肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「ウルトラマンゼロVRの感想」田口清隆監督

 

ウルトラマンゼロエレキングの戦いを描いたVR動画「ウルトラマンゼロVR」を観てみたところ、ものすごく面白くてVRスゲェとかんたんしまくった一方でVR酔いも激しくてぐったりしてしまいました。

 

m-78.jp

 

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6分のショートシネマになりまして、構成としては

 

 ・オフィスビルの会議室。突然のニュース速報で怪獣出現が知らされる。
  窓の外を見たらエレキングとゼロが戦っている!

 

 ・階段・非常口から脱出

 

 ・オフィス街でエレキングとゼロの戦いが続くのを呆然と見上げる。
  エレキングはゼロスラッガーでとどめをさされます。

 

という流れ。

 

 

これをVRで主観的に観ていきますが、没入感が凄いのですよ。

 

会議室の窓から目撃する戦い。

自分がいるフロアのひとつ下の階の窓にゼロがエレキングの頭を叩きつけるのです。

「あ……下の階の同僚、死んだわ」と思わず想像してしまいます。

 

 

ビルから脱出した先は、ゼロとエレキングのまさに足下。

上を見上げると、真上で取っ組み合っていてビルの破片なんかが降ってくるのです。

「ハルマゲドン」と呟いてしまいそうになります。

 

 

こんなウルトラマン体験は初めてです。

ウルトラマンファンには全力でおすすめしますよ。

 

 

まだ光線技をVRに取り込むのは難しいそうですけど。

だったら初代ウルトラマンウルトラマンレオなんかがいいんじゃない……レッドキングを背負い投げしまくる怪獣無法地帯VRとかさそり怪獣アンタレス&美少年で二度おいしいVRとか見たいなあなどと次回作の妄想がはかどってしまいますね。

 

 

 

VRと巨大ヒーロー・怪獣もの特撮の相性のよさに唸りました。

 

 

以前VRのAVを見せてもらったときは、技術はすごいけど受け身姿勢のままで能動感に乏しいのがちょっと、と思ったものです。

 

でも、ウルトラマンと怪獣の戦いはそもそもか弱い人類が何か介入できるはずもなく、ただただ祈りながら戦いを見詰めるしかない訳ですよね。

立ちすくんだ状態のままで当たり前、能動的にあちこち動けなくても自然です。

 

現時点のVR技術では、いかがわしいコンテンツよりも特撮やパニック映画なんかに活用するのがよさそうな印象を抱きました。

 

 

 

ただ、留意点としてVR酔いがけっこうあったことも付記しておきます。

 

非常階段を駆け下りたり非常口の前で押し合いしたりといったシーンがあったりして、視覚と自分の肉体が同調していないからだと思うのですが、終わってからかなりぐらぐらきました。

 

個人差や体調によるところも大きいと思いますけど、一応お含みおきください。

 

VRのAVで能動的な激しいアクションが見られないのは、酔い対策という意味も大きいのかもしれませんね。

 

 

 

以上、酔いリスクはあるもののウルトラマンゼロVRはめっちゃくちゃ面白いですよという紹介でございました。

 

VRシアターという設備(くるくる水平回転する球体型の椅子とVR機器がセットになったもの)を利用すれば視聴可能ですので、興味がある方はお近くの店舗をチェックしてみてください。

 

www.vrtheater.jp

 

VRシアターは13歳以上からの利用となりますのであわせてご注意ください。 

うっかりウルトラマン好きの子どもを連れていくと泣かれることになっちゃいます。

 

 

 

円谷プロが引き続きVR作品制作技術を蓄積していってくださいますように。

マジンガーZ INFINITY VR」とかスーパーロボットVR作品も登場しますように。

 

 

 

 

日経の今治造船記事「三井三菱を食らう 謎の造船一族 」林英樹記者

 

今日の日経新聞記事「三井三菱を食らう 謎の造船一族」が質・量ともに企業紹介記事のお手本のような出来栄えでかんたんしました。

 

www.nikkei.com

 

 

今治造船を取り扱った記事になります。

メディアでその名を聞くことが増えてきたような気がしますね。

 

船に興味がない人の気も引けるよう、三井・三菱の名を前面に出すタイトルセンス。

 

キャッチー要素満載な

造船シェアで国内首位、世界でも4位今治造船愛媛県今治市)。非上場のオーナー企業ゆえその実態がほとんど知られていないトップメーカーが業界再編に動き出した。トヨタ自動車の次に鉄を買い、ライバルの三井・三菱グループもなびく。謎多き造船集団をけん引するオーナー檜垣家の素顔とは。 

という導入部。

 

ところどころに「藤堂高虎さん」「村上水軍」といった地域歴史ワードを散りばめて日経読者に多そうな歴史好きの親近感を煽る気配り。

 

電子版だと1ページ目でまずは褒めたたえて、
2ページ目で一族経営の特異性を取り上げて、
3ページ目で財務リスクと情報非公開の様子をしっかり指摘。

 

様々な点でとてもバランスがいいですよね。

月曜の朝からこういう良記事を読めると勤労意欲も湧くというものです。

 

 

経済記事的に一番気になったのは3ページ目の正栄汽船による船主ビジネスを通じたキャッシュフローですが、一番面白かったのは2ページ目の「背番号名刺の異色さ」と「当て馬としてディスられる大王製紙」ですね。

 

「4―2」「5―1」。今治造船に20人弱が在籍する檜垣一族の社員の名刺には、こんな番号が振られている。左の数字は元会長で実質的な創業者、正一(1989年没)の何番目の息子か、右はさらにその何番目の息子かを示している。

愛媛県といえば、檜垣家に並ぶ有名なオーナー家がある。大王製紙四国中央市)の井川家だ。創業家の社長が子会社から巨額のカネを借り入れ、カジノに費やして問題となった。「同じ愛媛でも両家の家風はまったく違う」と地元住民は口をそろえる。

「常に正栄汽船の保有隻数を増やし続けることでキャッシュを回している」と関係者も認める。だがリーマン・ショック以降の造船不況下で、海運大手から高い用船料を得ることは難しくなっている。新造船の発注が採算を割る状況になれば、このモデルを長く続けることは困難になる。

 

 

 

透明性の低い財務情報はものすごく気になりますが、私は今治造船製の船が好きなのでこれからも業容が発展していってくださったらいいなと思っております。

(コンテナ船の写真などを見ていると今治造船製のものが多いと分かります)

 

ちょっと前にこういうニュースもありましたね↓

www.nikkei.com

 

 

コンテナ船いいよコンテナ船。

 

私は歴史好きですが、船に関して言えば丸木舟よりも遣唐使船よりも安宅船よりもガレオン船よりも戦艦よりも現代の商船や作業船の方が好きです。

 

完全に好みベースの話ですけど、機能美と巨大さと平和な鉄板感がいいんですよね。

造船所や船内生活の写真とかも大好物です。

 

「メガ!-巨大技術の現場へ、ゴー-」成毛眞さん - 肝胆ブログ

「海上の巨大クレーン これが起重機船だ」編・写真:出水伯明さん / 協力:深田サルベージ建設株式会社(洋泉社) - 肝胆ブログ

 

 

島国日本から造船技術を絶やす訳にもいきませんし、造船所は地域地域の経済を支えてくださっていますし、かといって国策で一企業に資本を注入しまくれるような時代でもありませんので、今治造船を始めとした各造船会社が健全に経営していってくださることを祈ってやみません。

 

 

色んな人のためにも海運需要や鉄鋼価格が安定的に推移していきますように。

 

 

 

 

 

長崎県のみかん「味っ子」

 

長崎県のみかん「味っ子」がめっちゃ甘くて香りよくてかんたんしました。

 

ja-nagasakisaikai.com

 

 

みかんを食べたくなって近所の八百屋さんに行きました。

 

 

長崎県産「味っ子」。

10個800円。

高い。

  

 

長崎県ってみかんの産地だったのか……。

 

和歌山や愛媛や静岡のみかんは馴染みがありますが、長崎とは。

しかも八百屋さんのみかんの中で長崎産がいちばん高いんですよ。

 

気になる……。

 

 

という訳で奮発して「味っ子」を買ってみました。

 

 

見た目は普通の温州みかんです。

特に大きいとか小さいとか皮が厚いとかツルツルとか目立つポイントはありません。

安物みかんに混ぜてしまったら見分けがつかなさそうです。

 

 

さっそく皮をむいて食べてみます。

 

 

ホワァ。

 

おお、皮をむいただけで甘い香りが。

さすが、安物の薄味みかんとはぜんぜん違うようです。

 

 

中身の見た目はやはり普通の温州みかんです。

白い筋がほどよくまとわりついている感じ。

この白い筋を食べる派と食べない派で口論になったりしますよね。
私は気にせず食べる派ですが周囲の人は食べない派が多いので若干肩身狭いです。

 

 

 

食べてみましょう。

3房くらいいっぺんに口に入れちゃいます。

 

 

ぬう、めっちゃ甘い。

 

とびきり甘い。

 

これはうまいぞ、甘い甘いうまい。

 

 

「糖度13以上」だけが味っ子を名乗れるというだけのことはあります。

 

数字でランク付けすると「味っ子」というより「キン肉マン」っぽいですね。

糖度9でサファイア、糖度10でダイヤモンドとかブランド名をつけたくなります。
こう書くと糖度13ってのはロンズデーライトを上回る凄さに思えてきて現実感すらなくなりますよ。

 

 

……なんて言いつつ真面目な話に切り替えると、おいしさってのは糖度だけで決まるものではないそうです。

 

そりゃそうだ、糖度高いものを食べたいなら砂糖舐めとけってなりますもんね。

 

この「味っ子」がたいへん甘くておいしく感じられるのは、単に糖度が高いだけでなく、糖度を幸福度に昇華させてくれる香りのよさや汁気の多さ、食感の快さによるところが大きいのでありましょう。

 

 

とりわけキレよくさっぱり爽やかな食後感を与えてくれる「香り」は私好みでした。

和歌山や愛媛のメジャーみかんとちょっとだけ印象が違う気がします。

なんかレモンやライムのような印象がすこーーしだけ混じっているような。

 

私は味覚優れている人ではありませんので気のせいかもしれませんが。

800円も出したのでプラシーボがかかりまくっているからかもしれませんが。

 

 

たぶん「ききみかん」をやっても、他の地域の高級みかんと「味っ子」を見分けるのは私には難しいと思います。

 

逆に言えば、いままで食べたことのある「他の地域の高級みかん」と「味っ子」のレベルが匹敵しているのは間違いないと思うのです。

 

 

長崎や九州の人からすると何をいまさら遅いわとなるでしょうけど。

 

控えめに言っても長崎のみかんはメジャー地域のみかんに勝るとも劣らないんだ、というのは私にとって新鮮な発見でございました。

 

まだ長崎産のみかんを試したことがない方には、「少なくとも選択肢から外すのはもったいない」「味っ子が並んでいるなら積極的に買っておこう」とお伝えしたいです。

 

 

 

若者のフルーツ離れがしばしば話題になっています。

「若者のフルーツ離れ」に松本人志が共感「すごくわかるなぁ」 - ライブドアニュース

 

嗜好の変化やコーヒーのせいだけではなくて収入面や拘束労働時間などの理由も大きいのでしょうし、逆にフルーツ側に大きな欠点がある訳ではないと思うのですけど。

 

経済が少しずつよくなって、おいしいフルーツをときどき手に取るような人が増えていきますように。

美味しんぼに「トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ」という有名なセリフがありますが、トンカツをフルーツに変えてもリアリティがあると思います。

 

 

 

「里村紹巴さんとは何者か」信長の野望201X '18/2月勾玉交換武将より

 

201X、今度は里村紹巴さんが実装されていてかんたんしました。

 

↓リリース

お知らせ

 

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〽 私は大和生まれ連歌育ち

  強そうな大名はだいたい友達 

 

 

いい笑顔、いいおでこ。

音符型の紋がかわいいですね。

 

 

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スキルは「百韻柄取り」

室町~戦国期の連歌は百句で構成されるのが基本でした。
一つひとつの句だけでなく、百句全体のバランスや出来栄えをプロデュースする力が連歌師には求められていたんですよ。

「柄」は連歌の「句柄」と、ならず者の「刀の柄」を取ったエピソードをかけているのでしょう。

 

ランダム1体×4回の攻撃、たまにクリティカルという仕様。

何度か試してみたところ、威力は0.55×4=2.2というところのようです。
クリティカルは30%くらいの頻度で出ましたので、期待値は2.2×1.3=2.86くらい?

十河一存さんとだいたい同じ倍率ではあります。

 

 

特性は連歌至宝抄」、紹巴さんの記した連歌テキストが元ネタです。

のっけから「夫連歌は色々のむづかしき習御座候へ共第一御作意なき人の連哥はふしくれだち候て聞よからず候(適当意訳:連歌ってのは難しいもんだからイケてない人の歌はイカつくて聞けたもんじゃない)」と書いてはって初学者の心をへし折ってくださいますよ。

 

スキル効果と敏捷性が15%アップ、生命力最大時に30%の確率で即死回避というもの。

器用貧乏感が漂う内容だなあ。

 

 

ちなみに開眼特性は「禁邪の願・弐」、自分の状態異常ターンを15%短縮。

 

 

ざくっとしたキャラ批評としては、職業が薬師なので「溜め」ができないアタッカーということになります。

 

……うん。

「薬師only」とか「文化人only」みたいなステージがあれば一人で色々間に合いそうではありますので、武将枠に余裕があれば一人くらい育ててみてもいいかも……?

 

 

 

 

 

紹巴さんは戦国時代の連歌の第一人者のように扱われることが多いですね。

 

三好長慶さん時代は連歌界の若手有望株というポジション。

織田信長さん時代は信長さんにはそれほど重宝されなかったっぽいけれども毛利元就さんなど各地の諸大名と交流したり明智光秀さんと仲が良かったり。

豊臣秀吉さん時代になると連歌の巨匠として君臨していてときどき秀吉さんに睨まれるけどテヘペロしたら許してもらえていたような感じです。

 

三好家プロデュースで腕を上げて豊臣レーベルで活躍という意味では千利休さんとも似ているかもしれません。

師匠の里村昌休さんともども贔屓にしてくれていた三好長慶さんにはずいぶん懐いていたようで、「三好長慶殿が生きていたらなあ」みたいなコメントも残っています。

 

 

 

エピソード的に一番有名なのは、何といっても明智光秀さんとの愛宕百韻」

あのときは今 天が下しる 五月かな(光秀)」で始まるやつです。

 

本能寺の変直前に詠まれた連歌ということもあって、よく「光秀さんの野心なり使命感なりがこの連歌に籠められている……!」とか考察されることが多いんですけれども。

 

素直に愛宕百韻を鑑賞するようなコメントはあまり聞いたことがないので、せっかくですしおすすめの句を紹介させていただきます。

 

 

まずは紹巴さんと明智光秀さんの付合。

 

 53:しほれしを重ね侘びたる小夜衣(紹巴)

 54:おもひなれたる妻もへだたる(光秀)

 

素人意訳しますと、

「萎れた夜着を重ねて過ごす侘しい暮らしのことよ」と紹巴さんが詠んだところ、光秀さんは妻と過ごした牢人時代を思い出したのか「(苦しい日々を支えあった)心を許せる妻ももういなくなってしまった」と句を付けたイメージでしょうか。

 

逸話が正しければ、光秀さんの妻「煕子」さんは6年ほど前に亡くなっていますね。

 

侘び暮らしの前句を聴いて真っ先に「妻」というモチーフを連想した光秀さんの人柄。
本能寺の変の謎とかいったん置いておいて、まずは静かに偲びたいものであります。

 

 

ちなみに、この光秀さんの後は

 

 55:浅からぬ文の数々よみぬらし(行祐)

 

と続きます。

 

この句も、光秀さんの歌友達が「(かつて妻から届いた)文を読み返して思い出に浸ってみてはいかがですか」といたわってくれているような響きがございますね。

 

 

 

愛宕百韻の中で紹巴さんの付けた句の中では、

 

 75:宿とする木陰も花の散りつくし(昌叱)

 76:山より山にうつる鶯(紹巴)

 

という箇所が好きです。

素人好みっぽいかもしれませんが、連歌全体の中でこの箇所がいちばん伸び伸びしているように思えるのです。

 

 

 

 

こうやって味わってみると連歌もなかなか面白いのですが、紹巴さん頃をピークにして連歌はゆったりと衰退の道を辿っていくことになります。

 

まずは松永久秀さんの縁者ともいわれる「松永貞徳」さんが紹巴さんの弟子から出て、連歌よりも少し力の抜けた「俳諧」がブームになっていきます。

江戸時代には松尾芭蕉さんなどが続々と現れ俳諧の人気は増すばかり。
形式的にも、句と句の繋がりを気にせず「発句」だけを取り上げるのが主流に。

従来スタイルの連歌は一部の上流階級の文化として細々と残っていくことになります。

 

 

連歌がすたれた理由はいろいろと思い浮かびます。

 

 ・時間がめっちゃかかる

 ・古歌を知っておかないとマウントされる風潮

 ・ルール(式目)を知っておかないとマウントされる風潮

 ・上位陣の歌がレベル高すぎて、新規ユーザーは心理的に参入ハードルが高まる

 ・他に楽しい娯楽が増えた(浮世絵、歌舞伎、文楽仮名草子、園芸などなど……)

 

 

 

室町・戦国時代だと世相に連歌がフィットしていたんですけどね。

 

時間がめっちゃかかる(百韻なら丸一日は絶対にかかる)ということは、それだけ参加者の親密化を促進するということです。

室町時代なら分裂しがちな家中の結束を図ったり、武士・僧・商人といった多様な階層の人々を結びつけることができたり、有効な接待ツールだったと思うんですよ。

 

古歌を学ぶ……古今伝授に代表される解釈伝授ニーズや、ちゃんとした連歌ルールを覚えなきゃニーズだって、朝廷や中央政権の権威を保つのに貢献していたと思いますし。

体験型文化の茶の湯と違って、連歌は文書形式で内容をある程度知ることができるので遠方にお住まいの方も取っつきやすかったでしょうしね。

 

分裂時代だったからこそ結束力の強い連歌が重宝されたのでしょう。

 

 

そう思えば、里村紹巴さんたち連歌師もまた、戦国時代の安定化に一役買っていたと評してもよいのではないでしょうか。

 

 

連歌は現代ですたれていることもあって、資料もあまり出回っていない印象です。

室町時代や戦国時代の人気が高まっている今だからこそ、お求めやすい値段で有名武将の連歌集とかが出版されますように。

現代語訳や心境・人物像の解釈などで健全な議論が起こったりしたらいいな。

 

 

 

 

信長の野望・大志「毛利元就と毛利家(1567年天下布武)」と「山中鹿之介言行録」

 

大志版の山中鹿之介(幸盛)さん言行録が格好良すぎてかんたんしました。

あわせて、山中鹿之介さんという切り口を通じて描かれた毛利両川の姿も堪らないものがございました。

 

 

 

山中鹿之介さんの言行録を埋めるため、1567年天下布武シナリオを毛利家で開始。

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毛利元就さんが生涯をかけて築き上げた広大な領土。
既にゲームクリアが確定しているような状況です。

 

 

毛利元就さんの能力。

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さすが。どんな71歳やねんと言うしかない素晴らしい実力ですね。

 

 

志の「百万一心」。

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即効性には欠けますが、方策をどんどん伸ばしていけるところは地味にいいですね。

 

 

毛利家中の皆さん。多い。

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合戦向けも政治向けも揃っていて、万全と言ってよい態勢です。

 

 

評価が高まっていて目立ったのは乃美宗勝さんでしょうか。

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名高い毛利水軍を代表するお方ですもんね。

外政が高いのは村上水軍説得の件が反映されているのでしょう。
瀬戸内交易系の研究が更に進めば内政も増えて万能武将化するかもしれません。

 

 

 

これだけの領土・人材が揃うと攻略面では書くことがありません。

とりあえず四国に殴りこんで長宗我部元親さんと土居清良さんを早めに青田買いし、続いて九州制圧に励み、最後に畿内を制圧すればクリアです。

 

↓惣無事可能な状態

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途中で元就さんが天寿を全うしはりましたので、吉川元春さんに家督を譲りました。

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ごめんよ輝元さん。

だって元春さん素敵やし輝元さんの志「領地保全」なんだもん。

志システムで当主人選が大事になったので、つい史実と違う当主を選んでしまいます。
こういうところも「行動力」が大事だった天翔記っぽい。

 

 

元春さんの志「生涯不敗」。

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実績は超猛将やのに逸話は文芸的なものばかりな元春さんが大好きです。

志の効果もお父さん同様地味なものが多くて、「生涯不敗」感が特にないのが愛しい。

 

 

元春さんの恫喝。

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「鬼吉川が至強の武」

 

インテリ勇猛いいよね……!!

 

 

 

ちなみに山中鹿之介さんの言行録発生は失敗しちゃいました。

「九州侵攻」「第1次尼子再興軍」を見たかったんですが、1565年の直虎シナリオで始めた方がよかったようです。

 

 

鹿之介さんの言行録は以下でじっくりと……

 

 

 

山中鹿之介さん言行録

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大志版の鹿之介さん。

従来版よりも目的意識が強そうな表情をしていて好きです。

 

↓従来顔グラ

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能力的にも、武勇が全国トップクラスになりましたよ。

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鹿之介さんといえば七難八苦。

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のび太くんのパパも鹿之介さんリスペクトです。

 

 

ちなみに201Xでは尼子道場が開催中。

身もだえするような七難八苦を満喫してはります。

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大志に戻ります。

毛利家の九州侵攻の隙に乗じて尼子家再興を目指す鹿之介さん。

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鹿之介さんの活躍に目を見張る毛利両川。

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素直に「俺より強いかもしれん」と認める元春さんと、「一番強いのは私」と冗談交じりにマウントしてくる隆景さんの対比がいいですね。

 

 

 

鹿之介さんと吉川元春さんの長い因縁が始まります。

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有名なトイレエピソード。

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175回(笑)。

 

 

でも、元春さんの方が上手なようです。

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窮地を脱した鹿之介さんは、明智光秀さんを通して織田信長さんに接近します。

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大志の明智光秀さんは、鹿之介さんや松永久秀さんの生き方・死にざまを見届けるという役割を持っております。

光秀さんの心境の推移について「みなまでは言わない」ものの、一つひとつの武士の命が本能寺の変への道を切り開いたような情感があっていいですね。

 

 

しかし、播磨方面の情勢変化もあって、尼子再興軍は織田家から見捨てられたような形になってしまいます。

 

そんな機を見逃す毛利両川ではありません……。

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月に叢雲 花に風

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「私は最後まで、山中鹿之介でいるつもりだ」

 

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鹿之介さん……

 

 

貼りませんが、この後の元春・隆景兄弟の会話も余韻に富んでいていいんですよ。

毛利家ファンも尼子家ファンもぜひご覧になってみてください。

 

敵ながら矜持を通じ合わせている鹿之介さんと元春さん、武士として正しい打ち手を粛々と進める隆景さん、彼らをこの終結点に導いた織田家や播磨国人衆、既に去った元就さんや尼子家の方々……。

 

この鹿之介さん言行録を通じた一連のドラマは、シナリオテキストに優れた大志の中でも特に多くの戦国ファンに見届けていただきたい内容でございました。

 

 

 

歴代信長の野望シリーズと比べても、松永久秀さんと山中鹿之介さんの重厚な取り上げられ方は群を抜いて目立っています。

 

この二人、実は「評価が歴史の綾に翻弄された者同士」という共通点がありますね。

 

 

鹿之介さんは、江戸時代に家格秩序・朱子学道徳が完成する中で「忠義の士」としてのイメージが強固に形成され、大人気の「悲劇の英雄」になります。
(しかも子孫らしき方々が鴻池財閥として江戸時代に大成功を収めております)

 

支持は明治以降も続き、道徳の教科書に七難八苦が採用されるなどして、多くの日本人の心象に鹿之介さんが存在していたのですが……

 

第二次大戦後、戦前教育が否定・見直される中で、主君への忠義を称賛されていた鹿之介さん(や楠木正成さんなど)はなんとなく取り上げるのが憚られるようになっていきました※。

もちろんいまでも有名人ですし人気者なんですが、少しずつ少しずつ鹿之介さんの逸話を知らない人が増えているのは否めないように思います。

戦国コンテンツは花盛りですが、鹿之介さんが主力という作品は見かけませんものね。

 

 ※戦前教育を肯定したい訳ではないです 

 

 

一方の松永久秀さんは、江戸時代にやはり家格秩序・朱子学道徳が完成していく中で「けしからぬ裏切茶釜野郎」としてのイメージが強固に形成され、「悪玉」として広く知られるようになっていきます。

 

第二次大戦後には「爆死」という面白属性まで具備するようになり、ピカレスクロマンに満ちたマイナーダークヒーローとして扱われてきましたが……

最近では一次史料ベースの研究が進み、大志で描かれたような「長慶様だーい好き」という新説(あくまで新説)がだんだん知られるようになってきております。

 

 

鹿之介さんも久秀さんもとうの昔に亡くなった人物で事績は本来変わらないはずなんですが、その後の社会情勢や記録の残り具合なんかによって世間からの見られ方がずいぶん変遷していったということなんですね。

 

そんな中、推測ですが「山中鹿之介さんをこのまま埋もれさせていいんだろうか、ライトユーザーにも七難八苦の勇気を知ってもらいたい」「ユーザーに驚かれるかもしれないが、松永久秀さんの新説もストーリーに反映させてみよう」といった判断をされた今回の大志スタッフの英断と良心には、歴史ファンとして惜しみない称賛をお送りしたいと思うのです。

 

普通に売り上げと収支だけを見て「信長の野望製作」「有名大名・武将推し」をやる分には、鹿之介さんも久秀さんもマストじゃないはずですもん。

それをわざわざ厚く取り上げてくださったのは、やはり製作陣の人間としての思いがこもっているからではないでしょうか。

そもそも各シナリオテキストのクオリティにここまでカロリーを注いでくださっていることも含めて。

 

本当に本当にありがたいことです。

 

 

 

そういう訳で、とりあえず皆さん山中鹿之介言行録はおすすめですよ。

 

忠義という言葉も七難八苦という言葉も実社会では死語になりつつありますが、人間が魅力的だと思う人間の姿は昔も今もそんなに変わらないと思います。

 

これからも鹿之介さんの生涯が多くの人々に勇気をもたらし続けますように。

 

 

 

 

「アラブが見た十字軍」アミン・マアルーフさん / 訳:牟田口義郎さん・新川雅子さん(ちくま学芸文庫)

 

アラブ人側の一次史料に基づいて十字軍史を描いた当著が様々な観点から印象深い……とりわけヌールッディーン様素敵すぎ……でかんたんしました。

 

www.chikumashobo.co.jp

 

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表題通り、11世紀~13世紀のフランク(十字軍)によるシリア侵略について、アラブ・イスラム教徒の視点から経緯を追った本になります。

 

こう書くと「西欧の侵略者たちはこんなに酷いことした!」的な告発系の内容をイメージするかもしれませんが、そういう事実の描写ももちろんあるものの、アラブ人である筆者の視点は割と公平で、むしろアラブ側の残念な部分を鋭く指摘しながら忸怩たる思いを抱いてはるのが伝わってきて好感度高いです。

 

 

とはいえ、読み始めでつまづく人も多いかもしれないなあという印象もあります。

 

おそらく原文由来だと思うんですが、独特の言い回し、安定しない三人称、史料引用箇所の“(と●●●(史料筆者)はいう)”などなど、この本は文体にけっこうクセがあります。

 

その上、序盤の描写……フランク人の侵略が始まったころ……はイスラム側はぐだぐだだわフランク人(もちろん一部の)はマジ蛮族だわで内容的にも重苦しいものですから、挫折要素が満載なんですよね。

 

 

それでも「イスラム側マジぐだぐだ」「フランク側マジ蛮族」のパートを辛抱しながら読み進め、「暗殺教団マジ恐怖」を経て、「ヌールッディーン様マジ信仰の光」「サラディン様マジ信仰の救い」までいけばもう輝かしいくらいに面白くなってきますので。

 

中盤後半と尻上がりに楽しくなっていくことを信じて読んでみてください!

 

 

 

以下、特に印象に残った点を時系列順にご紹介します。

あくまで私が受けた感想です。

 

 

 

イスラム側マジぐだぐだ&フランク側マジ蛮族

トルコ帝国の見かけだけの統一にだまされてはいなかった。セルジュークの親類縁者のあいだには、連帯感のかけらもない。

フランクに通じている者ならだれでも、彼らをけだものとみなす。勇気と戦う熱意にはすぐれているが、それ以外には何もない。動物が力と攻撃性ですぐれているのと同様である。(年代記作者ウサーマ・イブン・ムンキズ)

 

十字軍……イスラム側は十字軍と呼ばず、単にフランクの侵略と言いますが……はご承知の通り「エルサレム奪還」を企図したもの(大きくは……)であります。

 

フランクの侵略直前、舞台となるエルサレムやダマスカスやアンティオキアなどが存在するシリア界隈は「セルジューク朝(セルジュークトルコ)」の支配地でございました。

ただ、セルジューク朝はイラン辺りが中心の国家でございますので、このシリア界隈はセルジューク朝にとって「辺境」の地であります。

その上どこかの室町時代に聞いたような話ですが、この頃のセルジューク朝は地方有力者同士の内乱や家督争いが恒例行事。

 

平たく言えば、フランクの侵略に対してイスラム側が一枚岩になることはまずありませんでした。

本気でフランクと戦ったらその隙に同じイスラム側のアイツやコイツに攻められるかもしれない……そんな心配ばかりが先に立って、イスラム側で力を合わせてフランクと戦うような動きがまるで起こらないのです。

 

イメージ的には、イスラムの人たちにとってフランクの侵略とは「三国志の物語における北方異民族や南方異民族」程度の扱いで、メイン課題、主要敵国とは思われていなかったようなんですよ。

端っこの方の話よりもセルジューク朝内での勢力拡大が大事……という。

 

ですので、イスラム側もときどきフランクに勝利したりするんですが、勝利が単発で終わってしまいます。

フランクをひとまず撃退したら再び内乱、ていう感じなんですね。

そこで追撃して徹底的にやっつけてたらエルサレムが落とされることもなかったろうに……と作者が情けない思いを抱きながら書いているのがよく分かります。

 

 

一方のフランク。

イスラム側のぐだぐだリアクションという幸運もあり、なんだかんだでエデッサやアンティオキアやトリポリエルサレムを落としていくことに成功します。

いわゆる十字軍国家の誕生ですね。

 

ただ……補給の段取りが悪かったことによる極限状態のためか、軍構成員の質の問題か、異文化に対する無知や恐怖か、あるいは狂信によるものか。

フランクはイスラム諸都市で虐殺(果ては食人)を繰り広げてしまいます。

 

史実ベースではあるものの、現代に生きる読者としては頭がくらくらするような描写が続きます……正直しんどい……。

 

 

命からがら逃げだしたイスラム難民たちが悲痛な訴えを起こしてもまともに腰を上げないイスラム有力者たちの姿もまた醜く……ほんまに正直しんどい……経緯が続きます。

 

 

 

暗殺教団マジ恐怖

団員は入門者から総長に至るまで、知識、信頼性および勇気の程度によって評価され、集中講義と肉体的訓練を受ける。ハサンが敵を震え上がらせるために好んだ武器は殺人であった。選んだ人物を殺す使命を担った団員は、一人で、またはほとんど珍しい例だが、二人あるいは三人で派遣される。彼らはふつう商人か修道士に変装し、犯行を実施すべき町のなかを往来して、現場および犠牲者の習慣を熟知し、ひとたび計画が成るや、とびかかる

しかし、準備が極秘のうちに為されるにせよ、実行は必ず公けに、できるだけ多くの群衆の前で起こらなければならない。そのため場所はモスクで、いちばん良い日は金曜日、それも正午ということになる。ハサンにとって、殺人は敵を消す単なる手段ではなく、何よりも先ず、公衆に与える二重の教訓なのである。すなわち一つは殺される人物への懲罰、他は、現場で十中八九命を失うからフィダーイ(決死隊の意)と呼ばれる遂行者の英雄的な犠牲だ。

 

暗殺教団……イスラムシーア派の神秘的な過激派集団……が更に混迷を深めます。

 

エルサレムまで落とされ、イスラム方もさすがにジハード(聖戦)の機運が民衆の間に広がるのですが……。

セルジューク朝イスラムスンナ派

シーア派の暗殺教団としてはスンナ派国家が盛り返すのは歓迎できません。

暗殺教団はイスラム方の団結を実現できそうな要人を次々に暗殺し、諸都市の統治者を傀儡にし、フランク方の支援に努めるのです。

 

この点から見ても、十字軍は単純な「キリスト教 vs イスラム教」という図式ではなく、様々な目的・利害を有する諸勢力が複雑なパワーバランスのもとで時に結び時に争いしていたということが分かります。

 

 

それにしても何なんでしょうね、この一次史料ベースでも普通に出てくるファンタジー集団。

いわゆる「アサシン」伝説の元なのですが……。

イスラムがやっと立ち上がったと思ったら即座にリーダーが暗殺される地獄絵巻。

この後登場するサラディンさんでも結局暗殺教団を撲滅することはできなかったというのも恐ろしい。

 

そんな暗殺教団も含めてイスラム圏を丸ごとぶっ壊したモンゴル帝国(フラーグさん)はもっと恐ろしいですが。

 

 

 

ヌールッディーン様マジ信仰の光

ザンギーはその豪遊ぶりと厚顔無恥とで相手をおびえさせたのであったが、ヌールッディーンは舞台に登場するや、信仰心厚く、謙虚で、公正で、約束を守り、そして、イスラムの敵に対するジハード[聖戦]に全身を打ちこんでいる男であるとの印象を、相手にどうにか植えつけることができた。

さらに、もっと重要なことがある。そこにこそ彼の特性があるのだが、彼はその長所を恐るべき政治兵器に育てあげる。十二世紀の半ばというこの時代に、彼は心理的な動員が演ずる貴重な役割をちゃんと弁えていて、本物の宣伝機関をつくり上げたのである。

 

いいところがなかったイスラム世界に、ついに反転の時が訪れます。

セルジューク朝の猛将「ザンギー」さんが、フランクに占領されたままだったエデッサを回復しはったのです。

 

ザンギーさんは典型的なイスラム武人で、このエデッサ回復も信仰的理由というよりはセルジューク朝内乱を有利に進めるため(具体的にはダマスカスを奪うため)の布石に過ぎなかった気がしないでもないのですが、フランクに対する大勝利は大勝利です。

 

イスラム世界は熱狂。

 

結局ザンギーさんはエデッサ奪還の2年後にお酒がらみのイスラム教徒らしからぬ理由で暗殺されてしまうのですが……。

 

 

跡を継いだ「聖王」ヌールッディーンさんが救世主ばりのカリスマを発揮して第2回十字軍を蹴散らし、ダマスカスの無血併合に成功。

ムスリムシリアをほぼ統一し、十字軍国家に圧迫をかけまくります。

(ダマスカスはイスラム都市だけど内乱に生き残るために十字軍国家と組んでいた経緯があります)

 

 

ヌールッディーンさんは武人としての卓越した力量に加え、酒を飲まない、音曲に興じない、清貧、謙虚、節度、イケメン、イスラムスンナ派の発展にひたすら尽力と、人物面までパーフェクトだったようで。

各地のイスラム有力者はヌールッディーンさんに要請されたら、民や宗教人の目もあって協力せざるを得なかったようでありますよ。

 

 

 

サラディン様マジ信仰の救い

個人差はあるが、その差を超えて、サラディンはヌールッディーンのずば抜けた偉大さから、特に初期のころは、強い影響を受けている。彼はふさわしい後継者であろうとし、同じ目標を休むことなく追及する。それはすなわち、アラブ世界を統一すること、そして強力な宣伝機関を駆使して、被占領地、とくにエルサレムの回復のため、精神的にも、また軍事的にも、ムスリムを動員すること――の二つである。

サラディンエルサレムを征服したのは、財物を集めるためでも、ましてや復讐のためでもない。彼が特に求めたのは、自身の説明によれば、神と信仰にかかわる義務を遂行することであった。彼の勝利、それは聖地を侵略の束縛から、流血も、破壊も、また憎悪もなく解放したことだ。彼の幸福、それは、彼なくしてはだれも祈れなかった聖地でひれ伏すことができることから生まれる。

 

ヌールッディーンさんの配下から、もう一人の英雄「サラディン」さんが登場します。

 

フランクのエルサレム王国と結びつかないよう、ヌールッディーンさんはエジプトのファーティマ朝に軍勢を派兵。

紆余曲折の果て、エジプト内の権力闘争に介入することでファーティマ朝を崩壊させることに成功します。

 

ただ、エジプトのトップとして君臨することになったサラディンさんは、ヌールッディーンさんから独立の姿勢を見せ始めます。

この本では、これはサラディンさんの野心というよりは、ヌールッディーンさんサイドから嫌疑をかけられて殺されないため(イスラムあるある)、また、シーア派中心のエジプト人の統治者である以上はガチスンナ勢のヌールッディーンさんと距離を置かざるを得ないため、などと説明されていますね。

 

結局、エジプト掌握の3年後にヌールッディーンさんが病死したこともあり、あらためてシリア&エジプトムスリムサラディンさんのもとに統一されることになります。

 

ここまでイスラム勢力が強大になればフランク側は厳しい。

 

サラディンさんはエルサレムを含むフランク領の大部分を奪回。

イギリスの獅子王リチャードさんの巧みな交渉による部分巻き返しはあったものの、フランク勢力の退潮は決定的になりました。

 

 

有名な話ですが、サラディンさんの大盤振る舞い過ぎるほどの寛大さは素晴らしいですね。経理担当者が不満を言いまくっている描写が楽しいです。

 

 

 

サラディンさんの死後。

 

フランク(第4回十字軍)がイスラムでなくコンスタンティノープルを略奪したり、アル=カーミルさんとフリードリヒ二世さんの政治的調整によりエルサレムが再びフランク側に引き渡されたり、やっぱりエルサレムイスラムが奪還したり、イスラム勢の中心がマムルーク朝に切り替わったり、モンゴル帝国が何もかも滅ぼす間際まで暴れまくったりしつつ、最終的にはマムルーク朝の手でフランク勢力は駆逐され、十字軍の時代は終焉を迎えます。

 

 

結果だけ見ればイスラムの勝利ですが……

 

 

 

筆者の、そしてアラブのコンプレックス

十字軍時代において、アラブ世界はスペインからイラクまで、依然として、知的および物質的に、この世で最も進んだ文明の担い手だった。しかしその後、世界の中心は決定的に西へ移る。

アラブは十字軍以前から、ある種の「疾患」に悩んでいて、これはフランクの実在によって明らかとなり、たぶん悪化もしたが、ともあれフランクがつくったものではまったくない。

西ヨーロッパにとって、十字軍時代が真の経済的・文化的革命の糸口であったのに対し、オリエントにおいては、これらの聖戦は衰退と反開化主義の長い世紀に通じてしまう。四方から攻められて、ムスリム世界はちぢみあがり、過度に敏感に、守勢的に、狭量に、非生産的になるのだが、このような態度は世界的規模の発展が続くにつれて一層ひどくなり、発展から疎外されていると思い込む。

 

 

本の終章パートになります。

 

 

フランクを撃退したものの。

 

アラブがもともと有していた潜在的な課題……もはやイスラム世界はアラブ人にはコントロールできていない……ヌールッディーンはトルコ人サラディンクルド人だ……アラブは過去の栄光に浸るのみ……という点であったり、イスラム教と一体化した社会制度が強固すぎて、西欧のような法制・人権が確立されなかったことであったりが、十字軍を機にいよいよ顕在化してきたことを作者さんは喝破しております。

 

その上で、敗れたものの侵略者であった西欧はアラブから多くのもの……医学・天文学・化学・数学・建築、紙の作り方、皮のなめし方、紡績、蒸留、農産物、伝書鳩、風呂などなど……を学び取ったのに対し。

アラブサイドは「侵略されたという被害者意識」ばかりが残って、西欧から何も学ぼうとしない、むしろイスラム文化に閉じこもろうという意識を生んだのだと。

 

それが現在の西欧社会との差になっているのだと……。

 

 

自国の歴史を真摯に見つめ、その上で同胞に対して厳しいメッセージを放つ作者さんの姿勢には敬服を禁じえません。

知識人かくあるべし。

 

 

 

私見ですが、対十字軍の勝利が「英雄」と「信仰の結束」によってもたらされたものであると(一般に解釈されていると)いうのも、副作用が大きかったのかなと思います。

 

英雄って、「英雄頼み」の気質を生んじゃうんですよね……。

組織や制度の見直しに目がいかなくなる……という。

 

信仰にしてもそれは同じで、精神的なものに頼り過ぎる怖さは現代日本人ならなんとなく共感できるのではないでしょうか。

 

私はアラブ人ではないのであんまり過ぎた発言はできませんが、同胞がいまだに「サラディンの再来」ばかりを願っているのだとしたら確かにちょっと……な気持ちになるのだろうとは想像できます。

 

 

 

 

 

以上の通り、十字軍の歴史について相手サイドの視点から、しかも割と公平なスタンスで学んでいける楽しい本であります。

得られる知見も考えさせられる視点も多く、良質な内容になっていますよ。

サラディンさんはともかく、ヌールッディーンさんの魅力をこんなに掘り下げてくださる本も珍しいですし。

 

過去の歴史が現代の我々にどのようなくびきを嵌めているのか。

たまには真面目に考えてみるのもおつなものだと思います。

 

 

 

あいかわらずシリア方面はあいかわらずですけれども、いつの日か古代以来の美しい都市景観が復活いたしますように。

 

 

「アイデンティティが人を殺す 感想」アミン・マアルーフさん / 訳:小野正嗣さん(ちくま学芸文庫) - 肝胆ブログ

 

 

 

「図解 室町幕府崩壊」監修:小和田泰経さん(枻出版社エイムック3965)

 

畿内戦国史応仁の乱明応の政変~両細川の乱~三好政権」関東戦国史上杉禅秀の乱永享の乱結城合戦享徳の乱長尾景春の乱~長享の乱の通史をまとめたムック本が出版されていて目を疑いつつかんたんしました。

 

www.ei-publishing.co.jp

 

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信じられない。

誰が買うんだこんなムック。
(買いました)

 

 

定説をまとめたものですので最新の論文などを読んでいる方にとっては新鮮味はないかもしれませんが、大多数の歴史ファンからすればめちゃくちゃ新鮮だと思います。

 

 

*こんな人におすすめですよ*

 論文とか専門書とかを読むのはちょっとハードルが高いけど……

  -三好家に興味がある

  -むしろ細川政権を知りたい

  -大内義興さんが畿内で果たした役割に関心がある

  -関東史における上杉謙信さんや後北条家の位置づけを理解したい

  -そもそも関東管領って? 古河公方って?

  -太田道灌さんって何した人なんだろう

  -朝倉英林孝景さんや今川氏親さんについても知りたいなあ

 

 

すなわち、応仁の乱」あたりから「織田信長さん登場」あたりまでの濃密なスキマを取り扱ったムックでございます。

こいつぁおすすめですよ。

 

 

構成も良心的でして、まずは室町幕府の構造的課題」をちゃんと説明いただけます。

 

南北朝争乱や観応の擾乱等の関係から守護の権限を強くせざるを得なかった(相対的に幕府の力は強くなかった)、併せて京都に幕府を開かざるを得なかった(関東・鎌倉府の独立性が高かった)、守護は在京しないといけないので守護代・国人の自立を招きやすかった(やがて下剋上へ)、鎌倉時代の分割相続の反省から相続は惣領制になっていて家督争いを惹起しやすい構造だった(そして訪れる応仁の乱)……などなど、後の戦国時代に繋がる要因がきれいに整理されており親切です。

 

こう書くと室町幕府が250年も続いたのが不思議なくらいですけど、不安定さがかえって勢力の均衡を生みやすかったのかもしれませんね。

 

 

 

その上で、メインコンテンツとなる「幕府崩壊・消滅へのカウントダウン」という章。

 

構成は

室町幕府が終わるまで

  ①鎌倉公方VS関東管領 発火点は関東だった!

  ②関東が先に戦国化! 享徳の乱が勃発

  ③西では応仁の乱開始! 大混乱の日本列島

  ④もう幕府ではない? 明応の政変細川政権

  ⑤細川政元が殺された! 幕府と細川家がメチャクチャに

  ⑥これもひとりの天下人? 駆け抜ける細川高国

  ⑦関東の戦国本格化! 長尾景春の乱と北条早雲

  ⑧細川家の中で代々増す三好家の実力とその関係

  ⑨いつの間にか三好政権? 細川晴元が追放される

  ⑩ついに将軍も殺され 風雲児、織田信長登場

  ⑪とうとう滅亡した室町幕府 その役割は終わった

    

・合戦データ 

  1【上杉禅秀の乱永享の乱結城合戦

  2【享徳の乱

  3【明応の政変~両細川の乱】

  4【長尾景春の乱~長享の乱

  5【三好政権】

 

 

すごいでしょう。

⑩⑪が信長さんですが、信長さんは実質⑪の1編だけ
実質ベースで細川政権が4編、三好政権が2編というバランスの構成なんですよ。

室町幕府の解体という意味では正しいかもしれませんが、驚く人は多いと思います。

 

表現はマイルドながら、三好長慶さんだけでなく、細川政元・高国・晴元さんたちをも天下人として扱っているのも踏み込んではります。

とりわけ大内義興さんを味方につけた細川高国さんの評価が高いのは嬉しいですね。

 

 

同様に関東史も分かりやすく時系列に記載いただいておりますので、鎌倉公方関東管領の対立構造、両上杉の争いと長尾景春さん、そして現れた後北条家、更には上杉謙信さんの関東管領就任……というダイナミックな流れがよく理解できると思います。

前史を知っておくと北条氏康さんや上杉謙信さんの活躍の凄さを一層感じ入ることができて楽しいですよ。

 

 

かんたんに各キーパーソンの紹介もしていただいておりまして、「超能力に傾倒し 政元、暗殺される」とか「両上杉が争い 北条早雲が躍り出る」とか、見出しレベルからして興味を引く分かりやすい記述がなされております。

 

【晴元政権の対立構造の変化】の解説が「①1541年 木沢長政の造反」「②1546年 遊佐長教の裏切り」「③1548年 三好長慶の反逆」と端的に分かりやすくポイントをまとめてくださっていて晴元さんが気の毒になったりするのもこの手の歴史ムックとしては超レアだなあ。
(こう書くと長慶さんが木沢長政・遊佐長教コンビの同類に思えて愛しい)

 

 

おまけの合戦データ5種も、それぞれ30個もの合戦がマニアックにまとめられていて必見性高いです。

武田信長さんとか長尾景信さんとか赤沢朝経さんとか畠山尚順さんとかの名前が普通に載ってますよ。

よくまとめはったなあ。

 

 

 

このように戦国時代前半の通史をひととおり解説いただいたうえで、終盤のページでは上杉家(越後長尾家)・北条家・武田家・今川家・朝倉家・斎藤家・織田家・毛利家・九州三強といったよく知られる人気者たちの成り立ちに触れてくださっているのもいいですね。

「こうしてよく知られる戦国時代になったんだなあ」と繋がりが理解できることでしょう。

 

 

 

 

以上の充実した内容でジャスト1,000円。

興味のある方は売り切れる前に確保しておいた方がよいかと思われます。

本屋さんなどで見かけたらぜひ手に取ってみてください。

 

 

じわじわこの辺の時代の人気が出てきて、研究が更に進んだり楽しい創作コンテンツが誕生したりしていきますように。