「悪い女」という官能小説がこれはもはや官能文学やなというほどに人間の機微を描き出していてかんたんしました。
草凪優さんという作家さんをご存知でしょうか。
官能小説というジャンルの中で実力者として活躍されている方で、記号的なエロでなくリアルな人間味を感じるエロで高い支持を集めてはるのです。
女性読者が多いことにも定評があって、知る人ぞ知るけど知らない人は全く知らないな作家さんなんですよ。
以下、作品の軽いネタバレを含みます。
また、エロいことは特筆して取り上げませんが、実際の作品はとてもエロいのでエロいのが好きな方も安心して手に取ってみてください。
あらすじ。
24歳の派遣社員「佐代子」さんは、見かけは地味だけど燃えるようなセッ●スが持ち味の女性でして、3人のセッ●スフレンドがいはります。
しかも佐代子さんは「切羽詰まった男」にしか欲情しないので、セッ●ス相手は不倫で調達するのが基本、なんなら相手の奥さんに関係をリークして男を追い込んでセッ●スを盛り上げるようなことまでしてしまう人です。
わあひどい。
佐代子さんがそんな悪い女になったのは高校時代の歪んだ恋愛?経験に起因していて、同情はできないけれど、分からんでもない心理の働きがなされていたりもします。
そんな佐代子さんが一見充実したセッ●スライフを送ってたら、やがて不穏なトラブルに巻き込まれていく……
という内容です。
佐代子さんと彼女を取り巻くダメな男たちの人間描写がとても秀逸で、めっちゃエロいなあと思いつつめっちゃ面白い文学やなあともかんたんできてしまう本ですよ。
(……サンプルに一部の文章を引用しようかと思ったのですが、どないしてもいかがわしい内容を多分に含むことになりそうなのでよしておきます)
この作品、序盤は佐代子さんたちの人物紹介、中盤はセフレさんたちとの変態プレイの数々、終盤は打って変わっての純愛要素(但し歪んでるしどっちにしろエロい)と展開していきます。
秀逸なのは中盤から終盤にかけての佐代子さんの内面の変化。
あんまりネタバレするのもあれなんですが、不倫も変態プレイも心から彼女が望んでいた行為ではない、本当に望んでいるものの代替物だったのではないか……? という流れがよかったですね。
受け入れやすい急変というか。
なんか分かる気もするんです。
変態プレイとまではいかずとも、ちょっと変わったコンテンツにいっとき入れ込んでたけど急にふっ……と冷めるときってあるじゃないですか。
人付き合いで楽しいと思ってやっていたけど、そもそも自分はこれのことそんなに好きやったっけ? って引いちゃうときってあるじゃないですか。
またセフレの皆さんが妙に実在してそうなリアリティがあったもんですから、そういう方々の世界に芯の芯まで染まり切れなかった彼女のきれいな部分がね。
(セフレの人生を破壊しているので彼女だけ純愛モードになるのはズルいんですけど)
深く傷ついた人間が、偽悪で心のバランスを取ろうとしているうち本当に悪になってしまう類の話、しかも若干の救いのある話。
明らかに世間規範からは外れているんだけれど、本人たちの中でだけは崇高な納得感に満たされている様態。
こういうの嫌いじゃないですねえ……。
官能小説なのでどうしても手に取る人は限定されると思いますが、一般的な成人の方々からも平らな心でもっと評価されてほしいと思いました。
多様性を推す社会がこの手の娯楽作品も受け入れられる多様性を備えていますように。