肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

幻の後南朝小説「吉野葛」谷崎潤一郎さん(青空文庫)

 

 

谷崎潤一郎さんの「吉野葛」の書き出しで
「んほぉおー!! 後南朝小説! まじか!!」とかんたんしてたら
そんなことはなくてうまい話はないもんだとがっかりしつつも
内容自体はやっぱり面白くてかんたんいたしました。

 

 

青空文庫リンク)
谷崎潤一郎 吉野葛

 

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

吉野葛」は……

谷崎潤一郎さんが「後南朝もの」のネタ取材にお友達と吉野へ行きました。
道々、源義経南朝逸話にまつわる事物風光を見物しつつも、
お友達の話す「吉野生まれの母」の物語に引き込まれ……

という筋立てになります。
吉野葛をつかったお料理はでてきません。

 

 

構成は一見とっ散らかっていて、何を主題にした小説? エッセイ? なのか
よく分からない……とっつきづらい……という第一印象になるのですが。

よく見るとあれやこれやが後半の友達の物語に対する前フリや伏線になっていて、
ひょっとして緻密に計算された構成なのではとも思ってしまうのです。

賛否両論な作品と聞きますが、その理由はこんなところにあるのかもしれません。

 


作者が谷崎潤一郎さんですから、文章の美しさはひとしおです。

 

個人的には吉野の集落の風景を描写したこんな一篇

恐らくこの辺の家は、五十年以上、中には百年二百年もたっているのがあろう。が、建物の古い割りに、どこの家でも障子の紙が皆新しい。今貼りかえたばかりのような汚れ目のないのが貼ってあって、ちょっとした小さな破れ目も花弁型の紙で丹念に塞いである。それが澄み切った秋の空気の中に、冷え冷えと白い。一つは埃が立たないので、こんなに清潔なのでもあろうが、一つはガラス障子を使わない結果、紙に対して都会人よりも神経質なのであろう。東京あたりの家のように、外側にもう一重ガラス戸があればよいけれども、そうでなかったら、紙が汚れて暗かったり、穴から風が吹き込んだりしては、捨てて置けない訳である。とにかくその障子の色のすがすがしさは、軒並の格子や建具の煤ぼけたのを、貧しいながら身だしなみのよい美女のように、清楚で品よく見せている。私はその紙の上に照っている日の色を眺めると、さすがに秋だなあと云う感を深くした。

であったり(この描写は後段の物語の前フリにもなっています)、

源義経静御前の遺物(真偽は疑わしい)を見せてくれた土地の方が
ご馳走してくれた「ずくし」(熟柿)を食べた時の感慨

私はしばらく手の上にある一顆の露の玉に見入った。そして自分の手のひらの中に、この山間の霊気と日光とが凝り固まった気がした。昔田舎者が京へ上ると、都の土をひと握り紙に包んで土産にしたと聞いているが、私がもし誰かから、吉野の秋の色を問われたら、この柿の実を大切に持ち帰って示すであろう。

であったりが特に印象に残りました。

障子の清々しさや熟柿の尊さがこんなに深々と感じられる文章は
そうそうないですよね。

 

 

 

前述の通り、後段のその四~その六はお友達の話がメインになります。


お友達の早世した母親について。

お友達は長らく母親のルーツを調べていたが、結婚前は苦界にいたこともあって
誰も教えてくれない、分からないまま時が流れてしまった。

ある日、偶然に母が吉野生まれであることを知った。

吉野を訪れてみたら、母の親族に幸い出遭うことができた。

その親族のひとりに見惚れてしまった。
嫁に貰いたいと思うのだが、君にも是非会って貰って君の観察を聞きたいんだ。


というような流れでお話が進んでいきます。


話の背骨になっているのはお友達の亡き母への思慕の強さで、
純粋な慕情なのか歪んだ恋慕なのかと混濁した印象を抱くほどです。


折々に文楽浄瑠璃の一節なんかを引用していて格調高いことが
かえって頽廃的な照りを出しているように思いますね。

例えば母親と「葛の葉」を重ね合わせるような物言いがあるのですが、
「葛」というところでタイトルとも繋がっている気がするのですが、
普通の母親に「葛の葉」みたいなキャラ設定はつけませんからね。

葛の葉っていわゆる安倍晴明の母親(正体は狐)ですからね。
シャーマンキングで言えばハオおじさんのお母様ですからね。


つまりお友達は自分の身上を安倍晴明とかハオとかになぞらえた上で
母恋し中二全開editionな焦がれを長年患いこんできた訳なんですよ。
それを格調高い美文で延々語っているから面白いんですよ。

最終的に母の面影を感じる娘さん(要はアンナ)に惚れてしまう訳ですし。
エディプス! コンプレックス!!


このお友達、大阪の島の内出身の旦那さんです。
ええところのお坊ちゃんなんです。

いいですねえ、亡き母親の呪縛に囚われた無垢青年。
いつの時代もけっこうなニーズがありますよね。 
ぜったい夜中にひとりで「母さん……」とか呟いて泣いてますよ。

 

 

 


さて、本編は以上の通りなのですが。


私がこの小説を読み始めたのは、次の導入部に痺れたからなのです。

 

読者のうちには多分ご承知の方もあろうが、昔からあの地方、十津川、北山、川上の荘あたりでは、今も土民によって「南朝様」あるいは「自天王様」と呼ばれている南帝の後裔に関する伝説がある。


 

普通小中学校の歴史の教科書では、南朝の元中九年、北朝の明徳三年、将軍義満の代に両統合体の和議が成立し、いわゆる吉野朝なるものはこの時を限りとして、後醍醐天皇の延元元年以来五十余年で廃絶したとなっているけれども、そののち嘉吉三年九月二十三日の夜半、楠二郎正秀と云う者が大覚寺統親王万寿寺宮を奉じて、急に土御門内裏を襲い、三種の神器を偸み出して叡山に立て籠った事実がある。
この時、討手の追撃を受けて宮は自害し給い、神器のうち宝剣と鏡とは取り返されたが、神璽のみは南朝方の手に残ったので、楠氏越智氏の一族等は更に宮の御子お二方を奉じて義兵を挙げ、伊勢から紀井、紀井から大和と、次第に北朝軍の手の届かない奥吉野の山間僻地へ逃れ、一の宮を自天王と崇め、二の宮を征夷大将軍に仰いで、年号を天靖と改元し、容易に敵の窺い知り得ない峡谷の間に六十有余年も神璽を擁していたと云う。
それが赤松家の遺臣に欺むかれて、お二方の宮は討たれ給い、ついに全く大覚寺統のおん末の絶えさせられたのが長禄元年十二月であるから、もしそれまでを通算すると、延元元年から元中九年までが五十七年、それから長禄元年までが六十五年、実に百二十二年ものあいだ、ともかくも南朝の流れを酌み給うお方が吉野におわして、京方に対抗されたのである。


!!

 

私の知り得たこう云ういろいろの資料は、かねてから考えていた歴史小説の計画に熱度を加えずにはいなかった。南朝、―――花の吉野、―――山奥の神秘境、―――十八歳になり給ううら若き自天王、―――楠二郎正秀、―――岩窟の奥に隠されたる神璽、―――雪中より血を噴き上げる王の御首、―――と、こう並べてみただけでも、これほど絶好な題材はない。

普通世間に行き亘っている範囲では、読み本にも、浄瑠璃にも、芝居にも、ついぞ眼に触れたものはないのである。そんなことから、私は誰も手を染めないうちに、自分が是非共その材料をこなしてみたいと思っていた。


!!!

 

 

 

まじかーー!!

 


文豪!

 

 

谷崎潤一郎が!!

 

 

後南朝小説を!!!

 

 


うっほぉぉおおイェーイと痺れまくったのです。

(しかし吉野民のことを土民とは言い過ぎではないか)

 

しかし、お話はまったく後南朝に関係のない方向に流れていき、
それはそれで前述のとおりたいそう面白かったのですが、
あれ? 後南朝は? と思い続けて最後まで読んでみると……

 

 

私の計画した歴史小説は、やや材料負けの形でとうとう書けずにしまったが

 


…………ズコー!!


肩すかしを喰らって土俵下まで突っ込んで頭を割ったような思いです。

 


谷崎潤一郎をして「材料負け」。

 


なんて重いんだ後南朝

ますます誰も手を出せないぜ後南朝

 

 

 

いつか後南朝を扱った大ヒット伝奇物語が生まれますように。

 

 

「ウィザードリィ#2 ダイヤモンドの騎士」PSリルガミンサーガ版(制作 ソリトンソフトウェア/発売 ローカス)

 

上級者向けシナリオとして警戒していたウィザードリィ#2、
「ダイヤモンドの騎士(通称KOD……Knight Of Diamonds)」が
思っていたよりかんたんでかんたんしました。

 

以下、クリア画像を貼っていたりしますのでご留意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィザードリィという古典RPGのシリーズをご存知でしょうか。

一定年齢以上の方であれば名前くらいは聞いたことがあるかもしれません。
ジャンプ漫画で言えば「男一匹ガキ大将」あたりの位置づけになる感じです。
バトル漫画はいまもたくさんありますが番長漫画ってほとんどないですよね。
まあそういうことです。

 

最近参加したフリーマーケットで、プレイステーション
「リルガミンサーガ」「ニューエイジオブリルガミン」という、
ウィザードリィ#1-5をプレイ可能なソフトを発見いたしました。

そう言えば私、ウィザードリィのナンバリングタイトルのうち、
#1、#6-8しかクリアしていなくて、#2-5をプレイしたことがありません。

せっかくだし#2-5をクリアして全ナンバリングタイトル制覇だと
しゃれこんでみたくなったのであります。

 


この#2は昔からウィザードリィ#1をクリアした人向けの上級者シナリオ」
「そうとう歯ごたえがあるから人気が出なかった」といった噂を聞いていました。


変わっているのは、Lv1からキャラクターを育てて開始するのではなくて、
#1で育てたキャラクターを転送して始める前提になっているということです。

なんでもLv1程度のキャラクターでは話にならないくらい、
冒頭から殺意に溢れたモンスターが襲ってくるとのこと。

これは恐れざるを得ないですよね。

(転送手段が乏しいファミコン版ではまた違った調整がされているそうです)

 

 

そこで、かつて慣れ親しんだ#1「狂王の試練場」でみっちりレベルを上げて
キャラを転送することにいたしました。

詳しい解説は省きますが、何時間かかけてグレーターデーモンさんを
養殖して促成栽培に努めたのです。


転送したメンバーのレベルと職業は以下の通りです。

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#1で集めた装備はすべて剥ぎ取られました。

さすがに「村正」とか持ち歩いていたらまずいですもんね。
とりあえずボルタック商店という有名な店で「ロングソード」を3本、
適当な鎧を3組買ってスタートです。

 

 

さあ、地下1階。

どんなモンスターが現れるのか……。


おお、のっけから「レッサーデーモン」とか「メジャーダイミョウ」、
「Lv7メイジ」といった連中がわらわら出てきます。
#1では終盤一歩手前で出てくるやつらです。
ドラクエで言えば「じごくのつかい」「トロル」クラスの敵ですよ。

これは確かにLv1のパーティだと2秒で全滅してしまう。

 

 

しかし……こちらもLv30オーバーのパーティです。
これはドラクエで言うとLv90くらいです。

貧弱なロングソードでも一撃で屠るダメージを与えられます。
それどころか「ティルトウェイト(最強の敵全体攻撃魔法)」を
30発以上ぶっ放す魔法使用回数があります。
ダメージを受けても「マディ(ベホマ)」でらくらく回復です。

 

……苦戦する余地がない。

 

 

うーむ、どうやら怖がり過ぎてレベルを上げ過ぎてしまったようです。

まったく戦闘に歯応えがない。
「ロングソード+1」「ロングソード+2」を拾ったら、もう充分かな……と
さくさくさくさくMAPを埋めていくことにしました。

 

MAPもやや複雑ながら、そこまで酷い苦労はいたしません
文字入力式の謎かけがありましたが、答は思いつく範囲の内容でした。

 

 

この#2の目的は「コッズ」の名を冠する伝説の武具を集め、
それと引換に「ニルダの杖」を入手して町を救うことなのですが。

道中、この「コッズ」武具が襲いかかってきます。
モンスターとして「マジックアーマー」「マジックヘルム」とかが
攻めかかってくるのです。

なかなかシュールです。

「友好的なマジックソード」とか、いろいろシナリオ上の矛盾を感じます。

この武具たちも強敵のようなのですが、一撃で倒してしまったので
あまり強敵感はありませんでした。

しかもこの武具たち、倒すと伝説級の武具としてそのまま装備できるのです。
こちらの戦力はますます増強されていきます。
雑魚敵はますます雑魚敵、時間の無駄的存在になっていきます。

 

簡単だ……簡単すぎる……!

  

むう、なんか質の悪い暇つぶしみたいだぞ。

この辺りでレベルを上げ過ぎたことを本気で後悔し始めました。
意図せずにチートプレイをしているような感じで……。

 

そういう訳で、後半のフロアはいっきに進行してしまうことにして、
そのままあっという間にクリアできてしまいました。

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……試合に勝って勝負に負けた気分です。

 

シナリオ開始時の適正レベルは12~14辺りですかねえ。
ぎりぎり#1をクリアできる水準、がほどよいように思えます。

あまり#1でレベルを上げすぎるとつまんないよ、という教訓を
流布させていただきたいと思います。

 

 

あと、ひとつだけしょうもないポイントを申し上げますと。


全身にコッズ武具を纏って「ニルダの杖」を得ることができるのは、
キャラクターのうち「1名」だけとなります。

コッズ武具を装備可能な職業はファイター、侍、ロードだけです。

また、ニルダの杖を得るためには「マラー(ルーラ的魔法)」を
使えることが望ましいです。


以上を踏まえると、「ニルダの杖」を得る栄誉は「侍」さんということに
なりがちです。
(ファイター、侍、ロードの中でマラーを自然体で使えるのは侍のみ)


「ニルダの杖ゲット役をこのキャラクターにやらせたい」というこだわりを
お持ちの方は、これらの点についてお含みおきくださいまし。

 

 


しばらくはまた他のゲームをやって、3Dダンジョンへの渇望が溜まった段階で
#3「リルガミンの遺産」に手を出そうと思います。

なんだかんだで楽しみです。

#2も記憶が薄れてから再プレイするかもしれません。

 

全シリーズをクリアするまで、私のプレイステーション
生き長らえてくれますように。

 

 

「ウィザードリィ#3 リルガミンの遺産 初攻略の感想」PSリルガミンサーガ版 - 肝胆ブログ

 

 

 

【血の涙】「ミニスーファミ日本版 悪魔城ドラキュラが戦力外通告される」

 

 

任天堂が「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」の発売を
発表いたしました。

 

昨日の海外版リリースで悪魔城ドラキュラが収録されていることに
かんたんしていたら、本日の国内版リリースでリストラされていて
ひたんに暮れました。

 

nlab.itmedia.co.jp

 

 

 

なんでや……


なんでなんや……!!

 


ドラキュラの代わりに収録されるのは「がんばれゴエモンゆき姫救出絵巻」。

 


分かる……分かるさ……


同じコナミだもん。

ゴエモンいいよね。
同時プレイできるもんね。
おんぶとかのアクション楽しいもんね。


見えるよ。

親子でプレイしてさ。


「パパ、こんなでっかいおたふく倒せない~」
「ふふふ、画面端っこでしゃがめばいいんだよ」


そんな微笑ましいやり取りが各ご家庭で生まれるんでしょ。

 

そりゃ、一人で黙々とプレイする悪魔城ドラキュラなんて
家庭団欒には貢献できないもんね……。

海外のキャッスルバニア人気みたいなんもないし、
どうせ国内のドラキュラマニアは実機でプレイしてるから
わざわざ収録せんでもいいよね、って思われてるよね……。

 

くそう、その通りだよ!

 

 

 

あまりにも口惜しいので、勢いでドラキュラプレイしてやりました。


ハン、1時間ちょいでクリアできたわ!

 


よくできてるんですよ。


SFC独特の画面回転機能をつかってみたり。

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巨大シャンデリアに乗りこんでみたり。

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このゲーム最大の難敵は背景と一体化していて突然襲ってくるこうもり。

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8面の難易度は凶悪です。
でもぶら下がっておててわさわさしている骸骨はかわいい。

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9面は財宝の間。
ボスは黄金バット

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時計塔では3大名曲のひとつ「血の涙(ブラッディティアーズ)」が流れます。

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「VampireKiller」が流れる中、崩れる橋を進むシモンさん。
橋がこうもりに変化する演出がおもしろい。

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SFC版のVampireKillerアレンジはけっこう好きです。
カラクリ館同様、「サークルオブザムーン」で採用されていました。

画像を撮り忘れましたが、この後のエリアでは「Beginning」も聞けますよ。

 

 


凶敵ベリガンをやっつけ

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雑魚敵ギャイボンを叩き落とすと

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いよいよデス様がお目見え。
分身体を引き連れた登場シーンの格好よさはシリーズ随一です。

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ドラキュラ直前ではこんなところに隠しボーナスがあったり。

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ドラキュラ伯爵はそこまで強くありません。
と言いながら舐めてたらけっこうダメージ喰らってしまいました。

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ドラキュラさんが本気を出すとBGMが「シモン・ベルモンドのテーマ」に
切り替わります。
紫色を基調とした演出と相まってたいそう盛り上がるのです。
 

 

 

如何でしょう。
けっこうおもしろそうだと思いませんか。

グラフィックはきれいだしゲームバランスはいいしBGMは荘厳だし、
いい作品なんですよほんとに。

 

こんなおもしろい作品をリストラするなんて……。 

 

 

 

ちなみに悪魔城ドラキュラをプレイしてみたくなった方は
PSPの「悪魔城ドラキュラXクロニクル」が手に入り易くておすすめですよ。

新曲「Red Dawn」が素敵、「月下の夜想曲」もオマケでプレイ可能、
ドラキュラ戦前の「PoisonMind」アレンジがイケている上に
真祖ドラキュラ戦はとても楽しいとウリがいっぱいです。

 

 


……百年後のイースターの日に悪魔城ドラキュラが復活しますように。

(前も書いた)

 

「コーエーテクモホールディングスの株価('17.3)」日経新聞 コーテクHD、命運握る「10年越しの新作ゲーム」 証券部 南雲ジェーダ記者 - 肝胆ブログ

 

 

 

 

 

 

 

 

映画「八月の鯨 感想 老人と風景の美しさ」リンゼイ・アンダーソン監督

 

八月の鯨という昔のアメリカ映画にかんたんしました。

 

八月の鯨 映画 - Google 検索

 

アメリカはメイン州(いちばん右上の州)、
大西洋を望む場所に建つ家で暮らしている老婆×2の物語です。

いや、物語というか、物語要素もほとんどないのですが……。

 

登場人物は

・家主の妹(お婆ちゃん)
・居候の目が見えない姉(お婆ちゃん)

・近所のいらんことしいな友達(お婆ちゃん)
・近所の居候先を探している友達(お爺ちゃん)
・近所の大工さん(お爺ちゃん)

・近所の不動産屋さん(かろうじてお兄さん、但しチョイ役)

以上です。

 

特筆するような事件やサスペンスやアクションやホラーは起こりません。

ある夏の日の朝から翌朝までをささやかに切り取って、お年寄りたちによる
トークや思い出話や愚痴話や口喧嘩を眺めているだけの映画です。
気分的にちょっとプラス、ちょっとマイナス、ちょっとプラス、ちょっとマイナスと
繰り返して、最後はちょっとプラスで終わる。


音楽で言えば環境BGM、
ゲームで言えばアクアノートの休日
そんな映画と言えるかもしれません。


90分という短い映画ですので集中して観ていられますが、
あともう少し長かったり、もう少し疲れていたりしたら
あっという間に寝てしまっていたと思います。

 

 

で、それが面白いのかというと。


これがなぜか面白いんですよねえ。


演技と景色。
この二点だけで格別な見応えを与えてくれるのです。

 

 

演技。

登場人物全員老人という中で、皆さまの演技が素晴らしいんですよね。

私の知っているお年寄りそのものなんですもの。
洋の東西って関係ないんやなあとあらためて感じました。


田舎の、引退した農家や漁師や店主の暮らしをイメージしてください……

やたら朝早く起きて、朝っぱらから友達が遊びに来てダベって、
午後はお昼寝して、夜からまた会合でお酒もちょっと飲んで、
ときには老人同士で喧嘩もして、次の日も朝早くに目が覚めて……という
お馴染みの生活リズム。


感情のコントロールが効かなくなってきていて、
要らんことをしてしまう、
こらえきれずに落ち込んでしまう、
言わなくていいことを全部言ってしまう、独特の業。

特に悪い癖をいくら指摘されても直さない銘々の開き直り方が実にいい。


そして、一人になったとき、昔の写真や思い出の品を手にして
物思いに耽ってしまう……表情。その横顔が。

 

こうした演技の尋常でないリアルさにかんたんしつつ、
リビーさん(目の見えない姉)の長い白髪の美しさに少しドキッとするのです。

お年寄り一人ひとりの魅力がすごいですよ。

 

 


加えて、お年寄りばっかりで胃が飽きてくるちょうどよい頃合いで
すこぶる美しい景色のカットを挿入してくれるのです。


大西洋独特の濃厚な青色。
夏の日差しを存分に浴びた草花。
月と星の尊い明かり。
朝焼けと遥か彼方を望む大海原。


時の歩みを体現しているお年寄りたちと、
永遠の輝きを体現している大自然の風景。


この対比がまた快くてね……


いい映画だなあと思ってしまうんです。

 

 

 

もうひとつ……

お年寄りたちの演技が上手すぎたために。


90分この映画を観るなら
90分リアルお年寄りの話を聞いた方が
いいんじゃなかんべか……とも思ってしまいました。

 

うーむ。
そうだね、孝行仁愛しましょうよ。

 

 

それぞれの老境に眺める景色が美しいものでありますように。

 

 

「死顔」吉村昭さん(新潮文庫)

 

 

吉村昭さんの遺作「死顔」にかんたんしました。

 

www.shinchosha.co.jp

 

 

全部で150ページのほどの短い作品集で、

・ひとすじの煙

・二人

山茶花

・クレイスロック号遭難

・死顔

の五作が収録されております。

その中でも、同じエピソードを題材にしている
「二人」と「死顔」を紹介させていただきます。

 

以下、ネタバレを一部含みますのでご留意ください。

 

 

 

 

 

 


いずれも吉村昭さんの晩年期における私小説風の内容です。

吉村昭さんの次兄が余命幾ばくもないということで、
もう一人の兄と一緒に見舞いに行った、
その見舞い直後に次兄は息を引き取った、
葬儀に出かけた、という筋になります。

いずれの作品でも「人が息を引き取るのは干潮時」という俗説が
紹介されていて、吉村昭さんの家族の死は実際に干潮時だったことが
述べられており、興味を引かれました。

 

二人の方では次兄の愛人・認知した子という存在が挿入されていて、
かつて吉村昭さんが愛人から相談の呼び出しを受けたり、
見舞い前に彼らの扱いについて甥から相談を受けたり、
葬儀後に愛人から電話がかかってきたりという経緯が描かれています。

死顔に比べると、全体として描写がやや客観的なように思えます。


死顔の方は吉村昭さん自身の死が近づいてきているせいか、
人の死を送るということ、自らの死を見据えるということに
描写の焦点が当たっているようです。


例えばどちらの作品ももう一人の兄との電話で締めくくるのですが、


二人では

兄は、あらたまった口調で、
「今さらこんなことを言うのも変だが、人は必ず死ぬものなんだね。兄や妹、弟が八人いたのに、一人一人確実に死んでいった。残ったのは、あんたと私だけだ」
と、言った。
次兄の死で同じようなことを考えていた私は、かすかに笑った。
「どうだね、生れた町の小料理屋にでも行って、二人で飲まないかね」
「いいですね。ただ、この寒さじゃどうにもならない。桜でも開花した頃ですね」
「そうね。そうしよう」
兄は、じゃ、またと言うと、電話を切った。


死顔では

「とうとう二人きりになりましたね」
「そうだね。考えてみると、つぎつぎによく死んだものだな」
私は、兄が私と同じことを考えているのを知った。
「兄さん、長生きしてよ」
私は、思いをこめて言った。
「わかっていますよ。ただし私は八十だからね。いつこの世におさらばかわからない」
兄の声は、相変わらずはずんでいる。
「なんのなんの。兄さんは元気だから大丈夫だよ。私の方が先かも知れない。でも、年の順は考えて下さいよ。私は六歳若いんだから……」
「わかっていますよ。そのくらいの常識はありますから……」
兄のかすかに笑う気配がした。
「ともかく御苦労様でした。これですべてが終わりましたね」
私は、受話器を置いた。


桜の咲く頃飲みにいこうという未来を含ませた二人と、
間近に迫ったそれぞれの死を見据える死顔、違いは明瞭ですね。


とは言え、いずれの作品でも吉村昭さん自身の「人に死顔は見せたくない」
「延命措置は望まない」というお考えや、次兄の死に際して
「最期は次兄の家族だけで看取らせてあげるべき」という姿勢が
よく描かれていて、それが読者に深い思惟を求める迫力となっております。

自身がどういう送られ方をしたいか、
近しい人の死をどういう形で送ってあげたいか、
これらは普段あまり意識しないけれども、
本当は絶対に考えなければならないことですよね……。


強い意志で未来に向き合いたい人、
あるいは近辺に死の匂いを感じる人におすすめしたいです。
少し、読むには気構えが要りますけれども……。

 

 


吉村昭さんの死にざまは、この作品で理想とされていた通りだったようです。

一方で、尊厳死問題も相まって、その死の有り様が盛んに取り上げられたのは
吉村昭さんの意志とは少し違うのではないかなと思います。

それぞれが静かに受け止め、考え、評することはまだしも、
ワイドショー的に好奇の目に晒すのはちょっと……です。


この本にも奥様である津村節子さんの「遺作について――後書きに代えて」が
掲載されていますが、これを読んだだけで吉村昭さんの死をきれいで立派な
ものであると単純に解するのではなく、その後の彼女の作品「紅梅」まで
読んで、後悔や煩悶まで充分に受け止めた方が……とも思うのです。


あくまで私個人の考えです。

 

 

最後に、川西政明さんによる解説の中で、次の文章にかんたんしました。
少し長いのですが引用します(改行は私の手によるものです)。

その吉村昭に死の想いがひそかに忍び寄ることがあったようだ。平成十二年十二月に短編集『遠い幻影』の文庫版が刊行された。
その解説で僕は、
「これらの短編を読むと、吉村昭のなかに、人は稲光する雷雨、激浪をうちあげる暴風、火を吹く山、地を揺する地震を避けようもなく経験するが、そのあとには風がそよぎ、空は晴れ、星はまたたき、大地は緑に輝く時が必ずくるという確信があることがわかる。荒々しい経験をしたあと、人は穏やかで普遍的な世界を肯定する場所に居場所を見つけるにいたる。それが人生の自然なのだと吉村昭は言っているように思える。その一方で、その自然にわが身をまかせることができない人もまた多い。それら人生の微細を吉村昭は短編で写しとっているのだろう」
と書いた。
これを読んだ吉村昭から手紙をもらった。そこには僕の説を受け入れた上で、
「なんとなく自分が一つの道に入って歩みはじめているのをかなりはっきり意識している」
ことを示唆し、それは
「まちがいなく、現実には老いを少しも感じないながら、小説家として死の沼への道を確実に下りはじめている思いをしているためです」
と告白してあった。
作家とはこうした意識を大事にしつつ一歩一歩と自分を深めていく人間なのであろう。


名文だと思います。
解説がよいと、その本を買ってよかったという気持ちが高まります。

 

 


以上、文庫本「死顔」のご紹介でした。


静かに死を迎えたいという願望に加えて、
死んでからも静かにありたいという願望が湧いてきました。

これは、欲目なんでしょうか。

 

静かな晩境と死後が叶いますように。

 

 

 

 

「極食キング」土山しげる先生(日本文芸社)

 

 

 

食キングの続編、「極食キング」がコンビニで売っていてかんたんしました。

 

 普通の食キング⇒「食キング」土山しげる先生 - 肝胆ブログ

 


たいへん懐かしいです。


この漫画、確か「食漫」というグルメ漫画だけを集めた雑誌に
掲載されていたんですよね。

ドラマ化された「食の軍師」も同時掲載されていました。

雑誌はほとんど売れなかったのか一瞬で廃刊になり、
極食キングは別冊漫画ゴラクに、食の軍師は漫画ゴラク本体に移籍。
その他の漫画は打ち切りになったものと記憶しています。

食の軍師の劇中で

最近なんて食い物ネタだけの漫画雑誌まであるっていうじゃないか!!
バカじゃねえの?

って突っ込まれていましたが、その時点で雑誌の売上低迷と廃刊は
見えていたのかもしれませんね。

 


極食キングは相変わらずの土山しげる節が効いた食漫画で、食キング同様、
主人公の北方歳三さんが売上低迷料理店を再建して廻るというお話です。

ライバルに「喧嘩ラーメン」で出てきた織田獅子丸さんが登場したりして
楽しいんですけど、そもそも喧嘩ラーメンを知っている読者がどれだけ
いるんだろうと不安に思ったものでした。


ウリは前作同様の荒唐無稽な料理修行と、親父ギャグそのものな料理名です。

特に今作は料理名がいい意味でひどかったですね。
以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

祇園の舞妓さんからの再建依頼

「全20種類の食材をどれだけ乗せても一杯500円!」
「自分の好きな物を好きなだけ乗せた丼バイキング…か」
「名付けてMY好飯!


○流行らない飲食店五人衆からの再建依頼

「五軒同じ味のハヤシライスにそれぞれの店の一品!
 竹林亭のツクネ
 嵐山のチャーシュー細切り
 中田屋のエビ天用のエビのフリッター
 それらをトッピングして
 紅葉屋の京野菜の味噌汁と
 雅のポテトサラダを付ける
 名付けて五人囃シ!!


○織田獅子丸についていけなくなった明智さんからの再建依頼

「中京区寺町下ル…に旨いステーキの店有り…
 ン!?
 中京区寺町御池…っていうと…
 織田信長明智光秀の謀反で命を落とした…
 本能寺があった場所だ!」
 \\テキは本能寺に有り//


愛媛県松山空港でのラーメン勝負に勝って

「おめでとうございます!
 このラーメンやはり鯛ラーメンと名付けられるのでしょうか?」
「いや…名付けて…ようこそ松山御鯛麺!!


○から揚げ屋さんからの再建依頼

「な…何と六色の色がついている!!」
「きれい!!」
「衣にそれぞれ調味料を加えた
 赤い唐揚げは韓国産赤唐辛子
 黄色はカレー粉
 緑は青のり
 紫は紫蘇の粉のゆかり
 茶色はカツオブシ粉
 そして黒は黒すりゴマだ
 名付けてカラー揚げ!



……当時、この辺で私は単行本を買うのをやめ、立ち読みに切り替えました。

 

 


そして衝撃のラスト。

歳三さんに敗れて以降、落ちぶれまくった織田獅子丸さんの再建を
することになったのですが。


その修行方法はなんと漫才。
W-1GP…お笑いグランプリ選手権に出場せよと。

ジョーダン言うな」
「私は再建相手に冗談を言った事はない!
 己の技術で客の笑顔を自然に引き出す
 それは料理人も芸人も同じ事
 その喜びの大きさを身をもって知る為の修行!」

 


…………。

 

 

そして、歳三さんと獅子丸さんはコンビを組んで
本当にお笑いグランプリに出場し、詳細はとても文章では書けませんが
ものすごくシュールなネタで好評を博します


観客が拍手喝采する中。

 

「どうだ獅子丸…」
「何か知らんが…
 胸が…
 熱くなってきやがった…」

 

 

涙を滲ませ笑顔を見せる獅子丸。

 

 

復活!
獅子丸復活!

 

 

……訳分かんねえ!!

 

 


こうして物語は円満に終了したのでした。

いつもながら、土山先生は飽きてからのお話の畳み方が本当にすごい。
常人では考えられない展開を見せてくださいます。

 

 

 

同じ漫画ゴラクでは「極!!男塾」が「真!!男塾」にリニューアルされました。

土山しげる先生も同じノリで「真!!食キング」を開始してくださいますように。

 

 

「南朝研究の最前線」編 呉座勇一さん/監修 日本史史料研究会(洋泉社歴史新書)

 

南朝研究の最前線、という新書にかんたんいたしました。

 

南朝研究の最前線 - 株式会社洋泉社 雑誌、新書、ムックなどの出版物に関する案内。

 

……こんな本が出版されていたとは。
10年以上前に読んだ「闇の歴史、後南朝」(森茂暁さん)以来の驚きです。

 


よく見たら編者は「応仁の乱」で話題の呉座勇一さんでした。

「はじめに」のところでこんなことを仰っています……。

本書の諸論考によって、建武政権南朝がけっして“歴史のあだ花”ではないことが明確になるだろう。
これをきっかけに、読者の皆さんが南北朝時代に関する興味関心を深め、本書が掲げる参考文献を手に取ってくださるならば、本書の企画者として望外の幸せである。

こういう光の当たっていない世界に光を当ててくださる方なんですね。
ありがたいことです。

 


表紙のソデの部分にはこんなことが書かれていました。

◎世の中の常識

北条氏による権力独占が進んだ鎌倉幕府後醍醐天皇は、北条氏に不満を持つ武士たちを糾合して幕府を滅ぼす。しかし、新たに発足した「建武政権」は武士を冷遇し、反発した足利尊氏らによって政権は崩壊、朝廷は南北に分裂する。


◎本書の核心

建武政権には多くの旧幕府の官僚が参加し、後醍醐天皇は武士たちに積極的に恩賞を与えた。南朝の政策も時代に即したものだった。では、なぜ後醍醐の「異形」性や建武政権南朝の非現実性が定説化したのか? その核心に迫る16論考。

 

記載の通り、この本は「南朝ってこんな連中」という南朝入門的な色合いと、
南朝研究の経緯を整理したよ」という研究史解説的な色合いがあります

後者の論点については大変分かり易く纏められているのですが、
そもそも南朝を知る人が少ないことを思えばニッチな魅力に留まる気がします。
中世史専攻の学生にとってはめちゃくちゃありがたいでしょうね。

一方、前者の論点については「ちょっと歴史に興味がある人」にも
自信を持っておすすめすることができます。
南朝史は室町時代の裏返しですから、「なんで室町時代ってこんななんやろ?」
という素朴な疑問を解消する手助けになりますよ

 

 

以下、各部別に私の感想を書いてまいります。

 

 

【第1部】建武政権とは何だったのか

 


1 朝廷は、後醍醐以前から改革に積極的だった!(中井裕子さん)
2 「建武の新政」は、反動的なのか、進歩的なのか?(亀田俊和さん)
3 建武政権を支えた旧幕府の武家官僚たち(森幸夫さん)
4 足利尊氏は「建武政権」に不満だったのか?(細川重男さん)

 

しょっぱなから興味深い内容が続きます。


1では、後醍醐天皇の特異性を語る講談が多いものの、
近年の研究で後醍醐天皇以前から朝廷はさまざまな改革を重ねてきたことが
明らかになってきていることを紹介されています。
こういう「ヒーロー誕生前夜の研究」ってのはどの時代でも大事ですね。


2では、建武の新政を反動的(平安時代に回帰する的な)と評する人もいれば
革新的だと評する人もいることを紹介しつつ、両者がどっちにしろ
太平記の影響から抜け出せていないことを指摘しています。

太平記、面白すぎますからね……。
しかも他にほとんど史料が残っていないし……。
これは仕方ないのかも。


3は個人的には1部の中で一番面白かったです。
後醍醐天皇によって採用された旧鎌倉幕府官僚たちが、
建武新政の中で実務経験や人脈を蓄積し、
そのまま足利幕府にスライドしていったことを明らかにしています。

建武新政という過渡期を挟まずに足利幕府がいきなり立ち上がっていたら
南北朝とは別の問題が起こっていたかもしれませんね。
恩賞実務の混乱とかが生じまくって、観応の擾乱的内部抗争が
更に大変なことになったりして。

歴史は戦ばかりが注目されがちですが、実務方の安定も超重要だと思います。

ところで武家官僚の中で「斎藤基夏」「斎藤基任」という人物名がありますけど、
これって後の三好長慶家臣「斎藤基速」(元は幕臣)のご先祖なんすかね。


4は足利尊氏のパーソナリティをおもしろおかしく紹介しつつ、
つまるところ当時の武士たちが「源頼朝の再来」を渇望していて、
それに尊氏はピッタリだったと述べられております。

足利尊氏という方は本当に不思議な人です。

永井豪先生の「バイオレンスジャック」に群盲象を評す※といったことが
書かれていて、なるほどスケールの大きい人物とは多面性を有するものかと
かんたんした記憶がありますが、尊氏なんかはまさに何面もの人間性を有する
複雑極まりない(ひょっとしたら迷惑極まりない)大人物だと思いますね。

 ※群盲象を評す - Wikipedia

 


【第2部】南朝に仕えた武将たち

 


5 鎌倉幕府滅亡後も、戦い続けた北条一族(鈴木由美さん)
6 新田義貞は、足利尊氏と並ぶ「源家嫡流」だったのか?(谷口雄太さん)
7 北畠親房は、保守的な人物だったのか?(大薮海さん)
8 楠木正成は、本当に“異端の武士”だったのか?(生駒孝臣さん)


いいですねえ、やはり歴史への興味は人物への興味からです。


5は……哀しいですね。

後から出てくる後南朝もそうですけど、北条一族の生き残り……
年端もいかぬ少年が、不満を溜め込んだ武士たちに神輿と担ぎ上げられ、
結局は滅んでいく……。

お家滅亡から逃れ、相当ねじまがっていたであろう思想を教え込まれて育ち、
一瞬の活躍を歴史に残すも、とどのつまり若くして首を落とされるんですよ。
自分の人生を省みることはあったんでしょうか。

戦乱に翻弄される民も悲惨ですが、翻弄される貴種も悲惨だと思います。


6は注目を浴びそうな内容です。
太平記では新田義貞足利尊氏より家柄は上のような書かれ方をしていますが、
その実、新田家は足利家の分家に過ぎない(細川家や畠山家等と同じ)ことを
あらためて強調されています。

以前からそうじゃないかという説はあったのですが、やっぱりそうだと。

繰り返しですけど、太平記は面白すぎて歴史研究を歪めちゃってるんですね。


7は、私の大好きな北畠親房さんです。
それだけで嬉しい。

北畠親房さんは公家こそ最高武家絶対殺すマンみたいな扱いをされがちですが、
その実はたいへん優秀でまっとうな価値判断のできる人だと思いますよ。
こちらでも紹介されていますが、別に武士嫌いではなくて源頼朝北条泰時
褒めていたり後醍醐天皇を諌めまくったりしてますからね。

こういう判断も実務も戦も全部できる負け組側のパーフェクト人材って、
本当にロマンがあると思います。


8も注目されそうな内容です。
河内のヒーロー楠木正成さん駿河出身説(鎌倉御家人ルーツ説)。

楠木正成はひたすら史料がありませんから、
これからも様々な説が出たり消えたりするんでしょうね。

私は、実は最近の若い人は楠木正成を知らないと感じていますので
(戦国・幕末コンテンツ強過ぎ問題)、講談レベルの認知でもいいから
再び人気が出てほしいなあと思っています。

 


【第3部】建武政権南朝の政策と人材

 


9 建武政権南朝は、武士に冷淡だったのか?(花田卓司さん)
10 文書行政からみた<南朝の忠臣>は誰か?(杉山巖さん)
11 後醍醐は、本当に<異形>の天皇だったのか?(大塚紀弘さん)


9は1部の3と同じく、私が一番面白いと思った内容です。
建武新政崩壊の真因は恩賞給付の実務上の混乱だった! 説。
恩賞を振舞うつもりはあるのに様々な事情でいっこうに実務が進まない。
武士、キレる。尊氏を頼る。
取り上げられている具体例を見るに、かなり説得力があると思います。

話はすこしズレますが、室町時代の政権構造が話題になる際、
「尊氏が恩賞を大盤振る舞いし過ぎて幕府の力が初めから弱かった」
「結果として守護大名の力が強くなり過ぎ、幕府は統御に苦労した」
「それが戦国時代化した遠因だ」などと評されることが多いと思います。

なんにでも事情はあるもので、もともと室町幕府建武新政のカウンターで
できあがったり南朝との競合上の理由であったりして、各地の強者に
たくさん迅速な恩賞給付をするのはやむをえなかったんでしょうね。

この辺りは尊氏さんの性格に原因を求めてはいけないと思います。
(尊氏さん、そういう実務に関わってなさそうだし)


10はおもしろいというより、頭が下がるパートです。

東京大学史料編纂所が「花押かがみ 南北朝時代」という資料
南北朝時代の人々のサイン集=現代でいう公印集)を
刊行されたということで、筆者はそれを使って南朝のスタッフを
網羅的に洗い出しました、結果こういう人物がいたことが分かりました、
この人物はこんな感じでキャリアを積んでいました、という内容です。

どんだけ大変な作業なんだ……!
こうした研究は、きっと今後さまざまな場面で重宝されるんでしょうね。
すばらしいことだと思います。


11は後醍醐帝の極端な異形性は牽制しつつ、
それでも当時流行っていた宗教の要素を取り入れたり
各宗派の寺宝を集めたりしたのは事実でしょうと。
きっとそうして自身の権威・求心力を高めようとしたんでしょうと
記されております。

現代の政治家とかがAKB総選挙の結果に一喜一憂してみたりして
「親しみやすい権力者アピール」をするようなもんなんですかね。

いつの時代も人気を集めるのは大変な苦労が要るものです。

 


【第4部】南朝のその後

 


12 鎌倉府と「南朝方」の対立関係は、本当にあったのか?(石橋一展さん)
13 「征西将軍府」は、独立王国を目指していたのか?(三浦龍昭さん)
14 「後南朝」の再興運動を利用した勢力とは?(久保木圭一さん)
15 戦前の南北朝時代研究と皇国史観(生駒哲郎さん)


12は実に室町幕府的です。

南朝との争いに決着がついてくると、今度は所領を与えすぎた各地の
有力武家がウザくなってきます。
そいつらに「お前、実は南朝方らしいな」と因縁をつけて鎌倉府が
襲いかかって所領を没収しちゃうのです。

これぞ室町幕府
これぞ関東統治。

おおこわいこわい。


13はときどき話題に上がるやつですね。

懐良親王の征西将軍府、実は南朝との関わりは薄く、独自に明に朝貢したりして、
ひとつの独立した「九州国家」だったんじゃねーか説です。

結論は断じておられませんが、南朝自体が弱ってくる中で
南朝の一角という面と九州独立国家という面の両方があったのかもしれませんね。

ちなみに、この征西将軍府を滅ぼした今川了俊さんは今川義元さんのご先祖ですよ。

その他、ものすごくマイナーな南朝方のヒーロー「五条頼元」さんが
取り上げられていて嬉しかったです。


14は後南朝の活動について大変分かり易くまとめて頂いております。

後南朝……伝奇的。超ロマン。個人的には惹かれてやまない方々です。
実態は2部の5同様、各地の反幕府勢力に担がれる気の毒な方々ですが……。

三種の神器強奪事件で赤松氏の興亡にも密接に絡みますし、
地味に応仁の乱にも参加していたりしますし。
室町時代の歴史においては欠かせないバイプレイヤーです。
戦国時代くらいまでは、後南朝の脅威は記憶に新しかったんじゃないすかね。

 

15は……南朝研究の歴史を分かり易く纏めてはるのですが。
戦前を中心とした研究者の発言・記述を正確に紹介されているため、
めっちゃくちゃアクが強いです。

最後の章になりますが、この章を読む際は気合を入れ直して、
リテラシー力を高めて……読むことをおすすめいたします。
それほどに過ぎ去りし方々のお言葉はアクが強いのです。

足利尊氏は人間的にすぐれた人物だ、と書いたばかりに大臣を棒にふった人がいる」中島久万吉 - Wikipedia

「足利の下についてゐるのはカスばかりであります」

「豚に歴史がありますか」

…………。
このパワーワードの数々よ。

気軽に南北朝を語れる現代は幸せな時代です。

 

 


以上です。

またしても、やたら長い記事になってしまいました。
書いている私も疲れますけど、読んでくださっている方々にも
ご負担をおかけしていると思います。

すみません。


一言で言えば面白い本ですので興味がありましたらどうぞ。

 

南朝関係の史料がもっと発掘されますように。
そうして、太平記時代をネタにした創作が増えて人気が出ますように。