久しぶりに刊行されたギャラリーフェイクの新刊が、時事ネタを充分に活かしつつ物語としてもアートリスペクトとしても面白くてかんたんしましたぜ。
以下、ネタバレを一部含みますのでご留意ください。
収められているお話は次のとおりです。
- 悪役の作法(トランプ大統領とルノワールなお話)
- サムライの一分(刀剣女子とユーチューバーのお話)
- Save Hong Kong! Save art!(香港デモと伏生尚書のお話)
- 虎と猫(長沢芦雪の虎図のお話)
- 幻のジョルジョーネ(コロナ禍とジョルジョーネのお話)
- 初音の選択(大水害と船箪笥のお話)
いずれもご時世を踏まえつつ、ギャラリーフェイクらしい作劇になっております。
どのお話もクオリティが高い前提で。
一番驚いたお話は「幻のジョルジョーネ」でして、ガチネタバレですが、フジタの盟友「カルロス」さんがコロナであっけなく逝ってしまわれるという。
もう一枚のモナリザ探し等、主要エピソードにずっと絡んできてくれたカルロスさんを失うというのは、フジタさんにとっても、我々読者にとっても、非常に喪失感が大きく純粋にショックでした。
お話そのものはカルロスさんの後継者的な内容で、しっかりと面白かったですし、後継者の方も「最強の後継者」なので安心なんですけどね。
ギャラリーフェイクは、菱沼棋一郎さんなんかもそうでしたが、準レギュラー人物があっさり亡くなってしまうことがあるので油断できませんね。
そういう哀しいエピソードがまた名作だったりしますし。
私の好みは「サムライの一分」と「初音の選択」。
前者は騙された女性モノ、後者は女性を失った男たちモノで、話の組み立て自体は古典的な文法に沿っているんですけれども。
細野不二彦作品の女性情念モノは、独特のロマンチシズムがあって好きなんですよね。
「サムライの一分」は、ヒロインの女性が恨みを晴らしはしつつ、恋しさも悲しさも溶け切らずにぽろぽろ泣いているのがとてもいいと思います。
裏側で、フジタさんが怪しげなハタ師と結託してサポートしているのも好き。
「初音の選択」は、いなくなった女性の思い出を追いつつ、おっさん二人が争うお話なのですが、おっさん二人が微妙に有能だったり無性にロマンチックな面があったりするのがかわいくて好きです。
登場したアート作品の中で好きなのは、長沢蘆雪さんの虎図ですね。
「かわいい」、でも「妙な迫力がある」というのがまさにその通りだと思います。
「かわいいこわいおもしろい 長沢芦雪」岡田秀之さん(新潮社)と「新美の巨人たちで“虎図”」 - 肝胆ブログ
ギャラリーフェイクは、こち亀やゴルゴと同様、読んだら間違いなく面白いという信頼感がいいですね。
毎々お話を考えるのも大変だと思いますが、これからも読切等なんらかの形で作品が続いていきますように。