「大宇宙の少年」というSF小説を読んでみましたところ、大長編ドラえもんを読んだ時のような、SF冒険の楽しさ&未来に向けた前向きな意思が湧いてくる的な栄養をふんだんに摂取できてかんたんしました。
「のび太と雲の王国」好きな方とかにはとてもいいと思います。
●矢野徹氏――「国家とそれぞれの住む町と隣人と生き物を愛し、そして努力を続けよと説いた彼の物語は、大切なものであり続ける」
●三村美衣氏――「リアルな科学、人生哲学を、波瀾万丈の冒険譚に盛り込んだ、『夏への扉』にも比肩する最良の一冊である」(解説より)宇宙服は小さな宇宙ステーションだ――高校生のキップは懸賞に応募し、一等は逃したが、本物の中古の宇宙服を手に入れた。自力で整備し、着用して散歩しつつ夏休みを過ごす。だがやはり宇宙服を処分して大学に進もうと考えたそのとき……通信装置に着陸誘導を求める女の子の声が入ってきた! 彼は謎の宇宙船に誘拐され大銀河への旅に。50年代の傑作。訳者あとがき=矢野徹/解説=三村美衣(初刊時題名『スターファイター』を改題)
上記あらすじの通り、アメリカの高校生キップさんが宇宙人に拉致されて銀河を旅することになってしまったぜ参ったね的な導入でして、旅のなかで様々な宇宙人、地球人に出会い、SF的な困難や冒険を乗り越え、「宇宙人から見た地球人」という視点・意義を直視することになるような感じです。
プロットだけで見ればジュブナイル小説と言いますが、小学校高学年~高校生くらいに読ませてあげたい内容なのですけれど、文章そのものはけっこう硬派で分量も400ページ以上ありますので想定読者は大人なのかもしれないです。
このアンマッチがまた楽しくて、私のような人生後半の読者からすると「こういう気持ちをひとかけらでも若い頃に持てるといいよね、この年になってから思い起こすのもいいよね」という気分になれてなかなかよきものであります。
ストーリー展開のネタバレがないよう、序盤のなかで印象に残った文章を少し。
「運なんてものはないんだ。統計の世界に対抗するには、充分な準備をするかどうかだけだ。これに参加する気か?」
「もちろん!」
「やるといったと見るぞ。いいだろう、計画的に努力するんだぞ」
冒頭の父と子のセリフ。
一瞬突き放しているようでまったく突き放していない教育的なお父さんがイケてます。
ついでぼくはオスカーにもぐりこみ、ジッパーをしめあげた。
「気密か?」
(「気密だ!」)
懸賞で当てた宇宙服「オスカー」を見に包み、脳内でオスカーと会話するキップさん。思い入れある品を相棒に見立てたセリフって好きだな。
数分のあいだぼくはすっかり浮かれてしまい、あいつのことも、巻き込まれている災難のことも忘れ、部屋じゅうをぴょんぴょん飛び跳ね、そのすばらしい感触にひたり、すこし跳ね上がりすぎて天井に頭をぶつけ、床に落ちてゆくのが何とゆっくり、ゆっくり、ゆっくりしているのかと感じ入った。
宇宙人に拉致されて、まずは月に来てしまったキップさん。
それはそうと低重力環境を楽しんでしまうのが少年らしくていいですね。分かるし、私も低重力環境で遊んでみたい。
こういう非日常環境を体感するようなシーンが入るのも大長編ドラえもんぽい。というか藤子・F・不二雄作品よりもこっちの方が古い作品なんですけどね。
長らく忘れられていた名著を復刊、ということでさいきん出版されたようですが、こういう素敵な作品が埋もれていくのは本当にもったいないですね。
小説の世界もコンテンツ供給が多すぎて自分にとっての名品良品を見つけるのも一苦労ですが、その苦労をこれからも楽しめる出版・書店環境でありますように。