くらげバンチで連載している「クマ撃ちの女」の初単行本が発売されて、あらためて全話読み返したらやっぱり面白くてかんたんしました。
小坂チアキ、職業・兼業猟師。彼女が狙うのは、“日本最強生物”エゾヒグマ……!! 北海道を舞台に描かれる、命がけの狩猟劇!!
タイトル通り、ヒグマ狙いの女猟師「チアキさん」をルポルタージュする漫画です。
チアキさんは架空の人物だと思われますが(?)、そうとう入念な取材をされたのか、非常にリアリティ&魅力のある人物造形がなされていて、彼女の魅力と狩猟描写の魅力とでグイグイ読者を引っ張ってくださる力のある作品なんですよ。
何といってもチアキさんのキャラが立っていてですね。
独特の喋り方、独特の表情の豊かさ、いまだ明かされない重い過去、銃への深い愛情、積み重ねた修練と手入れ、確かな殺意、独特の情感が乗ったセリフ。
「狙いやすくなりますぅ便利ですぅ」
「コレはクマの脂肪を精製したものですぅ!」
「まぁ私も時々浮気しますからぁお互い様です」
(こ…このままだと 死ぬ…死ぬ…死ぬ 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ…)
しっかりとした心構えと準備と訓練を積んでいてなお、冷静沈着でなんていられるはずもなくて、ハイになったり焦ったり怯えたりしながら、クマ撃ちの意志だけはまったくブレないところがとても素敵だと思います。
相方のルポライター「伊藤さん」も真面目な観察ぶり、食らいつきぶり、リアクションぶりが魅力的なお兄さんでしてね。
「う…うめー!!」
「おばぁああ!!」
バビビビビビッ
「こ…殺し上戸って聞いた事ないですけど!」
(僕は何も出来ない チアキさんは……死ぬ!!)
要所要所で的確かつ上質な状況説明を入れてくれる、不可欠のキャラになっています。
素直な「はい!」という返事が好感度高くてたまらない。
無事にルポ本を発表・発売できるといいですね。
この二人に加え、クマをはじめとする野生生物、山、森、川、自動車、小道具、食材、ビール、そしてライフル等の入念な書き込みが説得力を高めておりまして。
ほんま作品全体にリアリティというか、「実感」がこもっているんですね。
山歩き、疲労感、匂い、息遣い。
クマとの遭遇、緊迫感、焦燥、息遣い。
喉の渇き、冷えたビール、焼ける肉の音、笑い。
五感に訴えるような描写の数々がまことに見事であります。
作者さんは新人とのことですが、やや信じられない。この描写力は武器だと思います。
漫画に限らず、文芸作品って、突き抜けた発想とか凝った仕掛けとか類のない表現とかの楽しさもよいものですが、実感のこもった人間の営みをひたすら忠実に描写することそのものの楽しさも実によいですよね。
細かなストーリーの説明はしませんが、サラッと読んでもじっくり読んでも楽しめる、クオリティの高い作品なのでおすすめですよ。
書籍派の人は手に入るうちにコミックスを確保しておきましょう。
たいへん好みのタイプの作風ですので、作者の安島薮太先生がこれから息の長い活躍をしてくださいますように。