肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「透明人間の骨 4巻(最終話)感想」荻野純先生(ジャンプ+)

 

以前紹介した「透明人間の骨」という漫画が完結し。

「現代版“罪と罰”」とも言うべき透徹にかんたんさせていただきました。

 

 

人を殺したいと思っている方はこの作品を読んでみることをおすすめします……。

 

 

shonenjumpplus.com

 

f:id:trillion-3934p:20180320002916j:plain

 

 

↓連載が始まった直後の感想

「透明人間の骨 第一話・第二話」荻野純先生(少年ジャンプ+) - 肝胆ブログ

 

 

 

以下、作品のネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「DVで家族を苦しめる父親」を殺した少女の物語。

少女は1話で父親を刺し殺し、2話から22話(最終話)までずうっと自身の罪と向き合い続けるのです。

 

単行本4巻分というボリュームできれいにまとまっており、最後は少女が自首しに行く場面で幕を下ろします。

 

ちなみに舞台は愛知県豊明市界隈でして、背景が非常にリアルですのでご当地の方には特におすすめします。名古屋のmozoなんかも登場しますよ。

 

 

 

 

作品の特長として。

 

テキストでの説明は極力絞りつつ、「登場人物の表情や背景、会話の間、構図、色の濃淡等で心情・テーマを雄弁に表現する」……漫画の作り方が出色です。

 

これこそ漫画でしかできない表現だとかんたんいたしました。

小説でも絵画でもこの作品は描けないと思います。

映画ならば可能性はありますが、超高度な演技演出が必要になるでしょう。

 

 

 

その上で主人公の少女「花(あや)」さんが一貫して……「罪は償わなければならない」「失くしたくないもの、戻りたい場所があってこそ罰に意味がある」という信念に従っている点が素晴らしい。

 

どうやったらこんな真っ当な娘に育つのだろう。

 

この罪と罰に対する姿勢は人間として非常にプリミティブな規律意識だと思います。

いわゆる逮捕・起訴・裁判・服役といった現代社会の仕組みに囚われることなく、それでいて人のあり方の中心線をきちんと捉えているのですよ。

 

最終話を読んで、「花さんの罪を警察や検察官はどうやって証明するのだろう」と疑問を抱いた読者も多いことでしょう。

が、そういった社会の仕組み上の話はこの物語のテーマの埒外にありまして、主題はどこまでいっても花さんが自分自身の罪と罰に向き合えるかどうかだったのだろうと私は思っております。

 

人の手で傷ついた花さんは人を殺めるに至るも、やがて人の手で癒され、素晴らしき音楽に出逢い、確かな幸せを胸に抱きます。

 

幸せを得てから罰を受けようとする花さんの覚悟はただただ気高い。

 

そして、人の幸福をもたらすものが覚悟や納得なのだとしたら、花さんは罰を受けてもなお幸福なのだと言っても許されるのではないでしょうか。

 

最終話の「っ…はい…」という花さんのセリフ。

もらい泣きしそうになるほど崇高でした……。

 

 

 

ラスト2回で唐突に「父の両親(花さんの祖父母)」の話が出てきて、最終話で祖父が登場してくるのもよかったですね。

 

漫画的には「伏線なしのご都合主義展開」と言われるかもしれませんけど、「罪と罰」というテーマにおいては唐突な登場がかえってよかったと思うのです。

 

人を傷つける・殺すとき、加害者は被害者にも家族や大事な人がいるかもしれないなんて想像できません……。

そうした被害者にとってかけがえのない第三者の存在は加害者が罪に向き合う時になって初めて意識できるもので、罪の輪郭をハッキリとさせてくれるもので。

 

祖父の登場は花さんの変化を象徴しているのではないかな……なんて思っちゃいます。

 

 

 

重い内容をいろいろ書きましたが、登場人物の女性たちはどなたもかわいく魅力的で、仲睦まじい様子を眺めているだけでも悲しくなれてイイですよ。

コーデ対決は右(先輩)に軍配を上げたいです。

 

 

また、各話のタイトルに音楽味があるのも情緒深いんです。

参考に1話~最終話のタイトルを記載しておきますので、ピンとくる方はピンを楽しみましょう。

 

 1話  烏兎

 2話  記念撮影

 3話  透明少女

 4話  「言う」

 5話  Sea and The Darkness

 6話  極北の食卓

 7話  バケモノ

 8話  いつのまにか

 9話  夜明け前

 10話 γ

 11話 ひとりごと

 12話 邂逅

 13話 手の中の残り日

 14話 66号線

 15話 未だ見ぬ明日に

 16話 回転盤

 17話 蝶々結び

 18話 “Thank you,my twilight”

 19話 親愛なるきみへ

 20話 その日、一日。

 21話 Receivers

 22話 Sea and The Darkness Ⅱ(Totally Black)

 

 

私も聞いたことない曲が多いので、ちょっと試してみたくなりました。

 

 

 

 

以上、非常にアトラクティブな作品だとあらためて思いました。

お金が動機の罪と罰よりも、現代人にはこちらの罪と罰の方が胸に来るものが大きいかもしれないです。

本当に、人を傷つけちゃう前に読んでおきましょう。

 

 

人知れず朽ちている透明人間の骨なんてどこにもありませんように。