肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「河内源氏 頼朝を生んだ武士本流」元木泰雄さん(中公新書)と「シチリア・マフィアの世界」藤澤房俊さん(講談社学術文庫)

 

積んでいた本を2冊続けて読んだところ、読後感が非常に似ていてかんたんしました。

ともに武力(暴力)集団の成立過程を感覚的に掴めるいい本です。

 

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前者は、平安時代における河内源氏の活躍と政権癒着と内紛と挫折を、

後者は、近現代のシチリアマフィアの活躍と政権癒着と内紛を、

克明に追っていくような内容の本になります。

 

 

前者、河内源氏の祖となる皆さま……源頼信さん、源頼義さん、源義家さん、源為義さん、源義朝さん等々……名前は聞いたことあっても、具体的な彼らの置かれた状況や、活躍、挫折等はそんなに知られていないと思います。

 

本の中では、可能な限りの史料での実証を通して、舌鋒鋭く河内源氏の栄枯盛衰を解説していってくださいます。

河内源氏は初めから武家棟梁的な権威や基盤を有していた訳ではまったくなくて、常に藤原摂関家天皇や院の権力になんとか取り入ろうと努力しながら、地道に地道に地方で戦功を重ね、少しずつ偉くなって、そのたびに内紛や濫行で失権して、でも遂には源義朝さんが保元の乱の悲劇を乗り越えて……と進み、平治の乱での河内源氏壊滅を以て当著はフィナーレを迎えます。

 

救われない。(なお、その後頼朝さんが大栄達を遂げますが、やはり最期は……)

 

のですが、そうであったとしても著者の源義朝さん評はグッとくるものがあります。

振り返れば、後三年合戦以降、河内源氏は数十年にわたる混乱の連続であった。義家と弟義綱の対立、義親の反乱・滅亡、義家の後継者義忠の暗殺、義綱一族の滅亡、為義の不振と傍流の自立、そして嫡流をめぐる義朝と義賢以下の弟たちとの抗争等々。義朝の勝利は、こうした事態を最終的に克服したことを意味したのである。

保元の乱の結果、義朝は父と弟の処刑という大きな犠牲を強いられたものの、反面で長らく続いた河内源氏の内紛を克服することに成功した。また、先述のように義朝は恩賞として、義家でも許されなかった河内源氏初の昇殿と、院近臣の大物が任じられる左馬頭という官職を得たのである。その政治的地位は、著しく上昇した。

義朝は河内源氏嫡流の地位を確立するとともに、後白河天皇の厚い信任を得て、内昇殿を果たし宮中の軍馬を管理する重職左馬頭に就任した。義朝は政界においても高い地位を獲得したのである。また、彼は長年の東国在住の経験から南関東を中心とした多くの武士を組織し、足利・新田両氏とも連携した地域的軍事権力を樹立している。政治的な自立性をもち、地方武士を中心的基盤とした義朝こそは、まさに独自の政治的地位と地方基盤を有し、それまでの軍事貴族とは段階を異にする武家棟梁と呼ぶに相応しい存在となったといえる。

 

源平合戦前史の流れと事情を学ぶと、その後の歴史の流れにも思い入れを深めることができていいですね。

 

 

 

続いて、後者のシチリア・マフィアの世界。

 

19世紀~20世紀にかけてのイタリア史を、マフィアという切り口から追っていく本となっています。

シチリア人のメンタリティ……名誉とオメルタ(沈黙)……から始まり、封建的制度における大土地所有者(王権等)の現地管理者としての勢力勃興、暴力組織としての成長、ファシズムや米軍や民主主義と上手く付き合いながらの勢力扶植……という流れで進んでまいります。

 

大土地所有者の代理人である現地管理者として成長……とか聞くと、どこかの地頭や国人や守護代河内源氏の台頭の流れがチラついてこの時点で面白いですね。

 

で、本としてはファシズム・米軍の間で巧みにシチリア・マフィアが生き残ったり、「第四章 シチリア独立運動と山賊とマフィア」が傑作だったりと、非常に興味深いエピソードが豊富なのですが、一貫してマフィアと政治のかかわりが背骨にあるのがですね、先ほど紹介した「河内源氏」の構成・論調ととても似ていてアツいのですよ。

  

なんかこうやっぱり、武力暴力って政治の重要な手段で、政治の混乱や分裂や刷新の裏で大きく力を蓄える武力暴力集団の存在……ていうのは古今東西変わらぬ定番の流れなんだなあと。

あらためてしみじみ感じた次第です。

 

このマフィア本の原本は1988年に刊行されたもので、その後のマフィア研究が反映されていないことは著者自身が文庫版あとがきで認めていらっしゃったりするんですけど、マフィアの世界細部というより、ある国の歴史とその中での武力暴力集団の成長という流れを学ぶには、いまだ褪せぬ輝きを放っているように思いますね。

 

 

 

もちろん現代では、さすがに武士団や反社組織というのは大っぴらに活動できなくなっていますけれども、代わりにロビィ活動や条件交渉や各種法規制・コードを構築する実務者集団なんかが代わりに成長している訳でして、武力暴力集団ならぬ知力実務力集団が今後ますます台頭していったりするかもしれないですから、そういう世の中において流れを上手く掴むには前史における武力暴力集団のあり様を知っておくのも無駄ではないと思うんです(長文)。

 

まあ政治やその周辺で活躍する人たちはその人たちでほどよく頑張っていただきつつ、力なき民草の暮らし向きもいい塩梅に上向いていきますように。