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かんたんにかんたんします。

「そしてボクは外道マンになる 2巻」平松伸二先生(グランドジャンプ)

 

 

平松伸二先生の自伝的漫画「そしてボクは外道マンになる」の2巻が鬱屈と熱量と連載継続崖っぷち感に溢れていてかんたんしました。

 

grandjump.shueisha.co.jp

 

 

1巻の感想 ↓

「そしてボクは外道マンになる 1巻」平松伸二先生(グランドジャンプ) - 肝胆ブログ

 

 

 


2箇月連続で単行本が発売されたこの作品。

直近'17.7月発売のグランドジャンププレミアムに掲載された話まできっちりと収録されています。

そして、2巻ラストの作者台詞(ドス黒いオーラと吐血付き)。

オレはまだ終わってねえエエエエ~~~ッ!!

 


……なんだろう、この「単行本の売り上げを見てから連載継続を判断しよう」感


気のせいだったらいいんですが。

気のせいじゃない気がしてなりません。

 

 

 


2巻では5~8話が収録されております。

 

特に熱いのが物議を醸した5話。



前半部分は権藤編集の叱咤にショックを受けたエピソードです。

長いんですが良い台詞なのでそのまま引用いたします。

「権藤さんはボクの事を……」
「漫画家として認めてるんですか!? 認めてないんですか!?」
「ハッキリさせて下さいよ!!」

「何ンだとオオオ~~!?」
「だったらハッキリ言ってやる!」
「オレはオメエの事を…」
「オレはまだまだオメエの事を」
「一人前の漫画家だなんてこれっぽっちも認めちゃいねえ~~~~~~!!」

(木刀で鍔迫り合い)


「オメエいつの間に木刀を!?」


「ボクだっていつまでもやられっぱなしじゃないですよ!」
「高校じゃ一年間剣道部にいたんでね!」

「一年間だと~~!?」
「だからオメエはまだまだ甘チャンなんだよオ~~!」
「いいか! 漫画に限らずどんな仕事でもな~~!!」
「一年間続けたくらいじゃあ」
「誰も認めちゃくれねえんだ!!」
「5年! 10年! 20年!!… その仕事をまっとうして初めて」
「世の中に認めてもらえるんだよオオ!!」
「「ドーベルマン刑事」の連載が始まってもうすぐ一年だ!!」
「だけどなア」
「そんなのはまだまだ漫画の世界の入り口に立ってるだけに過ぎねえ!!」
「テメエ漫画の仕事を続けるって事を!!」
「なめてるんじゃねえぞオオオオ~~~~~!!」

(木刀で頭を割られる)


「グワッ……」

「このジャンプの巻末を見てみやがれ!!」
「オメエ以外のほとんどの漫画家は原作付きじゃねえオリジナルで勝負してんだよ~~!!」


「…………」


「いいか! 漫画家ってえのはなァ自分で話を考えて絵も描くのが一人前の漫画家だ!!」
「今のオメエは半人前の ただのヘタクソな絵描きなんだよ~~!!」

「!?」


「しかもドーベルマンの連載が始まって一年近くになるってえのに」
「オメエは武論尊の原作をそっくりそのままやってるだけじゃねえか!!」
「今までに一度でも原作にはねえ場面やセリフを入れた事があるのか!? コノヤロ~!!」

「ア…アア……」


「今の「ドーベルマン刑事」加納錠治はなア 武論尊が創った加納だ!!」
「それにプラスしたオメエのオリジナルの何かを入れなきゃあ「ドーベルマン刑事」って漫画も!! 加納のキャラクターもふくらまねえんだよオオオオ~~!!」

「ウッ…ウウ…」


「もう一度ハッキリ言っといてやる!!」
「原作付きの漫画を描いてる限り」
「オレは絶対にオメエを漫画家として認めねえエエエエ~~~~ッ!!」
「悔しかったらなア オレを納得させるオリジナルの漫画を描いてみやがれ!!」

 


……作者の平松伸二先生は悔しくて悔しくて、でも権藤さんの言葉に反論もできなくて、泣きながら眠り続けたそうです。

後に先生は「ブラックエンジェルズ」や「マーダーライセンス牙」というヒット漫画を原作者なしで創り上げることになりますが、この権藤編集の言葉には長い間苦しめられたのだとか。

 


権藤編集、いいこと言わはりますね。

木刀で打ち据える必要があるかどうかは置いておいて(笑)、「どんな仕事でも一年続けたくらいでは認められることはない」というセリフ、私は好きです。


一方、セリフ後半の「原作付きの漫画家は認められない」というのは個人的には賛同いたしかねます。

もちろん当時の平松伸二先生を発奮させるために言ったことではあるのでしょうけど。

 

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完全に私見ですが。


いまの平松伸二先生に必要なものこそ「クオリティの高い舞台設定を提供できる原作者」だと考えています。

原作者抜きで「外道殺しバイオレンス」「平松節独特のケレン味ギャグ」を大成された先生は、言わば「抜身の刀」なのです。
抜身の刀を見せつけながらワイドショー的な敵をブッ殺してばかりいると、かえって作品が浅くなってしまうように思うのです。

さいとう・たかお氏の「ゴルゴ13」「鬼平犯科帳」には優れた脚本スタッフがついています。
漫画ゴラクの看板作品「ミナミの帝王」「白竜」では天王寺大先生が原作を担当しています。

現代の暴力漫画には、政治であれ時代劇であれ裏金融であれヤクザであれ、リアリティのありそうな・読者の知らない知識を提供する舞台設定が不可欠です。
こうした舞台装置が「鞘」として機能してこそ、バイオレンスな「刀」が生きてくるのだと考えます……。


この作品の「仁死村副編集長」なんてすこぶる魅力的なキャラ造形ですし、こういったキャラを前面に出して経済小説とかを漫画化したら盛り上がると思うんですけどね。


……すみません、素人が勝手な思いつきを書き過ぎました。

 

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5話の後半では、詳細は伏せますが現在のグランドジャンププレミアムの担当編集について恨みつらみを吐いた上、「漫画の中で地獄を見せてやる」となかなか見たことのない啖呵を切ってはります。

すごい。
さすが平松先生。

プロレスなのかもしれませんが、これをそのまま掲載してしまう編集部もすごい(笑)。

 

 

6話からは若干落ち着いたテンションになり(なんか方針指導が入ったのだろうか)、沖縄取材時に権藤編集の計らいで童貞を卒業した話や、初恋の話などが展開してまいります。

ドーベルマン刑事の沖縄編とかめっちゃ懐かしいです。

微妙なことで有名な実写映画版の「ドーベルマン刑事」のエピソードも入っていて、評価については特にコメントしていないのがかえって味わい深いことになっておりますよ。

 

  

8話でまたテンションが上がります。

担当編集が権藤さんから「魔死利戸」さんに突然変わりました。
ドーベルマン刑事の人気がやや落ちてきたことに対するテコ入れのようです。


旧担当の権藤さん、急に作者のことを「平松さん」とさん付けで呼び始め、淡々と引き継ぎをして去っていかはります。
情を見せないところがかえって雄弁に情を表していて、粋な好感を覚えます。


新担当の魔死利戸さんは……権藤編集と違って「友情・努力・勝利の熱血漫画」を小ばかにした態度です。
平松先生、イラッとしています。

更に、「ドーベルマン刑事にラブコメ要素を入れろ」と、軽くポップな路線に変えるように命令してきました。
平松先生、抵抗感を抱きます。


しかしながら……
結果として、魔死利戸さんの指示はすべて大当たり
新キャラ「沙樹ちゃん」がめでたくドーベルマン刑事の物語に嵌まって人気も回復しました。
魔死利戸さん、さすがですね。

「彼女は大事にしなきゃネ!!」
「何ンだかんだ言って… 男は好きな女性の笑顔のために仕事するんだからさ!!」

遠距離恋愛をしている平松先生に微笑みかけるシーンも格好いいです。


この魔死利戸さんもおもしろいキャラクターですね。
現在は白泉社の社長として打倒ジャンプを掲げているそうな。
そう言えば新社長の路線に、一部の従来白泉社ファンが抵抗感を示しているような話もありました。
これからの白泉社に注目であります。

 

 

 

……と。

5話が異常に濃くて、6-7話でちょっと一息ついて、8話で魔死利戸さんが登場したことでまた面白くなってきたね、というところで2巻は終わっています。

作者の込めた熱量がすごくて、満足度の高い単行本だと思いますよ。

 


現時点でドーベルマン刑事ですら中盤。

平松先生に伺いたいエピソードはまだまだたくさんあります。

 

 

できれば連載が続いてくださいますように。