肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「成年後見制度の課題……押領の温床から既得権益マターへ」

 

 

いろいろ興味や事情があって成年後見制度について調べていたんですが、もとの高齢者問題が難しいだけに制度もまだまだ課題が多く、日本社会が試されている感満載でかんたんしました。

 

↓制度

www.moj.go.jp

 

 

↓統計情報① by 最高裁判所

http://www.courts.go.jp/vcms_lf/20170324koukengaikyou_h28.pdf

 

 

↓統計情報② by 内閣府

http://www.cao.go.jp/seinenkouken/iinkai/2_20161003/pdf/sankou_6.pdf

 

 

 

成年後見制度というものをご存知でしょうか。


年を取って意思能力が危うくなってくる(認知症とか)と、お金の管理や不動産取引や介護施設入居やらの契約手続きを自分で出来なくなってきます。


ひと昔前ならば子どもが親の代わりに銀行や農協に行って親の口座からお金を下ろせたり、子どもが親の土地を勝手に売ったりもできていたんですが。
(大らかな時代でした)

いまどきそんなことをやっていたら子どもは逮捕されるし、ルーズな実務を手掛けた金融機関は処分されちゃったりする訳であります。

 


でも、実態として高齢者はたくさんの資産を有しておりまして、思いの外長生きしちゃった高齢者の面倒を見るためには高齢者自身の資金を使うことが不可欠だったりもします。
(親が金持ちでも子どもや孫がお金持ちとは限らないですし)


でもでも、高齢者の意思能力が怪しかったら高齢者の資産は活用できない……各種契約も締結できないよ……



そこで登場してくるのが「成年後見制度」なんですね。

(なお、高齢者以外でも活用できる制度です)

 

 


リンク先の法務省HPから引用しますと。

Q1

 成年後見制度ってどんな制度ですか?


A1

 認知症,知的障害,精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は,不動産や預貯金などの財産を管理したり,身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり,遺産分割の協議をしたりする必要があっても,自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。また,自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい,悪徳商法の被害にあうおそれもあります。このような判断能力の不十分な方々を保護し,支援するのが成年後見制度です。

 

Q4

 「後見」制度を利用した事例を教えてください。


A4

 次のような事例があります。

○ 後見開始事例

ア 本人の状況:アルツハイマー病 イ 申立人:妻 ウ 成年後見人:申立人
エ 概要
 本人は5年程前から物忘れがひどくなり,勤務先の直属の部下を見ても誰かわからなくなるなど,次第に社会生活を送ることができなくなりました。日常生活においても,家族の判別がつかなくなり,その症状は重くなる一方で回復の見込みはなく,2年前から入院しています。
 ある日,本人の弟が突然事故死し,本人が弟の財産を相続することになりました。弟には負債しか残されておらず,困った本人の妻が相続放棄のために,後見開始の審判を申し立てました。
  家庭裁判所の審理を経て,本人について後見が開始され,夫の財産管理や身上監護をこれまで事実上担ってきた妻が成年後見人に選任され,妻は相続放棄の手続をしました。

 

といったことが紹介されています。



これから高齢者はますます増えていき、更に団塊世代が70代に突入したりもしますから、日本は高齢社会どころか認知症社会になっていったりすることが想定されている訳で。

成年後見制度の利用もまた、ますます増えていくことでしょう。

 

統計を見てみると、毎年34,000件前後の成年後見人制度申出がなされているようですね。


最高裁判所統計から抜粋。

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 ↓同統計から申立動機を引用。資金管理、監護、介護保険、不動産……。

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ただ……

成年後見制度は有意義なものなんですけど、課題もいろいろあるんです。

 

 

おおきな課題その①が「押領」。


親の金は俺の金。

どうせ親は認知症なんだからバレないでしょ。

どうせ親が死んだら相続で俺のものになるんだ。
使い込んでもいいでしょ(外車購入)。


的な横領事件が跡を絶たないんですよね。

判明しているだけでも、毎年数十億円の財産が横領されているんですよ……。


内閣府統計から抜粋。

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財産が「個人」ではなく「家」に紐づく意識でいる人もまだまだ多いですから、使い込んじゃうルーズな気持ちも分からなくはないんですが……。


駄目なもんは駄目ですからね。

 

 

 

おおきな課題その②は「既得権益化」。


横領事件が多いこともあり。

裁判所の制度運用が近年変わってきております。


何かというと、後見人選任の「家族」から「司法書士等」へのシフト。


横領事件の実情を見ていると、素人&欲望丸出しの家族なんて信用ならんと。

やっぱり知性と責任感に溢れるプロを後見人につけるべきだよねと。


家族からの後見人申立でも、実際の後見人にはプロを選ぶ裁判所が急増しています。

 


例えば、申立を行った人のうち、子どもが約10,000件

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一方、実際に後見人となった人のうち、子どもは5,000件に過ぎず……。

代わりに弁護士が8,000件、司法書士が9,400件となっていますね。

 ※後見人を選ぶのは裁判所で、申立人は意義を挟めません

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そりゃ素人よりは、実務に精通しているプロの方がいい。

それはそうなんですけど……。

 


問題は後見人への支払手数料が「高い!」こと。



司法書士 成年後見人 報酬」などでグーグルさん検索をしてみると……

司法書士 成年後見人 報酬 - Google 検索

 


相場観として、


 ・月額2万円

 ・財産が1,000万円~5,000万円となると
  月額3万円~4万円

 ・財産が5,000万円~となると
  月額5万円~6万円


あたりなんだな、という結果がゴロゴロ出てまいります。

しかも、不動産取引等で財産が増えた場合は別途報酬を貰うよ、的な。

 


いや、そりゃ弁護士や司法書士という立派な人材を雇ったら普通それくらいするんでしょうけど。


紛争解決やら登記やらの用件ならともかく、「預金を下ろしたい」だけで月2万円~6万円は高過ぎます。

一般庶民はATMの数百円の利用料でもぶーぶー言ってるんですから。



年間で24万円~72万円!

後見人制度は一度始めると途中でやめられない!

高齢者はいつお亡くなりになるか分からない!

資産から年間数十万円が消えていく!

このマイナス金利の時代に!


……なんてこった!!!

 


と、子どもやお孫さんサイドが不満を抱くのもしゃーない訳です。

まして一部の司法書士さん(年々従来業務が減っていっている業種)が「成年後見制度バブルが来た! イエーイ」とか軽口たたいている現状を目撃すると、なお不信感が高まるのも分かります。

 ※サラ金の過払金返還訴訟とかと似たような印象を持つ人も多いようです

 


ちょっと前に「女性自身」で取り上げられていたくらいですからね。

じわじわこうした問題の認知が高まってきています。

 

「夫の年金を取り上げられた…」成年後見制度に潜む落とし穴 | 女性自身[光文社女性週刊誌]

 


裁判所もよかれと思ってプロを後見人に選んだり追加したりしているんでしょうけど、あんまり一般人の支持を得られない結果に繋がっていっている気がします。

満足度が低いのは、弁護士・司法書士に紐づく「高い能力」「高い報酬」と、「預金を下ろしたい」といった地に足の着いた「職務のレベル感」が釣りあっていないからなんでしょうね。

 

  

 

 

 


以上、後見制度の二大課題を紹介してみました。


家族に任せたら押領しよる、プロに任せたら費用がかかり過ぎよる。

そうとう運用が難しい制度だと思います。

(裁判所の窓口の人たちも悩んでいると聞きました)



一方で高齢者はますます増えていく……。

 


ひょっとしたら、お年寄りが意思能力を失った時点で「相続開始」するくらいの乱暴な議論も今後求められていくのかもしれません。

守るべきは高齢者なのか、高齢者の面倒を見る家族なのか。


アウフヘーベンが不足していますね。

 


すぐに解の出る問題ではありませんが、我が事としても世の中全体としても考え続けざるを得ない内容だと思います。

 


ああ、こんなことに悩むくらいなら。


私自身、ピンピンコロリと旅立てますように。

やっぱり子どもや孫に負担をかけるのは嫌ですねえ。