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肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「捨てられる銀行&捨てられる銀行2」橋本貞典さん(講談社現代新書)……は美味しんぼに似ている

 

「捨てられる銀行」「捨てられる銀行2 非産運用」が美味しんぼに似ていて
かんたんしました。

 

「捨てられる銀行」既刊・関連作品一覧|講談社BOOK倶楽部

『捨てられる銀行2 非産運用』(橋本卓典):講談社現代新書|講談社BOOK倶楽部

 

 

メーカー、流通、飲食、IT、そして金融機関……

従業員や取引先が多い大企業を叩く本はよく売れます。
刺激的なタイトルをつければその業界の人がとりあえず買ってくれるからです。

それで一定数が売れれば本屋さんも「売れてます!」とアピールできるから、
一般のお客さんも「じゃあ買ってみようかな」となって更に売れるのです。

 

この「捨てられる銀行1&2」もそういう類の本なのですが、
内容は大変まともで真面目だと思います。

意地悪な言い方をすれば清々しいほどの当局ヨイショ本ですけど、
当局の言っていることがまともなのだからヨイショしても問題ないでしょう。
(同じく、内容がまともなら行政が掌返ししてもいいと思います)

「2」の最後の方で

金融庁が助言会社にも一定の関与をして行かざるをえなくなるのではないか。

とか書いてさりげなく庁益誘導を図ってるっぽい所には笑ってしまいましたが。

 

 

本の内容は昨今の金融庁の取組みを新書の形でまとめ上げたものです。

金融機関系のニュースに目を通している方ならば今更感もあるとは思いますけど、
色んな人に分かり易く再整理したところに価値があると思います。

しばらく融資担当の若手バンカーとかはこの本に書いている内容で
イジられ続けるのでしょう。



で、本題というか私の感想です。

この本、言っていることは「ごもっとも」で「そうだそうだ」と共感したり
「とは言えこんな風に一本調子には世の中変わらんやろなあ」と感じたり
「2の第4章:年金制度の変化と資産運用改革」は読む価値あるなあと唸ったり
できて、良心的ないい本だと思うのです。


いい本なのです。


でも、途中……1巻のかなり初めの方で、


「なんか既視感あるなあ……」


「……」


「ああ、美味しんぼや」


と思ってしまってから、頭の中で自作ネタコラが溢れてどうも
読むのに集中できなくなってしまいました。



「金融機関が社会から尊敬を集める条件は、
 それは唯一、フィデューシャリーデューティだ。
 それが分からぬ人間が担保だなどと抜かしおって、
 お前には融資を語る資格はないっ!」

 


「日本のメガバンクとたてまつられる連中は、
 こっけいだねえ!」

 


「では、教えてくれ。
 短コロの“コロ”とはなんのことだ」

 


「この中から最高の投信を選んでみろ」
 (略)
「私はあの中から選ばない、絶対に」
「えっ?」
「あの囲いの中の投信は、全部毎月分配型だ」
「あっ!!」

 


「ぬう、なんというファンドの数だ!
 必要もない連中がグループにいるからだ!!
 馬鹿どもに運用会社にかかわらせるなっ!」

 


「明日の午後俺につき合ってもらおう、
 お前に本物のインデックスファンドが
 どんなものか教えてやる」



……キリがないのでこの辺でやめますが、
全編本当にこんな感じです。


おそらく金融機関で務める人に発奮してもらいたいからだと思うのですけど、
とにかく煽り口調なんですよね。

(その辺が一部金融機関関係者から反発が出ている一因なのかも)


いいこと書いているのにもったいないなあ、
いや、むしろプロレスっぽくておもしろいなあと思いました。



個人的には、「1」よりも「2」に共感するところが多かったです。

この本と特に意見が合う箇所。
私も今後の日本経済&社会保障制度を見通すに、より多くの国民が
「資産運用」に手を出していく必要があると考えています。

それこそかつて国民の大半が「米づくり」のやり方を知っていたのと
同じくらいの勢いで、「資産運用」に親しんでいかないと……

暮らしていけなくなると思うのです。


別に資産運用でなくてもいいんですけどね。

給料+αの「α」を何かで確保しないと。

農業もいいと思います。
副業でもいいと思います。

とにかく、「働いている会社にすべて頼り切り」という思考停止姿勢は
まずいと思うんです。

フロー+フロー(給料+バイトやギャラ)か
フロー+ストック(給料+資産運用や農業)。

+αに精を出すことが許されないくらい会社が拘束してくるなら
「じゃあ手取り1,000万くらいくれよ」と従業員が要求していくような、
結果として超優良企業勤めの人以外は皆副業しているような社会になっていく、
なっていかざるを得ないんじゃないでしょうか。

もともと日本人はストック(米づくり)+フロー(手作り品など売って現金収入)で
暮らしてきた伝統がありまして、「ひとつの会社に忠義を尽くす」文化の方が
戦後生まれで新参者ですからね。

 

そういう風に国民の行動を変えていく一事例として、
「2」の4章は面白かったです。

政策論とか社会保障論に興味のある方はどうぞ。



もうひとつ感想を述べるならば、
この本に書いている通りに金融機関や国民が行動したらどうなってしまうのか、
考えてみるのは楽しいです。


本当に銀行や運用会社が手数料稼ぎをやめてしまったら……

地銀がバタバタ潰れてますます地方に優秀な人材が留まらなくなるんじゃないか、
資産運用会社に高度な数学を修めた人材が集まらなくなるんじゃないか、
それっていいんだっけ、良心と理念だけで人が集まりますかね? とか。


本当に国民の運用リテラシーが上がって預金から株・投信に資金シフトしたら……

金融機関が買い支えている日本国債が徐々に高騰して、
財政クラッシュしたり結局利回り上がって預金回帰したりすんじゃね、とか。


本当に銀行が短コロ主体の融資事業に原点(?)回帰しても、
果たしてその融資が活きる優良企業がどんなけあるかなあ、
そこまで定性評価できる人材ならもう自分で起業した方が早くね? とか。


本当に運用会社が毎月分配型投信を封印したとして、
「資産形成」でなく「家計管理機能」を望む顧客ニーズがどこに向かうか、
怪しげなオレンジ共済みたいなんが再び跋扈したらやだなあ、とか。

 

金融庁目線では最適合理解でも、行政や庶民生活全体で見たら
思ってたのと違う方向に行くことも往々にしてありますからね。

こういう本を肴に賢い人が色々議論し始めたら有意義なんでしょう。



かつて美味しんぼ化学調味料や添加物やWindowsを批判しました。

その結果、料理業界は美味しんぼ色一色に染まったというより、
多様化が進む方向に動いたように記憶しています。

美食が好きな人は美食へ、
B級が好きな人はB級へ、
ケミカルが好きな人はケミカルへ。

その日の気分で選ぶこともできる、懐の深い日本料理業界。



金融業界はどうなりますか。

金融機関のノルマ営業は昭和の時代から
「もう持たない、もうすぐ消えてなくなる」と言われてましたが、
いまでもどっこい元気に残存しています。


一方で、ネットバンクやネット証券など、新たなビジネスの態様も
着実に増えてきていますし、一部領域では価格競争も進みました。

 

そう言えば今週、当書籍で称賛されている米バンガードが
イギリスで手数料が極めて低い個人向けオンライン投信業を立ち上げると発表し、
イギリスの金融機関が慌てているようです。

英米では手数料の値下げ競争が一足早く進んでいるのです。

 

うーむ。値下げ競争なあ。
結局最終的には人材流出に繋がるんだよなあ。


えーっと、確かこの本的には
融資の利回りダンピングは悪いフィデューシャリーデューティ、
運用手数料のダンピングは良いフィデューシャリーデューティ、
だったよな。


……あれ?

なんか哲学的ですね。



「日本社会におけるフィデューシャリーデューティ」、
まだまだ議論が必要だと思います。

お金は生活の基盤ですから、毛嫌いせずに皆で考えてみましょう。


お上主導だけでなく、国民各層での議論が進んでいきますように。