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かんたんにかんたんします。

「海帝 7巻 感想 仏教とのフュージョンが素晴らしい」星野之宣先生(ビッグコミックス)

 

鄭和さんの活躍を漫画化した「海帝」7巻、舞台となる大海原・大自然と、船団への来訪客「ゲンドゥン(ダライラマ1世)」さんとのフュージョンっぷりが素晴らしくてかんたんしました。

仏教思想的なものを表現した漫画としては、近年随一ではないでしょうか。

 

bigcomicbros.net

 

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7巻では、鄭和さんの初回航海の終焉と、第2次航海~第3次航海開始まで。

 

見どころは主人公の鄭和さんと永楽帝さんの濃密過ぎる関係性の展開なのですが、個人的に一番かんたんしたのはゲストキャラのゲンドゥンさん。

ゲンドゥンさんと、捕虜の海賊「陳祖義」さんとの会話が良すぎたので、自分用のメモも兼ねて、長く引用したいと思います。

 

「皆も外に出て海を眺めたらよろしいよ…

 大海に真理あり!

 もしも永遠の時を生きる神仏の目が

 この世界を眺めれば…

 何もない平地が徐々に隆起し、

 やがて峨々たるヒマラヤ山脈になるのを

 つぶさに見るだろう…

 時が過ぎればそれも崩れ落ち、

 深い渓谷へと変ずる…

 永遠の時の中では、

 何億年もの大地の営みも瞬時に変転する。

 波のうねりの如きものが――

 なぜ仏僧が日がな一日座禅を組み、

 長々と経文を唱えるかわかるかい?

 短い生涯の中でせめて山河にも似た

 不動の姿をとり続ければ、

 神仏の目にとまるかもしれぬし

 神仏を見るかもしれぬからだ。

 不動のものこそ信ずるに足る――

 不動のものにつき従っていけば、

 いかなる荒波をものりきっていける。」

 

 

「おい!

 死んだらどうなる!?

 死んだらアレか。

 地獄に突き落とされて業火で灼かれるのか?

 ここよりもっとひどい目に遭うのか

 ……教えろ!」

 

「死ねば――

 神仏に還るだけです。」

 

「神仏に?

 ……けっ!」

 

「私たちの霊魂は神仏のもの――

 それが各々の人生を経験しているのです。

 出家僧も海賊も等しく――

 善行も悪行も、経験してみなければ

 神仏には知りえないからです。

 悪行を罰する地獄などあろうはずがない。」

 

「出まかせだ!

 神仏は永遠に生きるから、

 人の短い一生など見えないと言ってたぞ。」

 

「よく覚えていてくれたもの…

 やはりあなたは正気を保っている。

 ではこう考えたらいかが――

 私たちは自分の体内の小さな小さな部分を

 見ることはできない。

 しかしそこにも命があり生きて死んで…

 それが集まって人は生きる。

 霊魂とはそのようなもの。

 無数の命の無数の一生が神仏に還っていく―――

 こうして神仏は永遠に生きるのです

 あらゆることも学び知りながら――

 永遠から見れば生き物の一生は一瞬にも満たず

 生き物からは永遠は大きすぎて見えず。

 ただ生き、死に、また新しい一生のために

 生まれ変わる――

 霊魂の無限の輪廻転生こそが神仏なのです。

 私はこれから先も僧として生まれ変わりますが…

 一度くらいは

 あなたのような悪人に生まれてみたかった。」

 

「あ!?」

 

「悪人は楽しそうだ…

 金銀があれば盗む、

 気に入らない奴は卑怯な手で倒す。

 とにかく欲しいものは腕ずくで奪う――

 そして笑う。

 ほくそ笑みふくみ笑いあざ笑う…

 苦悩するのは善人ばかり。

 生活に苦しみ、法律に縛られ信仰に思い悩む…

 神仏とて、あなたのような人生を

 経験して楽しかったかもしれない。

 思いきり良い目を見たと……!」

 

 

この、チベット仏教のノリと、星野之宣世界観と、海帝の舞台である大海原、アジアの雄大な大地が、混然一体となって語られているのがものすんごいグルーヴ感あって良くないですか。

話がどんどん壮大になっていって、星空と生きているような気持ちになれるのがよい星野之宣作品ですよね。

 

 

この後、ゲンドゥンさんの話を聞いて思うところがあった陳祖義さんが、最期、永楽帝さんに向かって平知盛さん的セリフを吐き出して逝くのも超いいんですよ。

あの有名なセリフ、確かに上で引用したような輪廻転生的価値観とハマりますわ。

 

漫画そのものの画力や構成力と合わせてぜひご覧になってみてくださいまし。

 

 

 

第一次航海に惜しみなくネタを投入されていたので、第一次航海で連載が終わってしまったらどうしようと心配していたんですけど、どうやら第二次航海以降も連載は続くようで一安心です。

 

引続き鄭和さんの大冒険が実り多くワクワクするものでありますように。

 

 

「海帝2巻感想 鄭和艦隊vsダイオウイカという狂気」星野之宣先生(ビッグコミック) - 肝胆ブログ