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特撮「電光超人グリッドマン 感想 武史の魅力と救済」円谷

 

グリッドマンというアニメが人気という話を聞き、とりあえず特撮版のグリッドマンを視聴してみましたら敵役の藤堂武史さんが一人で話を回し続けられるほどの魅力と実力と物語上のヒロイン性をお持ちでかんたんしました。

親の愛を受けずに育った少年が悪の誘いで非行の道に入るも、悪にシッポ切りされ、悪は成敗されて、まっとうな友人を得て善性を取り戻す……という物語の縦軸、少年少女だけでなく親世代の視聴者にとっても確かな魅力がございますね。

 

m-78.jp

 

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廃品を使って自分のパソコン<ジャンク>の立ち上げを試みる翔直人、井上ゆか、馬場一平の仲良し3人組と、同級生で友人がいない秀才・藤堂武史。

ある日、彼らが住む街・桜が丘の電話回線に、異次元宇宙から脱走してきた奇怪な力を持つ魔王カーンデジファーが侵入。武史の歪んだ性格に目をつけたカーンデジファーは、武史のパソコン内に居座り、武史を操ってコンピューター・ワールドを支配する事で現実世界を征服する作戦を始動させた。

そんな中、直人たちの<ジャンク>に、カーンデジファーを追って異次元からやって来た実体を持たないエネルギー状の生命体・エージェントが出現する。エージェントは一平がCGで作ったヒーロー・グリッドマンの姿と名前をもらい、直人と合体。コンピューター世界でカーンデジファーの放つ怪獣達との戦いに挑む。

 

現代社会が抱える問題を予見した、時代の先駆者とも言うべき名作
本作は1993年に放送が開始された作品。パソコン通信の存在はあったものの、現在の様に多くの人が気軽に通信回線を使って情報を調べる時代ではなかった。そんな中、本作は通信技術、コンピュータウイルスといったものを作中に要素として積極的に取り入れた。『電光超人グリッドマン』その内容は、まさに現代のネット社会で巻き起こる事件を予見しているともいえる。今こそ再見の価値がある名作である。

様々な形態へ進化するヒーロー
現在のヒーロー作品では当たり前に見られるが、変身後のヒーローが更にフォームチェンジをするという設定をいち早く実写で取り入れた本作。物語中には多くの武器<アシスト・ウェポン>が登場し、グリッドマンがそれらと合体、変形する事でパワーアップをしていく。当時、玩具も多く発売され、話題を呼んだ。また、テレビ放送終了後も、小学館「てれびくん」で続編が連載される等、盛り上がりを見せた。

 

 

上記あらすじのとおり、当作品はWindows95発売によるPC普及前の作品とは思えないほどネット社会で起こりがちな事件・事案を捉えていたり、特撮的にもバトルが賑やかに楽しかったり予算節約の工夫が偲ばれたりと、見どころが多いのであります。

 

その上で、特に印象に残ったのが藤堂武史さんなので、以下でネタバレを含みつつつらつらと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤堂武史さん。

主人公三人組の同級生であり、三人組の中の女の子に惚れていたり、天才的な頭脳を持っていたりしつつ、親の愛を受けずに育ったため極度のコミュ障、あちらこちらを恨んだり妬んだりしている少年。

「親の愛を受けずに育ったためにコミュ障」→「愛情さえ注がれていれば」と察することができる造形になっており、「生まれついてのサイコパス」みたいな感じではない時点で救いがありますね。

 

魔王カーンデジファーさんにその才能を見出されてしまい、1話から最終話直前まで、武史さんの私的な恨みや妬みを反映した怪獣をクリエイトしつづけ、それをネットを通じて各所に送り込むことで社会を擾乱しつづけます。

悪行のなかには医療施設の運営妨害であったり電気や通信等インフラの破壊であったり大規模環境汚染であったりが含まれますので、やっていることは特級テロリスト並であり現実社会では極刑を免れ得ないようなレベルではありますけれど、まあそれは置いておいて。

物語のパターンがいい意味で決まっていて、

  1. 武史さんがなんらかおつらい目に遭う(自業自得なときも理不尽被害のときもある)
  2. 武史さんがカーンデジファーさんに怒りをぶちまける
  3. 武史さんがPC内で怪獣を作成し、カーンデジファーさんが怪獣をコンピューターワールド内で実体化させる
  4. コンピューターワールド内で怪獣が暴れることにより、各種インフラが停止・誤作動する等して、実際の社会も混乱する
  5. グリッドマン出動、怪物が成敗される

 

という流れになるのですが。

 

毎回毎回ニマニマしながら見てしまうのが、2の武史さんがカーンデジファーさんに泣きついたり愚痴ったりするところ。

 

  • 武史さんがイライラしながら帰ってくる
     ↓
  • 「どうした、武史」と気にかけてくれるカーンデジファーさん
     ↓
  • 「許せないんだ……●●のやつら、この僕に対して×××……」とその日あった嫌なことを話し始める武史さん
     ↓
  • 「面白い、ではその恨みを晴らす怪獣を……」と武史さんを煽るカーンデジファーさん

 

のやり取りが定番化されていくのですが、カーンデジファーさんの「どうした、武史」がめちゃくちゃ包容力に満ちていたり、武史さんの「許せない……(以下略)」の演技がめちゃくちゃノッていることで、各話各話のもしかしたら一番の見せ場みたいになっているのです。

もちろん特撮バトルのところが一番見せ場であり、作品構成もそのようにつくられてはいるのですけど、武史・カーンデジファー主従の演技がよすぎて視聴者的には毎回毎回この場面に引き込まれてしまうの。

ドラえもんの定番やり取りであるのび太さんの「ドラえもーん」泣きつきに通じるものがあるといいますか。

 

実際、カーンデジファーさんが武史さんの話に毎々きちんと耳を傾けているのは武史さんの才能を利用するためであり、ヤクザがカモに優しくするのと一緒ですから、友達も吐き出し先もない武史さんがカーンデジファーさんへの依存度を高めていくのは嫌なリアルさがあり、我々健全な社会人視聴者は「カーンデジファーと武史の関係性いいよね……」などと安易に言ってはならないのであります。

さはさりながら、情感たっぷりに恨みつらみを吐き出す武史さん(菅原剛さん)の演技には引き込まれますし、ときどき「お、おう」「そうだな(そうかな?)」みたいにちょっとヒキながら話を聞いているカーンデジファーさん(佐藤正治さん)のリアクションもかわいいので、ついつい贔屓にしてしまう。

 

まことに悪の魅力とは困ったものであります。

 

 

 

そんなこんなで視聴者の武史愛が充分に高まってきたところで、33話「もうひとりの武史」にて武史さんifルートの可能性が示されたり、最終2話の決戦では武史さんが完全にヒロインというか悪役として登場した女性幹部がプリキュアに光堕ちするような展開になったりすることで、視聴者的には「武史さんの魅力に気づいていたのは私だけではなかったんや、スタッフからも愛されていたんや!」と確信することができ、グリッドマンという丁寧に縦軸を紡がれてきた作品そのものをおおいに評価してしまうようになるのです。

 

また、全39話を振り返ると、怪獣の大半が武史さんの個人的恨みつらみから誕生しているというのもすごい。

「人々のネガティブな感情から生まれる怪獣、呪い、妖怪」みたいな敵設定は珍しくありませんが、それらを生み出すネガティブ感情持ち人間は各話で異なることが通常であり、一人の登場人物から何十体もネガティブ感情モンスターを生み出すなんて事例、ほかにあるんでしょうか……? ちょっとすぐには思いつかない。

見方によっては、最終話直前まで怪獣というかたちで自身の負の感情をデトックスし続けたからこその救済だったんでしょうか。

 

とにかく最初から最後まですごかったぞ武史さん。

 

 

子どもへの深い愛情が込められている作品だと思いますので、子ども好きな大人にもおすすめですね。

グリッドマンの人気が高まっているらしい今、武史さんの魅力についても再評価されていきますように。

 

そのうちアニメも見てみたいものです。