畿内戦国史「応仁の乱~明応の政変~両細川の乱~三好政権」や関東戦国史「上杉禅秀の乱~永享の乱~結城合戦~享徳の乱~長尾景春の乱~長享の乱」の通史をまとめたムック本が出版されていて目を疑いつつかんたんしました。
信じられない。
誰が買うんだこんなムック。
(買いました)
定説をまとめたものですので最新の論文などを読んでいる方にとっては新鮮味はないかもしれませんが、大多数の歴史ファンからすればめちゃくちゃ新鮮だと思います。
*こんな人におすすめですよ*
論文とか専門書とかを読むのはちょっとハードルが高いけど……
-三好家に興味がある
-むしろ細川政権を知りたい
-関東史における上杉謙信さんや後北条家の位置づけを理解したい
-太田道灌さんって何した人なんだろう
-朝倉英林孝景さんや今川氏親さんについても知りたいなあ
すなわち、「応仁の乱」あたりから「織田信長さん登場」あたりまでの濃密なスキマを取り扱ったムックでございます。
こいつぁおすすめですよ。
構成も良心的でして、まずは「室町幕府の構造的課題」をちゃんと説明いただけます。
南北朝争乱や観応の擾乱等の関係から守護の権限を強くせざるを得なかった(相対的に幕府の力は強くなかった)、併せて京都に幕府を開かざるを得なかった(関東・鎌倉府の独立性が高かった)、守護は在京しないといけないので守護代・国人の自立を招きやすかった(やがて下剋上へ)、鎌倉時代の分割相続の反省から相続は惣領制になっていて家督争いを惹起しやすい構造だった(そして訪れる応仁の乱)……などなど、後の戦国時代に繋がる要因がきれいに整理されており親切です。
こう書くと室町幕府が250年も続いたのが不思議なくらいですけど、不安定さがかえって勢力の均衡を生みやすかったのかもしれませんね。
その上で、メインコンテンツとなる「幕府崩壊・消滅へのカウントダウン」という章。
構成は
・室町幕府が終わるまで
②関東が先に戦国化! 享徳の乱が勃発
③西では応仁の乱開始! 大混乱の日本列島
⑤細川政元が殺された! 幕府と細川家がメチャクチャに
⑥これもひとりの天下人? 駆け抜ける細川高国
⑧細川家の中で代々増す三好家の実力とその関係
⑨いつの間にか三好政権? 細川晴元が追放される
⑩ついに将軍も殺され 風雲児、織田信長登場
⑪とうとう滅亡した室町幕府 その役割は終わった
・合戦データ
2【享徳の乱】
3【明応の政変~両細川の乱】
5【三好政権】
すごいでしょう。
⑩⑪が信長さんですが、信長さんは実質⑪の1編だけ。
実質ベースで細川政権が4編、三好政権が2編というバランスの構成なんですよ。
室町幕府の解体という意味では正しいかもしれませんが、驚く人は多いと思います。
表現はマイルドながら、三好長慶さんだけでなく、細川政元・高国・晴元さんたちをも天下人として扱っているのも踏み込んではります。
とりわけ大内義興さんを味方につけた細川高国さんの評価が高いのは嬉しいですね。
同様に関東史も分かりやすく時系列に記載いただいておりますので、鎌倉公方・関東管領の対立構造、両上杉の争いと長尾景春さん、そして現れた後北条家、更には上杉謙信さんの関東管領就任……というダイナミックな流れがよく理解できると思います。
前史を知っておくと北条氏康さんや上杉謙信さんの活躍の凄さを一層感じ入ることができて楽しいですよ。
かんたんに各キーパーソンの紹介もしていただいておりまして、「超能力に傾倒し 政元、暗殺される」とか「両上杉が争い 北条早雲が躍り出る」とか、見出しレベルからして興味を引く分かりやすい記述がなされております。
【晴元政権の対立構造の変化】の解説が「①1541年 木沢長政の造反」「②1546年 遊佐長教の裏切り」「③1548年 三好長慶の反逆」と端的に分かりやすくポイントをまとめてくださっていて晴元さんが気の毒になったりするのもこの手の歴史ムックとしては超レアだなあ。
(こう書くと長慶さんが木沢長政・遊佐長教コンビの同類に思えて愛しい)
おまけの合戦データ5種も、それぞれ30個もの合戦がマニアックにまとめられていて必見性高いです。
武田信長さんとか長尾景信さんとか赤沢朝経さんとか畠山尚順さんとかの名前が普通に載ってますよ。
よくまとめはったなあ。
このように戦国時代前半の通史をひととおり解説いただいたうえで、終盤のページでは上杉家(越後長尾家)・北条家・武田家・今川家・朝倉家・斎藤家・織田家・毛利家・九州三強といったよく知られる人気者たちの成り立ちに触れてくださっているのもいいですね。
「こうしてよく知られる戦国時代になったんだなあ」と繋がりが理解できることでしょう。
以上の充実した内容でジャスト1,000円。
興味のある方は売り切れる前に確保しておいた方がよいかと思われます。
本屋さんなどで見かけたらぜひ手に取ってみてください。
じわじわこの辺の時代の人気が出てきて、研究が更に進んだり楽しい創作コンテンツが誕生したりしていきますように。