじゃ……と、一定年齢以上の読者からするとたいへん残念な気持ちになる状況でございました。
エピソードの詳述はしませんが、お好み焼屋のオッちゃんはいつも男前ですね。
テツが無意識にオッちゃんを尊敬していることが伺えるシーンも好きです。
そのほか、名ゼリフという訳ではありませんが、じゃりン子チエの時代設定が伺えるセリフをふたつほど。
通りすがりの兄ちゃんたち
「おまえ昨日プレゼントなにもろたんや」
「オレ ウルトラファミコン」
ウルトラファミコン!!
調べてみたら、この文庫版25巻は1990年代連載時の作品を収録しているようです。
ちょうどスーパーファミコンが発売された頃ですね。
じゃりン子チエの世界にもファミコンという概念があったのか……と驚きました。
チエちゃん
「今アルバイト代なんぼしてるか知ってるのか
ウチ店やめてアルバイトしたいくらいやわ」
世の中の時給800円台、日給7000円台の広告を見て、自分の境遇との格差に気づきイライラするチエちゃん。
長期連載を通じて、いつの間にやら世の中は豊かになっていて、相対的にチエちゃん周辺の暮らし向きがノスタルジックファンタジーになり始めていた感じでしょうか……。
じゃりン子チエの世界は魅力的すぎて読んでいてもふだんは時代設定とか気にならないだけに、逆に時代設定が伺えるセリフや描写が出てくるとドキッとしてしまいますね。
こういうセリフが出てくるあたり、もしかしたら、はるき悦巳先生も世の中の流れとじゃりン子チエのギャップが気になり始めていたんでしょうか。
さはさりながら、この巻もエピソードはいずれも上質で、本筋だけでなく脇のセリフでも楽しませてくれる巻でございましたし、世の中が豊かになったからこそお好み焼屋のオッちゃんの行動・セリフがより輝いていると思います。
いまも多死社会で多相続社会でございますが、互いに権利主張へ躍起になるよりは、故人の気持ち、介護等で多くの苦労を背負った方の気持ち等々がリスペクトされるような、和らぎのある相続シーンがどなたさまのご家庭でも展開いたしますように。
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