肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「生の短さについて 他二篇 感想」セネカさん / 訳:大西英文さん(岩波文庫)

 

古代ローマの哲人セネカさんの著作を初めて読んでみたところ、収録作品のうち「生の短さについて」「心の平静について」はいいこと言ってくれていてかんたんしましたし、「幸福な生について」は後半が一所懸命言い訳している感じなのが完璧超人ならぬ人間らしくて面白いなと思いました。

 

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生は浪費すれば短いが,活用すれば十分に長いと説く『生の短さについて』.心の平静を得るためにはどうすればよいかを説く『心の平静について』.快楽ではなく徳こそが善であり,幸福のための必要十分条件だと説く『幸福な生について』.実践を重んじるセネカ(前4頃―後65)の倫理学の特徴が最もよく出ている代表作3篇を収録.(新訳)

 

 

内容としましては上記概要の引用通りでして、いい感じにストイックな生き方を求めていくストア派哲学っぽい内容です。

この時代は西洋と東洋であまり大きく変わらない感じがするといいますか、初期仏教とか初期儒教とかのストイックな雰囲気が好きな方は西洋のストア文章も好きになるんじゃないかなあと思います。

 

全編通して良いことをお話しされていますし、本文のページ数も200ページ程度と短いので、パラパラ読み進めてみるとけっこうおもしろいですよ。

 

 

いいなと思った文章を少し引用します。

 

生の短さについて

人間の生は、全体を立派に活用すれば、十分に長く、偉大なことを完遂できるよう潤沢に与えられている。

 

名誉や記念碑など、野心が決議させて命じたものや労力を使って建立したものは、遠からず費え去る。悠久の時の流れが毀たぬものは何一つなく、悠久の時の流れが変じぬものは何一つない。だが、英知(哲学)が聖化したものは毀損されえない。いかなる時代であれ、それを破壊することも、減少させることもできない。

 

個人的に好きなスッラさんの豆知識に振られているのも嬉しいです。

こんなエピソード知りませんでしたわ。

キルクスで、それまで鎖につながれたまま観覧に供されていたライオンを鎖を解いて観覧に供し、ボックス王から派遣された槍兵にそれを殺させた最初の人はルーキウス・スッラであったという事実

 

 

心の平静について

健康によいものの中には、摂取したり、触れたりせずとも、香りだけで有益なものがあるように、徳もまた、たとえ遠くに身を潜めていようとも、その効能を彼方から注ぎかけるのだ。

 

手をつけるべきは、終えることができるか、少なくとも終えられると期待できる仕事であり、忌避すべきは、活動が思った以上に広範に及び、意図したところでは終わらない仕事である。

 

誰であれ、立派に死ぬ術を知らぬ者は拙く生きる。

 

 

幸福な生について

最高善とは精神の調和である

 

徳は快楽を与えるのではなく、快楽をも与える

 

等々、ストイックな哲学者らしいことを前半はおっしゃっているのですが、後半ではご自身が実はたいそうお金持ちであることに対しての世間の批判を気にしてか、

それらに対しても「富がないよりはあるに越したことはない」「私は立派な哲学者だから富が自分の身から離れて行っても一般人みたいに取り乱したりしないし」「貧乏だと「耐える」くらいしか徳目を発揮しようがないが、お金持ちだと寛容とか節制とか色んな徳目を発揮できるやん」等々、いっぱい言い訳のような格言が続くのもかわいくて好き。

(「心の平静について」では、財産は持ち過ぎない方がいいとおっしゃっていたりもしますが)

 

 

 

 

セネカさんは、弟子たちによってきれいに整理された文章が残された訳ではなくて、本人の文章がそのまま現代に残されているので、ところどころ人間らしい魅力もにじみ出つつ、全体としてやはり立派な哲学者らしいお言葉が多くて楽しいですね。

 

現代も自分の生きている時間を主体的にうまくコントロールしたり、その中で精神の平穏や調和を得たりするのが難しい時代ではありますが、一人でも二人でも多くの現代人が徳の高い生を送ることができますように。