着物の中に着る「長襦袢」のアンティークものを特集した書籍がたいへん美しく興味深い内容でかんたんしました。
これは江戸~戦前頃の創作をする方にはぜひ読んでいただきたいですね。
現代では「下着」のように扱われがちな長襦袢ですが、少し前の女性は様々な長襦袢を使って着物との取り合わせを楽しんだりしていたんですよ、という本です。
どうやら去年(2019年)東京の弥生美術館でこうした展覧会をやっていたようですね。
時すでに遅しですがナマで観たかったなあ。
とは言えこちらの書籍でも、大半がカラー印刷というぜいたくな仕上がりで、アンティーク長襦袢の魅力を思う存分知らしめてくださいます。
百聞は一見に如かずですので、少しだけ引用いたしますと……
「雲取り」「源氏香」柄の長襦袢。独特の格調高さ・美しさがございますね。
モノクロなのが惜しい「流水・波」柄の長襦袢。イキですねえ。
左下の解説がまた面白いんですよ。
女性の長襦袢の柄にしては、猛々しい荒波であるが、着物の下にこれを着ていると思うと、勇ましい気分になり、勝負襦袢となるにちがいない。
着物のたぐいの書籍というと、堅苦しいというか、何らかのしきたりを押し付けられるような印象を抱くこともございますが、この本は解説文も含めて自由に伸び伸びとした空気感が伝わってくるのがいいんですよね。
貼りませんが、他にも菖蒲柄、芙蓉柄、世界旅行柄、市松柄、扇柄、鞠柄、そしていかにも遊女らしい赤襦袢等々、さまざまな長襦袢の魅力を堪能させていただけます。
現代は長襦袢といえば白いものばかりで、あのスッキリした白色も個人的にはけっこう好きなんですけど、あらためてこうしたアンティークの柄物長襦袢の美しさに触れると着物に対する世界観が広がったような思いを抱きます。
本の後半では古今の浮世絵や絵画に描かれた長襦袢の有様を沢山見せてくださいます。
高畠華宵さんの「情炎」という八百屋お七を描いた絵がとてもいい。
戦前の読み物「愛の戦車」の挿絵なんかも紹介されますが、挿絵以上に「愛の戦車」の内容が気になって仕方ありません。
伊藤晴雨さんまで取り上げられているのには驚きました。(子どもは検索しちゃダメ)
唐人お吉のストーリーも載っておりまして、まこと長襦袢は女の悲劇や情念や衝動によく似合うモチーフなんだなあと唸らされます。
こうした切り口で和装の美しさを取り上げた本は珍しいですし、こうした切り口を知っておけば過去の歴史の楽しみ方も広がっていくことと思いますので、多くの方の目に留まるといいなあと思います。
今後の世代も含め、着物に親しむ機会がなんらか増えていきますように。