肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「お奈良さま」坂口安吾(青空文庫)

 

坂口安吾さんの短編「お奈良さま」の味わいにかんたんしました。

 

坂口安吾 お奈良さま

 

坂口安吾さんの小説は軽妙でキレがあって読みやすいですから、
硬い文章が多めの青空文庫の中でもとっつき易い方だと思います。

 


お奈良さま。


「お」「さま」と敬意を示す接頭・接尾がついていて
一見奈良県民が歓喜しそうなタイトルですが、
どちらかというと奈良県民が憤死しそうな内容です。

 

以下、ネタバレを晒します。
程度の低い下ネタも含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お奈良さまとは、オナラがとめどなく漏れ出ている
放出系のお坊さんの物語です。


くだらねー、出オチかよと思ってしまいそうな設定で、
私もそう思いながら読んでいたのですが。

意外と「むむ、なるほど」「確かに」と唸らされる
人間描写があったのでついかんたんしてしまったのであります。

 

常にオナラがブウブウ出ている住職さんですから、
檀家の方々も反応が分かれてまいります。

温かな目で接してくださる方もいれば、
ありえねぇとマジ切れしてくる方もいる訳です。

そりゃ葬式やらの愁嘆場でブウブウかまされたら
日頃取り澄ましている人でも激昂しますよね。

 


で、この屁こき住職だけだったら話もそう膨らまなかったと
思うのですが、もう一人の屁こきオヤジが登場するあたりから
話がおおきく展開してくるのです。


屁こき住職にも屁こきオヤジにもブチ切れている
屁こきオヤジの女房。

屁こきオヤジは「家の中でも屁をこくな」と奥さんに厳命されてしまいます。


この仕打ちを受けてオヤジが語る語る。

 

夫婦の関係というものは強いようで脆いものですな。たかがオナラぐらいと思っていると大マチガイで、家内がオナラを憎むのはオナラでなくて実は私だということに気づかなかったのです。

夫婦の真の愛情というものは言葉で表現できないもので、目で見合う、心と心が一瞬に通じあい、とけあう。それと同じように、手でぶちあったり、たがいにオナラをもらして笑いあったりする。オナラなぞは打ちあう手と同じように本当は夫婦の愛情の道具なんです。オナラをもらしあってこそ本当の夫婦だ。

夫婦の愛情というものは、人前でやれないことを夫婦だけで味わう世界で、肉体の関係なぞは生理的な要求にもとづくもので愛情の表現としては本能的なもの、下のものですが、オナラを交してニッコリするなぞというのはこれは愛情の表現としては高級の方です。

オナラを愛し合わない夫婦は本当の夫妻ではないのです。要するに妻は私を愛したことがなかったのですよ



オナラを通じて紡ぎだされる理想の夫婦論。

 

 

……うん。確かになあ。

単に肉体関係のある二人より、平気でオナラをしあえる二人の方が
絆は強いような気もします。

初対面SEXは珍しくありませんが、初対面放屁は多量の勇気が必要ですよね。

 

いや、しかし、デリカシーのなさ過ぎる人はやっぱりちょっとな。
恥じらいを保ち続けるのも夫婦のたしなみだ。

 

なんだか、立ち飲み屋で変なおっさんの隣になってしまって
酔った勢いの愚痴交じり説教をされたような気分です。

でも、そういう酒の記憶はずいぶん強く残るんだよな。

 

 

 

飾り気がないというか、なさ過ぎるきらいもありますけど、
人間生活の根っこの部分を端的に軽やかに描写していると思います。

物語のオチは伏せますが、あっさりこっくり終わってしまいますので
多大な期待はなさらないでくださいね。

 

 

皆様のおなかの調子が爽やかでありますように。

 

 

「ウルトラ怪獣幻画館」実相寺昭雄さん(ちくま文庫)

 

 

往年のウルトラマンシリーズの監督のひとり、実相寺昭雄さんによる
怪獣イラスト集「ウルトラ怪獣幻画館」にかんたんいたしました。

 

www.chikumashobo.co.jp

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実相寺監督は様々な領域に関心や才覚をお持ちの方だったようです。

お絵かきもお好きだったようで、誰に見せるためでもなく
膨大な数のイラストを遺されたのだとか。



監督作品としてはウルトラマンジャミラ回(故郷は地球)や
ウルトラセブンメトロン星人回(狙われた街)が有名ですが、
ガマクジラ回やガヴァドン回も手掛けてはったんですね。

言われてみればシュールな演出と脚本に共通項があるような気になります。



こちらのイラスト集でも、監督された回の怪獣を中心に
様々な情景を描かれています。

(写真を貼りたいのですが怒られそうなのでよしときます)


どの怪獣もウルトラマンも、愛嬌と、あの頃への憧憬が漂っていて、
心が豊かになるような思いです。

構成上はやはりメトロン星人ジャミラが目立ちがちですが、
個人的にはテレスドンスカイドンへの愛着が増しました。


ご自身で監督されていない怪獣たちの中ではぺスターがよかったですね。
「造形には美学あり」とコメントが添えられています。
お気に入りだったんでしょうか。
私もぺスターの着ぐるみ・スーツアクトが好きです。

 

とりわけ郷愁を感じたのは旧円谷プロ怪獣倉庫を描いた
「怪獣たちは何を夢見る…」というコメント付きの作品です。

撮影を終えた怪獣の着ぐるみが多数吊るされている光景、
これこそが本当の怪獣墓場なような、案外居心地のよい墓場なような、
一種の艶やかな妙を感じる素敵なスケッチなんですよ。

 ※まさかこの怪獣たちも後にウルトラファイトレッドマン
  撮影に駆り出されるとは思ってもいなかっただろう

 

 

この作品は製本もよい仕事がされています。

イラスト集という性質を踏まえ、ノド元までしっかり開くような
特別な仕立てがなされているのです。

こういう配慮、地味ながら素晴らしいと思います。

 

 

文庫でページ数も少ない作品ですが、見応えがあって
思い出に耽れて新鮮な発見もある、とてもよい本であります。

将来古本屋さんとかで珍重されることでしょう。

ウルトラマンファンの方はいまのうちに是非ご覧になってください。

 

 

成田亨さんの画集も欲しいんですよねえ。

青森県立美術館に作品や資料がたくさん収められているそうですけど、
なかなか青森には行く機会が……うごごご。


青森出張の予定が入りますように。
あるいは関西か東京辺りで回顧展が開かれますように。

 

 

 

「テニプリ布教集会」に参加してみた結果

 

 

テニスの王子様」ファンの熱烈なエネルギーに当てられてかんたんしました。

 

www.tv-tokyo.co.jp

 

テニスの王子様……通称テニプリ

広い範囲の女性から強い支持を得ている人気コンテンツであります。

 

その信者が布教集会を開きたいというので参加してみました。

大人になってくると趣味が多様化してきて、なかなか推しテーマについて
熱く語ることが難しくなってきます。

たまには友人の趣味話を互いに聞き合うのも紳士淑女のデトックスとして
意義がありましょう。

私もかつてこの友人に「バイオレンスジャック」を全巻読んでもらった
恩がありますので即座に快諾させていただきました。

 

参加者は初め3人、遅れて1名が追加となりました。

便宜上、参加者を以下の通り呼称いたします。


 司教……主催者。テニプリファン歴10年以上のガチ勢

 子羊……テニプリ知識ゼロの生娘状態

 私………テニプリは原作漫画をサラッと読んだことがある程度

 パウロ…遅れて参加。ミュージカルメインのガチ勢

 

プログラムとしては司教のおうち(教会)に集まり、
数百曲あるというキャラソンがエンドレスで流れる中
各キャラクターの名場面ダイジェストをひと通りDVDで鑑賞。

だいたいの感覚が掴めてきたところで出前のお寿司を食べながら
劇場版 テニスの王子様 英国式庭球城決戦!」を観るという流れです。


総計でだいたい10時間くらい。
冷静に考えると軟禁というものに近いのかも。


なお、3次元のミュージカルまで範囲に入れると収拾がつかなくなるので
勘弁してもらいましたが、信者的にはミュージカルこそ見てもらいたいそうな。

いずれ第2回集会が開かれる予感がします。

 


そもそもテニプリとは。

詳しい解説は省きますが、テニス、あるいはテニヌと呼ばれる
スポーツで競い合う少年たちの物語です。

 テニヌ - Google 検索

テニスらしくスコアを積んで6ゲームを先取したり
テニヌらしく相手をKOしたりしたら勝利になります。


特徴は、登場人物がほぼ全員美少年であること。

美少年がよく分からないことを見開きで叫びながら
よく分からない技を繰り出すと相手が空へ吹っ飛んで落ちてくる感じです。

おおきくは聖闘士星矢の後継者的な漫画と思ってください。

 


私は「COOL」「COOL」「COOL」と連呼していた時代から原作を読んでいるので
だいたいのストーリーは知っています。

格好いいところもネタとして笑うべきところもなんとなく分かります。


しかし、まったくの未経験者である子羊ちゃんにはこの時点で
そうとう刺激が強かったようです……

審判台の下を経由するブーメランスネイクの軌道、
「破滅への輪舞曲」というネーミングと技の内容、
光の速さで動いたり相手の五感を奪ったりする黄金聖闘士級の奥義

目にするたびに

「なにこれ」
「なにこれ」
「あたしの知っているテニスと違う」

と爆笑しつつ、跡部さんと真田さんのイケメンイケボイスぶりに
やられて雌の顔をさらけ出してやがりました。

 

かくいう私も、アニメ版やキャラソンはまったく未経験です。

アニメはまあ原作がイケボイスをまとった感じなので
まだ平常心でついていけたのですが、
キャラソンの世界観には完全にやられました。

 テニスの王子様 キャラソン - Google 検索

 

なんぞこれ。

いったいなんぞこれ。

こんな世界があったのか。


司教と子羊の推しが一致したので跡部さんのキャラソンを中心に
リピードしていたのですが、なんとも言えない中毒性があることは
認めざるを得ません……!

チャームポイントは泣きボクロ
ゴージャスホクロ~♪


……お、おう。せやな。そうやな。

 

アッア ア アアッ "アーン?"


ドラえもん超えてるよね!?」
「これやばーい、やばーい!!」
「…………」

 


すごい。

惹きこまれるというか、引きずり込まれるような引力を感じます。

キャラソンとはこれほどの力を有していたのか。



個人的にはイケメンキャラたちよりも四天宝寺中の皆さん、
特に金ちゃんと銀さんがあらためて気に入ったので
「浪速のソーラン節」をもっと聞いていたかったです。

かわいいよね金ちゃん。

 

 

この時点で7時間くらい経過していて、さすがに疲れてきたところに
パウロさんとお寿司が届いたのでまったり映画を観ることにしました。


この映画がまた、笑いどころだらけで……!!


極めてテニプリらしい、ファン的にはたまらないであろう映画でございました。
敵の本拠地に殴り込んでいくのが人気キャラばかりでしたしね。
(金ちゃんがハブられたのが納得いかない)


不二さんが白馬で登場するところのキラキラぶりには一同悶絶していましたし、
ハンターハンターの無限四刀流の人みたいな戦い方をする敵や
“気”を放ってリョーマ君を吹っ飛ばしてくる敵には厚いテニヌ味を感じましたよ。


この頃にはすっかり子羊ちゃんの洗脳も完成していて、
いちいち的確なツッコミを入れながら堪能してはりました。

 

布教集会、ちゃんと成果を上げているじゃないか。

 

 

 

かくして集会は夜更けにまで及び、明日が早い私だけは一足早く
失礼してきた次第です。


ああ、えらいものに遭遇した一日だった。


テニプリが有するエネルギーというかカロリー、
尋常ではありません。

近づくだけでも相応の覚悟が必要ですね。

 

 

とは言えたいへん楽しかったので、もう1回くらいなら布教集会に
顔を出してもいいかなと思ってしまってもいます。


次回は四天宝寺や「新」の高校生が着目されますように。

 

 

 

日経新聞より「テンセントを真っ向批判 人民日報、ゲーム自殺騒動で」

 

 

日経新聞が報じた中国のゲーム・IT大手「テンセント」の記事に
かんたんいたしました。

 

www.nikkei.com

 

 

テンセントという中国の企業をご存知でしょうか。


たぶん知らない人の方が多いと思います。

現在世界時価総額ランキング10位。
アリババ社に次ぐ中国企業ナンバー2。
すなわちアジア企業としてもナンバー2。

世界時価総額ランキング2017 ― World Stock Market Capitalization Ranking 2017


残念ながら規模面では任天堂ソニーが束になっても叶わない、
世界トップクラスのゲーム・IT企業さんなんですよ。


中国のゲームマーケットというと日本の人気ソフトの海賊版
露天で並べられていて当局に内緒でこっそり楽しんでいるような
アングラなイメージがあるかもしれませんが、この10年ですっかり
様変わりしておりまして。

このテンセント社、アメリカの大手ゲーム会社を次々と買収したり
色んなゲームで採用されているゲームエンジンを提供したり
AI活用を積極的に研究したりと手広くブイブイいわせてはります。



今回のニュースは、そのテンセントさんの株価が急落したという内容です。


どうしたかというと、同社のスマホゲームが中国内で人気出すぎて、
親に叱られた13歳の少年が飛び降り自殺を図ったり
11歳の少女が盗んだクレジットカードで170万円も課金したりと
不穏な事件が続いたものでしたから、ついに当局機関紙の人民日報が
同社をバッシングしまくったという経緯なのであります。


……なんか、日本でもありそうな(あったような)話ですね。

廃課金問題とかコンプガチャ問題とか。


これからVRが普及したら、狂四郎2030みたいなサービスが出てきて
ますます少子化が進んでますますゲーム?業界が叩かれるんだろうな。

 


どこの社会でもどんな領域でも、王者という立場は品格や責任を
求められるものです。

トップ企業は高い水準の社会貢献やお客様サービスやコンプラコストを
要求されますし、大臣さんは不倫がばれたら失職してしまいますし、
横綱は変化したら叩かれてしまう訳です。


中国社会でもそうあるべきとされているのでしょう。


中国当局というところは頭のいい方々ですから、
こうしてトップ企業をときどき叱って、
業界全体の引き締めやモラルアップを図っているんでしょうね。
自分たちに民の矛先が向かないよう計算しつつ。

 


……中国当局、本当に頭がいいです。動きも早いし。

このテンセント社のサクセスストーリーでもそうですけど、
外資企業への参入障壁のかけ方が天才的です。

凄まじい人口を有する巨大マーケットの魅力をチラつかせて、
「ちょっとだけ」外資企業を参入させて、コツを吸収して、
「オラオラァッ」と自国企業を大成長させる。

有形無形、当局による様々な形のバックアップ。
センスが高過ぎます。
これは卑怯と言ってはダメで、むしろ見習うべきでしょう。

 

 

これからも中国企業の日本進出が続くんだろうなあ。


「中国製品なんて買わんし」って思う人も多いかもしれませんが、
違うんですよ。

中国クラスのマーケットでてっぺん取った企業って、
莫大なマネーマネー資本を蓄積できますから。

わざわざ中国でウケた商品やサービスを日本向けにローカライズするとか、
手間かかる割に儲からないことなんてしませんよ。


……日本の儲かる企業を次々に買収していくんです。


さいきんクラッシュした郵政のオーストラリア企業買収だとか、
バブル期の日本勢によるアメリカ企業買収だとか。

日本クラスのトップ企業ですらそういうことができるのです。

中国クラスのトップ企業なら、どんな企業でも買収できちゃいます……。

 

まあ、日本は低成長社会ですから、わざわざ日本企業を買収するよりは
他地域の企業買収を優先するでしょうけど。

それでも最近までの不動産価格高騰はだいぶ中国マネーの影響が
ありましたし、引続きある程度は買収されちゃうんだろうなあ。
先端技術や独自技術があるところほど。

シャープとかシャープとか。

ゲーム業界で言えばコーエーのような企業が狙われるかも。
是非とも「大志」を傑作にしていただいて、高株価を維持してほしいです。

 

こういう潮流を受けて、案外、10年くらいしたら
企業間の株式持ち合いが復活するかもしれませんね。

日本企業の純潔を守れ、的な。


いやいや、んーむ。
安直で下策な匂いがする。


日本式の、新たな参入障壁の築き方が求められているんだろうなあ。

21世紀型の築城術。
求む軍配者。
いい案を編み出せたらどこの企業にも仕官できますよ。

 

 

冗談はさておき、日本も中国もゲーム業界が健全に成長して
世間様の理解を得られますように。

若者も食い物にされるばかりではなくて、
たまには大人をぎゃふんといわせてやれますように。

 

 

三好長慶の法名「聚光院殿前匠作眠室進近大禅定門」……7/4は命日です

 

信長の野望シリーズの公式ツイッター三好長慶の命日について
触れられていてかんたんしました。

 

twitter.com

 

 

……けっこう驚きました。


信長の野望公式アカウントが三好長慶を話題にするとは。

しかも「信長同様に天下に近かった男」って、
長慶を信長と同じようなところに位置づけるとは。


「201X」のような外伝作品ならともかく、本家信長の野望では
初めてのことではないでしょうか。

 


三好長慶の研究であったり天下布武解釈の研究であったりが進んだ結果、
最近は「当時の天下≒畿内(足利幕府周辺)」であることが定説に
なってきております。

実際に長慶さんは当時の史料では「天下主」とか「天下執権」とか
呼ばれている訳です。
そういう経緯で「最初の天下人」とアピールされたりもしています。

(細川さんは?)



狭義の天下と広義の天下。
史学的にはともかく、素人的にはやっぱりややこしいですね。

 


一方、信長の野望で言う「天下」とは、ゲームクリア状態のことと見て
問題ないでしょう。


「創造」の場合、

  ・全国制圧

     or 

  ・京を含めた30国(日本の約半分)を支配した上で惣無事令を発す

がクリア条件になります。


長慶さんも信長さんも京畿を含む広大な領国を有しましたが、
全国の諸大名全てを従属させた訳ではありません。
(もちろん、領国数や官位が信長>長慶であることは言うまでもありません)

よって、コーエーさん的には「天下人=秀吉・家康の二名」、
「天下に近かった男=長慶・信長の二名」という整理になるのでしょう
細川高国 with 大内義興細川晴元に対する評価は不明)


狭義の天下派です。
現代人にも理解しやすい定義ですね。

 


この他、ツイッター上にある「家臣の謀略に翻弄」とは……
おそらく松永久秀のことでしょう。


久秀忠臣説については定説になったと言い難い段階ですから、
いままで通りお腹真っ黒野郎としてキャラ立てされるんですかね。

個人的には、久秀忠臣説のあおりで三好三人衆が更に過小評価されている
気がして、引き続き多角的な議論がなされていくことを望みます。



まあ、歴史上の松永久秀がどういう人物であったかは一旦置いといて……

「長慶も信長も家臣に叛かれて道半ばで斃れた」と横並びにしといた方が
さまざまな方の精神衛生上よいのかもしれません


近頃、信長さんがますます不当に乏しめられがちだと思います。
有名税というやつなのかもしれませんが……。

どんなジャンルであれ、マニアは新説に飛びつきがちです。
皆が知らないことを披露すればちやほやされるからです。

三好長慶その他諸大名の研究が進んだからといって、それを元手に信長さんが
ディスられるのは三好ファンとしてもいい気分ではありません。

細かな政策や組織運営に注目して比較するのも大事なことですが、
その前にまず、長慶であれ信長であれ、混乱期の中央政界で「火中の栗」を
拾った勇気と才気の持ち主を尊敬する姿勢が人として必要だと思います。

 

 

 

脇道が長くなりました。


本題に入ります。

今日、七月四日は三好長慶の命日になります
(ただし旧暦ベース命日です)

 


長慶さんは1564年に亡くなりましたが、その死は秘密にされ、
1566年まで文字通り塩漬け状態で飯盛山城に埋められていました。


……死んでからも悲惨な身の上です。



1566年、ようやく葬儀や三回忌が執り行われます。

この際に送られた法名(戒名)が「聚光院殿前匠作眠室進近大禅定門」

 


私、この「聚光院」という名が好きなんですよね。

 


三好長慶⇒「光が集まる(聚)人」。

 

三好長慶 光属性説。

 

家族から受け継いだ光子力エネルギーの力で
Dr.ハルや暗殺大将軍と死闘を繰り広げた説。

 

 

そうとう暗い人生を送った長慶さんの戒名が
こんなに光の戦士感に溢れているなんて。


なんだか意外な面白さがありますよね。

 

 

ちなみに信長さんは総見院です。


「すべてを見る人」です。


これはこれで何か謎の納得力があるように思います。



法名って、当時も親しいお寺さんが色んな故事とか仏法とかをもとに
決めてくれるものなんでしょうけど、やっぱり生前の人物像・キャラも
踏まえて名付けてはったんですかね。

 

 

 

京都の大徳寺には、長慶さんと利休さんが眠るその名もずばり
「聚光院」という塔頭がございます。

「そうだ 京都は、今だ。」でも取り上げられていましたね。


私も特別拝観の際に伺ったことがありますが、ものすごく眼福でした。

石と苔がまぶされた百積の庭。 
狩野松栄・永徳父子による襖絵。
千住博さんが近年描かれた襖絵。
長慶さんと利休さんの木像。

ありがたい……
本当にありがたい……

 

拝観は叶いませんでしたが、お庭の裏では長慶さんと利休さんのお墓が
仲良く並んで立っているようです。

利休さんが植えた沙羅の樹がいまも二人の墓を見守っているんですよ。
(樹は三代目くらいのようですが)


千利休といえば秀吉さんとの諸々のエピソードが注目されがちですが、
長慶さん時代のエピソードを示す新史料とか
出てくれば面白そうですね。

 

 

そういう訳で、またしばらくしたら聚光院の特別拝観が許されますように。

次は雨か雪が降っているときに訪れたいです。

 

 

 

 

奈良県桜井市 三輪山本の「吉野本葛入りくず餅」

 

三輪のくず餅がぷるぷるやわやわおいしくてかんたんしました。

 

創業300年の伝統の味・三輪そうめんの老舗|株式会社三輪山本

http://www.miwa-somen.jp/item/178.html(くず餅)

 

 

二日続けて吉野葛のお話です。

葛が食べたくなったので、いただきもののくず餅を食べてみました。



こちらは三輪山本さんによるくず餅であります。


三輪山本はそうめんのおいしさで有名な会社ですね。

そうめんは日本のあちこちにおいしいものがありますが、
私は三輪のものがお気に入りです。

何度か三輪山本のお食事処にも行ったことがあります。
店内は風雅だし、そうめんに加えて柿の葉寿司もおいしいしで
なかなか満足度が高かったですよ。

大神神社や山の辺の道などにお越しの際にいかがでしょう。

 

 

さて、くず餅です。


けっこう大ぶりで、わらじハンバーグくらいのサイズがあります。
2人前ということですけど、3人でシェアしてもよいくらい、
ちょっと足りないくらいが一番よいかもしれません。

切り分けるのは若干面倒です。
密封して品質と日持ちを高めるためには仕方ない……
ここは割り切りましょう。 

 

 

中身はくず餅、きなこ、黒蜜というシンプルな構成。

くず餅のひやぷる食感、染み出すような甘味はとてもおいしいです。
吉野葛の効果かどうかは分かりませんが、間違いのない味だと思います。


やわやわと崩れやすいので、格好つけて黒文字で食べるよりは
スプーンで食べた方がいい感じです。



きなこ・黒蜜もよい働きをしてくれます。

それぞれ甘味が強めですから、くず餅の淡い味を楽しむためにも
少しずつかけた方がいいですね。

くず餅ってすべすべしていて、上から黒蜜をかけてもどうせ器の底まで
流れていってしまいます。

洗いものが増えても構わないならば、つけ麺のように別皿に用意した
きなこ・黒蜜をその都度つけて食べるのが吉です。
(そのためにもスプーンがおすすめ)

 



こうした冷たい和菓子がおいしい季節になりましたね。

今日の蒸し暑さ、かん袋さんの氷くるみ餅や赤福さんの赤福氷のような
氷をつかった甘味にダイブしたい気分であります。

 

暑い、冷たいもの食べる、暑い、冷たいもの飲む……の繰り返し、
けっこう体力を使います。

風邪もひきます。(ひきました)


おなかを中心に身体をよく整えて、
爽やかな心持ちで梅雨を乗り切れますように。

 

 

幻の後南朝小説「吉野葛」谷崎潤一郎さん(青空文庫)

 

 

谷崎潤一郎さんの「吉野葛」の書き出しで
「んほぉおー!! 後南朝小説! まじか!!」とかんたんしてたら
そんなことはなくてうまい話はないもんだとがっかりしつつも
内容自体はやっぱり面白くてかんたんいたしました。

 

 

青空文庫リンク)
谷崎潤一郎 吉野葛

 

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

吉野葛」は……

谷崎潤一郎さんが「後南朝もの」のネタ取材にお友達と吉野へ行きました。
道々、源義経南朝逸話にまつわる事物風光を見物しつつも、
お友達の話す「吉野生まれの母」の物語に引き込まれ……

という筋立てになります。
吉野葛をつかったお料理はでてきません。

 

 

構成は一見とっ散らかっていて、何を主題にした小説? エッセイ? なのか
よく分からない……とっつきづらい……という第一印象になるのですが。

よく見るとあれやこれやが後半の友達の物語に対する前フリや伏線になっていて、
ひょっとして緻密に計算された構成なのではとも思ってしまうのです。

賛否両論な作品と聞きますが、その理由はこんなところにあるのかもしれません。

 


作者が谷崎潤一郎さんですから、文章の美しさはひとしおです。

 

個人的には吉野の集落の風景を描写したこんな一篇

恐らくこの辺の家は、五十年以上、中には百年二百年もたっているのがあろう。が、建物の古い割りに、どこの家でも障子の紙が皆新しい。今貼りかえたばかりのような汚れ目のないのが貼ってあって、ちょっとした小さな破れ目も花弁型の紙で丹念に塞いである。それが澄み切った秋の空気の中に、冷え冷えと白い。一つは埃が立たないので、こんなに清潔なのでもあろうが、一つはガラス障子を使わない結果、紙に対して都会人よりも神経質なのであろう。東京あたりの家のように、外側にもう一重ガラス戸があればよいけれども、そうでなかったら、紙が汚れて暗かったり、穴から風が吹き込んだりしては、捨てて置けない訳である。とにかくその障子の色のすがすがしさは、軒並の格子や建具の煤ぼけたのを、貧しいながら身だしなみのよい美女のように、清楚で品よく見せている。私はその紙の上に照っている日の色を眺めると、さすがに秋だなあと云う感を深くした。

であったり(この描写は後段の物語の前フリにもなっています)、

源義経静御前の遺物(真偽は疑わしい)を見せてくれた土地の方が
ご馳走してくれた「ずくし」(熟柿)を食べた時の感慨

私はしばらく手の上にある一顆の露の玉に見入った。そして自分の手のひらの中に、この山間の霊気と日光とが凝り固まった気がした。昔田舎者が京へ上ると、都の土をひと握り紙に包んで土産にしたと聞いているが、私がもし誰かから、吉野の秋の色を問われたら、この柿の実を大切に持ち帰って示すであろう。

であったりが特に印象に残りました。

障子の清々しさや熟柿の尊さがこんなに深々と感じられる文章は
そうそうないですよね。

 

 

 

前述の通り、後段のその四~その六はお友達の話がメインになります。


お友達の早世した母親について。

お友達は長らく母親のルーツを調べていたが、結婚前は苦界にいたこともあって
誰も教えてくれない、分からないまま時が流れてしまった。

ある日、偶然に母が吉野生まれであることを知った。

吉野を訪れてみたら、母の親族に幸い出遭うことができた。

その親族のひとりに見惚れてしまった。
嫁に貰いたいと思うのだが、君にも是非会って貰って君の観察を聞きたいんだ。


というような流れでお話が進んでいきます。


話の背骨になっているのはお友達の亡き母への思慕の強さで、
純粋な慕情なのか歪んだ恋慕なのかと混濁した印象を抱くほどです。


折々に文楽浄瑠璃の一節なんかを引用していて格調高いことが
かえって頽廃的な照りを出しているように思いますね。

例えば母親と「葛の葉」を重ね合わせるような物言いがあるのですが、
「葛」というところでタイトルとも繋がっている気がするのですが、
普通の母親に「葛の葉」みたいなキャラ設定はつけませんからね。

葛の葉っていわゆる安倍晴明の母親(正体は狐)ですからね。
シャーマンキングで言えばハオおじさんのお母様ですからね。


つまりお友達は自分の身上を安倍晴明とかハオとかになぞらえた上で
母恋し中二全開editionな焦がれを長年患いこんできた訳なんですよ。
それを格調高い美文で延々語っているから面白いんですよ。

最終的に母の面影を感じる娘さん(要はアンナ)に惚れてしまう訳ですし。
エディプス! コンプレックス!!


このお友達、大阪の島の内出身の旦那さんです。
ええところのお坊ちゃんなんです。

いいですねえ、亡き母親の呪縛に囚われた無垢青年。
いつの時代もけっこうなニーズがありますよね。 
ぜったい夜中にひとりで「母さん……」とか呟いて泣いてますよ。

 

 

 


さて、本編は以上の通りなのですが。


私がこの小説を読み始めたのは、次の導入部に痺れたからなのです。

 

読者のうちには多分ご承知の方もあろうが、昔からあの地方、十津川、北山、川上の荘あたりでは、今も土民によって「南朝様」あるいは「自天王様」と呼ばれている南帝の後裔に関する伝説がある。


 

普通小中学校の歴史の教科書では、南朝の元中九年、北朝の明徳三年、将軍義満の代に両統合体の和議が成立し、いわゆる吉野朝なるものはこの時を限りとして、後醍醐天皇の延元元年以来五十余年で廃絶したとなっているけれども、そののち嘉吉三年九月二十三日の夜半、楠二郎正秀と云う者が大覚寺統親王万寿寺宮を奉じて、急に土御門内裏を襲い、三種の神器を偸み出して叡山に立て籠った事実がある。
この時、討手の追撃を受けて宮は自害し給い、神器のうち宝剣と鏡とは取り返されたが、神璽のみは南朝方の手に残ったので、楠氏越智氏の一族等は更に宮の御子お二方を奉じて義兵を挙げ、伊勢から紀井、紀井から大和と、次第に北朝軍の手の届かない奥吉野の山間僻地へ逃れ、一の宮を自天王と崇め、二の宮を征夷大将軍に仰いで、年号を天靖と改元し、容易に敵の窺い知り得ない峡谷の間に六十有余年も神璽を擁していたと云う。
それが赤松家の遺臣に欺むかれて、お二方の宮は討たれ給い、ついに全く大覚寺統のおん末の絶えさせられたのが長禄元年十二月であるから、もしそれまでを通算すると、延元元年から元中九年までが五十七年、それから長禄元年までが六十五年、実に百二十二年ものあいだ、ともかくも南朝の流れを酌み給うお方が吉野におわして、京方に対抗されたのである。


!!

 

私の知り得たこう云ういろいろの資料は、かねてから考えていた歴史小説の計画に熱度を加えずにはいなかった。南朝、―――花の吉野、―――山奥の神秘境、―――十八歳になり給ううら若き自天王、―――楠二郎正秀、―――岩窟の奥に隠されたる神璽、―――雪中より血を噴き上げる王の御首、―――と、こう並べてみただけでも、これほど絶好な題材はない。

普通世間に行き亘っている範囲では、読み本にも、浄瑠璃にも、芝居にも、ついぞ眼に触れたものはないのである。そんなことから、私は誰も手を染めないうちに、自分が是非共その材料をこなしてみたいと思っていた。


!!!

 

 

 

まじかーー!!

 


文豪!

 

 

谷崎潤一郎が!!

 

 

後南朝小説を!!!

 

 


うっほぉぉおおイェーイと痺れまくったのです。

(しかし吉野民のことを土民とは言い過ぎではないか)

 

しかし、お話はまったく後南朝に関係のない方向に流れていき、
それはそれで前述のとおりたいそう面白かったのですが、
あれ? 後南朝は? と思い続けて最後まで読んでみると……

 

 

私の計画した歴史小説は、やや材料負けの形でとうとう書けずにしまったが

 


…………ズコー!!


肩すかしを喰らって土俵下まで突っ込んで頭を割ったような思いです。

 


谷崎潤一郎をして「材料負け」。

 


なんて重いんだ後南朝

ますます誰も手を出せないぜ後南朝

 

 

 

いつか後南朝を扱った大ヒット伝奇物語が生まれますように。